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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第二章◆ 失声の銀狼少女
20/126

1 港街ヴァルドナ

 かなり道幅の広い、十分に踏み固められた街道を進み、緩やかな峠を越えたところで、眼下に大きな街が見えた。街の向こう側には海が広がっているが、やや遠いせいもあって、潮の香りまではしない。

 街道は既に下り道に入っており、馬の歩く速度も自然と上がっている。やがて大きな城壁に囲まれた門に到達した。


 俺たちは、ヴァルドナの街に到着した。


 俺が街の入り口に入った時には、先遣隊、第一陣が全てを整えた状態で、ナヴィス殿の本隊を迎え入れたので大した混乱もなく、街の中に入っていけた。


 俺は≪仰俯角監視≫を使い、街の様子を確認した。俺の視線はみるみる上の方に上って行き、街全体を見下ろすような位置から、左右を見渡す。

 北の方には漁港が見え、大小様々な大きさの船が浮かんでいる。ガラの街から海路でここに来た部隊の船もあるのだろうか。

 港の少し手前は建物が密集している。海で獲った魚などを売る市場なのか。

 街の東側は比較的大きな建物がならんでいる。おそらくここがヴァルドナ領主の住む館などがあるのだろう。

 街の中央には教会が見える。腕の交差させた天使のような模様から、ここも『太陽神』の教会だと伺える。

 ベルドよりも大きな街だ。街の中央から南側は全て均等な大きさで整然と建物が並べられている。計画的に区画整理と建設を行っている証拠だ。そして、外壁もベルドと同じくらい大きい。


 実はこの街に俺は違和感を感じている。


 普通、港町って風がビュービュー吹いてて、波の音とかも結構響いていたりして、『海!』って感じがあるものなんだが、風はかろうじて潮の香りを漂わせる程度。波もほとんど聞こえない。

 要は港町に来た雰囲気がしないのだ。


 だが、俺以外の誰もこの違和感を感じることなく、黙々と積荷の片付けや、宿の準備などを行っている。


 これがこの世界の常識なのか?


 違和感を感じながらも、≪異空間倉庫≫を開き、運んでいた荷物を全て取り出し、縛られた紐を解いていく。



 やがて、元気な女の子がやってきた。やや薄汚れた茶色の外套(ローブ)を纏い、顔と上半身を隠しているが、元気に走り回るので、足は外套からはみ出している。…後で注意しよう。

 少女は俺の前で止まり、深々とお辞儀をする。


 「遅くなりました、ご主人様。」


 俺はこの子のご主人様。この子は奴隷なのだ。


 「サラ、荷物を片付けたら、宿を取りに行くぞ。」


 俺は少女の名前を呼び、片付けの手伝いをさせる。


 彼女の名はサラ。


 俺の奴隷になることを切望した『忌み子』の少女。そして、俺に“エルバード”という名をくれた名付け親でもある。




 荷物を片付け終え、隊長のラッド殿ところへ報告に行く。ラッド殿は自分の武器をチェックしているところだった。


 「荷物の搬入は全て完了しました。」


 「…ご苦労。」


 ラッド殿はチラッと俺を見て短い返事をする。だがサラを見て、恨めしそうにする。


 「その子が盗賊退治の報奨金代りに貰った奴隷か?」


 そうだ、忘れてた。俺、報奨金いらないからサラが欲しいってヘリヤに言って、もらったことになってたんだ。


 「はい、サラと言います。」


 俺の返事と同時にサラは、両腕を交差させてお辞儀をする。ラッド殿は一通りサラを眺めてため息交じりの言葉を発した。


 「お前も変わってるよな。この島じゃ奴隷の使い勝手は良くないと思うんだが。」


 確かに、この街も奴隷用の施設は少ない。俺もこれから尋ねる場所は【金牛宮】の受付嬢に教えてもらった奴隷持ちが利用できる数少ない宿だった。


 「それでもこいつのことが気に入りましてね。」

 俺はサラの頭をワシワシと撫でる。サラをそれを嬉しそうに受ける。


 「…まあ、人それぞれだからいいけど。俺には迷惑かけんなよ。3日前にもここに寄ろうとした商船が礼の海賊に襲われて、積荷を奪われたらしいぜ。その中には奴隷もいたそうだから。海賊どもは真っ先に奴隷を狙うって考えときな。」


