第二十九話 真の目的の開拓
エンディング 真の目的の開拓
「倒れるぞー!」
僕が大声を出して、誰も居ないけど周りに注意を促す。
僕は新しい装備「斧」を手に入れて絶賛伐採中だ。最初振る時ちょっと怖かったけど、剣とは違ってスッポ抜けたりはしなかった。
同じ方向に切り倒して後で一気に持っていってもらう。ここに生えている木はちょっと特殊で、貴族の屋敷とかに使ったり特殊な武器へ加工したりするらしい。
僕がまた開拓しているのは、開拓チームが本来ここに来る理由となった一つである魔の森の面積を減らしながら、数キロ先にある世界樹までの道を開拓するためだ。
表向きは危険な魔の森を減らすだけの開拓ということになっているらしい。
僕が一人なのは少し森の奥に入り込んでいるからだ。開拓チームも森の外周で伐採中らしいけど、僕は一人でここに来ている。
木がメキメキと倒れると倒れる音があちこちから聞こえる。倒れた木の衝撃で少し地面が揺れる。
僕はボーンを生み出し、ボーンが握っている斧に魔力を通しながら伐採していた。その数二十体。
頑張ればもう少しいけるけど、完璧に制御できるのがこの数だからね。
開拓チームのリーダーをしている父さんから、他の人が巻き込まれないよう一人で行けと言われたから僕だけ少し森の奥で作業しているわけだ。
本来なら魔獣がいるこの森も、前回のスタンピードをおこした影響で暫くの間、魔獣は森の奥に引っ込んでると言うことだった。
この学校の恒例行事となったスタンピードだけど、アリアちゃんがスタンピードを起こして、魔獣が引っ込んでいる間全力で伐採をする。今後もこの流れになるらしい。
アリアちゃんがどうやってスタンピードを起こしているのかというのは、あっさりと答えてくれた。
アリアちゃんの世界樹は──と言うかここの世界樹以外は全てダンジョンを持っているという話だ。
ダンジョンそのものが世界樹が持つ魔法の一種で、普段は無駄に溜まった魔力を魔獣の姿に変えて、冒険者などに倒してもらうことでまた世界に魔力を巡らせることが出来る仕組みだと言っていた。その際、偶然にできるのがダンジョン武器だとかダンジョンが持つ創造魔法から創られているけれど、コレは世界の記憶奥底から浮き上がった物で本当に偶然でしか出来ないという話だった。
ちょっと話がずれたから戻すけど、契約者が無理のない範囲なら好きに魔獣とかは召喚できるらしい。それを利用してアリアちゃんのダンジョンからこちらの森に魔物を創る魔法だけを飛ばして、森に溜まった魔力を使用して大量の魔物を創ったそうだ。
別の世界樹があるのに出来るのかと聞くと、アリアちゃんが僕とアリーチェの補助をした時の繋がりはまだ解けてないから出来る裏技みたいなもんだよって言っていた。
最初学校に来た時いたのは樹脈を慣れさせるため、アリアちゃんがほとんどいなかったのはそのための準備だったということも教えてくれた。
魔獣が奥に引っ込むのは、その場所の魔力を大量消費することで一瞬だけ枯渇状態に陥らせることが出来るらしく。
魔獣はその状態になったことを敏感に感じ取り、森の奥へ逃げていくそうだ。そうして暫くは警戒して出て来ない状態を作り出すことができるとか。
前におじいちゃんから学校を作った建前を聞いたけど、裏の目的はこれだった。そして、それをなすための生徒というただに近い大量の人材の確保のために、平民も大勢生徒として入れたわけだ。
うーん、腹黒いなぁ。でも貴族ってこのくらいやらなきゃ駄目なんだろうな。もっとも恐ろしいのが誰も損はしてないって所だ。
「ルカー、運びに来たぞー」
まだ、姿が見えないけど大きな声が僕に呼びかける。この声はロジェさんだな。
