表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/64

ダンジョンを攻略する為に①

前回のあらすじ

「あの行き遅れを貰ってやった」と言ってた鍛冶屋のおっちゃん(三十路後半)を娘がからかうというほのぼのホームドラマ


「……だあっ、また地震か!」


 スキル【鍛治】を使っていた父さんが道具を放り投げて呻き声を上げた。

 繊細さを要求される仕上げで地震が発生してはたまったもんじゃないんだろう。


「なんか、最近よく揺れるなぁ」


 地下ダンジョンが発見されてから数週間。

 当初はおさまりかけていた地震が、最近は頻度が増した。


「よいしょ、よいしょ……うおおおお! 唸れ俺のマジカルパワー!!」


 ごりごりと薬草とキノコと樹の皮をすりつぶして魔力を注ぎ込む。

 最後にスライム粘液で濃度を調整すればポーションの完成だ。


「ふっ、できたぜ。会心の出来だ……!」


 俺の作ったポーションが飛ぶように売れるし、リカルド支部長から解毒用のポーションを開発して欲しいと依頼されるぐらいだ。

 王都からの供給が間に合わないレベルで需要が高まっているらしい。

 俺にも出来ることはないかと考え、天才超絶美少女の俺はついに閃いたのだ。

 『そもそも、毒にならなければ解毒用ポーションなんて必要ない』

 幸いにも、ここパイポカ村では免疫機能を向上させる素材は簡単に手に入る。


 冒険者とハリベルに集めてもらったワイバーンの毒液と罠に掛かったネズミで実験を繰り返したところ、なんとか免疫機能を向上させるポーションを完成させたのだ。


 ルチアはワイバーンの血液を放置して獲得できる血の上澄み……血清を使えばいいと言っていた。

 しかし、ワイバーンは内包する魔力が多すぎる。

 僅か一滴でも体内に摂取すれば、激しい目眩に倒れること間違いなしだ。


「それじゃあ、父さん。俺、冒険者ギルドに行ってくるわ」


 完成したポーションを瓶に詰め、レシピを鞄に入れて父さんに一声かける。

 父さんは片手を上げて、作業に戻っていった。


「あれ、カインじゃない。これから買い物?」

「んーん、前に話してたポーションが完成したからリカルド支部長に報告しにいくところなんだ」


 仮設の冒険者ギルドに向かっていると、途中でエルザとばったり出くわした。

 ちょうど狩りの帰りなのだろう、槍から数匹の魔物をさげて運んでいた。

 ほっぺについている血がなんともワイルドでかっこいい。


「エルザ、ちょっと屈んで」

「ん? 何かついてる?」

「ちょっと汚れがな……これでよし」


 ほっぺの血をハンカチで拭いおとしてやって、それから反対の頰にちゅっとキスをした。

 エルザは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして慌てて周囲を確認していた。

 二人きりの時はぐいぐい来るのに、こういう不意打ちには弱いのだ。可愛い。


「エルザも冒険者ギルドに行くんだろ? 一緒に行こうぜ」

「うん!」


 あれからエルザとはたびたび村でデートするようになった。

 ダンジョンが見つかって以降は住宅しかなかった村に施設が増えて、歩くだけでも新しい村の顔を見つけて新鮮な気持ちになるのだ。


 仮設のテントが設けられた冒険者ギルドに到着する。

 そのテントの前にいた職員に声をかけると、すぐに一番大きなテントに案内された。


「リカルド支部長、頼まれていたものを持ってきました!」

「あぁ、お前らか……」


 冒険者ギルドに行くと、リカルドが目の下に隈を作って疲れた顔をしていた。

 目の前の机には軽く俺の身長を超える書類の山。

 噂によるとこの村に左遷されたらしいが、そんなリカルドに惹かれてこの村に商人や冒険者がやって来るのだから有難い限りだ。


「これが噂の毒状態を未然に防ぐポーションか。材料は、これなら比較的確保しやすいな」


 俺から受け取ったレシピを見つめて、早くも量産体制を整えるリカルド。

 本人はこういう事務仕事が嫌いと言っていたけど、俺が思うにリカルドほど状況把握が優れている人はいないと思う。


「ありがとう、カイン。報酬は後ほど口座に振り込んでおこう」

