第十九話 フォレスト・ホープ・ガイドブック 15
そろそろ、良い時間だからと僕達は噴水広場から離れようとかと話すけど、その前にさっきの大道芸の人の元に行き、地面においてある帽子に小金貨を入れた。お金を入れた瞬間大道芸の人は操り人形のような動きで、僕達に握手を求めてきたので僕は握手をする。レナエルちゃんは本物の銅像だと思ってたらしくビクッとした後に、僕に促されて握手をした。その後は大道芸の人は元のポーズに戻りまたピクリとも動かなくなった。
握手をした後あれが本当の人間なのか疑うレナエルちゃんと話しながら、食品通りに行きカリスト様饅頭を数個購入し、少し用が出来たので職人通りの本屋に向かいエルフのヘアルトワルさんと話す。
その後に宿場通りに向かいパイのお菓子を貰いに行った。貰ったお菓子は四個から当初の予定だった九個用意されていて、さらにお茶の感動で思いついたとパイ生地の表面がキャラメリゼされて甘香ばしい匂いが更に増していた。その魅力はレナエルちゃんの目がお菓子の入った箱から離れなくなるくらいだった。
多分相当気合い入れてくるだろうなと思っていたので、先に本屋に寄って許可をもらっておいてよかった。
僕はお姉さんに茶葉を上げても良いと許可をもらったのでと前置きをしてから渡す、その際に六十日以内に飲みきってくださいとヘアルトワルさんに注意されたことも伝えた。
僕は伝えている途中に店の奥から感謝の言葉を言いながら滂沱の涙を流し現れた店主さんに抱きしめられる。それでも店主さんは自分の感情を持て余したのか僕にキスをしてこようとしたので、店主さんはまたレナエルちゃんとお姉さんのお仕置きを食らっていた。
口にされるとちょっと困るけど、別にそうじゃないからキスくらい別にいいのに。
正気を取り戻した店主さんとお姉さんに見送られて僕達はお店を後にする。
そして、ゆっくり歩きながら暮れていく街並みをもう一度見ながら、僕達はトシュテンさんが笑顔で待つ馬車に戻り、今日のデートは終わりを告げた。
家に帰り着くと僕は挨拶もそこそこに自室に戻る。
そこにはアリーチェとみゃーこが寝息を立てて眠っていた。寂しい思いさせちゃったかな? とアリーチェの髪を優しく梳かす。
するとアリーチェは目が覚めたようでパッと起き上がった。アリーチェがこんなに目覚めが良いのは珍しいな。
起き上がったアリーチェは僕の顔も見るとすぐに抱きついてきて、嬉しそうにこう言った。
「おかえりなさいおにいちゃん。きょうはありーちぇだいぼうけんしたの」
「すごいね、なにをしてきたの?」
「おふろでいっぱいはなすの! いまはおにいちゃんをぎゅーするの」
「そっか楽しみにしてるね」
「あい!」
みゃーこもすり寄って来たので抱き上げて撫でる。
妹達を撫で続けていると、ドアがノックされ外から母さんの声が掛かった。
「ルカ、アリーチェご飯よ」
僕とアリーチェは綺麗に揃って返事をし、みゃーこに加えてアリーチェも抱き上げて食堂に向かう。
食堂に入るとおじいちゃん以外の六人が席についていたので「やっぱり、おじいちゃんはいないか」と呟いた。それが聞こえたみたいで、アリーチェが不思議そうに見た来たけど「何でも無いよ」とだけ告げて笑いかけた。
夕食はアリーチェの望み通りだったらしいお魚さんだったが、いつもよりだいぶ少なめに用意されていた。
ご飯少ない? とアリーチェが首を傾げて不思議そうにしていたけど答えは食後に分かるだろう。
ちょっとサプライズ気味に、僕が買ってきたパイ生地のスイーツが出るからだね。
普段通りだとお腹いっぱいでせっかくのスイーツが美味しく味わえないから、母さんが食事の量を減らしたのだった。
「ふわーいいにおいなの」
「でしょ、ルカがいつの間にかに頼んでたのよ」
「いつの間にかって、僕レナエルちゃんの目の前で頼んだよ? その時レナエルちゃん夢中で聞いてなかっただけでしょ」
「そ、そうだったかしら、ま、まあいいじゃない。いただきましょ」
「先にお茶入れるよ」
この場にいる八人にパイ生地のスイーツが配られる。おばあちゃん、母さん、レナエルちゃん、アリーチェの女性陣四人組は甘香ばしい匂いに釘付けになっていたので、僕が茶を入れて戻ってきた。
お菓子はお昼より砂糖のパリパリとした食感と甘さが足されて完成度が高くなっていた。
美味しいものは食べてきたと思うおばあちゃんでさえ、その出来栄えに驚いていた。
問題はその後に飲んだお茶だった。匂いを嗅いでトシュテンさんが焦ったように「まさか」と呟き、飲むと珍しく驚いた声を上げていた。おばあちゃんも同じ様な行動だった。二人以外はめちゃくちゃ美味しいお茶に普通に驚いていただけだった。
「ル、ルカ。これはどこで手に入れたのですか?」
「え? 本屋にエルフさんがいてその人からもらったんだけど」
