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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第二章◆ 失声の銀狼少女
31/126

12 晩餐

 この夜は、ヴァルドナ最後の夜となった。


 明日の朝には、この街を出発して船に乗ってガラの街を経由してヤグナーンへの帰路につくことになっていた。

 ナヴィス殿の主催で、ささやかな晩餐を開くことになり、俺は二人の奴隷と共に招待された。商館に招待されたメンバーは俺、サラ、フォンの他に、マグナール、エイミー、マリンさんだった。

 ヘリヤは、新副官に対する事後処理があって遅れて参加するとのことで、先にマリンさんだけ寄越してきた。フェンダーにも声を掛けたそうだが、出発の準備があって断られたそうだ。俺としてはこのメンバーだけの方がありがたかったので問題はない。


 夕食はヴァルドナ近海で取れた魚を中心とした料理であった。なんでも昼間に地元の有力者との釣り行事でナヴィス殿が釣り上げた魚だそうだ。

 マグナールと俺で街の酒屋で買ったそこそこいい葡萄酒(ワイン)を開けて、晩餐は始まった。


 俺はマグナールにいろいろネタ晴らしをしていった。


 まず≪異空間倉庫≫に入っていたピカピカの大盾のことも、それが今なおこの中にあることも右肩から取り出して説明する。マグナールはまずその段階で話を止めてきた。ナヴィス殿も予想通りという顔をしている。そうですね。いつまで≪異空間倉庫≫の中にしまってるんだ、言いたいのね。俺もまだわかんないから。


 次に≪ヘゼラサートの加護≫をどこで受けたのか。ごめん、それもわかんない。


 それからどうやってスキルを隠しているのか。これはスキルを隠すスキルがあることを説明して納得してもらう。どうやって手に入れたのかは教えられない。というか説明しても理解できないと思う。このあたりからナヴィス殿も身を乗り出してきた。新しい情報が得られるかもしれんと思っているようだ。

 だが、俺も慎重に言葉を選ぶぜ。そう簡単に秘密をバラすつもりはない。


 話は【黒竜剣】のことになった。マグナールの右腕を奪った剣だ。彼自身もどんな秘密があるか知りたがっていた。

 俺は素直に黒竜(ヘイロン)の住処であることを説明した。これにはナヴィス殿も驚きを隠せず、葡萄酒の入ったカップを落としそうになっていた。


 「魔獣は憑代がないと顕現できないと聞いています。また憑代となる武具や道具は持ち主を選ぶとも言われています。エルバード殿、君には一体どんな力が秘められておるのか…計り知れませんね。」


 ナヴィス殿の嘆息は皆が納得しているが、俺は納得したくないんだよな。


 「ご主人様、カルタノオの街に有名な占い師がおられます。エルバード様にご紹介されてはいかがでしょうか。」


 エイミーがマグナールに何かの提案をしてきた。マグナールはトンとテーブルを叩きエイミーの提案を理解したようだ。


 「どうせヤグナーンへ行くのだろう?そこから更に3日ほど北上するとカルタノオの街がある。そこにはよく当たる占い師がいてな。一度見てもらえ。失った記憶を取り戻すきっかけになるかもしれんぞ。」


 マグナールの進めてきた内容は俺としても興味深かった。実際俺は記憶を失ってはいない。そのためどんな占い結果が出てくるか非常に気になる。


 「ダメです。ヤグナーンに戻れば溜まった仕事を片付ける必要があるのですよ。彼にも働いてもらいますから。」


 意外にもナヴィス殿が却下をしてきた。そういや俺、ナヴィス殿の後見を得るために何でもするって言ってたっけ。これには逆らえんな。


 「ナヴィス殿、そのことについてなんですが、俺もエイミーを連れてカルタノオに行きたいのですが。」


 マグナールがナヴィス殿の方を向き、姿勢を正して話しかけた。えらくまじめな顔になっている。


 「エイミーさんを連れて?契約の更新はまだ先のはずでは?」


 契約の更新?なんだそれは?エイミーに関係のあること?

