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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第二部 第二章 ルカの休日
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第八話 フォレスト・ホープ・ガイドブック 4

ポーション屋さんから出て、さっき買ったばかりの軟膏をレナエルちゃんに渡すと「ありがとう」と言ってレナエルちゃんは手に持った軟膏をまじまじと見た。


「魔力草を使った軟膏なんてあったのね。店員さんは一番効能が低い方が普段遣いには良くて、女性にも人気って言ってたわね」

「うん、でも普段遣いにはちょっと高いよね?」


 サイズは○ベアの一番小さいサイズくらいだ。内容量も同じくらいだろうと思う、入れ物の素材は木製だけどね。


「多分ね、父さん達がお昼に食べているパンが一本銅貨四枚くらいらしいわよ」 


 うーん、バケットが銅貨四枚か、銅貨一枚、百円くらいなのかな? となるとこの安い方のニベ、じゃなかった魔力草の軟膏は三千円くらいか、そう考えるとやっぱりちょっと高めなのかな。


「行商人さんがたまに来てたんだよね? そこには軟膏なかったの?」

「なかったわよ。そんなのうちの村に必要ないもの、小さい怪我したら家の鉢植えの魔力草一枚ちぎってすり潰してべシャッよ。大きい怪我したら神父様がすぐに治してくれてくれてたでしょ……回復魔法でね」

「鉢植え?」

「知らないの? まあ、うちもだけど開拓に行っていた人は少し自由に貰えてたもんね。それで、鉢植えなんだけど、開拓してると石とか色々混じった土、廃棄するでしょ?」

「うん」

「それを拾ってきて鉢植えで魔力草を植えると一回だけ育つのよ。開拓地にある魔力草みたいに質は良くないし、一家庭一個までだったけどね。庭に土を撒けばいくらでも増えるんじゃ? って試した人は種が駄目になって嘆いてたわね」

「へーそうだったんだね」

「まあそれも私達が村から離れる頃には無くなっていたけどね。廃棄の土も無くなったってこともあるけど、そもそも私達に分けてもらえる分も十分すぎるほど増えたから」


 そんな話をしながら街ブラを続ける。

 歩いていると僕達が服を作ってもらった仕立て屋──今日は休みっぽかった──、ポーション以外が売っている薬屋、錬金術素材屋、木工、革、大工とか色々あった。

 ドドンドンさんは工房がとか言ってたから、鍛冶屋さんがあるのかなと思ったけど、どこにもない。

 通りすがりの人に聞いてみると、武器屋は別の通りにあって鍛冶屋そのものは住宅街を抜けるとある東門から出て少し行ったところにあると聞いた。何でも年がら年中うるさいのは分かっているから最初から外に作っているらしい。うるさいのが分かっているギルドはだいたいそこにあるってさ。まあ、今回は行かなくてもいいか。


 中央街の他の二つの道を最後まで歩いた感覚で、大体この道ももうすぐ終わりかな? と思っているとかなり大きいお店が見えてきた。


「レナエルちゃんあそこ大きい店あるよ」

「あっ、本当大っきいわね、なんて言うお店かしら? 森の、の集い二号店って真ん中読めないわね。わからない簡易魔法文字だわ。ルカは読める?」

「えっと、森の叡智の集いフォレスト・ウィズダム・ギャザー二号店って書いてあるね」


 レナエルちゃんの読めなかった文字は、村のシスターで巫女様のウルリーカさんの本に載っていたのを見たことがある。


「あ、そうね思い出したわ。確かにウルリーカさんにそう教えてもらったわね」

「うん、そうだね」


 見てたのか、ちょっと特殊な本だったのに。少年と少女と男性の三角関係の話に乗っていた。あ、三角関係の矢印の向きはご想像にお任せるするよ。


 お店に入ってみるとまず懐かしいと言う感傷が湧き上がった。僕の記憶がすこし呼びさまされるくらいには、ざっと周りを見てみると『新刊入荷!』『○○先生最新作』『あのウルリーカ女史垂涎作』『店員のオススメ』とか色々書いてあった。……なんか今変なもの見たような。

 すこし辺りを見渡すだけですぐに分かるくらい、ものすごい数の本が売ってある。何よりも物凄く明るい、炎とかで明るくしたくらいではなくて太陽光が降り注いでるのかと思うくらいだ。うん、超大型の本屋さんだこれ。

 異世界に来たみたいだ……いや、ここ異世界だった。

 