「エルフが渡した? 王族だろうとほとんど譲らないこのお茶を? しかもこれは魔力が抜けきっていないのに」
「どうしたの? おばあちゃん?」
「いえ、そうですね。アリア様の寵愛を受けるルカなら、おかしくはないのですね」
慌てていたおばあちゃんはすぐに冷静さを取り戻し、僕を見る。
「ルカ、すみませんが、そのエルフの方からルカが貰った茶葉を分ける許可を貰ってはくれませんか?」
「えっと、エルフさんは僕にあげたので好きに使ってくださいと、あまり飲まれなくなるのは悲しいですがって言われたけど」
「そうですか、良かったわ。……あなた、こういう時はどの位分けるのがいいのかしら?」
「旦那様の立場だと嗜好品の献上の場合は七:三ですね。旦那様が七でこちらが三。ただし、これはエルフ様からいただいたものですのでそれを加味して三:七がちょうどいいでしょう」
「ルカ、悪いですけど良いですか?」
「別にいいけど、おじいちゃんにあげるなら普通に上げれば良いんじゃない?」
おばあちゃんとトシュテンさんが話し合いをしている中、僕はおじいちゃんにやるなら普通にやってもいいと思ったけどどうやらそういうわけにも行かないならしい。
「エドワード、これは後日貴方が直接旦那様へ献上なさい。会見の許可と献上用の容器などは私が用意しておきます。貴方は正装して届けるだけです」
「へ、どういうことだ?」
「エドワード様、ルカ君が手に入れてきた茶葉は王族だろうと手に入れられないものです。これを献上することによりエドワード様の手柄になるのですよ」
「手に入れたのは俺じゃないぞ」
「それでもです。エドワード様これは家長の役目ですよ」
「う……わ、わかった」
僕はなんかめんどくさいことを父さんに押し付けたみたいで父さんに謝ったけど、おばあちゃんとトシュテンさんから謝る必要はなく結果的にみんなのためになることだと逆に褒められた。
ちなみにこの間、母さんとレナエルちゃんとアリーチェはスイーツに夢中になっていて聞いていなかった。アリーチェを見ると口の周りをカスタードクリームでベタベタにしていたので拭き取ってあげる。
自分の分は食べきって物欲しそうにする母さん達に男性陣はやっぱり弱く半分ほど献上させられることになった。僕はひとくち食べてアリーチェに少し、その残りはレナエルちゃんに分けたよ。アリーチェはお腹いっぱいになったからね。結局レナエルちゃんはロジェさんの分も半分奪ったので、レナエルちゃんが一番食べたことになったね。
お昼にも食べたのにやっぱり女性にとって甘いものは別腹かな。
食事が終わるとおばあちゃんは戻るらしいので、スイーツとカリスト様饅頭をおじいちゃんに届けるように頼む。おばあちゃんはカリスト様饅頭を見るとニヤついてルカもなかなかやりますねと言われたので、返答にこれも父さんに持っていって貰って献上したほうが良いかな? と冗談で聞くと、おばあちゃんはカリスト様饅頭を恭しくおじいちゃんに渡すシーンを思い浮かべたらしく、それがツボに入って吹き出しお腹を抱えて大爆笑してトシュテンさんに窘められていた。
それでもカリスト様饅頭を見ると笑いが止まらないらしく帰るときまで笑っていた。
おばあちゃんが帰った後はお風呂に入る。
アリーチェと自分の体を洗った後にアリーチェを抱き上げ一緒に湯船に浸かりアリーチェの大冒険の話を聞く。
アリーチェはたどたどしいながらも頑張って『だいぼうけん』の話をするので僕はその姿がかわいらしくて楽しく聞く。今日はみゃーこもお風呂に入るらしく僕の近くでプカプカと浮いて気持ちよさそうにしていた。
「おしまい、なの!」
『だいぼうけん』を話し終えたアリーチェに僕は拍手をしながら「おおー」っと少し大げさに驚き、アリーチェを褒める。
「だいぼうけんを終わったアリーチェはもう僕よりこの家のこと知っているね」
「あい」
「明日、僕にも案内してくれる?」
「まかせてなの」
「うん、ありがとう」
僕がお願いするとアリーチェは「えへー」と嬉しそうに笑い、僕の腕に抱きついてきたので頭を撫でる。
湯船に漂っているみゃーこにも「お供、有難うね」とお礼を言って撫でた。
アリーチェはだいぼうけんのことをまだ話したいらしく、風呂の間はずっと話していたので、今日はゲームとかは何も無しでアリーチェの話を聞いていた。
満足するまで話をしたアリーチェとお風呂に満足したみゃーこを連れてお風呂から上がり、二人を乾かしてあげる。あとはもう寝るだけだ。
みゃーこも入れて二人と一匹でベッドに横になる。アリーチェは僕の隣、みゃーこは僕のお腹の上だ。
今日はアリーチェが結構お昼寝していたみたいだから寝付きが悪いかと思ったけど、布団の上から鼓動に合わせてポンポンして上げるとあっという間に眠りについた。
うん、今日も良い日だった。おやすみなさい。




