21.解体の説明
一年後に解体することは竜王様が決めたけれど、
そのことを後宮にいる妃候補だけでなく、
すべての同盟国と属国に通告しなくてはいけない。
各国に書簡を発送した後、まずは一年後に後宮を出る予定の妃候補に、
後宮の解体を説明しにいくことにした。
面会の約束を取り付け、後宮に向かうと、
妃候補のクリスタ様はにこやかに迎え入れてくれた。
ふわふわの白髪に真っ白な肌。
目と唇は赤く、浮き上がるように見える。
華奢な身体のせいもあって、壊れそうなほど繊細で美しい。
思わず見とれてしまっていたら、
クリスタ様は私たちに向かって深々と礼をする。
「クリスタ嬢、今日は大事な話があってきた。
座って話したいがかまわないか?」
「はい」
まずは座ってからと、クリスタ様の向かい側にルークと座る。
「新しく竜王様の側近になったリディよ。
私も後宮担当になったの。よろしくね」
「クリスタと申します。
よろしくお願いいたします、リディ様」
「リディは私の婚約者でもある」
「まぁ!婚約されたのですね。おめでとうございます」
とても礼儀正しい令嬢のようで、座ったままでも綺麗にお辞儀をする。
クリスタ様は私がルークの婚約者だと知っても幼いと馬鹿にすることはなかった。
最初に会った妃候補がコリンヌ様だったからか、
少し警戒していたけれど、そんな必要はなかったみたい。
貴族令嬢でまともな人に初めて会ったかもしれない。
「実は、この後宮は一年後に解体されることになった。
クリスタ嬢はもともと一年後に出ることになっていたから、
あまり影響はないだろうが、一応は説明しなければならない」
「まぁ、後宮が解体ですか。
驚きましたが、でもそうですわよね。
竜王様にお目通りもない妃候補ですもの。
後宮なんて必要ありませんわ」
「そういうことだ。
クリスタ嬢は予定通り、ババーリ国から迎えが来次第、後宮を出ることになる」
「そうですね……あと一年」
そうつぶやいたクリスタ様の微笑がさみしそうで、
何かあるのかと疑問に思う。
後宮を出るのを嫌がっているのではなさそうだ。
「クリスタ様、何か憂うことがあるの?」
「え……あ。申し訳ありません。
少しババーリ国に帰った後のことを思っておりました」
「帰った後で心配なことがあるのなら、言ってほしい。
後宮の妃候補をつとめてもらったのだ。
多少のことはババーリ国に要求できると思う」
ルークがそう申し出たが、クリスタ様はゆっくりと首を横に振った。
「そうではないのです。
私は国に戻ったら幼馴染と結婚することが決まっています」
「まぁ、それはいい話なのね?」
「はい」
その幼馴染を思い出したのか、うっすらと頬を染めるクリスタ様に、
結婚が決まっているのに妃候補になってしまったのは可哀そうなことだと思う。
「いい話なのに、心配なのか?」
「……もう四年も会っていません。
私が妃候補になることは産まれた時に決まりました。
白髪の令嬢は貴重だから竜王様に献上するとババーリ国王が決められて」
「産まれた時に……」
「そのこと自体は光栄なことですし、形だけの後宮なのだとわかっていました。
戻ってきたら結婚しようと幼馴染が求婚してくれて……。
幸せだと思っていたのですが、四年も会えず手紙も出せないとなると、
ババーリ国に戻った時、幼馴染が待っていてくれるのかと不安で」
「それは……不安にもなるわね」
後宮に入ってしまえば、後宮の外と手紙のやり取りをすることはできない。
ババーリ国に報告の手紙を送ることはできるが、
貴族個人に手紙を送ることは許されない。
十五歳から四年間。
一度も手紙を送ることもできないまま待つのは苦しいはず。
信じてる気持ちと、疑う気持ち、揺れ動いているのがわかる。
「ねぇ、ルーク。
竜王様にお願いして手紙を解禁にしてもらえないかしら」
「手紙を解禁?」
「だって、解体が決まっているのよ。
手紙のやり取りを禁じる意味もないじゃない。
後宮を出た後のことを話し合ってもらうためにも、
手紙のやり取りは認めてもいいんじゃないかなって」
「それもそうか。
クリスタ嬢は出る予定だから国で準備を始めているだろうが、
残りの二人は突然帰ることになる。
帰った後のことを国と相談する必要はあるだろう。
竜王様に願い出てみるか。ダメだとは言わないと思う」
「良かった!
クリスタ様、竜王様の許可が出たら手紙を送ってみたらどう?
後宮を出るまでの間、手紙のやり取りだけでもできたら安心できるのでは」
「あぁぁ……ありがとうございます!」
よほどうれしかったのか、クリスタ様の赤い目からぽろぽろと涙がこぼれる。
周りにいる侍女たちもつられて、目元をハンカチで拭う。
クリスタ様は侍女たちに慕われているようだ。
もともとクリスタ様はもめると思っていなかったが、
すんなりと解体を受け入れてもらえて話は終わった。
手紙の許可が出たらすぐに知らせると約束して後宮を出る。
問題は残りの二人。
コリンヌ様は前回のことがあるので、最後にしようと決めた。




