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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第二部 第二章 ルカの休日
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第十四話 フォレスト・ホープ・ガイドブック 10

帰ってきたリムさんが僕の前に跪いて更に頭を下げようとした、僕は慌ててリムさんの肩をつかんで頭を下げようとするの止めた。


「えっと、どうしたんですか? 立ってください」

「いえ、このままで。マインあなたも」

「何言ってんのよリム」

「マイン、貴族様に対して失礼にあたる」

「キミ貴族だったの⁉ 言われてみれば確かにその制服もずいぶん……」

「い、いや違いますってただの平民ですよ。多分家を見てそう思ったんでしょうけど、あそこはちょっと事情があって用意された家なんですよ。この制服もそうです」


 僕がそう否定してもリムさんは聞いてくれず、マインさんに早くしろと促すばかりだ。

 

「マイン、早く」

「何言ってんのよ。このコが平民だって言ってるじゃない。冗談でもワタシが平民に跪いたら家の沽券がとか、あの馬鹿がうるさい──」

「手紙を届けに行くと辺境伯様の肖像画と側近の侍女様(カロリーナ様)がお出迎えに……」


 マインさんは「ひっ」と、声をあげると青ざめてリムさんの横に同じ様に跪いた。

 こんな事をしているからみんなこちらに来てしまった。レナエルちゃんも「どうしたの?」って首を傾げている。

 

「だから、違いますって。その人はそこにいるレナエルちゃんのおばあちゃんなんですよ。僕の父さんが詳しくは言えないんですけどある所で成果を出したので、辺境伯様に責任者として特別待遇で呼ばれてレナエルちゃんの家族も仕えるために一緒に来る事で、あの家を用意されたんですよ。それでたまにおばあちゃんとして遊びに来てるだけなんです。自画像も僕達は平民だから他の貴族の言うことを無理やり聞かされないために見えるところに飾っておけと、譲り受けたんですよ」

「……ホント?」

「本当ですよ、ね? レナエルちゃんアダン君」

「ええ、そうですよ」

「そ、そうだぜ」


 前もってあの家に住んでいる理由を聞かれたらこう話せと言われていた設定の話をして、その話はレナエルちゃんやアダン君も言い聞かされていたので同意をした。急にふられてアダン君はちょっと動揺していたけどね。

 それを聞いた二人は何とか納得してくれたみたいだった。マインさんは汗を拭いつつ心底ホッとしたように、深く息を吐いた。

 レナエルちゃんの制服の紋章隠していてよかったな、おじいちゃんの紋章見えてたらもっとこじれた気がする。


「もーびっくりしたわよ。それならそうと言っといて頂戴。心臓に悪いわ」

「すみません」

「一番驚いたのは、わたし。扉が開いた瞬間チビるかと思った」

「ちょっと、汚いわね。ホントに漏らしてないでしょうね?」

「……多分」

 

 眼の前でリムさんが短パンに手を突っ込んでもぞもぞとし始めた。後ろでアダン君の「ひょぇ」って言う変な声の後、僕の目の前に手のひらが現れて目隠しをされた。

 この手はレナエルちゃんだな。

されるがままにしたので視界は真っ暗のまま、マインさんが動き「やめなさい」と言う声と、パンッとリムさんの頭を軽く叩いてその音が同時に響き、リムさんは短パンから手を抜いた。その後にレナエルちゃんの手がどけられた。

 

「いたい」

「マインが正しいぞ。はしたないのはいかんなリム」

「リーダーにだけは、言われたくない」

「何故だ……それでリム報告は?」

「『全て任せなさいと伝えてください』と言われた」

「だ、そうだ。ルカ少年これで大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

「なあ、ルカ。カロリーナさんが聞いたってことはその明日……」


 アダン君が小声でこわごわと聞いてくるけど、おじいちゃんが来るかもって思ってるのかな? 


