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黒いネコの友達  作者: 遠宮 にけ ❤️ nilce
二章 身近で、なんでも知っていると思っていたのに

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27 トラブル <紹介:遠山凛花>

挿絵(By みてみん)

<27話あらすじ>

さとしたち清水中との練習は終わった。

いつの間にか姿を消していた百瀬は解散の時間になっても現れず、ひとまず彼の荷物を持って体育館を出る南朋と虎之助。

心配する南朋たちの元に、小田から「深町が川に入り、百瀬が連れ戻した」という報せがもたらされる。

深町は「高橋さんが私の靴を投げたせいだ」と言いはるが……。

挿絵(By みてみん)

 俺以外のベンチメンバーが全員一度は出場し、練習試合は終了した。

 二度目の出場でさとしが任されたのはパワーフォワードだった。

 決して他人を無視できないポジション。

 人と正面からぶつかり合う経験を期待しての配置だったのだろう。


 一般に器用なことは長所とされるが、さとしに関してはそれが仇になった。

 正面から向き合わずとも、小手先の器用さでやり過ごしてしまえるからだ。

 それが彼のスタイルなのだといえば聞こえはいいが、俺にはのらりくらりと逃げているようにしか見えなかった。

 

 試合終了の挨拶の後、さとしはすぐにコートを離れた。

 さっきまで百瀬がいた扉から外を見まわし、靴箱のある出入り口のほうへ向かい、再び体育館へ戻ってくる。


「何フラフラしてんだよ、さとし。みんな掃除してるぞ」


 さとしは俺の注意をスルーし、心ここにあらずな顔で尋ねる。


「ももちゃん知らない? 靴箱のところで小田さんと、遠山さんに会ったけど見てないって。トイレにもいないし」

「その辺にいるだろ。荷物もあるし」


 平然と言ってはみたものの、てっきり百瀬はトイレにいるものと思い込んでいたので内心では焦っていた。

 モップを走らせながらこっそり靴箱を確認するが、靴はちゃんと残っている。


 解散の号令がかかっても、百瀬は姿を現さなかった。

 体育館に午後から使うバドミントン部が入りはじめたので、百瀬の荷物を持ち、体育館を出る。


「南朋はこれからネコの世話やろ。ももちゃんが戻ってくるまで俺がここで待っとくわ」


 虎之助が百瀬の荷物を引き受けてくれる。


「悪いな。あの体調だし、遠くに行くとは思えないんだけど。……そういや、小田たちもいないな」


 さっきさとしがここで会ったと言っていたのに、今は誰の姿もない。


「先に、深町さん家へ向こーたんちゃうか」

「うーん。待ってるって言ってたんだけどなあ」


 あの小田が連絡もなく先に行くとは思えない。

 正門のほうへと首を伸ばすが、見えるのは帰路についた清水中の連中と、カバーに包んだラケットを背負ったバド部の子くらいだ。


 紫ジャージの群れから外れ、誰かが駆け戻ってきた。

 さとしだ。


「どしたん、高木くん。忘れ物?」


 虎之助が苗字にくん付けで呼びかける。

 試合の間にチームメイトとなった八代真人(まひと)を大魔神、水越竜司(りゅうじ)をりゅーちゃん、刺々しかった古河にまで古河(こが)っちなどとなれなれしく呼びかけるようになったことを思うと、心理的な距離を感じずにはいられない。