 そう言って、武器チェックに意識を戻してしまった。世の中には奴隷女子に惹かれない男はいないと思っていたが…目の前にいたわ。




 ヴァルドナの街に入った討伐隊の人数は、ベルド領兵団が150。駐屯していた50と合わせて、200名だ。ラグナーンの私設傭兵団が陸路部隊海路部隊合わせて500名。これにヴァルドナ直轄兵団の300名が加わって総勢1000名の大兵力である。これらの大半が街の中央にある教会隣の公園に集まって野営をしていた。炊き出しの煙があちこちから上がっており、周りを囲むように兵士の輪が出来上がっている。


 俺は、その光景と部隊長であるラッド殿の位置を確認してから、あの受付嬢からもらった住所にある宿の中に入った。

 正直、あの(・・)受付嬢からなので、不安度は天井知らずの状態なのだが。


 「いらっしゃいませ。お泊りでしょうか。」


 宿の一階カウンターの受付嬢が声を掛けてきた。おれは、ポケットから紙を取り出し、受付嬢に渡す。

 「ベルドの【金牛宮】から紹介されたのだが。」


 受付嬢は俺の出してきたくしゃくしゃの紙を訝しげに見ていたが、内容を読み、プッと吹き出した。なんだ?その笑いは?


 「お客様、【金牛宮】の支配人はご存知でしょうか?」


 受付嬢の放った質問はちょっと俺を困らせた。だって支配人見たことないもん。


 「…いや。」


 「では、妙に礼儀正しい受付嬢の恰好をした女性はご存知でしょうか?」


 そいつは知っている。散々むしり取られたからな。領収書もあるぜ。…くしゃくしゃだけどな。


 「えっと、その方がベルドの【金牛宮】と当館【宝瓶宮】の支配人(オーナー)でございます。」


 受付嬢は深々と頭を下げる。

 …俺は固まっていた。


 「申し訳ございません、時々気に入ったお客様にはこのような恰好をして御もてなしをされるので、他のお客様から、苦情も受けてはいるのですが…あ!支配人から領収書は頂いておりま…」


 受付嬢は俺の顔を見て、停止してしまった。当然だ。怒り心頭でかろうじて笑顔を見せ、プルプル震える手で領収書を持っている俺は、はたから見ても爆発寸前とわかるだろう。

 受付嬢は恐縮した様子で領収書を受け取り、確認した。既に半べそ掻いてる。


 「あの、エ、エルバード様、当館最上階の六階最上級部屋(スイートルーム)へご案内いたします。も、もちろんお代は無料ですので…。」


 俺は無言で案内を促した。吸い取られた銀貨10枚はここの宿の先払い分かよ。とことんやらしい奴だ。目の前の受付嬢は涙目になっている。さすがに可哀そうになってきた。

 受付嬢は六階への階段を昇り切って3つ目の扉の前まで俺を案内した。


 「こちらでございます。」


 部屋に案内された俺たちは、受付嬢から部屋の鍵を受け取り、ひとまずくつろいだ。相変わらずサラのソファへの座り方はぎこちない。


 「そ、それではごゆっくり…。」


 そういって、受付嬢は部屋を出ようとする。


 「待て!」


 「ひゃい!」


 俺の声にビクつき、変な声をだす。


 「君の名を聞こう。」


 「あ、えと……ククル、と申します。」


 「では、ククル。この街に歴史を記した本を取り扱っている店はないか?」


 俺の質問にククルという名の受付嬢はおどおどしながら必死に考え込む。なんか、一刻も早くここを出ていきたいっていう感じがする。


 「えと、この街には、領主様が寄贈された本を管理する図書館がございます。そこへ行けば歴史の本などもあるかと、思います…。」


 なんか、尻すぼみな返事だったが、まあいい。彼女には何の罪もない。


 「…ありがとう。それと奴隷用の施設がある位置を記した地図があるとうれしいのだが。」


 「は、はい、直ぐにご用意いたします。」


 「あと…」


 「ひゃい!まだなにか!」


 「宿代はどうしたら…いいのかな?」


 「い、お代は、夕食と朝食の代金のみで結構でございます。そのように支配人からも指示が出ておりますので。」


 ククルは、精一杯の笑顔でもって俺に応対している。だがその顔は俺を恐れて引きつっている。


 「そうか。では下がってよいぞ。」


 そう言ってククルを下がらせた。全くあの受付嬢が支配人(オーナー)だったとはな。

 おかげでククルちゃんに当たる寸前だったじゃないか。



 俺は改めてソファに座り直す。俺は上空から見た街並みを思い出し、今日中に訪れるべき場所をサラに伝えた。サラは何度か復唱して、外出用の外套を羽織る。特に荷物は無かったので、鍵を掛けずに部屋を出た。