 一つの本を取って「あ、これ。ウルリーカさんの趣味のやつ」とボソリとレナエルちゃんが呟いた。

 僕たちはすこし呆然としていると、女性の店員さんが話しかけてきてくれた。エプロン姿だった。


「いらっしゃいませ。初めてご来店されましたか?」

「は、はい。わかりますか?」

「ええ、初めて入られた方は大体そんなお顔をされてます」

「他のお店とぜんぜん違うんですね。ここ」


 本屋さん以外のお店は、ファンタジーの漫画とかにあるお店を想像して貰えば大体その通りだけど、ここはファンタジーじゃなくて、日本にあった超大型の本屋さんを想像しないといけない。○タヤとか○伊国屋とかだ。


「そうなんですよ。私達ハーフエルフもお手伝いしてるんですけど、オーナーはエルフの方達がやっていまして、あの方達が全力を注ぎ込んでこうなっています」

 

 店員さんハーフエルフだったんだ。丸耳だったから分からなかったや。

 そう思っていると店員さんは「ふふっ」っと含み笑いのようなものを漏らした。


「どうしました?」

「いえ、貴方達は私がハーフエルフと言ってもなんの反応もしないんですね」

「? えっと、よく分かんないんですが」


 ハーフエルフだからどうしたの? ほら、レナエルちゃんもよく分からずぽかんとしている。


「ここに来る人はもう慣れていますが、エルフやハーフエルフと言う言葉を聞くだけで恐怖を抱く方もいらっしゃいますので、そうじゃなくても直接会うとなるとやはり……」

「ああ、僕達家族にも知り合いにも、ハーフエルフがいるのでそれでですよ」

「あら、そうだったんですね。──でも、私はなんでいきなりハーフエルフとバラしたんでしょう? 何故か、安心するというか」


 最初、謎掛けかと思ったけどそうじゃなくて独り言だったみたいだ。

 あ、もしかしてこの制服のせいかな? アリアちゃんが最初に現れた時ウルリーカさんも感極まってたし、エルフには何か影響力あるのかな?

 そう思っていた時に奥の方で扉を叩きつけて開けたような大きな音が聞こえたと思ったら、こちらに走ってくる足音と道を開けてくれという大きな声が聞こえた。


「オーナー? こんな早く起きるなんて珍しい」


 奇行に対しては特に言及はないってことは、それは珍しくないんだ。

 音がする方を見ているとすぐに、足首まである貫頭衣で腰のあたりを帯で縛っている服装をした、長身でスラリとした緑色の髪を短く揃えた恐ろしく顔の整っていて、長くて先が尖っている耳の男性が現れた。魔力もすごいから多分エルフさんかな。

 そのまま僕の方へ来ると、僕の前へ滑り込むように両膝を付いて僕より頭を低くして見上げるようにその整いすぎる顔で僕を見た。間近で見ても整いすぎてるので違和感があるくらいだ。


「お初にお目にかかります、私はアルルアケスのヘアルトワルでございます。お分かりとは思いますがエルフです。お名前をお伺いしても?」

「えっ、えっと、ルカと言います。こっちはレナエルです」

「ありがとうございます。お二人共とてもいいお名前です。ささっ、こんなところより奥にいらしてください、お茶を入れますので」


 立ち上がり僕の背中に手を添えようとしたけどビクッとして背中には触れずすこし離してた、逆の手ではこちらへと本屋さんの奥を示して僕達を促そうとしていた。

 唐突のことでついていけないけど、これ、丁寧なフリをした誘拐じゃないよね?


「ちょっとオーナー駄目ですよ。お客さん連れてっちゃ」

「何を言うかね店長くん。この方、……いや、こんな場所で話すことではないのだよ。文句があるなら君も来なさい」

「すみません、オーナーの奇行です。私の代わりを誰かお願いしますー」


 店長くんと呼ばれた人は腕を掴まれて僕と一緒に連れて行かれるけど、全く慌ててなくすこし大きめの声で遠くに話すと、奥の方から「はーい」とこれまた冷静な声が聞こえた。いや僕は自分で歩いてるんだけどね、僕が止まると僕の背中にエルフさんの手が付きそうになって、その度にビクッとするのがちょっと可哀想だったから。


 そして、僕達は部屋に招かれて言われるがまま、椅子に座り眼の前のエルフさんから挨拶を受けた。

 部屋は普通の部屋で特にエルフっぽいとかはない。自分で言っといてエルフっぽい部屋ってのは僕にもよくわかんないけどね。

 

「改めましてアルルアケスのヘアルトワルでございます。ルカ様、レナエル様」

「初めまして。あの、様付けはやめてもらえるとありがたいんですが」

「なるほど、可愛らしい方がよろしいですか? ルカちゃん、ルカっち、ルカたん、ルカきゅん、ふむルカきゅん。ではルカきゅ──」

「くん、でお願いします!」

「わかりました、ではルカくんとお呼びします。そちらはレナエルさんでよかったかな?」

「はい。……ルカきゅんか」


 危ない、予想外にひどい呼び方されるところだった。

 レナエルちゃんもやめてねその呼び方。

 そこにこの部屋に付いてから部屋を出た店長さんが「お茶お持ちしました」と、ティーポットと人数分のカップを運んで店長さんが戻ってきた。

 

