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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
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3 エルフの王族


 星神の力は結局誰も得られることはできなかった。サラもフォンも祝福されることはなかった。やっぱり簡単にスキルを得ることはできないのか。


 家に戻り、明日以降の予定について二人に説明をする。日程としては、約20日ほどの旅になる。サラもフォンも、寂しそうな顔をした。うれしいねぇ。俺の事を想ってくれてるんだねぇ。


 でも、大丈夫。


 ユグドラシルのお蔭で、とんでもないスキルが手に入ってしまったのだ。



 ≪空間転移陣≫



 これは、光と闇の精霊魔法の組合せで使用可能になるスキルで、予め設定した『転移陣』に対して好きなものを転送させることができるスキルなのだ。


 なぜこんなに詳しくなったかと言うと、俺のメニューにヘルプ機能が付いたから。これでメニューのパワーアップは2度目。良聖に会うのも2度目。

 俺は、良聖に会うたびにメニューがパワーアップされていくのではないかと仮説を立てているのだが。



 まあ、俺のメニュー機能は俺しか見えないので、誰にも説明できないのだが、この≪空間転移陣≫を使ってどこからでもここに戻ってくることができるようにしよう。


 俺は自分の寝室に『転移陣』を設定する。そして、二人をその前に立たせ、俺は一階に降りる。そして…。


 えい!


 俺の体は瞬時に消え、三階の転移陣の上に移動した。


 突然現れた俺に腰を抜かす二人。俺的には上機嫌。これは便利だ。


 次に俺は、サラ用の小剣2本と、フォン用の弓矢一式を取り出し、それぞれに転移用のマーキングを施す。そしてそれを≪異空間倉庫≫に仕舞っておく。

 次にサラとフォンの両手のひらに『転移陣』を設定する。そして二人に『転移陣』への魔力の込め方を教える。



 サラの手には小剣が現れた。

 フォンの手には弓矢が現れた。


 二人とも驚いた表情のまま固まっている。


 「二人は奴隷だから、普段から武器は携帯できない。でもこれがあれば、瞬時に武器を手にすることができる。しかもこの武器は俺の≪異空間倉庫≫の中に入っているもんだから、転移すれば瞬時に俺にも伝わる。」


 サラが納得する。


 「緊急事態の時の連絡にも使えるということですね。」


 サラの回答は俺の意を得ている。


 「で、これはどうやってご主人様に戻すんですか?」


 俺はサラの小剣を取って≪異空間倉庫≫に仕舞う。


 「こうやって戻すしかない。つまり、ホントに緊急事態用だってことを理解してくれ。」


 フォンは黙って頷く。サラもちゃんと理解してくれた。


 「2~3日おきには帰ってくるようにするから。」


 そう言って二人を安心させる。



 この日は3人仲良く川の字で寝た。


 もちろん「グフフ」な出来事も有りでしっかり楽しみましたよ。






 翌日の早朝、ベスタさんがやってきた。今日から俺たちが帰ってくるまで、この家でサラたちと一緒にいてもらうことになっていた。


 「ベスタさん、お土産買って来るから。」


 「ありがとうございます。でも私は奴隷なのでエルバード様からは頂けませんので。」


 「わかってる。ちゃんとナヴィス殿に渡すから。」


 そう言って、3人を残し、バーバリィに乗って街の北口に向かった。



 既に北口には、ヴァルムントに向かう一団は集合していた。

 ヤグナーン伯爵を始めとした貴族たち、ナヴィス殿を筆頭とするヤグナーン商協会の面々。これらを守る私設傭兵団200名。今回はラッド()が率いていた。


 ヤグナーンに来て知ったのだが、フェンダー、ラッドの二人は騎士階級の出身だった。既に長男が家督を継いでおり、二男のフェンダー、三男のラッドは家を出て傭兵団に入り、実力で今の地位を得ている。だが、家から絶縁されているわけでもないため、形式上は王国騎士にもなる。このため「卿」と呼ぶ人も少なくない。


