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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第二部 第二章 ルカの休日
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第六話 フォレスト・ホープ・ガイドブック 2

 レナエルちゃんが街並みをぽかんとしたような表情で見回しながら、僕に話しかける。


「初めて来たけど本当に人多いわね。村の人口の何倍かしら」

「どうだろうね、賑わっててみんな楽しそうだけど、はぐれないようにしないと」


 この人の多さと行き交う人のレナエルちゃんをチラチラと見ていく人の目を見たら、おばあちゃんが言った通りちゃんとエスコートしないと行けないと思った。


「じゃ、じゃあ。ルカ手でもつなぐ? なんちゃ──」

「あ、それがいいね」


 僕はレナエルちゃんの手を握るとはぐれないようにしっかりと指を絡ませて手を繋いだ。

「あう」とレナエルちゃんは変な声を出して俯いた。

 変な声出したので、どうしたのかと思ったけどレナエルちゃんの手の甲に出来物出来ていた。プツッとした感触があったのでこれに当たったのせいかと思い、それを避けて手を繋いだ。

 

「レナエルちゃん、どこへ行こうか? 僕もレナエルちゃんも中央街のことあまり知らないよね」

「うん」

「じゃあ、ぶらぶらと歩いて何があるか見てみようか」

「うん」


 適当に選んだ一本の道に沿ってぶらぶらと歩くと食料品ばかり売っていいる店ばかりになっていた。

 見た目は中世の街並みって感じで、建物が立ち並びその軒先で屋台みたいな天幕を貼り、その下で食料品を売っていた。建物は倉庫か住宅かなんだろうか?


「ここらへんは食材売ってるね。見たことないものばっかりだ」

「うん」

「あ、あの果物。おじいちゃんが村のお祭りのとき持ってきてくれたね」

「うん」

「あ、ごめん。食材見ててもあんまり面白くないよね。ここ抜けようか」

「あ、違うのよルカ。ちょっとボーとしちゃっただけ」


 ずっとレナエルちゃんが、生返事だったから別の道へと行こうとすると、レナエルちゃんは慌てたように首を振っていた。

 

「人多いもんね。人混みに酔っちゃったかな。お水飲む?」

「お願い」


 コップと水を素早く出すと、レナエルちゃんは手を繋いだまま片手でクピクピと可愛らしく飲んでいた。

 あ、しまった。なにかジュースでも買えばよかった。お金使うチャンスを逃した。

 

「いけない。このままじゃ、またいつものルカのペースになっちゃう頑張らなきゃ」 

「なんか言った?」


 お水を飲んで「ふぅ」と息をついたレナエルちゃんがなにか小声で言っていた。

 

「何でもないわ、行きましょう」

「うん」


 人酔いも治ったのか落ち着いたレナエルちゃんとぶらぶらと散歩に近い街巡りをする。こういうのを街ブラっていうのかな。

 最初に入った場所が南東に当たる道で、先程も言った通り食料品ばかり並んでいる通りになっていた。

 

 進んでいると扉が開いてある門があり、その先に見える石畳の色が変わっているのが見える。そして案内用の立て看板があり、今まで歩いていた道が食品通りでここが終点と書いてあった。

 この先は何か気になって歩いている人に聞くと、最初に聞いた若い男の人はレナエルちゃんと手を繋いでいる僕を見て、舌打ちしながら去っていった。

 気を取り直してお姉さんに聞くと書いてある通り、この先は住宅街で東側は農民が住む家が多いらしい、それは街の東側の外が農地や牧場になっているからだそうだ。お姉さんにありがとうというと「いいわね若いって」と言いながらガハハハと豪快に笑いながら去っていった。うん、お姉さんだったよ。


「ここで折り返しだね。どうする? 疲れてない?」

「まだ全然疲れてないけど、結構広いわね。魔力使い続けるのまだ慣れてないのよね」

「あ、そっかごめんね。気が付かなくて」

「えっとまだまだ平気よ」

「そうじゃなくってね。最初だけ違和感あるかもしれないけど」

「えっ?」

 

