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収奪の魔王 ~俺だけレベルアップする最強スキルを手に入れたので、クソッタレな世界を滅ぼすことにした~  作者: シンギョウ ガク


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第21話 新たなステージ

 意識が戻り、重い瞼を押し上げると、そこは切り出された岩でできた石造りの壁と、金属の格子がはめ込まれた部屋だった。



 壁に掛けられた魔法の明かりで、かろうじて最低限の明るさは保たれているものの、薄暗い。



 どうやら、俺は石でできた寝床の上に寝かされていたようだ。



 全身が強張り、特に背中と腰の痛みは酷い。



 ここはどこだ? 俺は……死んだのか? ダークストーカーを倒してからの記憶がない……。



 自分で勝手にこんな場所に来たとは思えないし、殺すつもりで襲ってきていた魔物が、気絶した俺をあの洞窟から運ぶとは思えない。



 そう思うと、自己再生していたが、血が足らずに死んだというのが合理的な判断だと思うが……。



 周囲を見回すと、自分がいる部屋と同じような造りの部屋がいくつか見えた。



 その様子を見て思い浮かんだのは、牢獄だ。



 ないと思っていたが……。もしかしたら、魔物が、気絶した俺を殺さずに牢獄に捕らえたという線も考えられるか……。



 状況を把握しようと、石でできた寝床の上から起き上がろうとしたが、全身の倦怠感に襲われ、よろけてしまう。



 どうやら、まだまともに動けないようだ。



 自分がなぜこうなっているのか、思考がまとまらない。



 寝たままいろいろと考えていたら、カツカツと誰かが歩いてくる音が響いてきた。



 敵か? 今、動くのは厳しい……。魔力は回復してるみたいだが……。やれるか?



 鎧こそ脱がされているものの、使っていたものはそのまま牢獄内に置かれているし、回帰の短剣や火球の短杖はベルトに差されたままだった。



 火球の短杖は魔法が込められてないし、短剣か。



 近づいてくる足音に耳を澄まし、眠ったフリを続ける。



 足音が俺の部屋の前で止まった。



「目が覚めているのは分かっています。寝たふりは不要」



 ちっ、バレてるのか。だったら――。



 回帰の短剣に手をかけ、声の主に向けて投擲した。



 放たれた回帰の短剣は、金属の格子をすり抜けることなく跳ね返り、自分の手元に戻ってきた。



「無駄な……」



 そうつぶやいたのは、巨大な黒い角が頭部から生え、燃えるような金髪と吸い込まれそうな碧眼を持つ、異形の女だった。



 その姿はまさしく魔人と呼ばれる存在で、警戒の色を隠そうともせず、こちらを睨みつけている。



「無駄かどうか、やってみなきゃ分からないだろ?」



 石の寝床から起き上がろうと力を込めるが、やはり上手く力が入らない。



 なんとか身体を持ち上げ、ふらつく足取りで女に近づくと淡い光を帯びる金属の格子に触れた。



 金属の格子に手を当て、力を込めてみる。しかし、びくともしない。



 それどころか、痺れるような感覚が手に走った。



「くっ!」



「この牢獄の部屋は、最上級の魔法でも、強力な物理攻撃でも壊れないように作ってある。壊そうと思うのは、無駄なことです。転移魔法もこの牢獄では発動しません。それに金属の格子は触れ続けると命を失います」