 俺はラッド卿の下に向かい、自分の役割を確認し、出発の準備を進める。俺はナヴィス殿の馬車の警護隊に配属なので、ナヴィス殿のもとへ行く。途中で朝の光を気持ちよさそうに浴びている伯爵を見かけたので挨拶をする。


 「エルバードか、道中よろしく頼むぞ。ああ、娘を紹介しておく。エメルダ!」


 伯爵に呼ばれ馬の世話をしていた女の子が振り向いた。


 ヤグナーン伯爵バルグには、娘と息子が一人ずついるが、まだ結婚はしていないそうだ。まあ、娘の方がそろそろ適齢期らしくて、王都に住む有力貴族から何度も求婚を受けているそうだが、バルグ様は全て断っておられる。なんでも娘さんが他家に嫁ぐのを嫌がっているらしい。


 ファザコンなんだろうか。そう思っていたが、娘さんを見た瞬間に理由がわかった。


 女の子の見た目は18歳くらい。実際の年齢は15歳だから、多少大人に見えるくらいか。

 服装が全然お姫様じゃない。

 コートとマントが合体したような服で足首まで裾が広がっている。肩口には大き目のショルダーパッドを着け、袖はなく白い肌むき出しで手首は分厚いグローブで覆っている。ふとももをあらわにしたパンツに膝を覆うようなロングブーツ。ここまでくりゃ胸元も露わにすりゃいいのに、そこはしっかりガードされている。どっからどう見ても剣士だ。誰だ?我が儘で手を焼いているお姫様と言ったのは?

 それにもう嫌な予感がするんだけど


 「なんでございましょう、父上。」


 ゆっくりとした足取りでこちらに足を進めながらバルグ様に問いかけた。


 「うむ、こやつが例の“鎧の算術士”じゃ。ナヴィス殿に頼んで借りてきた。道中はお前の部下だから、宜しく頼むぞ。」


 「はい!?」


 「はぁ!?」


 俺とエメルダ嬢は驚いた表情をバルグに向け、苦々しげにお互いを見た。


 先にエメルダ嬢が腕を組んだ状態ではあるが、言葉を発した。


 「我はエメルダ・ヤグナーンだ。貴様が“鎧の算術士”か。」


 …その名は嫌だなぁ。


 「あの奴隷商の知り合いだと聞いたが?」


 ナヴィス殿のことをそんな呼び方するということは、あまり良く思ってないな。俺はその知り合いだから、同類と見てるかも。


 「お初にお目にかかります。エルバードと申します。」


 俺は、太陽神式の礼をする。高貴な方に対してはそのほうがよいらしいので。


 「フン。傭兵のくせに貴族の礼か。軟弱な証拠だな。噂通りの男だな。」


 …明らかに喧嘩腰だ。


 エメルダ嬢は一しきり睨み付けたあと、また自分の馬の世話に戻って行った。


 「…ま、宜しく頼んだぞ。」


 何事もなかったかのようにバルグ様は馬車に戻って行く。



 前途多難だなぁ…。



 準備も整い、一団は街を出発した。ヤグナーンから3日掛けてカルタノオの街へ向かう。通常であれば2日で到着できるが、これだけの規模だと3日掛かるらしい。2日も野宿はちょっときびしいな。


 俺は伯爵の馬車の側での警護で、初日は馬車を運転しているヒョウ獣人と何気ない会話をするだけに終わった。


 初日の野営地に到着し、テントの準備を進める。見ると、近くでテントの準備をしていたのはエメルダ嬢だった。しかもすごくうれしそうな顔をして、自分のテントを建てている。


 この子、アウトドア派?


 不思議そうに眺めている俺にようやくエメルダ嬢が気づき、手が止まる。みるみる顔が赤くなっていく。


 ヒュン!


