第四話 魔術と奇跡と運命 4
僕は冒険者の人達に街の近くまで連れて帰ってもらって、他の人はギルドにアダン君は僕を最後まで送る事になった。
なので、今は家までの道のりを歩いている。
「アダン君、冒険者になったんだね どう? 冒険者は」
「どうって言われてもなぁ、まだ荷物持ちと生活魔法役だぜ。予想とは違うパーティーに入っちまったし」
軽く話しながらアダン君の現状を聞くと内容は愚痴っているみたいだけど表情は、とても楽しそうだった。
「そういや女の人ばっかりのパーティーだったよね」
「う、レナエルちゃんには言わないでくれよ。軟派だって思われちまう」
「うん、言わないよ。でもなんでそのパーティーだったの?」
「見た通りだよ」
そう言うとアダン君は自分の頭をトントンと指でつついた。
「見た通りってまさか髪の色?」
「そうだ、あのパーティーだけどな。元は連合国だっけ? あのビーストとドラゴニュートがいる国」
「ああ、龍獣三国連合ね」
「そう、それ。元はその国の冒険者で髪の色がきっかけでパーティー組んだんだってさ、俺がギルドに登録に行った日にちょうど向こうもこっちに移ってきたみたいで、俺の髪と登録しようとしているところを見たらよ。マートレさんにいきなり声を掛けられて、「これは運命だ、よし私のパーティーで経験を積むといい」って言われて、そのままな?」
「いいじゃない、ちょっと癖があるけど良い人そうな人達だったし美人さんばっかりだったし、アダン君も教えてもらうならそのほうがいいでしょ?」
「ま、まあな。俺も男だし」
そう言って照れたように頭を掻くアダン君。
だよね、アダン君も男の子。大丈夫レナエルちゃんには内緒にしとくよ。
「でな、エドさんって何もんだ?」
「へ? いきなりどうしたの?」
ちょっと唐突すぎたから何かあったのかと聞くと、リーダーさんと稽古をした時の話をしてくれた。
「いやな、マートレさんに剣の稽古つけてもらってるんだけど、あ、もちろんマートレさん俺じゃ手も足も出ないくらい遥かに強いぜ。だがな、そんな俺でもはっきりと分かるんだよ。エドさんの方が更につええって。あの人A級パーティーのリーダーだぜ? この街で言えばトップ五に入るパーティーだ。そんな人より強いって何もんだと思ってよ」
冒険者のA級とか言われても、どのくらいかはわからないんだけど。よくあるテンプレ通りF級から始まって一番上はS級なのかな? と思って聞いてみたらその通りだった。
ただS級なんて英雄と並び立つ存在でそれこそ国同士の戦争を止めるくらいの成果を挙げないとなれないらしい。
それはまあ別に興味ないしいいとして。
「父さんね、冒険者やってからおじいちゃんの兵士の隊長やってたって聞いたけど、それくらいしか知らないよ」
「お前のおじいちゃんてカリスト様の兵士? いや、辺境伯様のか」
「うん、辺境伯様の兵士だったみたい。本当はおじいちゃんってのは大っぴらには言えないんだけどね」
「そうだったな、こんな誰もいないところじゃなきゃ、俺もお前もヤバいな」
正式に認められていないのに辺境伯の孫って名乗るだけでも不敬らしく、おじいちゃんが血縁だと認めない限り罪になる。
そして僕達のことは貴族としては血縁としてはまだ認められないから、発言には気をつけろと言っていた。
「決して貴族の掟には反するな、俺は絶対に掟を破らんからな。それ以外だったら何があっても守ってやるからそれだけは気をつけろ」と。
「今度聞いてみる。辺境伯様の兵士の隊長になるにはどのくらいの実力がいるのかって聞けば、お前んとこにも迷惑かけないよな?」
「うん、大丈夫だと思う。冒険者から兵士の道って結構あるみたいだから、それを含めて聞いてみるといいかも」
「おう、そんなふうに聞いてみるな」
「あ、家見えてきたからここで良いよ」
「そっか……」
アダン君なんかもじもじし始めた。おトイレかな? いや、レナエルちゃんか。
僕がここで良いって言ったから、寄れなくなっちゃんだな。悪いことを言ったな。
「あ、ここで良いって言ったけど、やっぱりお茶でも飲んでいかない?」
「いや、これでも俺は仕事中だ。お前を送ったらすぐにギルドに報告に行く」
お家に誘ったのにきっぱりと断られた、レナエルちゃんに会いたいのかとも思ったけど、違ったのか。
「あ、あのよ。リムさんに聞いたんだ。あ、リムさんてのは斥候の人だ。ビースト族でリスの耳と尻尾が生えている人」
「ああ、あの人ね」
僕はリーダーさんの後からでてきたフッサフサの耳としっぽをした人を思い出していた。
「でよ。多分お前が親父を助けてくれたって」
「あ、その人も見えてたんだ」
「いや、見えてはなかったらしい。ただ、状況観察の結果そうとしか言えないってさ。──でもお前のその態度やっぱり本当なんだな」
「うん、まあ多分」
みんなに心配かけて下手な助け方だったけどね。
アダン君は「そうか」と呟いて、大きく息を吸い込んだ。
「ルカ、親父助けてくれて、ありがとう!」
大きな声でそう言うとアダン君はガバっと音がするくらいの勢いで頭を下げた。
そして、それ以上の速さで頭を上げて顔を真っ赤にして走ってギルドに戻っていった。帰り際に「でも、お前もあんまり無茶するんじゃねーぞ」と言っていた。
「うん、ありがとうアダン君」
父さんに続いて、アダンくんにもお礼を言われたな。同じように無茶するなっても言われたけど。
確かに少し無茶した気もするけど、ゲインさん死なずに済んで本当によかった。そうじゃなかったらアダン君は自分の父親が死ぬところを見せられていたってことだよね。僕はそんな未来が訪れないで本当に良かったと思い、心から安堵し家の扉を──あ、まずい。アリーチェがご立腹だ。
僕との魔力のつながりを通じて、僕が危ないことをした事に気付いてしまいプンプンになったアリーチェに平謝りした。
──お風呂からあがる頃には何とか機嫌を取り戻してくれた。よかった。