 魔人の女の言葉を聞き、俺は金属の格子から手を放した。



 最後に倒したシャドウストーカーから奪ったはずの転移も効果がないだと……。つまり、逃げ出すのは不可能だって言いたいわけか。



「お前が、俺をここに連れて来たのか?」



「答える義務はありません」



 冷たく、機械的な彼女の声が牢獄内に響く。



「これからは、ここで魔物と戦うように」



 魔人の女が指を鳴らすと、目の前に映像が浮かび上がる。



 映し出された映像では、石造りの円形のコロシアムっぽい施設で、魔物同士が戦ってる。



「闘技場は、この牢獄の上にあります。そこで、死ぬまで戦うのが、貴方の役目となりました」



「闘技場で死ぬまで戦え……だと」



 彼女の言葉に、状況が徐々に飲み込めてきた。



 この闘技場で戦わせるため、あの洞窟から、この牢獄へ連れて来られたわけか。



「断ることは?」



「できるわけがない。戦いは強制的に実施されるのです。戦わねば死ぬだけの話」



 魔人の女は警戒を解くことなく、冷たい声でしゃべり続ける。



「本来なら、殺しておくべきと私は思ってますが、成長を見たいと言われる方の温情でここに居るのです。感謝しなさい」



「ヴィヴィ、それくらいでよい」



 聞き覚えのある声がしたと思うと、ヴィヴィと呼ばれた魔人の女が、急に態度を翻し、膝を突いて頭を下げた。



 牢獄の奥から誰かが歩く音がする。



 魔法の明かりが照らし出す影は大きく、男のように見えた。



「お前は――!」



 目の前に現れたのは、あの忌まわしい記憶を呼び起こす、悪夢の化身。魔人ヴィネだった。



「お前の戦い。楽しませてもらっていたぞ。雑魚と思ったが案外やるではないか」



 ヴィネはゆっくりとこちらに歩み寄る。



 その顔には、底意地の悪い笑みが浮かんでいた。



 手足を踏み潰され、自ら殺す価値もないやつだとして、あの洞窟に俺を飛ばしたやつが目の前に現れた。



 あの時の恐怖を感じて怯えていた記憶が鮮明に蘇る。



 その記憶を思い出すだけで、腹の底が煮えくりかえるくらい、自分への怒りと恥ずかしさを感じた。



 俺はあの時、本当にどうしようもないくらいクソみたいな存在でしかなかった。



 圧倒的な強さを持つヴィネから、逃げ出したくてしょうがないと思い、震えて泣きわめいていたクソ雑魚だ。



 しかし、今の俺は違う。



 魔人ヴィネの姿を見ても、あの時のような底知れない恐怖は感じなかった。



 むしろ、魔人ヴィネすらも自らの力で倒して、その力を奪い取りたいと願っている自分がいた。



「あの洞窟に、俺をぶちこんでくれたことは感謝してやるよ」



 ヴィネは俺の目の前で足を止め、その紅い瞳でじっと見つめてくる。



「あの時は腐った負け犬の眼だったが、今ではギラギラと力を求めるいい眼だ……。実に面白い」



 ヴィネはそう言い、大きな笑い声を上げた。



 あの時の俺なら、その嘲笑に打ちのめされていたかもしれない。だが、今の俺は違う。



 こっちを見据えるヴィネの目を真っ直ぐに見返し、静かに、しかし力強く言い放った。



「いずれ、お前も食ってやるから覚悟しとけ」



 俺の言葉に、ヴィネの笑いが止まった。一瞬、驚愕の表情を浮かべたが、すぐにいつもの嘲笑に戻った。



「調子に乗るな。お前のような虫けらが、この我を食うだと? あり得ぬわ! せいぜい、我が部下の鍛錬のため、その命を使え」



 ヴィネはそう吐き捨てると、ヴィヴィに何かを指示した。



 ヴィヴィは無言で頷き、指を鳴らすと、ゴリゴリという音とともに部屋がせり上がり始め、天井が開いていく。



 天井が開かれた先は、薄暗く広大な空間へと繋がっていた。



 夜目スキルのおかげで薄暗い場所も見通せる。見えてきたのは闘技場の客席らしい。



 部屋は、なおもせり上がり、大きな振動があったかと思うと、そこで止まった。



「そういうことかよ……。俺のいる部屋は、牢獄兼控室ってわけかよ」



 目の前にあった淡い光を帯びた金属製の格子が消え去る。



「戦わなければ死ぬってあの魔人の女の言葉は、そう言う意味だったってことだな」



 俺は収納スキルを発動させ、収納しておいた新しい鉄の鎧を取り出し、着込むと、部屋に置いてあった鉄の大剣を担ぎ、闘技場へと足を踏み出した。



 ただ、体調は未だに悪いままで、足取りは重く、体は思うように動かない。



 けど、生き残るには戦って敵を倒すしかねぇ。



 それを続ければ、きっと収奪スキルの力で、ヴィネも凌駕する力を得られるはずだ。



 どんな手を使ってでも、この場所で、勝ち抜いて、生き残り続けてやる。



「ヴィヴィとか言ったな。俺をモルモットにした礼は絶対にさせてもらうからな。覚えておけ」



 いつの間にか客席に姿を現していたヴィヴィに向かい悪態をつく。



 魔人ヴィヴィは、返答はせず複雑な表情で俺を見つめていた。その瞳には、警戒、侮蔑、そして……微かな恐怖の色が混ざっているように思える。



 返答しないヴィヴィのことを意識の外に追い出し、闘技場の中央まで歩を進める。



 周囲を見渡すと、無数の傷跡が刻まれた壁、血の匂いが染み付いた地面が視界に飛び込んでくる。



 ここは弱肉強食の世界。弱者は喰われ、強者だけが生き残る場所。



 両手で頬を軽くはたくと気合を入れた。



 かつての俺は、まさに弱者だった。



 探索者になる前からずっと弱者であり続け、奪われ続けてきた。屈辱を味わい、絶望の淵に何度も突き落とされた。



 しかし、今の俺は違う。喰われる側じゃなく、喰う側だ!



 この闘技場にいる全ての魔物を喰らいつくし、力を手に入れ、魔人どもすらも喰う!



 俺の世界への復讐は、ここから始まるんだ!



 俺は深呼吸をすると_、静かに目を閉じた。体内の魔力を探り、微かに残る力を集める。



 この場所で生き残るために。



 再び目を開けると、大剣を構えた。



「さぁ、来やがれ! 俺の餌ども!」



 俺の声に呼応するかのように、視線の奥に部屋がせり上がってくるのが見えた。



 駆動音がやむと、鉄格子が外れる音がした。


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