「はーい」
僕は魔力結晶で出来たボーンと斧を魔力に還す。父さんとおじいちゃんから誰にも見せるなと言われたからね。
僕だっていい加減理解したよ、僕の魔法はちょっと変だってこと、だって誰もボーンどころか棒人間すら創り出してないもん。
多分見つかったらあの子変な魔法の使い方してるって陰口叩かれるんだろうな。そんなのは嫌だ、僕の望みは家族と平穏な日々を過ごすことなのに。
ロジェさんはもちろん事情を知っていて、わざと遠くから声を掛けてくれている。運び出すのに他の人もいるだろうからね。
「お、おー。張り切って切り倒したなぁ、ルカ」
「うん、まあね」
そりゃ、僕以外に二十体もいるからね。十回程度やっただけだけど効率は二十一倍だ。
十人位で来ていたみたいだけど、その中で灰色のケモミミがピコピコ揺れているのが見えた。
「あれ? ポチ君? こっち来たの?」
「ああ、王女さん達がお前が心配だとさ、森に入っていこうとしたから焦ったぜ。いくら安全だと言われてもな」
「だからポチ君来てくれたの?」
「ああ、仕方なくな。俺は別にお前なんか心配してねぇけどよ」
「うん、でもありがとう」
「……気の抜ける野郎だ」
僕とポチ君がおしゃべりしていたら、ロジェさんがやってきた。
「ポチキャニス殿、おしゃべりはそこまででお願いします」
「ちっ、お前のせいで怒られたじゃねーか……いってぇ! どんな石頭してんだよ!」
ポチ君は軽くペチンと叩いたつもりだったんだろうけど、手を押さえて痛がっていた。
「ご、ごめん。ポチ君」
「ぶふっ……ポチキャニス殿そろそろ行きましょう」
痛がるポチ君にロジェさんが笑いをこらえきれず吹き出した後、妙に取り繕った顔をした。
「俺に対しては畏まらなくて良いぜ。あんたもなかなかの腕前みたいだしな」
「あ、そう? じゃー楽でいいわー。これからよろしくな、ポチキャニス」
「……そうあっさり受け入れられると、なんか変な感じもするな」
ぶつぶつと言いながらポチ君は、落ちている直径五十cmはある丸太を軽々と五本ほど持った。
前世では運ぶための台車とかを用意するんだろうけど、この世界では人が運んだほうが早い。
物理法則なんて鼻で笑うくらい人が強い。
「さっすが、獣人族はすげぇな。俺達は三本が限界だぞ」
「まあな、力で負けていたら俺達一族の名折れだからな」
「ルカ、もう何往復かしないといけないから、それまで休んでていいぞ」
「うん、分かった」
僕は切り株に腰を掛けて静かに目を瞑った。
僕とつながっている魔力のラインを辿る。今はアリーチェはみゃーことお昼寝だ。みゃーこもここに来てからはアリーチェと一緒にお昼寝してくれるようになった。
僕がしばらく様子を見ているとみゃーこの目が開き、アリーチェをじっと見ている。そのままペロリと首筋を舐めると僕にまで感触が伝わったみたいビクリとしてしまった。みゃーこはそのまま「に」とだけ鳴いてまたすやすやと眠り始めた。
アリーチェの穏やかな寝顔を見て満足した僕はラインから意識を外す。
今のこの作業もアリーチェのためだと信じている。
多分、おじいちゃんはアリーチェの存在を隠すために、僕になにかさせようとしているんだろう。
僕にはおじいちゃんが学校を作った理由も、僕達のためだと分かったし、アリアちゃんと一緒に多分隠していることがまだまだたくさんあるんだろうとは思う。でも、それは僕達を守るためだと僕は信じよう。
例えそれが僕のためじゃなく、アリーチェのためだけだとしてもそれでいい。
アリーチェのためなら僕はなんだって出来る。アリーチェが笑って過ごせる日々が続くのなら僕は満足だ。