 エメルダ嬢はハンマーを投げてきた。俺は咄嗟にメニューを開いてスローモーションモードでそれを躱した。


 「な、何をするのですか!」


 「うるさい!私が野営準備をするのがそんなにおかしいのか!」


 「ええ。貴族ならばしません。騎士、剣士であってもしません。野営の準備は傭兵や奴隷、荷物兵の仕事ですよ。」


 エメルダ嬢は今初めて知りました、って表情になった。テントと杭を結ぶ紐を持ったままプルプルと震えている。


 「テントの張り方は誰に教わりました?」


 「…このようなことを教えてくれるものなど私の側にはおらん。全て独学だ。」


 恐らくエメルダ嬢は、世界を旅する冒険者に憧れているのではないだろうか。だが、伯爵令嬢に対してそんなことを教える人などおらず、全部見よう見まねでやっているのだろう。


 ここは恩を売るチャンスだ。


 俺も最初は出来なかったが、バナーシ殿やマグナールの厳しいご指導で一人前にはできる。


 「私でよければ、お教えいたしますが。」


 顔を上げて俺を見るが、直ぐに視線を逸らした。


 「…いい。私は父上の下に戻る。」


 何かを諦めて、立ち上がろうとしたので、俺は無理やり手を引いて座らせた。


 「な、何を無礼な!」


 「杭に紐を結ぶ場合は紐をこういう風に手で持ってください。」


 俺はエメルダ嬢の言葉を無視して、紐と手を見せる。


 「まず、私が実演します。左手はこの位置。右手の紐をこうしてこうして…最後に左手の紐をこう返せば自然と絞まります。」


 一度ほどいて紐をエメルダ嬢に渡す。彼女は、恐る恐るさっき見た手順を自分でやってみる。ぎこちない手つきではあったが、なんとかできた。嬉しそうにしていたが、それをあえてほどく。


 「な!せっかくできたのに!」


 「姫様、慣れた人はこうやります。」


 俺は早業で右手を動かし、最後に左手を返してキュッと紐を引いて結びを完成させた。


 「最初はこれができる様になるまで、寝かせてもらえませんでした。」


 エメルダ嬢は食い入るように結び目を見ている。


 「わ。私もこれができる様になるのか?」


 「練習すれば。今回の旅は野営がまだ何度もあります。私がいろいろとお教え致しますので。」


 エメルダ嬢はまじまじと俺を見ている。


 「次は、テントのポールを建てて、中に寝袋を設置しましょう。」


 俺はエメルダ嬢のテントのポールを順番に並べていく。


 「…寝袋…とは?」


 「…では、野営の道具一式を順に見ていきましょうか。」


 そう言って、俺は≪異空間倉庫≫から一式を取り出す。

 彼女はこういう生活に憧れていたのだろうか。たまたまこういう機会があって、無理やり付いて来て見よう見まねでやろうとしていたのだろうが、やはりある程度は道具を揃えないと…ん?


 エメルダ嬢を見ると、俺を見て尻餅をついて青ざめていた。


 どうしたんだ?俺の≪気配察知≫には別段怪しい点は映っていないが?



