再出発
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「じゃあ行くよ」
「……ごめんなさいね、力になれなくて」
申し訳無さそうなロロアに対して、オルクスは首を横に振った。
一夜が明け、手短に支度を済ませたオルクスは荷物を背負って最後の挨拶を交わした。
莉緒の能力の殆どが不明瞭の中、長く留まるのは得策ではないだろう。魔王である事を表面上で隠し続けるのは容易いが、万が一を考慮した場合、人が多く集まる街に滞在するという選択肢は排除される。
「俺が決めた事だ。俺は俺の意思で莉緒と行動を共にするだけだし、それにこれが今生の別れでも無いんだから」
「でも……」
「ロロア、湿っぽいのはやめろ」
「お父さん! だって……」
「……ウォルフさん」
「オルクス。お前が無茶をしようってンのを止める権利は俺にはねえ。だが、自分の信念を貫くと決めたお前の面を見りゃあ不安はねえよ」
仕込みの途中らしく、ウォルフは包丁を片手に言葉を続ける。
閑散としたギルドの中に響く声には重みがあり、同時に、オルクスに対する信頼が垣間見えた。
「嬢ちゃん、これから大変だろうが腐らずにな。力になってやれねえのは、すまねえ」
「う、ん……ありがとう、ウォルフさん」
「何かあったらオルクスに頼れ。そいつは俺の弟子であり、プレジールの冒険者であり、俺の自慢の息子だ」
「ウォルフさん……!」
「俺は直接の力にはなれねえが、王都の騎士団に訳アリの人間が居るんだ。そいつを頼れば、少しは打開策が見つかるかも知れねえな」
「騎士団……王都ディノルか」
「丁度、楓矢くんとミリアちゃんも向かっているわ。魔神討伐で今は王都中が慌ただしいの」
「……なるほど。その訳アリの人物とは誰だ?」
「ちょっと待ってな」
ウォルフは奥に引っ込むと、何やら紹介状らしき紙を携え戻って来る。
「リナリーって奴だ。なんでも騎士団の副団長らしいが、随分と厄介事を抱えてるみてえだな。こいつに協力してやれば、多少は便宜は図ってくれるだろう」
「王都の騎士に貸しを作るか……悪くは無いがーーーー」
「世間はどうにもきな臭い話ばかり聞く。ツテを使っておけば後々役にも立つだろうさ」
「……なるほど、違いない」
「達者でな二人とも。どれだけ先になるか分からんが、いつかまた戻ってくる時を楽しみにしてるぜ」
「ああ、必ず戻るさ」
がっしりとウォルフの手を握り、オルクスは新たな旅路への決意を固めた。
魔王としてこの世界に飛ばされた莉緒を救えるのは自分しかいない。ガラス細工の様な少女の器に潜む巨大な影、それを暴走させない方法を探す旅がこれから始まるのだ。




