43.商人の訴え
「クレアの番はラディ、リディの番はルークだ」
二人がそれぞれ私たちの横に立つ。
竜王様が報告すれば、誰も文句は言えない。
そう思っていた。
「竜王様に申し上げたいことがございます!」
夜会の会場の中央から声があがった。
壇上の近くには竜人や同盟国の使者、その奥に竜王国の貴族が並ぶ。
竜王国の貴族の先頭あたりにいた者が声をあげたようだ。
「なんだ」
竜王様が聞き返したからか、
人が左右に分かれ、その者を通そうとする。
壇上の下まで来たのはふくよかな男性。
その隣にいたのはアヒレス家のローズだった。
「お前たちは?」
「アヒレス家当主のブソナとローズでございます。
竜王様にお願いがありまして」
竜王国の貴族とはいえ、竜人とは身分が違う。
それなのに夜会の最中に竜王様にお願いをするとは。
呆れていると、ブソナはちらりとこちらを見る。
「そちらにいらっしゃるルーク様の番が見つかったとのことですが、
番契約するまでまだ時間があるとお聞きしまして。
その間、ルーク様には責任を果たしていただきたいのです」
「まだそのようなことを。ルークは関係ないだろう」
「いいえ。私どもは商人でございます。
借金は子孫であっても返していただきます。
なに、簡単なことですよ。
ローズとの子どもを一人か二人作ってくれるだけでいいのです。
そのくらいは認めていただけますよね?」
にやにやと媚びたような顔で笑うブソナと、
本当は納得していないのか私をにらみつけているローズ。
あぁ、番契約まで時間があるというのは、
コリンヌ様に聞いたのだろうな。
ルークを子作りのためだけに利用したいブソナに、
吐き気がするほど気持ち悪い。
我慢ができなくなったのか、ルークとラディが竜王様の前に出る。
「竜王様に対して無礼だ!さがれ!」
「そうだ!このような場所で竜王様に直接声をかけるなど、
何を考えているんだ!警備隊長、こいつらをなんとかしろ!」
ルークが咎めたのをきっかけに、
ラディも警備隊長のディルクにブソナを下げるように命じる。
ブソナは一瞬だけひるんだが、不敵な笑みを浮かべる。
「おや、そんなことをしてよいのですか?」
「何がだ」
「この竜王国の貴族を束ねているのは私です。
私がいなければ竜王国を維持できなくなりますよ?」
竜王国の貴族が維持できなくなる?
その言葉に、竜人たちが首をかしげている。
いったい何を勘違いしているのだろう。
竜王様もつきあいきれなくなったのか、大きくため息をついた。
ブソナはそのため息すら違う意味でとらえたようだ。
「ほら、竜王様も私がいなくなれば困ることになりましょう」
「いや、困らないが?」
「は?」
「竜王国の貴族が、というよりも、竜族がいなくなっても困らない」
もうめんどくさくなったのか、竜王様は事実を告げる。
「何を言っているのですか!
この国に属国からの税や食料などを運んできているのは私どもですよ!
ドレスや装飾品もそうです!なくなったら困るでしょう!」
「それらを消費しているのは竜族だろう?
竜人が暮らす分にはなくても困らん」
「はぁぁぁ?」
あまりにも衝撃だったのか、ブソナが叫んでいる。
だが、これは本当のこと。竜族が働いているほとんどは竜族のため。
一部の竜族が竜人に直接仕えているが、それは少数。
いなくなったとしても竜人が代わりにできる仕事ばかりだ。
それはわざわざそうしていたようだ。
いずれ竜族がいなくなっても困らないようにと。
「ど、同盟国の使者の方は困ると思います!
私ども竜族が同盟国との流通を担っているのですから!」
「それも必要なくなるな。
後で発表するつもりだったが、今言ってしまおう。
明日から同盟国の使者とは交渉の場につく予定だ。
今後も同盟国でいるのかどうか。
同盟国を続ける場合でも、属国の支配権は渡さない」
その言葉に同盟国の使者が動揺し始める。
属国の支配権。
それは、竜王国があまりにも属国を持っていることが原因だ。
管理しきれないので、属国を十数国ごとまとめ、
その中で一番大きな国を同盟国とし、周辺の属国を管理させていた。
属国からの税の何割かは同盟国が受け取るので、
同盟国としては属国の支配権は失いたくないもの。
だからこそ、あちこちでそんなことは認められるかと文句が聞こえる。
「先代竜王と次期竜王ラディと話し合って決めた。
竜王国はすべての属国を手放す。
同盟国が命令に従わず今後も属国を支配し続けた場合、
反乱がおきても竜王国は手を貸さない」
「そんな馬鹿な!」
「手を貸さないだと?そんなことになれば……」
「竜王国の力なしに属国を支配するなんて無理だ!」
「何がおきても竜王国からは戦力を出さない。
属国の支配を続けるつもりなら自力でやってくれ」
このためにすべての同盟国に招待状を送ったのか。
属国がなければ同盟国も必要ない。
属国や同盟国から税が送られてこなければ、竜族も必要ない。
本気で切り捨てられるとわかったのか、
青ざめた顔のブソナが震えながら叫んだ。
「そんなことになればうちの商会はつぶれてしまいます!
竜王様は、今までずっと仕えてきた竜族を切り捨てるおつもりですか!」
「仕えてきた?本当にそうか?
竜王国に竜族が住む場合はその対価を払うことで許してきた。
だが、この百二十年ほどは竜族から対価が支払われていない」
「対価、ですと?」
「ああ。先代の竜王が竜族と契約したものだ。
竜族に住む許可を与える代わりに税を納めろと。
なのに、今の竜族は支払っていない。
俺に仕えているというのなら、百二十年分を支払ってもらおうか」
「そ、そんな昔の税は無効では……?」
百二十年分の税ってどのくらいなんだろう。
竜族全体を住まわせる対価となれば、安くはないはず。
「そうか?お前はさきほど俺に言ったよな?
商人だから借金は子孫でも支払ってもらうと。
二百年以上も前の借金をルークに支払えというのなら、
お前にも支払う義務があるだろう?」
「そ、それは……」