 しまった。≪異空間倉庫≫か。


 「…な、なんで?」


 「え、え…と。今は置いといてもいいですか?」


 俺はぐっと顔を近づけて聞き返す。案の定顔を真っ赤にして後ずさりするエメルダ嬢。


 「わ、わ、わかったから…。」




 その夜は、遅くまでエメルダ嬢に野営のいろはを説明した。





 翌日、目が覚めた俺は、テントから這い出して辺りの様子を確認する。≪気配察知≫には昨日からずっと同じ場所に居座る赤い点があった。俺はその場所に向かう。


 そこには、片膝を付いて俺に一礼するヒョウの獣人がいた。


 「俺には堅苦しくしなくていいよ。おはよう。」


 「…おはようございます。」


 やはり堅苦しいままの獣人。お嬢様の監視を仰せつかっているのだろう。


 「大丈夫だよ。俺には≪気配察知≫があるので最低限の危険は回避できるから。」


 獣人は無言で一礼する。


 「お嬢様についてしばらく俺に任せてほしいと伝えてもらえるか?」


 わずかに顔を上げる。俺は、隣に座り視線の位置をあわせた。


 「もう一つ。一度手合せを願いたい。」


 意表を突かれたのか、あたふたした仕草を見せる。


 「いや、そ、それは…。」


 「これもご主人様に報告して。」


 少し間があって、落ち着きを取戻し、返事をする。


 「畏まりました。」


 そう言うと、一礼して主の下へ戻って行った。


 あの伯爵様なら、俺に任せてくれるだろう。これでこの旅は退屈しないで済みそうだ。 俺は大きく伸びをしながらテントの方に戻って行った。




 2日目、3日目と、俺はずっとエメルダ嬢と行動を共にしていた。名目はエメルダ嬢の監視役という本来ならば誰もが嫌がる仕事なのだが、俺が率先してその役を引き受けており、お嬢様はなんやかんやと言いながらも俺の言うことに従ってくれているので大きな問題もなく、カルタノオの街の手前までやってきた。


 そこで一団の進行が停止する。先頭にいたラッド卿からの伝令が伯爵の馬車までやって来て、手紙を渡す。

 伯爵はそれを読むとあわただしく着換えをして、自ら馬に乗って先頭に走り去った。遅れてナヴィス殿も馬に跨って走り過ぎていく。

 ナヴィス殿も馬に乗れるんだ…。


 エメルダ嬢が伝令に何があったかを聞く。

 「エウレーン公爵イズレンディア様の一行とはち会いました。」



 “公爵”!雲の上の上だよ!


 関わっちゃいけない、関わっちゃいけない…。


 だが、エメルダ嬢は俺を掴んで先頭に向かって走り出した。


 「我らも見に行くぞ!」


 「やです!俺は出来れば高貴な方とは関わりたくないのですが!」


 グーで殴られた。というかお姫様がグーで殴るか?


 しぶしぶエメルダ嬢に付いていく俺。そしてできる限り目立たない位置から、先頭の様子を伺った。




 現在のエルフの族長はエウレーンの一族の当主、イズレンディアだそうだ。父アラグディアはドワーフ王の元に軟禁されている為、事実上は人質を取られた状態らしく、ドワーフ王の傘下で活動をしている。


 エルフとは、ほっそりした人というイメージだったのだが、イズレンディアは長身で逞しい体つきをしていた。そしてエルフの特徴である長い耳が肩幅と同じくらい横に広がっている。

 彼の横にはエルフ少女が腕を組んで立っている。金色の長い髪に隙間から長く伸びた耳。青い目に白い肌。



 うん、美少女だ。



 だけど、どこから見ても“我が儘”“世間知らず”“高飛車”の3拍子がそろっていそうな感じだ。隣にいるエメルダ嬢よりきついかもしんない。…近づかないようにしよう。


 エルフの二人を見ていると、そこに伯爵とナヴィス殿が寄ってきて、イズレンディアに畏まって挨拶をしていた。イズレンディアは妖精族の王族筋にもあたるそうなので、格で言えば向こうの方が数段上なのか。当然、彼らに道を譲りそれまではこの場に留まることになる。


 結構大きな市が開催されるって言ってたな。上位の貴族や、王族がやってくるんだ。今回の旅は目立たないようにしよう。厄介事に巻き込まれると大変そうだ。


 エメルダ嬢にいろいろ教えて恩を売るだけに留めておこう。うん。そうしよう。絶対そうするんだ。







 フラグなんか立ってないぞ----!


三章のヒロインはエルフになります。

しかし、主人公と直接の会話をするのはもう少し後になりそうです。


あとエメルダ嬢は中核の人物として関わってきます。


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