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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
38/126

6 覚悟


 その夜は、伯爵もナヴィス殿も戻ってくる気配がなく、俺たちは街の外で野営をすることにした。ちょうど街を出てすぐ北に湖があり、木陰の側がちょうどよい窪地なので、そこに3人分の用具一式を≪異空間倉庫≫から取り出す。

 エメルダ様はその様子は見なれていたので、特に何も言わなかったが、エフィは驚いていた。どうやら初めて見たらしい。

 …助けた時とか、ここからいろいろ物を出してたはずなんだけどなぁ。


 俺とエメルダ様はサッサとテントを組み立てていくが、エフィは毛布に包まったままじっと折りたたまれたテントを見つめていた。当たり前だろうが、見たこともないらしく、どうしていいか全くわからない状態らしい。加えて毛布の下は下着のみだから、まともに手も使えない。


 うーん…。



 服があればよいのだが、150ちょっとのエフィの体に合う服は二人とも持っていなかった。仕方なく、やり方を教えながら俺がテントを立てていく。


 「…こ、これを妾は自分でできるようにならねばならぬのか?」


 「そうだ。これからは何でも自分でやってもらうからな。」


 「な、なんでも?」


 「そうだ。」


 「風呂は?」


 「今日はない。」


 「夕食は?」


 「これから作る。」


 「ベ、ベッドは?」


 「これ。」


 俺は出来あがったテントを指さす。


 「えぇえええええ!」


 これが寝るところということを初めて知ったらしく、顔色を変えて怯えている。


 お姫様を野宿させるのは俺も気が引けるんだが、伯爵とナヴィス殿が戻って来るのを確認するためには、≪気配察知≫で確認できる距離にいなきゃならんのだ。ヤグナーンの家には今日は戻れない。


 「今日はここで寝るから。」


 俺はエフィにこのテントで寝る様に指示して夕食の準備に取り掛かる。今日は野菜とベーコンでスープにしよう。


 見ると、エフィは“テント”という得体のしれない三角形にそこそこ興味を示しているようで、包んだ毛布の隙間から手を伸ばしてテントやら寝袋やらを突いていた。


 「エルバード、今日は何を作るのか?」


 エメルダ様が野菜を切る俺の様子を見に来た。


 「簡単にスープで済まそうと思っておりますが。」


 「あの、ハ、ハンバーグというものが食べたい。」


 野営であれは用意ができない。というか今手元に肉がないし。


 「あれは、家に行かないと作れません。」

 エメルダ様はどうしても食べたかったのか、少し恥ずかしそうにしながら話を続けた。


 「では、お前の家に行きたい。」







 “お前の家に行きたい”