「ううん。解散してきただけ。ももちゃんは、まだ見つからない?」


 百瀬を心配して、わざわざ戻ってきてくれたのか。

 頷くと、さとしは周囲をぐるりと見まわし提案した。


「戻ってくるなら靴箱だよね。校内を探すなら、僕より笹森くんが動いたほうがいいだろうし。僕がここで、ももちゃんの荷物持って待ってようか」

「さとしは時間、大丈夫なのか」

「うん、もう特に用事はないから。南朋は小田さんと出かけるんだろ」


 俺の言葉にさらっと返す。

 思い返せば、練習試合のあと小田と何か約束があるのかと気にしてたのは、練習の後、ゆっくり話せると期待していたからだったのかもしれない。

 試合直前の短い休み時間に込み入った話なんかできようもないのに、詰め寄るようなことをして、申し訳ない気がしてきた。


「じゃあ、よろしゅー頼むわ」


 虎之助は胸に抱えていたバッグと、百瀬の脱ぎ捨ていったジャージの上を重ねてさとしの胸に押し付けた。


「あれ。ジャージも? ももちゃん上、着てたよね」


 胸に”百瀬”の刺繍が入っているのを見て、さとしは首を傾げた。


「ああ。あれは俺の。トイレで吐いてたから着替えたんだ」


 俺が説明するとさとしは、ふーんと小さく口を尖らせた。


「大葉くん」


 突然、背中から切羽詰まった声が呼びかけてきた。

 小田だ。珍しく焦っているように見える。


「百瀬くんが今、バスケ部のコーチと体育館裏にいるの」

「えっ。体育館裏に?」


 さとしが真っ先に反応する。


「うん。何かトラブルがあったみたいで、深町さんが川に入っちゃったの。百瀬くんが見つけて連れてきてくれたんだけど」

「川って、体育館裏を流れてる? 嘘だろ」


 遠目には綺麗な川だが、水底は苔むしていて、とても人が入って遊ぶような場所ではない。

 幅は四メートルほど。水深はおおよそ足首から、あってもふくらはぎくらいしかないだろう小さな川だが、なんでそんなところに……。


「私も凛花ちゃんとバスケを見てたから、よくわからないんだけど。深町さん、かなえちゃんたちと喧嘩したみたい」

「喧嘩……」


 百瀬は混合チームの試合の間、皆の騒いでいたステージを離れ、扉の前で風に当たっていた。

 そこから川に入る深町を見たのだろうか。

 百瀬はいつ姿を消したんだろう。試合に集中していて覚えがない。

 疑問しか浮かばない状況だが、深町のエキセントリックに見える行動の裏には、きっと何かわけがある。

 ネコの事故を見て学外へ飛び出した時みたいに。


「ひとまず行こうや。本人たちに聞いたほうが早い」


 虎之助は靴のつま先をトントンやって踵を入れると、小田に案内を頼んだ。




 小田について体育館裏へ回ると、深町の叫び声が耳に飛び込んできた。


「高橋さんが、私の靴を川へ放り投げただろう」


 校舎と体育館を繋ぐ通路脇のコンクリートの上で、深町は靴下を泥だらけにして吉永の前に仁王立ちしている。

 川で転びでもしたのだろうか。制服からは水が滴り、コンクリートにネズミ色のシミを作っている。


「投げてないよ。フリをしただけなんだってば」

「一緒に見たのに、どうして嘘をつくんだ」

「も〜〜! 嘘じゃないって。なんで投げたと思うのか、こっちこそわかんないよぉ」


 激しく詰め寄る深町に、吉永は地団駄を踏んで天を仰ぐ。

 履いているのはなぜか吉永の靴ではなく、高橋と書かれた上履きだ。


 二人の前で腕組みをしていたコーチが、一旦整理しようと話に割って入る。


「えーっと、つまり、制服の子が君の靴の踵を折って、その報復に君の友達の高橋って子が、彼女の靴を川に投げる()()をしたってことか?」

「そう。フリをしただけですから」


 吉永が強調すると、コーチの側で立っている百瀬が、だるそうに肩を落としてため息をつく。

 一緒に川に入ったらしい。百瀬のバスケットシューズも濡れてドロドロだ。

 俺の貸したジャージの上は、今は深町の肩にかけられている。

 きっと百瀬が濡れたシャツに下着が透けないよう配慮したのだろう。本人に伝わっているかはわからないが。


「靴を投げてないのなら、隠してないで出しなさい」


 深町はまるで自白を促そうとする刑事のように強い口調で命令した。


「だからぁ、靴を持ってるのは私じゃないって! なんっかい言ったらわかるの」


 普段人当たりの良い吉永が、心底うんざりしている。

 話題の中心になっている高橋の姿はここにはない。

 一緒に来ていたはずの遠山もだ。


「うーん。その高橋さんが持っていっちまったのか? 君……深町さんは上履きとか体操服とか学校に置いてないの」


 コーチの投げかけに、深町は教え諭すように厳しい顔をする。


「金曜日には全部持ち帰ることになっているだろう。濡れているのは別に構わない。なくなったものが問題なんだ」


 身だしなみがなってない割に、物の管理はしっかりしているんだな、と失礼なことを考えてしまった。

 しかし現実問題、暑くなってきたとはいえ、濡れたままでいると風邪をひく。

