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かんこん働くパイポカ鍛冶屋!

前回のあらすじ

 村に勇者やってきたけど、なんか成長してたわ


 冒険者たちが本格的にダンジョンを攻略するようになって数日。

 昼も夜も鍛冶場は炎に照らされて煌々としていた。


「ふはははっ! やはり、この俺の作る剣こそが至上なのだ!!」


 高笑いをしながら、次々と冒険者から預かった剣を修復していく父さん。


 ダンジョン内の魔物はどれも硬い鱗に覆われているため、武器の消耗が激しいらしい。

 ハリベルたちの依頼を引き受けてから、父さんは他の冒険者たちの武器や防具を直す仕事に励んでいた。


 売り上げの一部を母さんに送っているが、母さんの方から『食費代』としてお金が返ってくることに怒っていた。

 父さんも父さんなりに母さんのことを気遣っているようだ。


「おはよう、鍛冶のおっちゃん! 調子はどうだ?」

「おお、ハリベルじゃないか!」


 煤に塗れた顔を綻ばせて、父さんが振り返る。

 なにやら二人はすっかり打ち解けて仲良くなっていた。

 偶に『酒は蜂蜜酒に限る!』とデロデロになるまで酔っ払って軒先で一緒に転がっていることを除けば、平和な毎日だった。


 俺は薬草を採取して低位の回復ポーションを売って小銭を稼いでいる。

 エルザは村の近くに現れるウルフを狩っているらしい。


「カインもおはよう!」

「ん、おはよ……ふぁあ……」


 噛み殺しきれない欠伸に目を潤ませていると、ハリベルは苦笑しながら懐から金貨を取り出して代金を机に置いていく。


「お前も大変だな、カイン。照明やら火加減の調整やらだけじゃなくてポーションまで作ってるんだろ?」

「ダンジョンに突入した冒険者と比べればマシだろ。こっちは怪我の心配もないからな」


 ポイパカ村では、王都から金の匂いを嗅ぎつけた商人が土地を購入しては色んなお店を立てようと画策しているらしい。

 胃を痛めた村長が俺に痛み止めを発注してくるぐらいなので、心労が凄いのだろう。


「ワイバーン地帯さえ片づけば番人を倒すだけなんだがな……」


 伸びをしながら愚痴を溢すハリベル。


 冒険者からの話を要約すれば、三層ほどがワイバーンの巣窟になっていて苦戦を強いられている。

 強行突破したとして、囲まれる危険性もあるため今は頭数を減らしているが、一向に密度が変わらないらしい。


「モンスターハウスってやつか。道のりは長そうだな」


 ハリベルの話に相槌をうちながら、注文を受けていた魔物除けの聖水が入った瓶を渡す。


 ワイバーンを突破したとしても、次は番人が待ち受けている。

 群を抜いて強く、既存の魔物よりも狡猾で残忍。

 迂闊に挑めば、返り討ちにあって全滅する可能性もある。


「もしかしたら、他の冒険者と合同でダンジョンに挑むことになるだろうが……気乗りしねぇなあ!!」

「そうなのか? まあ、実力差とか連帯の手間を考えれば嫌がるのも分かるけど」

「や、それ以前の問題だわ」


 ハリベルは深くため息を吐く。

 いつも強気な姿から想像もできないような、弱気な顔をしていた。


「民度だよ、民度。アイツら、平気で他の冒険者に魔物を擦りつけようとしやがる」

「そりゃ酷いな。この前、重傷の冒険者が運び出されているのを見かけたがそれか?」

「ああ、下層の魔物を危うく外に出すところだったらしいぜ」


 ダンジョンに潜った冒険者たちが度々そういう不満や噂をしているのを聞いたことがある。

 父さんに預けられるものも、不意打ちを食らったような傷がついた鎧や無理な体勢でぽっきり折れた剣が多い。


「リカルド支部長も対応に頭を悩ませてるとかなんとか……まあ、俺たちはダンジョンに潜るだけなんだけどな」

「はえー、がんばれー。いってらっしゃい」


 労いの意味も込めて送り出してやろうと声をかけてやると、ハリベルは俺の顔をジッと見てからまた深いため息をついた。


「顔は好みなんだけどなあ……中身がなあ、カインだもんなあ」

「気色悪いことを言わないでくれ。俺はエルザ一筋なんだ」


 ムッとしたので杖でハリベルをポコポコ叩くと、ハリベルは涼しそうな顔で「効かないなあ!」と笑っていた。

 つくづくムカつく野郎だぜ。


 そんな感じでふざけていると、狩りから戻ってきたエルザが足早に歩いて鍛冶場にやって来た。


「あれ、カインとハリベルが一緒にいるなんて珍しいね」

「うおっ!? エルザか、カインとはちょっと挨拶してただけだ。だからな、睨むのをやめろって!」


 どうやら、ハリベルはエルザのことが苦手らしい。

 用事を思い出したとかなんとか言って、すぐに逃げ出してしまった。


「大丈夫だった、カイン? 虐められてない?」

「ちょっと気色悪いこと言ってきたけど大丈夫だぜ」

「やっぱりアイツ、シメる必要がありそうね」


 今にもハリベルを追いかけそうなエルザの裾を引っ張って家の方を指差す。

 折角、エルザが暇そうなのだからいちゃつきたい。


「まあまあ、それよりお昼ご飯作ったんだ。良かったら食べていってくれ」

「いいの? じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」


 父さんの方はまだ仕事が終わっていないようなので、一声だけかけてからエルザを連れて家に戻った。

 こっそりガッツポーズをしながら、俺は昼食の準備を進めたのだった。

ちなみに、カインの父さんと母さんは仕送りとして貰ったお金を「しょうがない、使う気もしないしカインのために貯金しとくか」と箪笥の奥にぶちこんでます。似たもの同士!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者達となんだかんだ上手くいってるみたいで安心しました。
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