 のちにこれが大きな過ちを犯すことになる。




 今日中に訪れたい場所は2つ。1つは街にある図書館。この世界の歴史と、≪百軍指揮≫の能力を高めるための知識習得だ。

 2つ目は教会。例によってお祈りをする。


 図書館に到着した俺は、戦史の本を片っ端から集めた。ちらりと見る限り、国同士の戦いに関する内容もあった。ということは、この世界にはいくつかの国があるということだ。

 もう一つ、ところどころに“獣人”とか“ドワーフ”とか“エルフ”とか書かれている。



 …この世界に亜人がいる。



 サラは目的を忘れて亜人の存在の狂喜している俺を見て不思議そうにしていた。…君にはわかるまい。この心が躍る喜びを。会ってみたい!


 なになに、『六大群島戦史』?

 ほう、ここは島国なのか。


 2~3ページ読んで、なんとなくわかった。この世界は、種族単位で国があり、大戦争というものこそないが、昔から小競り合いを続けている。このため、種族間のいざこざが絶えず、国家間の関係も良好といえる状態ではないらしい。

 おっと、目的を忘れるところだった。大まかな国の話とかは後でサラに聞くとして、ここでは戦闘の詳細を調べていこう。


 俺はいくつかの本をテーブルに並べた。そして全部同時に読み上げていく。≪思考並列化≫と≪情報整理≫のコンボがなせる技だ。


 読み進めていくとある傾向に気が付く。戦争は人間VS獣人、エルフVS獣人と、対獣人戦が多く、記述の仕方は獣人を下に見た内容ばかりである。まるで、人間が最も高等で、獣人は下等であるという風に。他にもエルフとドワーフも仲が悪く、長年戦争を続けていたが、近年エルフが敗北を認め、現在はドワーフの支配下に置かれているそうだ。

 同族同士の争いはほとんど見当たらない。もっとも興味をひかれたのが、150年前に行われた“滅竜戦争”だ。この時は人族、妖精族、獣人族が団結し、派竜族の島に侵攻したが、撃退されたと書かれている。この時の動員数が八千人規模で、見る限り一番大きい。対する派竜族は千人で島を守り、上陸すらさせなかったようだ。

 その他にも無人島に立て籠もった500人の獣人を五千人のドワーフ兵で殲滅させたとか。


 …そして、この図書館にある戦争に関する本はほとんど目を通した。さすがにこのスキルの使い方は目も頭も疲れる。








 で、≪情報整理≫が出した結論は…今回の遠征は大敗する、だった。



 こっちが負ける要素は

 ・小島へ強引な上陸作戦を決行する兵力が

  足りない

 ・敵は兵糧を十分に用意している可能性がある

 ・人質がいる

 ・こっちの戦法は兵力差に物を言わせた

  正面突破の予定



 まず1つめだが、過去の戦争で、こことよく似た小島への上陸作戦が、結局10倍の兵力を投入して完遂されたという記事があった。この記事を鵜呑みにするわけではないが、実際に見た小島の形状を鑑みて3倍の兵力では心もとないと思う。

 2つ目3つ目だが、確かに3日前に商船が襲われている。ラッド殿は積荷を奪われてたと言っていたが、実際は行方不明の船員、奴隷がかなりの数いるらしい。人質を盾に抵抗されれば、攻撃手段を失う恐れがあるし、奪われた積荷の詳細を確認する必要もある。恐らく食料もあるはずだ。

 この上での4つめの正面突破戦法なので、戦死者多数になることが予想される。


 以上のことから、このまま基本方針の変更をせずに海賊団と戦った場合、負けてしまう可能性があるという結論だ。


 この状況を打破する方法として、隠密行動に長けた少人数で小島に潜入し、攪乱及び糧食の始末。敵の退路を塞ぐために小島にあるはずの船着き場の襲撃。それから、2方面からの時間差攻撃、ぐらいの頭脳戦をやりたい。

 だが俺にはそんな権限はこれっぽっちも持っていない。


 せめてバナーシ殿には俺の意見伝えることができればと思い、予定を変更して野営地に向かった。サラは教会を楽しみにしていたようで、ちょっと悲しそうな顔になった。ごめんよ、後で菓子を買ってやるから。

 野営地に着いてから、俺は知っている人間を探した。だが、マグナールもバナーシもラッドもいなかった。聞いてみると、ヴァルドナ領主に主要メンバは呼ばれているらしい。

 しかし、ここには人間しかいない。他の種族がこの戦闘には参加していないのは何故だろう?