 前世で女の子からそんなことを言われたら俺、飛び上がって喜んだだろう。殺し文句だもんな。もう何をされても文句は言いません的な合図だろうし。

 でも、今の俺はいろいろと困るんだよ。


 「今日はこれで我慢してください。」


 そう言って諦めてもらう。

 かなり残念そうにしているエメルダ嬢。これはこれで美味しいんだよ、ベーコンの出汁が出て。

 あーでも、料理の為の調味料とかいろいろ手に入れたいなぁ。今手元にあるのは、黒胡椒と白胡椒、塩だもんなぁ。カツオとか昆布とかが欲しい。鶏ガラとかもあればいいなぁ。


 あれこれ考えながら料理は完成し、器にスープを入れてエフィに渡してやる。エフィは野菜とベーコンがごった返したスープを見て、嫌そうな顔をする。


 「…これは何じゃ?」


 「野菜スープだ。ベーコンで出汁を取ってあるから味は保証できる。」


 エフィは俺の顔とスープを交互に見て戸惑っている。


 「た、食べれるのか?」


 「エメルダ様も食べているだろう?」


 エフィはエメルダ嬢のほうを見た。スプーンですくって美味しそうに食べている。

 エフィは何度も何度も器に入ったスープを見ては、複雑な顔のまま考え込んでいた。



 …ぐぅ。



 お腹のなる音が聞こえた。エフィが顔を真っ赤にしている。いい匂いにお腹が負けたようだ。


 「エフィ。物事を見た目や、聞いただけなどで判断してはダメだよ。自分で体験して自分の感想をもって判断しないと。」


 俺は、暗にエフィの欠点を指摘するように説明する。


 エフィはスプーンですくって恐る恐る口に含んでみた。しばらく目を何度もパチクリさせた後、堰を切ったかのように次々とスープを口の中に運んだ。

 あっという間に器は空になった。


 今度は空の器をじっと見つめている。


 「おかわり、いるのか?」


 「だ、誰が貴様の、作ったまずいモノをおかわりするか!」


 精一杯の強がりが丸わかりの返事である。思わず吹き出してしまいそうだ。


 「あースープが余っちゃったなー。捨てるのはもったいないから誰か食べてくれないかなー。」


 俺の棒読み独り言に、見事に反応し、器を差し出すエフィ。


 「フン!余ってるんだったら寄越せ。妾が食して、や、やろう。」


 はいはい、たくさん食べてください。


 俺は差し出された器にスープを入れてやる。エフィは顎を突き出して、フン、と鼻を鳴らしながらも俺に背中を向けて盛られたスープを口に運んだ。


 その横で、何故かエメルダ嬢がやや控えめに器を差し出してきた。なんだよ、そんなにうまかったのか?

 俺は何も言わずにエメルダ嬢の器にも盛ってやった。



 この二人、意外と似た者同士かもしれん。





 深夜。俺はたき火の火を絶やさないように番をしていた。

 ゴソゴソと音がして、エフィが寝袋から這い出してきた。


 「どうした?眠れないか?」


 エフィは無言で俺の側に寄ってくる。何か言いたそうにしていた。


 「…座れよ。」


 俺はちょうど良い石を指して座る様に指示した。だがエフィはそこには座らず立ったままで、


 「妾はこれからどうなるのじゃ?」


 と聞いてきた。まあ、一番気になることだからな。


 「俺の奴隷になってもらう。」


 俺は簡潔に答えた。エフィは顔を赤らめている。

 …これはなにか勘違いしているな。


 「何を考えている?」


 ややあってからエフィは口を開く。


 「あの憎きドワーフ王も欲望を満たすためだけに奴隷をたくさん抱えておる。妾もお前の、よ…欲望を満たさねば…ならぬのか?」

 「エフィの欠点はそこだよ。」


 俺は火に薪ををくべながら、チラリとエフィを見て言う。


 「何でも思い込みだけで答えを出して、自分に考えだけで行動しているんだ。それをすれば、どういうことになるかも全然考えないから、その結果どういうことになるかも知ろうとしない。」


 エフィは黙り込んでいる。


 「俺がエフィを性奴隷にしたら、どうなる?」


 エフィは下を向く。わからないらしい。


 「俺は公爵様から、お前を預かっている。どんなことになろうが、お前の兄は公爵様だ。その公爵様との約束を破って俺がお前を性奴隷にしていることを知ったらどうするだろう?」