 そう言ってレナエルちゃんの魔力を全身に行き渡り安定するように僕が操作する。

 そして、アリーチェだけじゃなく、双子の魔力を入れ替えつつ同期させた経験からか、僕から人へ魔力を送ることも少し理解できるようになった。

 でも、魔力を送るとしても少しだけにしている。あまり送りすぎてパンクしたら怖いもんね。


「きゃっ、これってルカが?」

「そう、少しは楽になった?」

「ええ、いいわねこれ」


 レナエルちゃんは軽くぴょんぴょんと飛び跳ねて楽しそうにしていた。


「これなら全部回っても楽々かも」

「あ、じゃあさ。今日のデートは中央街の探索ってことにしようか、そこで色々見たり聞いたり買ったりしようよレナエルちゃん」

「う、うん……ル、ルカもデ、デートって思ってくれてたのね」

「えっと、どこからどう見てもデートだよね?」


 僕は来た道を戻りながらレナエルちゃんにそう言うと、レナエルちゃんは僕に少し体を寄せながらとこくんと頷いていた。

 前世でも妹に言われてたっけ、妹だろうとなんだろうと女の子とのお出かけはデートなのよって。いや、別の女の子と出かけた時はただの買い物でしょ? デートじゃないわとも言われたな。

 そんな他愛も無いことは置いといて、早速だけどここでも少し買い食いをしようと話す。


「レナエルちゃんは何がいい?」

「そうね、ここの名物料理とかないのかしら」

「そんな物あるのかな? この街出来てそんなに経ってないよね?」

「あ、そうだったわね。あまりにも賑やかすぎて忘れてたわ」


 そうだよね、僕も忘れそうになる。


「でもせっかくだし、一応あるかどうか聞いてみようか」

「そうね、あ、さっきの」

 

 本当だ、さっきのお姉さんがまたいる。ちょうどいいから聞いてみよう。


「あら、さっきぶりねぇ? どうしたのまたお姉さんに聞きたいことがあるの?」

「はい、ここの名物の食べ物とかないんですか?」

「いい質問ねぇ、ちゃんとあるわよぉ」

「そうなんですね。なんて名前なんですか」

「その名もカリスト様饅頭よ」


 え?

 僕は一瞬思考が止まった。


「あのそれって?」

「そうよね。本当は辺境伯様饅頭ってつけたいわよね。でも流石に無礼が過ぎるわよね。だから謎の冒険者や謎の辺境伯様の使いと言われているカリスト様の名前を借りたのよ」

「でもそれってカリスト様が辺境──」


 辺境伯様ってバレてるって言おうとしたら、貼りついたような笑顔でシッ! と言われてしまった。

 ぶっちゃけ怖い。レナエルちゃんもちょっと震えてる。


「あのそれってどこに売ってるんですか?」

「この通りならどこの店でもあるわ」

「えっ?」

「当たり前なの」

「は、はい」


 それじゃあねとお姉さんはノッシノッシと足音を立てながら帰り、最後に振り向こう言った「この通りの名物は魔力草を使った物もあるわ」と。

 いや、最初にそれを教えてほしかったな。たしかにチラホラと魔力草焼きと書いてある小さな屋台がある。

  

 後でこの人のことを聞くと、おじいちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で目頭をもみため息を付いた。

 そのまま黙っておじいちゃんは答えてくれなかったので、おばあちゃんが笑いながら教えてくれた。

 辺境伯領地内ではこういう人は結構どこにでもいるらしい。

 今までの活躍や領地経営、そして長い時間生きてきたため勝手に崇められて出来たおじいちゃんの信者といっても過言ではないらしく、表立っては行動しないけど──おじいちゃんが嫌がるので──裏での団結力は半端ない。だからこうやって名物に食い込んで来るとか、カリストって名前だし、悪気は一切無いからおじいちゃんもやめてくれと言うわけにもいかないらしい。

 

 カリスト様饅頭は置いといて魔力草か、僕達のトレイム村のやつなのかな? それと他にまだ作ってる所あるのかな? 貴重だって言ってたような気がするから、あったとしても少ないんだろうけど。

  

