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収奪の魔王 ~俺だけレベルアップする最強スキルを手に入れたので、クソッタレな世界を滅ぼすことにした~  作者: シンギョウ ガク


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Side:瀧野愛菜 過去と未来


 Side:瀧野愛菜



 かつては地下を走っていたはずの電車が横たわるダンジョン深層階。



 線路があったであろう地面から、突き出した巨大な水晶が発する淡い光が、周囲の壁を幻想的に照らし出していた。



 その一角に三人の探索者が床に座り込んで焚火で暖を取りながら、休息をしていた。



 愛菜は、傍らの岩に腰を下ろして、水筒から水を飲み、喉を潤している。



 立華は、大柄に手を添えたまま、剣を地面に置き、静かに周囲を見渡し、清水は火の番の担当だった。



「ここで昔は電車が走ってたなんて信じられる? あたしと清水の年代だと覚えてるけど。愛菜の歳だと、もうアレだったよね?」



混淆ノ刻(こんこうのとき)が起きた年に生まれた世代です。ファーストインパクト世代とか、混淆世代とか言われます」



「愛菜の世代から、やたらと異能と言われるスキルが、強い子が増えたからね」



「異世界が地下にあるのが当たり前の世代が瀧野たちだしな。私たちは、なかった時を知ってるオールド世代だ。年々、若く強力な力を持つ探索者が増え、強力な魔法を操れる者も出て来て肩身が狭くなってる」



「清水さんの魔力タンクは、今でも希少なスキルですし、立華の怪力もとても珍しいスキルのはず」



「そうだけどね。あんたの剣の極意と比べたらさー。それ、チートよ。チート。異能の力にしても規格外すぎるでしょ」



「身体能力強化、動体視力向上、瞬発力向上、刃の付いたものであれば、致命的な一撃を繰り出せる確率があがり、回避能力も向上。って聞かされた時には、さすがに私も疑ったが……」



 愛菜も清水も、立華とパーティーを組んでダンジョンに潜るようになって、数日しか経っていない。



 しかし、幾度も魔物との戦いを重ねたことで、お互いの実力を認め合い、同じ探索者であることもあって波長が合うようで、雑談が弾んでいる。



 雑談をかわす三人は、もう何年も同じパーティーで戦ってきているような雰囲気だった。



「結果、探索者歴3年目、若干18歳で最高のSランク探索者、魔物討伐数が数千体、ついた通り名が蒼き光の剣聖様だもんねー」



「魔人ゼリエの遺骸を利用した、その蒼光剣(そうこうけん)も、瀧野の手によって多くの魔物を倒す武器になってるからな。私も制作には関与させてもらったが……。現時点で国内最強の武器であることは間違いない」



「アトラス技研製で国内最強の武器って、マジ?」



「立華、アトラス技研はもうないぞ。今は改組されて、探索者ギルドの武具製造部だ。アトラスが解散して探索者ギルドに名称が変わり八年経ったぞ」



「そっか、そっか。ごめん、癖。癖。アトラス所属の時の癖が、探索者になっても抜けないの。言い間違えくらい許して」



 清水と立華の話に愛菜は首を傾げると、質問をした。



「アトラス技研ってなんです?」



「あー、愛菜の世代だと、A.T.L.A.S.(アトラス)(Advanced Tactical Legion Against Supernatural)。今の探索者ギルドが、公の組織じゃなくて、超常現象に対抗する先進戦術部隊として、世界各国の合意で秘密裏に運用されて魔物退治してたこと知らない世代か」



「うっすら噂話程度には、聞いたことはありますけど」



「30歳の私や、20代後半の立華は探索者とは呼ばれず、異能者って言われてたしな。異能者が集められて戦闘訓練を受け、地下から溢れ出した魔物討伐に動員されてた。その異能者たちの管理運営をしてたのがアトラスという組織だったということさ。アトラス技研は魔物の遺骸を利用して武具を作ってた専門部署だ」



「そんな話は、探索者ギルドでされてませんよね? 私もネットの真偽不明の噂話でしか知らないし」



「まあね。元々非公式の組織だったし、名称変更がされた理由も理由だしね。でも、今は世界各国から公認された公の機関ってわけ」



「立華の言う通りだ。昔はどうであれ、今の私たちは国家に認められ、公に資格を得て、地下迷宮に巣くう魔物退治を生業にしてる。最近は探索者も増え、魔物が外に溢れ出すこともほとんどなくなり、混淆ノ刻(こんこうのとき)当初の混乱を思えばだいぶマシになった」



「でも、まぁ、未だに地下は、魔人たちの領域になってるけどね。あいつらを殺さない限り、魔物はずっと溢れてくる」



「だからこそ、探索者の担う使命は大きい。私たちが敗れれば、地上に魔物が溢れ出してしまう。そうなれば、異能の力を持たず、平穏な生活を送っている者たちの多くが魔物の犠牲になってしまう。私たちは負けられないし、簡単に命を失うわけにもいかないのだ」