 “兄”という言葉を聞いて、顔を上げる。その動きに合わせて俺は自分の首に手を当て、横に動かした。


 「あ…。」


 エフィは小さく悲鳴に近い声をだす。


 「俺だけでない。お前もこうだ。妹を凌辱した男は許せぬ。だが、妹が性奴隷になったという事実も一族にとっては許せぬ。だから二人とも始末しよう…という感じかな。」


 エフィは涙目になる。


 「だから、お前は“はぐれエルフのエフィ”にならなければならないんだ。エフィルディス・エウレーンは捨てなければならんのだ。」


 エフィは何も言わない。じっと下を向いたままだったが、俺の指示した石にちょこんと座った。どうやら泣くのを我慢しているみたいだ。


 「…妾は…お前の奴隷だったら……なってやらんでもない。」


 エフィの口調はあくまで上から目線ではあるが、心情に多少の変化が感じられる。


 「…俺の奴隷になるかどうかはわからんからな。頼むなら伯爵様に頼めよ。」


 俺は敢えて突き放して答える。エフィは俯いたまま黙り込んでしまった。


 「それから夜が明けたら服を買いに行くから。いつまでも裸はよくないだろ?別にお前のつるぺたを鑑賞してやってもいいが、すぐ飽きそうだしな。」


 エフィは顔を真っ赤にしてこぶしを握り締めてプルプル震えていた。



 明け方になって、伯爵が戻ってきた。俺はエメルダ様を起して、この場をお願いする。


 「お、おい!私がエフィル…この子の面倒だと!?ちょ、ちょっと待て!」


 エメルダ嬢が何か言ってたが無視して宿へ向かった。

 宿のホールでは伯爵が眠そうな目を擦って白湯を飲んでいた。


 「おお、エルバード!どうであったか。公爵にお会いできたか?」


 俺は伯爵の傍まで行き、事の顛末を報告する。

 伯爵は顎に手を当てて考え込んだ。


 「そうなると、妹君は奴隷にせねば、いずれ問題が発覚するやもしれんな。ちと心苦しいのぉ。」


 「本には既に覚悟を決めております。俺の奴隷であれば生きていくと。」


 その言葉は伯爵を驚かせた。


 「あの3拍子姫様がのぅ。」


 感慨深げに上を見上げる。ていうか、みんな『3拍子』て言ってたんだ。


 「いかがいたします?お会いになりますか?それとも今は知らぬふりをしておきますか?」


 「ナヴィス殿とも相談するが、今は知らぬふりがよさそうじゃの。エルバードには悪いがな。」


 伯爵と大商人が知らぬふりをしておけば、もし今問題が発覚し、エフィルディスの存在が明らかになっても、俺が独断でやったこととして片付けることができる。


 「わかりました。それで、伯爵様のほうは?」


 「うむ。何とか領代に無理を推し進め、訴えについて取り消された場合は抹消してくれることを了承させた。そのかわりヤグナーンを訪れた場合はいろいろと優遇してやらねばならぬがな。」