「ありがとうございます」


 既に前金だけで一ヶ月は暮らしていけるのだが、レシピを譲った代金をありがたく受け取っておくことにした。

 何かあった時の為に貯蓄しておこう。


「エルザは魔物の買取か。いつもすまないな」

「いえ、このぐらいでしか村に貢献できませんから」


 魔物の売却をしているなか、俺はふと気になってリカルドに尋ねた。

 売却の査定を待つ間、暇になったエルザが俺の横に立つ。


「最近の調子はどうですか? 俺たちで力になれることがあるなら手伝いますよ」

「そう言ってくれるとありがたい。実はな……」


 そう言って、リカルドは俺たちが知らなかったダンジョンの問題について語り始めた。


 一部の冒険者たちが、素材の独占を狙って他の冒険者に対して危険な行為ばかり繰り返しているらしい。

 リカルドの命令でハリベルたちが調査しているが、当然ながらその間はダンジョンの攻略がストップしてしまう。


「アンタらのお陰でどうにかこうにかダンジョンに集中できている状態だが、探索は浅い層どまりだ。せめて、探索特化のパーティーを地下に送れたらいいんだが……」


 リカルドが言葉を切って、テントに吊るされた地図を見る。

 簡単な縮尺で描かれたもので、ダンジョン『井戸底の魔窟』と記されていた。

 下の層、つまり深く潜れば潜るほど地図は曖昧で情報が欠けている。


「モンスターハウスですか」


 五つめの階層には『ワイバーンの巣窟』があった。


「討伐しても討伐してもキリがない。調査報告書によればここにある宝玉らしきものから召喚されているらしいが……」


 『ワイバーンの巣窟』は縦二つ、横三つの計六つの部屋で構成された空間だった。

 リカルドが指し示す場所は撤退するにも進むにも最も離れている。


「ワイバーンを無視して突き進むなら最短距離で二つの部屋を走り抜ければいいが、宝玉を壊してとなると途端に難易度があがっちまう」

「召喚なら、依代の宝玉を破壊すれば消滅するはずでは?」


 召喚と聞いて、王都襲撃の際に戦ったハミルトンを思い出す。

 召喚された魔物は召喚したものから魔力を分けてもらい、実体化するのだ。

 その為、生命活動も魔力で補う。

 魔力を失った場合、実体を保てずに消滅してしまうのだ。


「これはあくまで冒険者からの噂話だが、宝玉を壊されても魔物によっては消滅しないらしい。消滅するタイミングも魔物によって違うという目撃報告もある」

「なるほど」

「それに、召喚された魔物を倒しても素材を落とさない。はっきりと言えば、冒険者のモチベーションは最低に近い」


 冒険者は金と名誉の為にダンジョンに潜って魔物と戦う。

 ワイバーンという厄介なだけでドラゴンに劣る魔物、それも金にならない相手と積極的に戦おうとする命知らずはいないだろう。


「そんなわけで、トレイン行為が横行している。ワイバーンを無視して強行突破すれば挟み撃ちになるし、対処すれば毒を喰らうリスクもあがる……解毒ポーションを悪戯に消費してるだけだな」


 倒しても旨味のないワイバーンを誘導して他の冒険者になすりつけ、その間に素材を落とす魔物を狩る。

 魔物を引き連れて走る光景が貨物列車に似ていることから、冒険者の間では『トレイン行為』と呼ばれ嫌厭されてきた。

 俺がまだハリベルたちと旅をしていた頃、何度か勇者パーティーということで魔物をなすりつけられたことがある。

 ボロボロになるまで追い詰められた苦い過去が蘇って、俺はついつい顔が強張った。


「幸いにも、五層めまでの罠は全て位置を把握して可能な限り解除してある。禍根があるのは承知だが、どうか勇者ハリベルたちと一緒に『ワイバーンの巣窟』を一掃してくれ」

「出来れば俺たちも協力したいのですが、ランクが……」


 俺とエルザの冒険者ランクはC、ダンジョンに突入するには実力不足とされるランク帯だ。


「これまでの二人の功績を鑑みてBに特進する、と言いたいところだが。生憎と今の俺にはそんな権限はない。だから、ここは臨時支部長としての権限を行使する!」


 ババン、と音がしそうなほどキメ顔をしてリカルドは宣言した。

感想・読了ツイート・その他もろもろありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