「簡単に命を失うわけにはか……」



 清水の言葉に、愛菜は中央に小さな青い石が埋め込まれている古びた銀色のペンダントを取り出して、中を除く。



 中には、同じ孤児院で育った戎斗が一緒に撮った唯一の写真が、切り抜かれてはめ込まれていた。



 たった一枚。戎斗と一緒に撮ったのはその一枚しかない。



 写真が一枚しかないのは、愛菜たちが育った孤児院は、お世辞にも養育環境がいいとは言えない場所だったからだ。



 大災害とも言える混淆ノ刻(こんこうのとき)が発生し、世の中の世情が安定せず、福祉に金を回すよりか、災害復興に予算が回され、孤児院の会計は火の車だった。



 予算が限られているため、職員のやる気も低く、子供が荒れても無視して介入せず、義務教育が終わると、無言の追い出しが始まる孤児院とは名ばかりの収容施設。



 それが愛菜たちの居た場所だった。



 清水は写真を見つめている愛菜に声をかけられず、静寂を破ったのは、立華だった。



 愛菜のペンダントの中の写真を覗き込んできた。



「へぇ、ちょっと生意気そうだけど、いい男だね」



「おい、立華」



「大丈夫です。清水さん。探索中は泣かないって決めてるので。戎斗だったら、そう言うと思うし」



 愛菜は首から下げたペンダントをそっと握りしめた。



「それって彼からもらったやつ?」



「はい、母親の形見らしいです。物心つくか、つかないかの時に生き別れたらしくって、これが唯一の形見だって言ってました」



「へぇ、すごい大事なものを愛菜にくれたんだ」



「はい、大事なものです。何にもない私の唯一の宝物です。彼の形見にも――」



 立華は突然、ペンダントを見ていた愛菜をギュッと抱きしめた。



「所沢ダンジョンの件は、清水から聞いた。愛菜は悪くない。悪いのは魔人ヴィネだよ。うん、魔人ヴィネが悪いんだ」



「でも戎斗は、私のせいで死んだんです。私の弱さのせいで……。魔人ヴィネに対し、私は何もできなかった。助けを求める彼の手を掴めなかったんです」



 言葉を詰まらせ、俯く愛菜の肩が微かに震えた。



「瀧野……」



 現場に立ち会って清水は言葉を詰まらせる。その時の光景が、鮮明に蘇ったからだ。



 無力な自分、そして、大切な幼馴染を見捨てざる得なかった愛菜の絶望。



 それを思い出した清水は、苦い表情を浮かべた。



「愛菜、さっき探索中は泣かないって言ったじゃん」



「な、泣いてませんよ。泣いてません!」



 慌てて目じりを擦る愛菜を、立華はさらにきつく抱きしめた。それは、慰めというよりも、共感を示す行為だった。



「魔人が悪いんだ。魔人が。あたしも魔人にいっぱい仲間を殺された。だから、この命が尽きるまでやつらを倒し続けるつもりさ。それが散っていった仲間たちへの手向けだしね。強くなろうね。愛菜。もっともっとさ。魔人なんか一撃で倒せるくらいまで」



「はい、もっともっと強くなりましょう……。誰にも負けないくらいに」



 愛菜の言葉には、悲しみと、そして強い決意に満ちていた。その瞳には、復讐の炎が静かに燃えている。



 二人は、同じ悲しみを背負っていた。



 魔人によって大切な人を失い、魔人への復讐を誓う。その共通の感情が、より強く二人を結びつけた。



 同じように苦しみ、同じように怒り、同じように復讐を誓う者がいる。その事実に、愛菜は僅かながら安堵を感じていた。



 そんな二人を清水は静かに見つめていた。



 複雑な思いが胸に去来する。



 所沢の出来事は、彼にとっても深い傷跡を残した。



 もっとうまく立ち回っていれば、あるいは戎斗を助けられたのでは何度も夢でうなされる。



 だが、助けられなかった現実は変えられない。



 だから、今は、この二人を支えることが、自分の役割だと感じている。



「休憩は終わりにしよう。分かっていると思うが、お客さんが来たようだ」



「はい、分かってますよ。清水さん」



「ああ、分かってるよ」


 

 魔物の接近に気付いた三人の動きは素早かった。



「行きます!」



「援護するよ! 清水」



「任せろ」



 先頭を駆けるのは、瀧野愛菜。以前は長かったが、今は短く切り揃えられた黒髪が、風を受けて揺れている。



 彼女の瞳は、すでに敵を見据え、獲物を定める猛禽のようだった。



 その身に纏う軽装の鎧は、彼女の持つ俊敏性を最大限に引き出すための選択だった。



 隣には、大剣を背負った橘立華が進む。長身で、鍛え上げられた肉体は、大剣の重みに微塵も揺るがない。



 先ほどまでとは、打って変わり、まるで研ぎ澄まされた刃を秘めた刀のような気迫を込め、魔物の姿を探っている。



 少し遅れて、魔法使いの清水は、いつでも援護ができるよう二人の動きに気を配り進んでいく。



 整った顔立ちではあるが、魔法の発動時のみ、その瞳に青白い光が宿る。



 三人は、姿を現した魔物たちに向かって、見事に連携した攻撃を浴びせていく。



 愛菜のスピード、立華のパワー、そして清水の魔法。三者の特性が絶妙に噛み合い、深層階の魔物たちを次々と打ち倒していった。



 渋谷ダンジョンの深層階の魔物も三人の前には、赤子の手を捻るように倒されていく。



 あっという間に退治された。



 襲ってきた魔物を倒しきったことを確認した清水は、意を決したように言う。



「先へ進もう。私たちの目的は、渋谷ダンジョンの最深部へ到達し魔人を倒すこと。そして……魔人ヴィネに復讐を果たすことだ」



 その言葉に、愛菜と立華は頷いた。それぞれの瞳に、強い光が宿る。



 三人は、再び歩き出した。それぞれの過去を背負い、それぞれの目的のために。



 渋谷ダンジョンの深層階での彼らの戦いは、まだ終わらない。



 三人の足音だけが、静かなダンジョンに響き渡る。


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