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【書籍発売中】1年間お飾り妻のお役目を全力で果たします! 〜冷徹公爵様との契約結婚、無自覚に有能ぶりを発揮したら溺愛されました!?【完結】  作者: 清川和泉
第3章 旦那様の職場は緊張します

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第27話 誰かの好意を受け止められるように

ご覧いただき、ありがとうございます。

一部加筆修正いたしました(4/2)

 ジークハルトは目前で微笑むソフィアを見ていると、心が浮き立つように感じていた。

 

 深夜に、ソフィアとプライベートな空間に二人きりでいる。

 そのシチュエーションを意識すると、更に胸の鼓動が高鳴ってくるようだった。


 ただ、彼はソフィアに対して抱くこの感情を、なんと表現してよいのか分からないでいた。

 とはいえ、これまで他の令嬢らに対して感じたような不快感は全く抱いていないのだが。


 ジークハルトは、他の令嬢らに対して、頭から爪の先まで飾り立てて虚構で塗り固めているように感じていたが、ソフィアに対しては、まったくそういったところは感じられないと思っていた。


「あの、旦那様」

「ああ、なんだろうか」

「明後日に義姉様の招待で魔法商会に訪問することになっているのですが、その……」


 その先を、とても言いづらそうにしている。

 どうやら、ソフィアは人から許可をされた範囲のことや黙認されていることであれば自由にやり遂げるのだが、他人の許可が必要な案件を苦手としているようである。


 というのも、まずその対象の人物の予定や都合が優先であり、彼らが自分に対して時間や労力を割くことはとても申し訳ないことだと思うらしい。


 例外として、自分から率先して女主人の仕事の補佐を願い出た件があるが、あの件はあくまでも一宿一飯の恩があるからとのことだからだし、彼女の「不安定な立場」がそうさせたとも考えられる。


「君が訪問をすることはすでに全職員に通達をしてあるが、同時にあくまで通常業務を行うように指示をしている。君は気負う必要はない」

「そうでございますか……!」


 そう言って笑顔を見せるソフィアを見ていると、ジークハルトの胸がズキリと痛んだ。


(私は母親から愛されたことがない。だから分かる。彼女も、きっとこれまで人から愛されたことがないのだ)


 自分から何かをする分には、何も問題はない。

 ──たとえ、それを受けとめてもらえなくとも。


 ただ、自分が何かをしてもらう側になったら、話は百八十度違ってくる。


 自分たちは誰かに無条件で何もかも受け止めてもらえるという環境で育っていない。

 いや、正確にはそうではない。

 ジークハルトにとって母親はもはや害を為す存在だったが、他の家族や使用人らは決してそうではなかった。


 厳しいが根は優しい父親と、母親から身を守るためなのか常に高みを目指していた姉。

 彼らは、少なくとも無条件で自分のことを受け入れてくれた。


(だが、彼女は違う。……エドワードの報告書に記載されていた実家での彼女の生活は酷いものだった。……彼女は、これからも誰かからの愛を知らないで生きていくのだろうか……)


 そう思うと、更に胸がズキリと痛んだ。


 そもそも、自分は自ら率先してソフィアに対して「愛することはない」などと言ったのではないか。

 それを彼女は傷ついた様子ひとつなく、意気揚々と受け入れた。


 その時点で、ソフィアは他人からの恩恵や愛を受け入れることなど知らず、できない質だったのだ。


(あのときは、男爵から彼女は他人に依存していると聞いていたから「私に期待をするな」という意味を含めて言ったのだが、とんだ愚言だった)


 今すぐにあのときの言葉を撤回しようと思い立つが、同時にそれを行ってどうしようというのかという気持ちも湧き上がる。


(撤回しても意味はないだろう。それよりも、まずは謝罪をすることだ)