 「さすがは伯爵様です。あとはナヴィス殿ですが、問題ないでしょう。」


 そうこうしているうちにナヴィス殿もフラフラになって帰って来た。


 「やれやれ…。いろいろと優遇を約束させられました。」


 ナヴィス殿も猫獣人族の訴え取消しのために、今後の交易での優遇を約束してきたらしい。


 「これは、公爵様と話をして何か融通してもらわねば元が取れませんな。」


 そう言ってナヴィス殿は髭をつり上げて笑った。





 昼過ぎになり、エウレーン公爵の使いがやって来て、公爵がカルタノオを出発したことを知った。

 伯爵は全員に出発の準備を命令し、一団は急激に慌ただしくなった。俺も消費した食料や毛布、備品の補充に店を大忙しで回った。

 そんなところへ、一人の女性が俺を訊ねてきた。エフィが彼女の顔を見たとたんに、


 「ああっ!」


 て言ったもんだから、女性がエフィに注目してしまう。


 「あ!」


 女性も思わずエフィを見て声を上げたため、エフィの正体に気づかれたことが分かった。


 俺はさりげなく女性の後ろに回り込んでから声を掛ける。


 「俺に何の用でしょうか。」


 後ろを振り向いてびっくりした女性は俺とエフィを交互に見ながら汗を掻き始めた。


 「え、ええと、カルタノオの占い師をやっているのですが、マグナール殿からの依頼を受けて…」


 「ああ、マグナールのお知り合いの方ですか。申し訳ありません、今日は忙しくて。」


 俺は出発の準備をしていたので確かに忙しかった。だがそれ以上に彼女に対して殺気を放っている。彼女はそれを感じ取っていた。

 「ででででは、日を改めてお伺いいたします。」


 そう言って占い師はここから離れようとした。


 「いいえ、改める必要はありませんよ。あなたは気づいて仕舞われたようなので、ここで終って頂きます。」


 俺は背中から槍を取り出した。これにはエフィもエメルダ嬢も驚いた。


 「お、おいエルバード!」


 「止めないでください。彼女は占い師という職業上、貴族と接する機会を持っています。後々の禍(わざわい)の種となります。」


 俺は槍を構えた。占い師の女性は自分が何故ここで殺されるのか理解できず、俺とエメルダ嬢を交互に見て顔色を真っ青にしていく。俺は占い師に一歩近づいて槍を振り上げた。


 「だめ!」


 エフィが俺と占い師の間に割って入ってきた。真剣な表情で俺を見つめる。


 「お願い!妾は何でもするから、この人は殺さないで!お願いします!この人は悪くないから!」


 エフィは両手を広げ占い師を庇うようにして、必死で俺に懇願した。


 俺の思った通りだ。この子は“我が儘”“世間知らず”“高飛車”の3拍子こそそろっているが、根幹の部分で人間の部分もちゃんと持っている。


 俺は槍を折りたたみ、背中に戻す。そして両手を広げているエフィの頭をポンポンと叩く。


 「怖がらせてしまい、申し訳ありません。ですが、今あなたが見たことは忘れてください。」


 俺は占い師にできるだけ落ち着いた表情、口調で声を掛けた。


 「マグナールからあなたの人となりは聞いております。今あなたが見たものは国家規模に匹敵する機密だと思ってください。」


 占い師はチラリとエフィを見た。


 「やはりその方は…いえ、(わたくし)も信用を有する商売に関わっております。このことは決して口外いたしません。」


 その目と口調を見て俺は信用に足ると感じる。


 「ヴァルムントからの帰りに、もう一度寄らせて頂きます。その時に占ってください。」


 そう言って、占い師を帰した。エメルダ嬢は大きく息をして安堵のため息をする。


 「エルバード、一時はどうなるかと思ったぞ。」


 「エメルダ様、これが秘密を守るということですよ。今回はエフィの必死の嘆願があの占い師の心に通じたからよかったのですが、毎回そうとは限りません。非常に徹することができなければ守れるものも守れませんよ。」


 俺はワザと冷たい口調で言い放つ。エメルダ嬢は言葉を詰まらせた。俺はそんなエメルダ嬢は放っておいてエフィを見やる。


 「まずはヤグナーンで奴隷の教育を受けること。それから、俺が敬語で話している相手には絶対敬語を使うこと。」


 エフィの表情は硬いが一応は了承している。さすがに自分の狭い了見での判断をしなくなったか。いい傾向だ。

 買ってきた服も顔はあからさまに不満顔だがちゃんと着ている。


 「よし!、エフィ、今からお前を≪鑑定≫するけど、いいか?」


 「嫌じゃ!」


 あまりにも予想外の即答で、しかも凄みを含んでの拒否である。


 「なんで?」


 「…嫌じゃ!」


 エフィは目を吊り上げて、俺を睨み付ける様に拒否する。…これは何かあるな。面倒事でないことを祈るけど。


 俺はエフィの両頬を指で摘まんだ。


 「今からお前を≪鑑定≫するけど、いいか?」


 「いやじゃ!」


 摘まんだ両手を左右に広げる。


 「うぃいいいいいい!」


 聞き取れない叫び声を上げ、エフィは俺の両手を持って必死に引き戻そうとするが、当然俺のほうが力が強いわけで。


 「≪鑑定≫したいんだけど。」


 「ひぃやじゃ!」


 更に強く引っ張る。悲鳴の音量が上がり、足をばたつかせた。エメルダ嬢はどうしていいのかわからないのでオロオロしてる。


 「≪鑑定≫していいよね。」


 「ひぃや!ひぃや!」


 俺は手首にひねりを加える。エフィの目からぶわわっ!て涙が溢れた。マンガみたい。


 「エフィ。俺はお前の得手不得手やお前が抱えている問題の有無を知る必要があるんだ。俺はお前の全てを受け入れるつもりだ。視させてくれ。」


 エフィの動きが止まる。半開きの口から唸り声を上げている。涙もぶわわっと出している。鼻はフンフン荒い息をしている。それでもいろいろ考えたのだろうか。やがてコクッと肯いた。


 俺は両手を放して≪鑑定≫を発動させる。





 【エフィルディス】

 『属スキル』

  ≪鑑定≫

  ≪水魔法.0≫

  ≪土魔法.0≫

  ≪樹魔法.0≫

 『固有スキル』

  ≪長命≫

  ≪3拍子のそろった姫≫

 『呪い』

  ≪はぐれエルフ≫






 ……やばい。


 突っ込みどころ満載だ!


 「お、おいエルバード。どうしたんだ?何が視えたか私にも教えてくれ。」


 興味本位なのか、エメルダ嬢が聞いてきた。


 「…残念ながらお教えできません。視ていいのは彼女を受け入れる覚悟を持った者だけですので。」


 こういう言い方をすると、エメルダ嬢は黙り込む。単に覚悟が足りないだけでなく、自分の立場もある程度は理解しているようで、それ以上は深入りできないと判断しているようだ。



 でもどれから聞こうか、このスキルは?



 エフィを見ると、長く伸びた耳は真っ赤だった。




 だんだんエフィが可愛く見えてきた。




エフィはエルフです。

でも、まだエルフっぽいシーンはほとんどありません。

物語の後半にエルフっぽいシーンを出す予定です。


次話では、ようやくヴァルムントの街での話になります。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

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