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残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?  作者: gacchi(がっち)


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32.戻ろう

ラディが戻ってきたのは四日後だった。

周辺の同盟国三か国を回ってきたらしい。


「三日後には一番近くの同盟国から、

 奴隷を引き取る馬車が到着する予定です」


「わかった」


「もうすべての貴族を確認したのであれば、

 クライブ様はレンダラ国に戻ってください。

 止められたのに出てきましたからね。

 ハンスが怒ってると思います」


「……戻るか」


そういえば、ハンスから伝言を頼まれていたのだった。


「ハンスからの伝言です。満足するまで暴れたのであれば、

 後片付けはラディに任せて早く戻ってきてください、だそうですよ」


「そうか……では、ラディ。後は任せた」


「はい。すべての奴隷を引き渡したら戻ります」


「頼んだ」


ハンスに怒られることを思い出したのか、

竜王様は少し嫌そうな顔で、竜化して竜王国へ戻っていった。


一週間以上留守にしてしまったのだから、仕事が溜まっているはず。

ハンスがどれだけ怒るのかはわからないけれど、

アーロンのことだから少しは大目に見てくれるかもしれない。


竜王様を見送った後、これからのことを相談しようとしたら、

ラディは一人でここに残ると言い出した。


「あとは俺一人で十分だから。

 リディとルークも気が済んだのなら戻ってていいぞ。

 同盟国の使者とのやり取りはお前たちはいないほうがいいだろう」


「……そうだな。そうさせてもらおう」


竜王国で同盟国の使者と会っているのだから、

別にここで会ってもいいと思ったけれど、ラディに注意される。


「ここは守りの堅い竜王国じゃない。

 魔力の高い竜族だと知られたら連れ去られる可能性があるんだ。

 おとなしくルークと戻っててくれ」


「そうなんだ……わかった。先に戻るね」


ラディの仕事を手伝いたいと思ったけれど、

私を守りながら仕事をしたのでは却って邪魔になる。


「俺は少し気になることもあるから、

 戻るのは少し遅くなるかもしれない。

 クライブ様にそう伝えておいてくれるか?」


「うん」


気になることってなんだろうと思ったけれど、

竜王国に戻ってきてからゆっくり聞くことにする。


戻ることを決めたなら早いほうがいいと、

私とルークは食料を補充してその日のうちにレンダラ国を出た。


夕方になりかけている空。

一部が壊れた王宮。竜王国とは比べ物にならない小さな王都。

王族と貴族に何かあったらしいとわかっていても、

普段通りの貧しい暮らしを続ける平民たち。


奴隷にならなかった領主代理は、領主になるように竜王様は命じた。

だが、領主たちをまとめる王族はもういない。

レンダラ国は小さな領地がたくさんあるだけの場所になる。

今後は国としてまとまることはないだろう。


ルークの背に乗って、クレアとレンダラ国を見ていた。

もう二度とここには戻ってこない。


クレアは何も言わず、じっと見ていた。

クレアの祖父母、両親、アリーはこの地に眠っている。

泣いてしまうかもと心配したけれど、泣くことはなかった。



その日の夜、野宿する前にクレアは竜石に戻ってしまった。

復讐を終えて、疲れてしまったのかもしれない。


「クレアは大丈夫なのか?」


「わからないけれど、今はそっとしておくわ」


「そうか」


レンダラ国への復讐は終わっても、気持ちを切り替えるのは難しい。

恨みが完全にすっきりするわけでもない。

また明るく話せるようになるには時間が必要だと思った。


「……リディも落ち込んでいるのか?」


「落ち込んでいるというか、まだ忘れられない」


「そうか」


ずっと憎んでいた。国王や王太子、公爵たち男性だけじゃなく、

薄笑いで見ている王妃や公爵令嬢、使用人たちも。


真実を知ってから十三年。

私は生贄なんかじゃない!そう叫びそうになるのを抑え過ごしていた。

その傷はすぐに癒えるものじゃない。


「そろそろ寝ようか」


「え?このまま?」


「うん、今日はこのまま」


いつもなら寝るときルークは竜化しているのに、

今日は草むらに毛布を敷いて、私を抱きしめたまま横になろうとした。


「どうして?」


「竜化したら寄り添うことはできても、

 リディを抱きしめることはできないから。

 今日はこのまま、ずっとそばにいるよ」


「……うん」


竜化したルークに守られて寝るのはとても安心する。

だけど、今は少しも離れてほしくなかった。


ルークに抱きしめられたまま、毛布を掛けて眠る。

もうレンダラ国のことなんて忘れてしまいたい。


私がそう思ったことに気がついたのかはわからないけれど、

ルークが額やこめかみに何度もキスをするから、

いつのまにかレンダラ国のことは考えられなくなっていく。


優しく髪や背中を撫でられ、ルークのキスを受けているうちに、

疲れた身体から力が抜けて、目が開けられなくなっていく。


「……ルーク……めが……あかな……い」


「開けなくていい。そのまま寝ていいんだ」


それに返事ができないまま夢に落ちていく。

夢の中では両親がちゃんとそろっていて、

クレアとアリーと私の三姉妹で笑って暮らしていた。



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