 やむを得ず、当初予定だった教会へ向かったが、教会の方は、要人来客のため一般人の参拝禁止になっていた。

 俺とサラはすごすごと【宝瓶宮】に戻って行った。サラはとても残念そうにしている。俺としても、明日から始まる作戦会議までには伝えたいのだが…要人と要人じゃない俺との間には行動予定に大きな隔たりがあるようで…。




 宿の階段を昇り、六階まで行く。部屋の扉を開けようとしたが鍵が掛かっていた。たしか出るときは鍵を掛けなかったはずなのに…。部屋を間違えたかな?

 そう思って、1つ手前の部屋の扉に手を掛ける。そこにククルが俺たちを追いかけてやってきた。


 「あ!エルバード様!お待ちください!先ほどお部屋の鍵が掛かっておりませんでしたので、私どものほうで掛けさせて頂きました!そのお部屋は…」




 …遅かった。




 俺は、扉を開けてしまった。それだけでなく、2、3歩中に踏み込んでしまった。そこには、ベルド領代のヘリヤとその奴隷マリンさんがいた。ヘリヤは着換えの途中だったらしく、下着一枚の姿である。


 …俺は固まった。本日二度目の硬直です。


 つかつかとヘリヤは俺に歩み寄り、俺の手が届くところまでやってくる。


 「…堂々としたのぞき(・・・)だな、エルバード殿。」


 「あ、いや…これは…。」


 ほぼ全裸の女性が目の前で今まで見たことのない恐ろしげな笑みを浮かべて立っている。もちろん、≪思考並列化≫≪情報整理≫は俺の意思とは関係なく情報収集を続ける。サラは二歩後ろに下がった。既に受付嬢は土下座をしたまま、ピクリとも動かない。


 「私の体は綺麗か?」


 「へ?」


 「綺麗かと聞いておる。」


 「え!? あ、ももももちろん、お綺麗です!」


 俺の返事にサラが更に後ろへ下がって行った。


 それを見つけたヘリヤは、


 「サラちゃんは主を捨てて逃げるのかえ?」


 と、カエルを睨み付けるかのようにサラの動きを止める。


 「あ、あの…足が勝手に…。」


 サラ!言い訳はするな!


 「へ、ヘリヤ殿。ももも申し訳ござらぬ。自分の部屋と、お、思って開けてしまいました。」


 何とか勇気を振り絞って声を出したが、最後は敬語になっていた。

 ヘリヤは、冷や汗をダラダラと掻いている俺の顔にギリギリまで接近する。もちろん、パンツ一枚だ。


 「では、閉めてくれぬか。」


 耳元で囁かれる。ヘリヤは笑顔だが、目は全く笑っていない。俺はその目に睨めつけられている。扉を閉めたいのだが、体がピクリとも動かず、閉められないのだ。

 おそらく何かしらのスキルを使っている。俺は体を動かそうと必死で≪鑑定≫なんて余裕はない。




 その時、サラはとんでもない暴挙に出た。




 汗びっしょりになって部屋の外に全ての体を移動させることに成功し、すっと扉を閉めてしまった。

 俺は、ほぼ全裸のヘリヤ…ヘリヤ様を目の前にして、取り残されてしまった。

 視線を扉の閉まった後ろから前に戻す。目の前にヘリヤ様の綺麗だけど恐ろしい顔がある。



 ヘリヤ様はニコッと俺に微笑んだ。




 …サラよ。奴隷はご主人様の危機は救ってくれないのか?



二章が始まりました。

この章で二人目のヒロインが登場します。このためサラちゃんは一時脇役にさがります。


次話では、ヘリヤの過去に触れます。そして新たな神も登場します。

ご存知だと思いますが、この物語では神様は実在し、人々に神の恩恵を与えております。


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