 俺の様子を見ていたサラが小声で話しかけてきた。


 「奴隷契約の更新の事です。契約奴隷は3年から5年に一度使役範囲に応じて売り元の奴隷商人のところで契約更新を行うことが義務付けられています。」


 ほう、ということは、マグナールはそのカルタノオって街でエイミーを買ったのか。


 「いえ、エイミーを“解放”したいのです。」


 エイミーの顔が固まった。ナヴィス殿も驚いている。当然俺もだ。


 「い、いや別にエイミーを手放す、という意味じゃないんです!……この場だからもう言っちゃいますけどね、今回の件で俺はエイミーに感謝してるんです。」


 マグナールはなんか照れくさそうな顔をして葡萄酒を一気に煽ってから話を続ける。


 「同時に俺自身エイミーにどれだけ依存していたかも思い知らされましてね。」


 チラッとエイミーを見たぞ。エイミーはまだ固まっている。マグナールよ何を言う気だ?


 「…エイミー。」


 エイミーは固まったままの表情でマグナールに顔を向ける。


 「…俺の…嫁さんになってくれないか?」



 ナヴィス殿が一気に破顔する。ベスタさんが嬉しそうな目になる。マリンさんが胸に手を当ててほっとした表情をする。俺とサラはびっくり顔。フォンはよくわからないって表情になった。


 そしてエイミーは……。


 まだ、固まっている。いやさっきより目が大きく開かれている。皆エイミーの反応をうかがっていたが、エイミーの反応は非常に薄い。


 「わ、私は奴隷ですが…。」


 「だから、解放しに行きたいんだ。」


 「それでも、元奴隷です。周りの方がなんと言われますか…。」


 少しずつエイミーに表情が現れている。しかし自分の身分のことを慮ってか暗い表情だ。

 だけど俺はわかっている。誰が嫌いな相手に添い寝なんかするかよ。


 「エイミー。君の気持はどうなんだ?」


 俺はマグナールの援護射撃をする。前にサラにもやった手口だ。

 その言葉に表情は一変する。顔は真っ赤になる。これは珍しい表情だ。


 「わ、私は……。」


 マグナールはエイミーの手を取った。エイミーはその手を見た後マグナールを見つめる。その顔を見てみんなも答えがわかったようだ。暖かい目で様子を見守っている。


 「私は…幸せに、なれますか?」


 「…当然だ。俺が幸せにしてやる。」


 エイミーの目から涙がこぼれた。


 「ご主人様…。わたくしをよろしく願いします…うぅっ…。」


 エイミーは頭を下げたがその後は嗚咽になった。マグナールは肩を抱き寄せ、エイミーを抱きしめる。


 「…ナヴィス殿。申し訳ありません、このような席で私的なことを…。」


 ナヴィス殿は嬉しそうに首を振る。


 「これで奴隷たちの新しい道が開ける。私としてもこんなうれしいことはない。」


 「じゃあ、カルタノオに行かせて貰えるんですね!」


 「それとこれとは話が別じゃ!」


 マグナールは情けない顔になる。


 「…まあ、ある程度は融通してあげますが、どうしてもやってもらいたい仕事があるので、それだけは譲れませんよ。」



 ナヴィス殿は本当に嬉しそうだ。奴隷商人とは、“奴隷”という名のたくさんの子供を抱えた親みたいなものなのだろうか。

 俺は、この晩餐で得難いものを得られた。


 やはり奴隷でも自分の幸せを欲しているのだ。


 俺はエイミーの言葉を胸に刻み込んだ。






 「ぐじゅっ…ぐじゅっ…」


 隣で鼻をすする音が聞こえる。


 …めんどくさいなぁ。


 俺は、サラを立たせて部屋の隅に連れて行き、ハンカチを鼻に当てる。



 チーーーーン!ズビズビッ!



 こいつは何でこんなに手がかかる子になったんだ?聡い子と思ったのは間違いか?






