白拍子の子

前《さきの》太政大臣（たじょうだいじん）平清盛。

頭下ろし、静海入道と申す。世に六波羅（ろくはらの）入道殿（にゅうどうどの）と聞こえ給ふ。

六波羅入道殿の元を辿れば桓武帝の曾孫、高望王が起こしたる高望流平一族である。高望流といえば、高望王の孫相馬小次郎、又の名を平新皇将門の名が聞こえる。この新皇相馬小次郎を母方の縁者鎮守府将軍藤原田原藤田と共に討ち取った平常平太貞盛の血筋がある。貞盛から四男維衡、その子正度、その子正衡、さらにその子である北面の武士平従四位下正盛が軍事貴族として、朝廷に出仕。正盛の嫡子が平刑部卿忠盛。維衡以来の伊勢平氏として初めて殿上人として、内裏に上がることを許される。その死を時の太政大臣の日記に「数国の吏を経、富巨万を累ね、奴僕国に満ち、武威人にすぐ。人となり恭倹、いまだかつて奢侈の行いあらず、時人これを惜しむ」と悼まれる。

さて、その忠盛の家督を継いだのが、平清盛である。筆の至らぬ拙作においては、平清盛改め、六波羅入道とその一門を平家とする。

清盛はその生まれを白河院の落胤とも噂されるが、それはどうであろうか？落胤であろうと、なかろうと平忠盛の嫡子として平家の家督を継いだことに変わりはない。

清盛は、幼名を鬼王丸として生を受け、官職を歴任。ついには仁安2年太政大臣に任官。平家は平家は権勢を極める。

清盛の継室は名を平時子といい、高望王の兄、高棟王の系譜である。高棟王も高望王と同じく平を名乗ったが、この時の当代である平大納言時忠、時子の同腹の弟である。「此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし」との言葉を残した。現代では「平家にあらずんば人にあらず」という慣用句で知られる。この慣用句からもわかるように平家一門は世の中の頂点に君臨した。後世の創作であろうが、平家の内裏の私物化がよく見てとれる。もっとも、清盛は清和源氏棟梁源三位のように信がおけ、優秀な人物には相応の官位官職を与えていたようである。

さて、仁安二年、太政大臣の元には愛妾がいた。白拍子妓王である。白拍子とは男装にて舞う。平家物語にも鳥羽院から島の千歳、和歌の前という二人の白拍子が寵愛を受けたと記述が見られる。

妓王の母刀自、妹妓女共に白拍子であった。妓王とその母妹は平家一門が権勢を欲すままにするにつれ、太政大臣からの援助はあつくなり、屋敷はそこらの中級貴族に勝るとも劣らないものとなったようである。

その屋敷にて妓王はややこを産んだ。されども妓王は所詮は遊女である。ややこを産んでも数日の後、六波羅の屋敷へと足を運んだ。

ややこの傅をしたのは刀自である。刀自には和歌の才はおろか、仮名書きもできない。

ややこは松王丸と名付けられた。

遊女の子であるからして松王丸は清盛をはじめとする平家一門に遠ざけられた。子が遠ざけられようとも妓王は清盛の元へ参るのである。

されども、四兄平知盛は松王丸を哀れに思った。知盛は平家一門では珍しく武の人である。