 百瀬なら体操着セットを丸ごと持ち歩いてるんじゃないだろうか。彼は深町とは反対に物の管理が大雑把だし。

 さとしの抱えている荷物の厚みをそれとなく目で測ってしまう。

 コーチは敬語を使わない深町に対し、ムッとした顔で態度を嗜める。


「困っているのはわかるが、君もこの子の靴を壊したんだしな。そんなに強く出られる立場でもないんじゃないか」

「そのことはもう謝った。だからといって人の靴を取り上げるのは良くないだろう。それに私は、ちゃんと見たんだ」


 ああ言えばこう言う。変わらぬ深町の主張に吉永が大きな声を出す。


「だからぁ、見間違いでしょ。もう(らち)があかない!」


 まったくだ。肝心の高橋がいないことには話が先に進まない。

 それにしても、深町は謝ったと言うが吉永の気持ちはちゃんと受け止められたのだろうか。

 本当に解決済みなら、高橋はたとえフリでも人のものを投げたりなんかしないだろうに。

 吉永の立つ壁際には、片方の踵をポッキリ折られた白いハイヒールが転がっている。


 こんな時に珍しく、俺の隣で小田が夢中でスマホを操作している。


「どうしたの」

「うん。凛花ちゃんからさっきラインに連絡があった。かなえちゃんから話を聞いてくれてるみたい。いま深町さんの靴のことを聞いてもらえるように頼んでる」


 さすが小田だ。他ごとをしているわけではない。

 喧嘩を知った小田は遠山と二手に分かれ、俺と高橋を探しに出ていたんだ。それで遠山の姿が見えなかったのか。


「近くにいるの」

「もう学校の外みたい。戻ってくるように説得してくれてるけど、嫌だって聞かないみたい。どうしたらいいか……」


 困り果てた小田が唇を噛んで画面を凝視する。

 なんのアイデアも出てこず、俺も一緒に考え込んでしまう。


「気まずいのかなあ」

「うん。百瀬くんと、なんかあったみたいだから」


 小田が周囲に聞こえないよう小声で言った。

 なるほど。高橋にしてみれば、自分のせいで川に入り込んだ深町を百瀬が助け出したんだ。

 しかも深町は高橋に靴を投げられたと主張している。真実がどうであれ、百瀬は吉永の話を聞くまでそう理解していたに違いない。

 もし鉢合わせていたとしたら、問い詰めたとしても不思議はない。


「そっか。まいったな」


 そう思ってみると百瀬の表情が一層冷たいもののように思えてくる。

 これから深町の家に向かうことにはなっていたが、喧嘩のせいで流れてしまうかもしれない。

 吉永の靴は壊れているし、深町はびしょ濡れだし……。


 小田は、突然コーチに向かって先生と呼びかけた。


「高橋さんからラインが来ました。深町さんの靴、ベージュのゴミ箱の横に置いてあるそうです」


 小田の声に反応し、さとしが自分のすぐ後ろにあるゴミ箱を振り返った。


「あっ。これかな。君ので間違いない?」


 小さなローファーを掲げると、深町はグレーの足跡を残しながら一歩、二歩とかけ寄った。

 肩にかけてあった俺のジャージが、コンクリートの上にばさりと落ちる。


「私の」


 深町は、さとしから受け取ったローファーを靴の裏まで確かめて、汚れた靴下を脱ぎ、素足に直接履く。

 再び、小田のスマホが震える。小田は少しの間考え込んでこう提案した。


「あの、話の続きは私の家でしませんか。宮下駅のすぐ向こうだし、高橋さんもその辺りにいるみたいだし。着替えも、靴も、私のものを貸せます。それから、私たちはもともとこの後、深町さんのお家にお邪魔する予定だったので、お家の人に直接事情を話してきます」

「わかった。よし。じゃあ行こう。ネコが待ってる」


 深町はスカートのポケットに靴下をねじ込み、万事解決といった様子でみんなを先導しようとした。

引き続きお読みいただき、ありがとうございます。

自己紹介を兼ねてキャラバトンに答えてみました。

挿絵(By みてみん)

遠山(とおやま)凛花(りんか)

キャラバトンより(本人が話している風に)

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1、自己紹介

城東中学校2年1組。遠山凛花。

調理部。


2、好きなタイプ

高木さとし王子が推し。

さと×ももだとなお良し!


3、自分の好きなところ

妄想力なら負けない。

推しのためならなんでもできる(ただし黒子として)。


4、直したいところ

突っ走りすぎって言われはするわ

直す気はないね!


5、何フェチ?

王子の動きは無駄がないの


6、マイブーム

BL

これは一過性のブームなんかじゃない。

私の一生を貫く、人生そのものを捧げるものよ。


7、好きな事

推し。

推しに貢げるようあらゆる力を身につける。

まずは生活力ね。


8、嫌いな事

推し幸せの邪魔をするものはみんな敵

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