最終話 幸せなサプライズ
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最終話となります…!
そして五年後。
グラッセ公爵家の客間に、ある客人が訪れていた。
「……お久しぶりですねシリル。大きくなりましたね」
そう言って、ソフィアは夫のジークハルトと共に客間へと入室すると、柔らかい笑顔を客人に向けた。
「公爵閣下、ソフィアお姉様。この度は寛大なご配慮をいただきまして誠にありがとうございます」
客人は、ソフィアよりも二歳年下の弟のシリルである。
あれから、エリオン男爵家は、属性変換を考慮して計算式を作成することができなかったミスの責任をほとんど負うことになり、多額の負債を抱えることになってしまったのだ。
加えて、男爵家は『マジックファースト商会』の顧問を解雇され、姉のリナも王宮魔法使いの補助を解任されてしまったのであった。
その後、実家のためにとエリオン男爵が初老の伯爵の後妻の縁談を引き受け、二年前にリナは不本意ながら嫁いでいったそうだ。
だが、多額の負債は領地から入る税収入ではとても賄いきれず、男爵は金策に追われることになってしまい、繋がりのある貴族らに頭を下げて回ったらしい。
それでも、とても男爵家を維持することはできず、一時は爵位を手放し没落する可能性もあったとのことだ。
だが、その様子にソフィアは見かねて、ジークハルトに対してエリオン男爵家に仕事を回すようにと進言をしたのだ。
「礼なら妻に伝えることだ。私は、妻が見過ごすことができないと言うので助力をしたに過ぎない」
ソフィアの表情が、スッと真剣な様子に変わっていった。
「……わたくしは、正直なところお父様やお母様、お姉様、それからあなたのことも許したわけではありません」
ソフィアは、ハッキリと「許したわけではない」と言った。
というのも、彼女が受けたこれまでの家族からの仕打ちは非道なもので決して人に対して行ってはならないことであり、謝罪がなければ許してはならないことだと認識することができるようになったからである。
「……そうですよね」
「よく考えると、わたくしの両親は毒親過ぎますし、お姉様も毒姉過ぎます。ですが、あくまでわたくしはシリルにも責任がなかったとは考えておりません」
シリルは固まり、緊張しているのか瞬きを複数回している。
「……わたくしは、ただ自分の話を聞いて欲しいのです。シリルは、少なくともわたくしの話を聞いてくれるかと思い呼んだのですよ」
「話を?」
「はい。わたくしは、まず実家では誰ともお話をしてくれませんでしたので、自分自身を受け入れてくださる人はいないのだと思っておりました」
ソフィアは、そっとジークハルトに視線を向けた。
「ですが、わたくしのことを旦那様は受け入れてくださいました。一度は、手にした幸せを失うことは怖いと思いその手を離すことも考えましたが……」
ソフィアは、そっと隣に座るジークハルトの手に触れた。
「ですから、シリルは誰かに欠点があるからといって、決して誰かを見下したりいないもののように接しないようにして欲しいのです。……以上です」
ソフィアがそう言うと、シリルは立ち上がり一礼をしてから退室して行った。
彼をその場で見送ったあと、ソフィアは小さく息を吐く。
「旦那様、ご配慮をいただきましてありがとうございます」
「いや、いいんだ。……君は、優しい女性だ。実家を見捨てることなどできなかったのだろう?」
そう言って、ジークハルトはソフィアの髪をそっと掬った。
その左手の薬指にはソフィアと揃いの結婚指輪が嵌められている。
「! だ、旦那様。わ、わたくしはそんな、優しくなど……」
みるみるうちにソフィアの頬は真っ赤に染まり、身体も熱くなっていく。
そういった触れ合いは馴染みがあるはずであったが、それでも彼の言葉を受けて今はドキドキと鼓動が波打った。
「君は愛らしいな。……しばらくここでこうしていたいところだが、今日はこれから君に来てほしい場所があるんだ」
ソフィアはキョトンとして、ジークハルトを見つめた。
「来てほしい場所、ですか?」
「ああ」
ジークハルトはそっとソフィアの手を握り、応接間から屋敷の大広間へと移動した。
すると、扉の前に白のワンピースを身につけた黒髪の四歳の娘のルーシーが立っていた。
ソフィアは、五年前のあの王宮での夜会のあと、約三ヶ月後に教会でジークハルトと共に挙式し、更に一年後に第一子である長女ルーシーを出産している。
また、昨年は第二子である長男スミスを出産していた。
ソフィアは、ルーシーの目線に合わせるようにゆっくりと屈んだ。
「ルーシー、どうかしたのですか?」
「お母さま、サプライズなのです! この日のためにイメージトレーニングをしてきたのです!」
「サプライズですか?」
「はい!」
そしてルーシーはソフィアの手を握り、三人で大広間へと足を踏み入れた。
「奥様、誕生日おめでとうございます!」
目前には、トーマスやテレサ、セバスをはじめとする公爵家の使用人らが皆きちんと壁際にズラリと立ち並んでいる。
ソフィアは唖然としていたが、白のクロスが敷かれた丸テーブルの席に着席している人々を見ると思わず声を上げた。
「皆様、来てくださったのですか⁉︎」
見渡してみると、ジークハルトの姉のアリアの家族、それからジークハルトの父親のポールや商会の主任のオリバーらも来ていた。
他にも、普段からソフィアと親交のある貴婦人らが何人も訪れているようだ。
そして、アリアがスッと立ち上がって、ソフィアの傍に寄った。
「お誕生日おめでとう、ソフィアさん」
「……‼︎ お義姉様、ありがとうございます‼︎」
アリアから、季節の色とりどりの花束を受け取ると、涙が溢れてきて視界がぼやけた。
「ソフィア、これは私からだ。ささやかなものであるが」
そう言って、ジークハルトはソフィアに煌めく石の付いたネックレスを首元につけた。
それはシンプルなデザインのものであるが、天然石を一級の職人が手間暇をかけて磨き上げた品だということが、素人目でも認識することができた。
(だ、旦那様、このネックレスはとてもささやかなものではありません……‼︎)
そう思いながらも、ジークハルトの嬉しそうな笑みを見ているとソフィアの心が温かくなってくる。
「ありがとうございます、旦那様。わたくしはとても幸せ者です」
「いや、俺の方こそ君と結婚することができて幸せだ」
「‼︎」
心臓が飛び跳ねて身体の体温の上昇を感じふと会場内に視線を移すと皆温かい雰囲気で見守っていた。
(! わたくしは今、とても幸せです!)
「皆さん、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。皆さんにお会いすることができてわたくしは幸せです」
そう言って辞儀をすると、会場から温かい拍手が送られた。
ソフィアは幸せはいつか必ず消えると思っていた。だから一層それは手にしない方が幸せなのだとも思っていた。
だが、実際には手にした幸せはきちんと慈しみ大切にすることで、決してなくなることはないのだと実感している。
──なので、わたくしはこの幸せに甘んじず常に自分ができることをしていきたいと思います。
そう心に強く思い、ソフィアはそっとジークハルトの手を握ったのだった。
(了)
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