 話題はフォンの事になった。


 フォンは“海銀狼族”の生き残りである。彼女の一族は砂浜をナワバリとして生活をしている狩猟種族で、狼族の中では中堅の地位にあったそうだ。10年前にエルフの氏族のひとつ、“盗賊のナウナタレ”と呼ばれる放浪の一族に襲われ、全滅するという事件が起きた。この虐殺事件を起こしたナウナタレ族を捕えるため、同族エルフの総動員が掛けられ、この総動員令を断りきれなかったことにより、エルフの政治的地位は一気に急降下し、妖精族を束ねるドワーフ王の軍門に下ったということだ。

 エルフから見れば、こんな暴挙に出たナウナタレ族のせいでエルフ全体の地位を下げることなってしまったわけで迷惑な話だ。

 他の種族からすれば、ドワーフ王の独裁が始まったのもこの時期であることから、ドワーフ族以外を水面下で支援しているそうだ。ちなみにナヴィス殿も何人かのエルフ族と裏で取引をしており、何らかのつながりを持っている。


 そんな中で“海銀狼族”の生き残りが見つかれば、大騒ぎになるだろう。そうならない為に、彼女は10年以上前から奴隷だったということにする必要があり、ヤグナーンに戻って最初にしなければならない仕事だそうだ。要は資料の改竄をする、ということだそうだ。

 更にフォン自身にも教育を施す必要もある。長年使役している奴隷はそれなりの風格があるそうだ。少しでもそういう風格を身につけさせて、疑いを掛けられないようにするために、ナヴィス殿のご指名でベスタさんが教育係をするそうだ。


 「よ、宜しく…お願い…します。」


 まだ、たどたどしい言葉使いではあるがフォンが自分の言葉で伝達でいる様になったのはすごくうれしい。ベスタさんもフォンのことを気に入ってくれたようだ。




 俺とマグナールで買って来た葡萄酒がなくなったころにようやくヘリヤが到着した。部屋に来てまず、ナヴィス殿に挨拶をする。


 「ヘリヤ、聞いてくれ。マグナール殿がエイミーさんを嫁さんにするそうだ。」


 ナヴィス殿は酔っているのか、領代を呼び捨てだしいつもの紳士風な口調もない。だがそんなことは全く気にしないヘリヤはマグナールのことで大喜びをした。


 「なんと!マグナール!そなた…。エイミー!こんなガサツな奴で本当に良いのか?待て!何故右腕がある!?な!!今のはフォンの声なのか!?」


 …同時にいろいろ言うなよ。


 ヘリヤに1つずつ説明をする。特に万能薬については、そんな報告は聞いてない!とめちゃくちゃ怒られたりもする。挙句の果てに自分が持ってきた酒をがぶ飲みし出す。ちょっとはナヴィス殿が獲った魚も食べてください!


 結局後半戦は終始ヘリヤペースで進み、特に俺は葡萄酒の空き瓶でガンガン叩かれていた。



 そして……予想通り酔いつぶれた。



 つぶれたのは、ヘリヤ、マグナール、サラの3人である。


 ヘリヤとマグナールは勝手に対決した結果で別にどうでもよかったが、サラに関しては俺のせいだった。お酒を飲んだ顔がすごく可愛かったので、ついつい勧めていたら、こうなってしまった。