「いやそれはないよ。来るとしてもおばあちゃんくらいじゃないかな?」

「そ、そうか。ならいいんだけどよ」


 おじいちゃんがそんな空気の読めないことするわけがないからね。

 そこでマートレさんが「さて」と前置きをして、店の奥に声を掛けた。

 

「店主すまんな、少し騒ぎすぎた。我々はこれで失礼させてもらう」


 マートレさんに促されて店を出る時にありがとうございましたとだけ店主さんに声を掛けて出た。


「ふむ、マイン見る所はここだけでいいか?」

「そうね、何があるのか知りたいのなら教えるけど」

「えっと、この先は何があるんですか? えっと門があるのは聞きましたのでその先です」

「ああ、こちら側の塀の向こうは冒険者用の安宿や安酒場があるわ、それと中級以上の冒険者パーティ用に作られた住宅ね。パーティ用のは向こう側の職人用と同じく塀に囲まれているから宿場通りの奥からしか入れないわよ。C級以上から借りる事が出来て、B級以上なら買うことも出来るわよ。もちろん空いていればの話だけど。あ、ウチのパーティ用もあるわよ、そこに住んでるのはリーダーとリムだけだけどね。門の向こう側はそんな感じよ」


 この通りの先だけ聞いたんだけど、マインさんは全部教えてくれた。……ちょっと楽しみが減った気もするけど、冒険者の安宿ってことはここより治安が悪そうだったから、近寄らなくて良さそうだ。他の武器屋とかも見なくてもかな。別に武器は欲しくないし、必要ならおじいちゃんが良いものを用意するとか言ってたし、ここはこれでいいかな?

 

 「こんなところかしらね」と説明を終えたマインさんは、満足そうに頷いていた。

 そこに不思議そうな顔をしたマートレさんが口を開いた。

 

「なんだマイン知らないのか? それだけじゃないぞ、安酒場が集まる場所の更にその奥には娼館が──」

「バカか、アンタは!」


 娼館という言葉に慌ててマインさんはマートレさんの口に杖を突っ込んで塞いだ。マートレさんは「もごぉ」と変なうめき声を上げ、アダン君は「しょうかん?」とよく分からなそうにしていた。

レナエルちゃんは僕から目を逸らして少し赤くなっていたから知っていたみたいだった。うーん、ウルリーカさんの本のせいだと思うけどレナエルちゃんはだいぶ耳年増になってるよね。そんな事口に出して突っ込めないけどね。


 マインさんがこちらを見ながら慌てていたので僕は話を逸らすように、他の人のことを聞いた。


「えっと、他の皆さんはどうしてるんですか?」

「……キミありがとね。ワタシとサクラは別よ。二人共弟がこの街に来ているからね、弟と一緒に住んでるわ」

「私は普通の貸家ですけどね。マインさんは貴族なので貴族街の方ですよ」

「へ、貴族様だったんですか?」


 レナエルちゃんが驚いていたけどマインさんは手を否定するようにパタパタとふった。


「よしてよ。その貴族の役割は弟に全部任せたわ、ワタシは気楽な冒険者よ。A級様と言ってもいいけど貴族様とは呼ばないで……そうよワタシはA級冒険者様なのよ、ざまーみろクソ親父」


 なんか最後は僕たちにじゃなく遠くを見ながら親父さんを罵倒していた。いきなりのことで少し呆然と見ていたら、サクラさんが笑いながら「マインさんこの国にいる時にご実家とは色々とありましたから」と言っていた。

 僕はそれにたいして深く突っ込むことは無く「そうなんですか」とだけしか言えなかった。


 マインさんが落ち着くのを待ってお礼を言って解散しようとしたけど、先程杖を口の中に突っ込まれたのに何も気にしてないかのようなマートレさんから「待て今、三の鐘が鳴る。飯の時間だな。明日のお礼代わりに奢るから一緒に食べるぞ」と言われて、言い終わると同時に三の鐘が鳴る。

