第44話 幸せな朝
ご覧いただき、ありがとうございます。
翌朝。
ジークハルトの私室のカーテンから柔らかい日差しが差し込み、その日差しを受けてソフィアはゆっくりと目を開いた。
「ん……」
ソフィアは、普段どおりに身体を起こそうとするが、なぜか身体が思うように動かなかった。
ぼんやりと不思議に思っていると、そっと優しい手つきで髪を撫でられたので大きく目を見開いた。
「おはよう、ソフィア」
「────! お、おはようございます……!」
ソフィアの目前には薄く微笑えむジークハルトがおり、彼女の鼓動は瞬く間に高鳴った。
「昨夜は大分疲れていたようだが、大事はないか?」
「さ、昨夜ですか? 疲れていたとは……」
(わ、わたくし、いつの間にか眠ってしまったのでしょうか……。確か昨夜は旦那様と……)
思い出すとたちまち顔が熱くなる。
昨夜は、ジークハルトの私室で彼と会話をしていて、それで……、これまで胸の奥につかえていた想いを吐き出して彼の胸の中で泣いたのだ。
(……あのまま、旦那様の胸をお借りして、いつの間にか眠ってしまったようです……!)
「だ、旦那様。ひょっとして、眠ってしまったわたくしを旦那様が寝台まで運んでくださったのでしょうか」
重くなかっただろうか、とか、手間を取らせてしまって申し訳ない、という気持ちが湧き上がってきて目をギュッと閉じた。
「ああ。一晩胸を貸すと持ちかけたこともあるし、何より俺が君と離れがたく寝台まで移動させたんだ」
「そ、そうだったのですね! 寝台まで運んでいただきましてありがとうございます……!」
そう言って微笑むソフィアの頬を、ジークハルトはそっと壊れ物でも触れるように指で優しく触れる。
「ソフィア。俺の妻になる心の準備はできそうだろうか」
そう言って、ジークハルトはソフィアをギュッと両腕で抱きしめた。
「‼︎」
頭の中が真っ白になるが、以前に二人で訪れたレストランでジークハルトから伝えられた言葉が過った。
『本来の契約期間の終了後も、君には俺の妻として俺のそばにいてほしいんだ』
抱きしめられている現状と相まって、鼓動が瞬く間に高鳴っていく。
(そうです。わたくしは先日に、だ、旦那様から、そ、その、プ、プロポーズを受けたのです……!)
今更過ぎるかもしれないが、ようやくあの時の彼の言葉が自分の心に浸透していくように感じた。
昨夜は、まだ心の準備ができていないと伝えたが、そもそもプロポーズを受けたあの時は、そう言った言葉を受けたり心の準備が整っていないと伝えるという発想自体がなかっただろう。
だが、これまでの様々な出来事を経て、ジークハルトのいうところの「準備」がソフィアの中で確実に整いつつあった。
「あ、あの、旦那様」
「何だろうか」
「その、わたくしはこう言ったことにはトコトン疎いですし、正直なところ臆病者なので積極的にもなれません。……ですが、昨晩お話したとおり、わたくしもこの契約は破棄していただきたいと考えておりますし、何よりもずっと旦那様のお傍にいたいのです。たとえ妻でなくても、あなたのお役に立てるのならどんな形でもよいのです」
ずっと心にしまっていた本音を漏らすと、ソフィアは一筋の涙を溢した。
「ソフィア……」
ジークハルトは、更にギュッとソフィアを強く両腕で抱きしめた。
「ありがとう、ソフィア。もちろん、俺は君には妻以外の立場で傍にいてもらう気はない」
「旦那様……」
それから、ソフィアは感涙し二人はしばらく抱きしめあっていたのだった。
◇◇
その日の朝食。
二人は、普段のように食堂で共に朝食を摂っていた。
ただ、この後ジークハルトは議会に出席するべく、王宮へと向かわなければならないので時間に制約はあるのだが。
テーブルに並べられた、朝食の卵のサンドウィッチと新鮮トマトとリーフのサラダ、野菜スープを二人で摂っていると、ソフィアは何となく気恥ずかしさからジークハルトの顔を見られないでいた。
(わ、わたくしは、先ほどまでだ、旦那様の胸の中に……)
自覚をするとたちまち顔が熱くなり、居ても立っても居られなくなる。
だからか、スープを掬おうとスプーンを握ったのだが、誤ってそれを床に落としてしまった。
すると、すぐに側で控えていた侍女のテレサが新しいスプーンをソフィアに手渡してくれた。
本来であれば、それは同じく側に控えている給仕の仕事であるのだが、なぜか今日は率先してテレサが拾ってくれたのだった。
「奥様、どうぞこちらをお使いくださいませ」
「ありがとうございます」
受け取る際にテレサの顔を見ると、彼女の表情はとても生き生きとしていて、笑顔がいつになく弾けて見えた。
「何かよいことがあったのですか?」
思わずそう訊くと、テレサはより笑顔を輝かせた。
「はい、それはもう。……これからもずっとお仕えいたしますので、改めてよろしくお願いいたします、奥様」
「は、はい! こちらこそ、よろしくおねがいいたします」
そして、食後のお茶に差し掛かると、ジークハルトはコホンと一つ咳払いをし人払いをした。
「ソフィア。俺は、改めて今週末にエリオン男爵家のタウンハウスを訪ねて、君との契約結婚の書類を破棄するつもりだ」
「そうでございますか。……旦那様。わたくしも一緒に参ります」
「……よいのか? 君のご両親と会うことになるのだが」
「はい、構いません。わたくしは家族から目を逸らしてはいけないと思うのです」
「……そうか。ならば共に行こう。君は必ず俺が守る」
「ありがとうございます」
そうして二人は優しく微笑みあった。
だが、ソフィアの家族との対面は二人が思ってもみなかった形で果たされるのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次話もお読みいただけたら幸いです。
あと残り3話です…! 是非、最後までお読みいただけましたら幸いです⸜(*ˊᵕˋ*)⸝
もし、少しでも面白いと思っていただけましたら、ブクマ、スクロール先の広告の下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でのご評価をいただけたら嬉しいです!今後の励みになります!