 何とか全員を領代の馬車に詰め込んで、帰路につき、【宝瓶宮】まで連れて帰ってきたが、そこからも大変だった。


 一番重たいマグナールが完全に寝てしまっていたため、馬車から俺が担いでマグナールの部屋のベッドまで運ぶ羽目になった。こいつが二階でよかった…。

 なんとかベッドまで運んで後はエイミーに任せる。


 「…エルバード様。本当にありがとうございました。」


 別れ際にエイミーにお礼を言われたが、俺は少々照れくさかった。


 「…また、おいしい酒を飲もう、と伝えといてくれ。」


 それだけ言って、部屋のドアを閉める。


 ヘリヤはもっと大変だった。馬車に戻るとマリンさんとフォンの二人で必死に抵抗するヘリヤを押さえつけていたのだ。


 「な、何があった?」


 「ド、ドレスを脱ごうとされまして…」


 申し訳なさそうにマリンさんが答える。こりゃ厄介だ…。それなら、


 「姫、お迎えに上がりました。」


 “姫”という言葉にヘリヤがピクリと反応する。

 脱ぎ掛けていたドレスを正してクルリと振り向く。


 「なんじゃ?私を姫と呼ぶか?エルバードよ。」

 ヘリヤはあの時以上に妖艶な笑みで俺を見ている。はっきり言って怖い。それでも俺はにこやかに答える。


 「はい。宿に到着致しました。どうぞこちらに。」


 そう言って手を差し出す。ヘリヤは満足そうな笑みを浮かべて、その手を取り、フラフラと馬車から出てくる。いいぞ、俺。


 ヘリヤの手を引いて部屋までエスコートしようとしたが、ヘリヤは動こうとはしなかった。


 「歩きとうないのう…。」


 俺は内心では舌打ちしていたが、表面上は笑みを崩さずやさしく話しかける。


 「では、私が姫をお運びいたしましょうか?」


 今度は無邪気な笑顔で嬉しそうにするヘリヤ。はっきり言ってかなり怖い。

 ヘリヤは俺の首に巻きついて来たので、そのまま両手で抱き上げる。所謂、お姫様だっこ、てやつだ。抱き上げられたヘリヤは顔をグイッと俺の首筋に近づけ、つつ―――と舌を這わせた。



 耐えろ!俺!



 「…どうした?このまま私に襲い掛かってもよいのだぞ?」


 究極に近い殺し文句を囁き、今度は耳を甘噛みする。



 ひ、ひつじを数えるんだ!



 何とか六階まで上がってきたが、その間に俺の上半身は散々に弄ばれている。


 「姫、お部屋に到着致しました。」


 そう言って部屋の扉を開け、寝室まで運ぶ。ベッドまで来るとヘリヤはワザと体重を掛けてそのままベッドに倒れ込むよう仕向けた。


 俺の筋力を見くびるな!


 何とか耐えて、静かにベッドの上にヘリヤを下ろす。ヘリヤは不満そうにして、俺の首から腕を放そうとしなかった。


 「姫が素面(シラフ)の時にお誘いいたします。今日はどうかこのままお休みください。」


 できるだけやさしく、できるだけ笑顔で接する。しぶしぶ手を放す姿が妙にしおらしかった。


 部屋を閉めて、急いで階段を降りる。一階のエントランスで3人は待っていた。後はサラだけだ。完全に熟睡しているサラを抱き上げ、六階へと上がるフォンがいじらしく俺の服の裾を持って付いて来ていた。か、可愛いぞ、フォン。



ヘリヤの部屋の前でマリンさんと別れ、3人で俺の部屋に入る。熟睡のサラをそのまま、ベッドに寝かせ、フォンと一息ついた。

 ソファに腰を降ろし、ハンカチで汗を拭く。喉が渇いたよ。


 「フォン、水をくれないか。」


 フォンが台所へ歩いていき、コップを持って戻ってきた。俺がそのコップを受け取ろうとすると、フォンはおもむろにコップの水を飲み始めた。



 …お、おい!



 コップを空にしてしまい、そのコップをテーブルに置く。フォンは頬を膨らましていた。中身は水?


 「ん…。」


 フォンはソファに座る俺の上に跨った。そして顔を近づけてくる。やがて唇が重なり、水が流れ込んできた。




 ど、どうしたんだ?フォン?




 口移しで注ぎ込まれる水を飲み込むが、喉の渇きがとかもう吹っ飛んでいる。


 水を移し終ると唇を放し、「フゥ」と息を吐く。


 「ご…しゅじん。ありがと…ございます。」


 少しお酒の香りのする水だった。ほほを赤らめたフォンは何かを待っているかのように俺の上に跨ったままでいる。

 ヘリヤのせいで散々に我慢させられていた俺にはそんなフォンに対して理性は効かなかった。








 今宵は大玉2つ頂きました。







 おかわり2杯頂きました。







 デザートにサラも頂きました。



…これ、R18に引っかからないですかねぇ?


次話は二章の最終話になります。

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