58.結婚式
そして、ラディとクレアが三か月ぶりに戻ってきた。
番になる前に結婚したいと私とルークがお願いした時に、
クレアとラディの結婚式と一緒にするならいいと許可をもらっていた。
王宮の奥にある竜神へ祈りをささげる場で、
竜王様とハンス、エリナやジーナたちに見守られ、
クレアとラディ、私とルークは結婚式をあげた。
結婚式と言っても、普通の竜人は結婚式をしないらしく、
特別な何かをするわけではなかった。
竜神に祈りを捧げた後、竜王様に結婚の許可をもらい、みんなに祝福される。
あっさりとしているけれど、これで結婚したことになる。
その日の夕食は豪華なもので、私以外のみんなはワインを飲んでいた。
竜族としては成人していると言っているのに、
竜王様が私が酒を飲むのは三十年早いと言って飲ませてもらえなかった。
大人扱いされなかったことは残念だったけれど、
今日からはルークと夫婦として扱ってもらえる。
食事が終わり部屋に戻ろうとしたら、ルークは竜王様とハンスに捕まっていた。
「いいか、手を出すなよ?」
「わかってます。絶対に守りますから、安心してください」
「ルーク、何かあればリディ様と部屋を離しますからね?」
「わかってますから!」
しつこいくらいに念押しされてルークも困り果てていた。
竜王様とハンスは酔ってるのかもしれない。
「竜王様、ハンス、そんなに心配しなくても大丈夫ですから。
ルーク、もう行こう」
「ああ」
まだ何か言いたそうだったけれど、ルークの手をとって部屋に戻る。
これからは私の部屋でルークも寝泊りする。
私に与えられている部屋は客室の三倍くらい広いから、ルークが一緒でも問題ない。
部屋で二人きりになった時、ルークが何かを差し出した。
「リディにこれを渡したくて」
「……ネックレス?」
渡されたのは黒い宝石がついたネックレスだった。
普通に見れば黒だけど、角度を変えると何色にも見える。
何か見覚えがある光……と思い、気がつく。
「ねぇ、これってルークの鱗じゃないの?」
「そう。あ、番の時に渡すものとは違うよ。
ただ、俺の鱗を持ち歩いていれば、何かあった時にすぐに場所がわかる。
もしリディの身に何かあった時、すぐに助けに行けるように」
「ありがとう……」
私も魔術で戦えるし、結界で身を守れるんだけどと思っていたら、
ルークに先に言われる。
「リディが自分の身を守れるのは知ってる。だけど、絶対じゃない。
もし何かあった時、その時に守るのは俺の役目だから。
このネックレスは外さないでいて」
「うん、わかった。ずっとつけておくね」
私を守ろうとしてくれる気持ちがうれしくて、ネックレスをつける。
鱗からルークの竜気を感じて、まるでルークにふれているみたいだと思った。
「これで……他の竜人から見たら、リディは俺の番になったと思うはず」
「え?あぁ、身体の中に鱗を入れたとしたらこんな感じになるんだ」
「あくまでもお守りのようなものだけど、
俺よりも弱い竜人なら気がつかないはずだから」
「そっか。ありがとう」
ルークに抱きしめられたままベッドに寝転がる。
手を出されることはないとわかっているのもあって、緊張はしない。
結局は竜化しない限り、竜人にとって私はまだ子どもだってことなんだ。
優しいくちづけを頬や額にうけて、それでも一緒に眠れることが幸せだと感じる。
早く竜化して竜人になりたい気持ちもある。
だけど、それはもしかしたらルークとの別れになるかもしれない。
あと少しだけ、もう少しだけでも、こうして夫婦でいたい。
これが身体をつなげることがない、お遊びの結婚だとしても。
穏やかだけど確実に時間は過ぎ、結婚から三年がたった。
いつものように竜王様の執務室に行くと、
めずらしくエリナの夫である警備隊長が来ていた。
エリナが椅子に座ったままで、警備隊長が竜王様に報告している。
「ああ、リディにルーク。ちょうどいいところに来たな」
「どうしたんですか?」
「エリナが身ごもったらしい。それでしばらくは仕事を休むことになった」
「え!エリナ、おめでとう!」
まだ見てもわからないけれど、お腹の中に子がいるらしい。
エリナが椅子にすわったままなのも納得した。
「ありがとう。
二度目の出産だからそこまで心配しなくていいって言ったのだけど」
「ダメだ。何かあったらどうするんだ。
前だったらともかく、今ならカインとケインがいる。
屋敷にいたほうが安心するだろう」
カインとケインというのはエリナの双子の息子。
会ったことがないのは、まだ竜化する前の子どもだから。
家でのびのびと育てているらしい。
年齢はたしか三十二歳だったかな。
私よりも年上なのに、家から出してもらえない子どもというのは不思議だけど、
竜人は五十歳を過ぎて竜化しないかぎり、自由に外出しないものだとか。
「エリナがいない間、リディとクレアに侍女頭の仕事を任せることになる。
引継ぎをしておいてくれ」
「わかりました」
番がいるエリナとクレアはいつ身ごもってもおかしくない。
そのため、仕事が引き継げるように教えてもらっていた。
ジーナたちもしっかり専属侍女として働いてくれているし、
特に問題なく引き継げるだろう。
「ふふふ。エリナの赤ちゃん、次はどっちかな。楽しみ」
「産まれたら遊びに来るといいわ。リディならいいでしょう?」
「ああ」
警備隊長の許可も出たので、産まれたらエリナの屋敷に遊びに行けるようだ。
竜人は信用しないものは家に呼ばない。
二人に信用してもらえたと思うと、とてもうれしい。