 

「ありがとう店長くん。ちゃんと私の秘蔵の物を入れてくれたかね?」

「言われたとおりにしましたよ」

「うむ、君も座って飲み給え」

「ええ、もちろん飲みますよ。それよりもこの子達を何故連れてきたんですか?」

「何故……か、なるほど、それは哲学的な意味でということだね?」

「いえ、普通になんの用があったかと聞いています」

「初めてお会いしたのに、御用があるわけないだろう」

「用もないのに連れてくるって誘拐ですか?」


 僕達にお茶を入れてくれたあと店長さんとヘアルトワルさんの掛け合いが始まった。それを見ながらお茶を飲むと……うわっなにこれ美味しい。この街でお茶といえばだいたい紅茶でこっちに来てからは家でも紅茶だった。

 でも家で飲む紅茶とは、茶葉の質が圧倒的に違う。ほんのりとした渋みとしっかりとして嫌味じゃないコク、嫌なニオイなんてなく熟成された葉っぱのいい香りだけが口と鼻の奥に広がる。隣のレナエルちゃんも「ほわぁ」っという声を出してうっとりしていた。


「このお茶とても美味しいです」

「そうですか、それは良かった。お気に召されたのならば、後でお渡ししますのでお持ち帰りください」


 僕がお茶を褒めるとヘアルトワルさんは店長さんと喋るのをやめて、ニッコリと笑い茶葉をあげるとまで言い出した。

 隣の店長さんが初めて表情を変えたので珍しいことなんだろう。

 

「いえ、そこまでしてもらわなくても」

「いいえ、私はもう貰いすぎましたから、そのお返しです」

「え? 何もあげてませんけれど」

「制服……いえその聖なる服、世界樹の枝と葉、それにハイエルフ様の樹木創造の根から作られた生地で制作されていますね。その服が香りと魔力を私達が森に住むよりも遥かに好ましい空間に変えていてくれるのです。そして何よりもその服を纏えるあなたに会えたことが私は嬉しいです」

「僕は何もしてないですし、生地のことは貰っただけでよく知らなかったんですが……えっと、ありがとうございます」

「ええ、ですので遠慮なく受け取ってください。出来ればあと六十日ほどで飲みきってください。込められた魔力が抜けきってしますので」

「分かりました、有り難くいただきます」


 それにしても、この制服そんな効果あったんだ、空気清浄機みたいな感じかな?

 店長さんは僕とヘアルトワルさんが話している間、黙っていると思ったら俯きながらすこし震えているけどどうかしたのかな? と思うと、いきなり顔を上げて「ハイエルフ様の‼」と叫んだ。

 シュッっと音がしたと思うくらい素早く店長さんが僕の近くに来て、「こ、このかほりが世界樹とハイエルフ様の」とつぶやきながら、自分の顔に向かって手を仰いでクンカクンカと嗅ぎ始めた。今までクール系女子だったのに……僕はドン引きした。レナエルちゃんもドン引きしてる。ヘアルトワルさんはドン引きした僕達と店長さんを見て「エルフなんてこんなもんですよ」とウンウンとうなずいていた。


 しばらくすると店長さんがスッと自分の席に戻り「とりあえず満足しました。これを」とすっと、どこからかデカイ金貨を出してきた。レナエルちゃんが「これ大金貨よ」と教えてくれた。これ一枚で僕が持っている小金貨の十枚分あるのか。いいもん見たなとすっと返す。


「お金は受け取れませんよ」

「しかし私はオーナーのような価値のある茶葉とかは持っていないのです。どうか収めてください」


 やっぱりあのお茶高いのかな。でも流石に僕は何もしていないのにお金を直接ってのはね。

 あ、そうだ。入ってすぐここに来たので本屋さんのことわからないからそれを教えてもらおう。

 その事を伝えると、その程度ではと渋っていたけどヘアルトワルさんが「ここの全て、経理や従業員の情報など、さらに裏の裏まで話していい」と言ったので、店長さんはわかりましたとうなずいていた。いや、そんな話聞きたくないよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これが、異界の叡智……! 異界だよね? 自前じゃないよね? [気になる点] 子供向けが売ってるかどうか。 [一言] ……いや、目が腐視穴のひとは子供向けでも何でも愉しめるから平気だな。
[一言] なんて腐海な話だ。。。
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