 ジークハルトは、ソフィアの瞳を見つめた。


「あっ、あの、旦那様……?」


 誰かにまっすぐに見つめられることに不慣れだからか、ソフィアはものすごい勢いで目を泳がせるが、ジークハルトは目を逸らすことはしなかった。


「……きみがこの屋敷に来てくれて心から嬉しく思う。……加えて、初対面の際や君の能力を測った際の私の態度はあまりにも酷いものだった。心から謝罪する」

「だ、旦那様……‼︎」


 そう言って立ち上がり頭を下げたジークハルトに対して、ソフィアも慌てた様子で立ち上がった。


「そ、そんな、とんでもありません……! 旦那様にはきっと何かのご事情がおありでしたでしょうし、大切な公爵家のお仕事に携わらせていただくにはわたくしには信用がありませんでしたから、試験は当然だったと思います」


 そう言ったあと、ソフィアは小さく息を吐き出してから続けた。


「わたくしも、お屋敷に滞在するかことができとても嬉しく思います! あと十一ヶ月の期間ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」


 ジークハルトは大きく目を見開いた。


「十一ヶ月……」


 そうだ。自分が言い出したのだ。期間限定の契約結婚だと。

 今更ながら、なんて残酷なことを言ってしまったのだと思う。


「……その話だが」

「はい」

「やはりあの話は……」


 本音を言えばなかったことにしたかった。

 契約などという、彼女に対して不誠実なことを続けたくはない。


 だが、今更撤回などできるのだろうか。ソフィアは自分の酷い言葉に対して意気揚々と「お飾り妻を務める」と宣言したのだ。


 ソフィアの精一杯の意志を蔑ろにしてもよいのだろうか。

 そう巡らせると、あることが過った。


『夫婦共同の寝室にソフィアさんを誘いなさい。あなたたちには、それが一番よいように感じるけれど』


 食事会のあと、この居間(パーラー)でアリアと会話をしていた際にそっと耳打ちをされた言葉だ。


 どうもその考えは使用人の間にも広まっているらしく、特に今夜のソフィアから漂う香油の香りは新婚の妻が初夜の際に使用するものではないかと思う。


 補足をすると、夫婦共同の寝室は夫の部屋と妻の部屋のどちらかも行けるようにそれぞれ内扉があるが、先日ソフィアが使用した際にはその内扉は家具で隠して使用することができないようになっていた。


 それは、元々ジークハルトが寝室は分けると宣言したとおり、ソフィアが屋敷に居住する前からトーマスに指示を出してそのようにしてあるのだ。


 ジークハルトは、自分はソフィアに惹かれ始めているのだと改めて思った。

 何しろ、彼女がこの屋敷から一瞬でもいなくなることを考えるだけで、胸が締め付けられて苦しいのだ。


 だが、それをソフィアに伝えるのはまだ時期尚早だ。

 というのも、おそらくソフィアの方が受け入れる態勢が整ってはいないからだ。


 しっかり自分の功績を受け止められるように、誰かの好意を受け止められるように、そんな誰かにとっての当たり前がソフィアもできるようになってくれればよいとジークハルトは強く思った。


「君は充分役目を果たしているので、もし問題がなければ私に報酬を払わせてくれないか?」

「ほ、報酬ですか⁉︎」


 ソフィアは心底驚いたのか、その場で立ち上がった。


「報酬なら毎日美味しいお食事をいただいておりますし、素敵なお部屋にドレスもお借りしております! 充分過ぎるほどすでに受け取っておりますので!」

「それらは当然君が享受するべきものだ。報酬は別に支払う」

「────っ!」


 ソフィアにとってはかなり衝撃が強いことだったのだろう。処理が追いついていないのか目を何度も瞬いている。


「そうだな。……賃金で支払うのもよいが、……ここは私と共に出掛けてもらえないだろうか。その先で考えよう」

「お出掛け、ですか?」


 パチリと一回瞬かせてから、ソフィアは少し間を置いてから頷いた。


「わ、わたくし、実はお出かけという夢のイベントに子供の頃から憧れておりましたのですが、よろしいのでしょうか⁉︎」

「ああ、もちろん」

「……とても嬉しいです……!」


 心から嬉しいのか気持ちよく微笑むソフィアを、ジークハルトはまるで天使のようだと思いしばらく見惚れていたのだった。

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