「魔力草だって僕達のところのやつかな?」

「そうよ」

「断言したね。レナエルちゃん知ってるの?」

「私のクラスやっぱり貴族様とかも一杯いるのよ」

「うん」


 レナエルちゃんが言うには貴族の女性は血筋がしっかりしてるので、別の貴族の侍女になって結構立場のある侍女になったりするとか。

 なるほどね、確かに何かの本でそんな話は聞いたことがあった。

 そしてこれは貴族でも平民でもそうだけど、「辺境伯様の学び舎で侍女としての勉強をして参りました」ってのは大きなアドバンテージになるみたい。

 そんな話をした後レナエルちゃんは「話がずれたわね」と言って、魔力草の話に戻る。


「それでね、辺境伯様の領もそうなんだけど、他の貴族様の領でも魔力草が安定して入ってきているみたい。特に二年くらい前からって話よ」

「他の場所に作ったのが、成果が出たのかもしれないよ」

「それもないわ。『普通はそんな簡単にできるものじゃないし、どこでも出来るものでもないの、しかも供給量は二年前から今までで段違いに増えたのよ』って言ってたもの」

「うん、なるほど。僕達だね」


 なにせ二年で魔力草の農地面積十倍になったからねぇ。僕が一番広げたけど開拓メンバーみんなで頑張ったもんね。

 まあ、僕はボーンが使えたからちょっと反則技みたいなもんだったけどね。

 そういえば、アダン君も物凄く頑張ってて最初は「ルカには負けねーぞ」って言ったけど少し経つと「お前なかなかやるな」ってことを言われて、そこらへんかな? アダン君と仲良くなってきたの。

 それから少し経ってかな、僕にも教えてくれるように言ってくれと頼み込んでアダン君が父さんに剣術教えてもらうようになったのは、ゲインさんに腕が一番立つのは父さんだって教えてもらったからとかいう話を聞いた。

 

「頑張った成果ってちゃんと出てたんだ」

「何言ってるのよ、当たり前じゃない。ルカはいつだって頑張ってたんだから」 

 

 ちょっと感傷に浸りたい気分だったけど、そろそろここから出ようかな。さっきの話が聞こえていたのか周りの店の人達がお饅頭の箱みたいなの取り出してこっち見てるから。

 ちらりと見えた箱にはカリスト様饅頭って書いてあって魔法使いや旅装束、冒険者っぽいキャラが載っているイラストも付いていた。全てのキャラはフードを被って若干のシルエットはあるけど顔が見えないようになっている。結構、繊細に書き込まれたイラストで力が入っていた。


「そろそろ次行こうか、お饅頭は今は荷物になるから、帰る前でいいよね」

「う、うん。そうね」


 そう周りにも聞こえるように言うと、仕方ねーな、だが後で絶対買いに来いよと言うような目線を浴びながら、ちゃんと後でおじいちゃんと父さんにお土産として買おうと心に決めた。渡したら面白そうだしね。


 ちなみに名物の魔力草焼きというのは、何でも汁を絞ったり効能だけを抽出する使い方をした魔力草は本来捨てるのだけど、それを捨てずに再利用するらしく溶いた小麦粉に野菜と混ぜて焼いた、稲穂焼きみたいなやつだった。ソースはなくて塩で食べるんだけど、味はまあ普通だった。

 値段は銅貨二枚で、レナエルちゃん美人だから二人で銅貨三枚でいいぞと言われて三枚渡した。家を出る前に使いやすいようにと金貨とは別に銀貨と銅貨も貰った。それで、銀貨と銅貨はこれまた用意されていた肩掛けの鞄の中に、金貨は僕の制服の懐に入っている。

 でも僕、お金の価値ってまだ分かってないんだよね。

 

「どうだった? レナエルちゃん」

「うーん、まあまあ?」

「だよね。でも悪くはないかな」


 これがソースとマヨネーズどっぷりだったらもっと良かったのかな? でも本来捨てるものが再利用できるなんてエコだよね。無駄がないのっていいことだ。

 僕達は二人でもぐもぐしながら食品通りを抜けた。


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