 何も見ずにいきなりピタリと時間を言い当てたので驚いている隙に、半ば強引に連れて行かれた。驚いた主な要因はさっきまでのポンコツさとのギャップだったけど。


 連れて行かれた場所は、冒険者通りから出て噴水広場に面した場所に大きい建物があり、ここに来た時にもちらりとだけ見たけど冒険者ギルドだ。

 テンプレ通りのことが起こりそうで、あんまり入りたくはないけどマートレさんが大丈夫だというので付いていく。


 冒険者ギルドに入ると三分の二以上は、食堂兼酒場になっていてそこで大勢の冒険者が食事をしていた。真っ昼間からお酒を飲んでいる人もいる。

 入ってきた女性が多い僕らを見て、スケベそうな目線を向けるので僕はレナエルちゃんの前に立ってその目線を遮った。

 ただ、その目線の大半はマートレさん達の顔を確認するとぎょっとした顔になり、慌てて顔を伏せたり、そむけたりしていた。わざとらしく口笛を吹いて誤魔化してる人もいた。


 それでもマートレさん達を知ってか知らずか、木のジョッキを片手にヘラヘラと笑いながら近付いて来る冒険者もいた……いたけど慌てて周りに取り押さえられていた。

 そして「やめろ、A級(バケモノ)だぞ死にたいのか」「俺達を巻き込むな」「制裁の宣言をされたらどうするんだよ」「死ぬなら魔の森に入って一人で死ね」「俺達全員でかかっても一人にも敵わないのに全員揃ってやがる」「見るなよ絶対見るなよ」「全員揃って来るとは珍しい」「おお、『完璧な戦士』『疾風怒濤』『四元使い』『微笑む凶龍』揃い踏みだとはこれは拝まないと」と大騒ぎになり、冒険者ギルドのテンプレなんて起こる暇もなかった。

 

 ……この騒ぎの中ご飯食べるの? 僕こんなところで食べるくらいならご飯抜くよ。レナエルちゃんも嫌だろうし、と流石にここは嫌だとマートレさんを見る。


「安心しろルカ少年ここじゃない。こっちだ」


 そう言うと、マートレさんは騒ぎを横目に十くらいある窓口で一つだけ誰も並んでいない窓口に行って、一言二言喋ったと思ったら何かを受け取り、その脇にある階段を登り始めた。

 僕達も付いていき二階に付くと、一階の椅子もなく丸テーブルしかない食堂とは違い、少し上等そうなテーブルと椅子があって、そこにも冒険者が座って食事をしていたけど一階の人達より一目でわかるくらい身なりが良いし、こちらをジロジロとは見てこない……最初から目を伏せている人もいるけど。ここならまあ落ち着けるのかな?


「二階にはC級以上が使える食堂と、奥にはB級以上が使える小部屋があるがここでもない」


 顔見知りがいるのか、何人かにマートレさんは手だけで挨拶をしてから、マートレさんもそれに返しながら、また階段を登り始めた。

 三階に着くと今度は外にテーブルとかはなく個室だと思われる扉が並んでいるだけだった。その一つに近付いてガチャリと扉を開けていた。

 開けた扉から覗く部屋は広く二十人位入れそうでテーブルと椅子も豪華ではないけど、かなり上質なものが数セット設置してあった。

 小休憩や会議の部屋って感じだった、そして入った途端、外のざわめきが消えた。ここにも僕の『クラス』と同じ様な防音の魔法陣が設置してあるのかな?

 

「入ってくれ、ここはA級しか使えんから変な奴もこないぞ」

「おお、ここがA級パーティ用なんですね」

「そうだぞ、アダン。お前にはまだ早いが今日は特別だ」

「はい」


 アダン君は嬉しそうに部屋を見て回っていた。

 レナエルちゃんが居辛そうに立ちっぱなしになっていたので、真ん中のテーブルにある椅子を引いてレナエルちゃんを呼ぶ。


「レナエルちゃんここに座ろうか?」

「うん。ありがと、ルカ」


 レナエルちゃんは僕の引いた椅子に座ると嬉しそうに笑っていた。

 僕もその隣に座るとサクラさんが微笑ましそうに笑っていた。


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