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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第一章 物語は辺境から辺境へ
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第二十七話 リターン・ザ・スタンピード 1

 数日後何時ものように、おじいちゃんの魔術講座が始まるのかと思ったら、知らない人が入ってきて跪いた。

 ポチ君が言うには前に父さんにボコボコにされたポチ君をいいタイミングとばかりに追い出した、戦闘訓練をしてくれている先生の一人らしい。


「緊急の事ゆえ無礼を承知で、失礼いたします。ここには防音が掛けられていますので、聞こえはしなかったでしょうが全校生徒のグラウンドへの集合が辺境伯閣下より伝えられました。皆様方も移動するよう閣下より伝言するようにと命令されました」

「わかったよ。ご苦労さまだったねぇ」

「はっ、有難き言葉。では私はこれで失礼いたします」


 ファニオさんが代表して、先生に了解を伝えると先生はすぐに出ていった。


「おいおい、何だ? いい匂いがしてきやがったぜ。戦闘の匂いだ」


 ポチ君が鼻をスンスンと鳴らして舌舐めずりをしている。尻尾もピーンとしている。

 それをラムアリエスさんとタツキさんに下品だと注意をされて、尻尾がだらーんとしていた。


 

 僕達がグラウンドに行く頃には、全校生徒が集まっているようだった。武器も持ってて緊張がこちらにも伝わってくる。

 森に向かって盾と剣を持っている生徒達が前列、杖を持っている生徒達が後列に整列していた。それ以外の生徒、女性ばかりだから多分非戦闘員かな? その生徒達はバタバタと水や包帯などを用意して救護の準備をしていた。


 取り敢えず隣にいたポチ君に聞く。


「いきなり何が起きてるの?」

「俺が知るわけ無いだろ。だがな、この匂いは分かる。スタンピードの匂いだ」

「えっ!?」


 僕は二年前のフォレストウルフの襲撃を思い出した。それと同時にあの悪魔の顔もだ。

 

 おじいちゃんが全生徒の前に立ちよく通る声で語りかける。


「よく聞け。これからスタンピードが起こることは先程伝えた通りだ。これからお前達を魔獣の群れが襲う」


 その言葉で集められた生徒達は騒然とした。


「落ち着け! お前達を襲う魔獣は角なし角うさぎ(ノンホーンラビット)の群れだ。ダンジョンの魔物であるコイツらは統制など取れはしない。ただの群れだ。何故今から襲ってくる魔獣が分かるのか? それはこれが人工的に起こされたものだからだ」


 やっぱり、あの悪魔がまた──と思っていたら全然違っていて犯人はもっと知っている人だった。


「このスタンピードはハイエルフ殿が我々のために用意してくださったものだ。逃げることは許さん。制限されたスタンピードなどただの糧にしろ、貴族として、騎士として、兵士として、冒険者として他人より優れたければ戦え!」


 おじいちゃんのその言葉で少ないながらも「おー!」という声が上がった。その声を上げたのは貴族がほとんど平民はただ怯えていた。 

 後ろから見ているからよく見えるけど、その中でも赤い髪のアダン君はよく目立ち、怯えず貸し与えられた剣を大きく上げて声を上げていた。 



「貴様らの後ろを見てみろ、私自らが冒険者協会に願い貴様らが死なないよう手配した。それでもまだ怯えるか!?」


 後ろをずらりと屈強な人達が並んでいた。あ、父さんもロジェさん達もいるな。

 それを見た生徒達は先程よりはかなり多く前に声を挙げなかった生徒も怯えながらも自分をふるいたたせるように「おー!」という声が上がる。

 ただそれを気に入らなかったのか冒険者の人達が大声を上げた。


「声を上げろ! 恐怖など声と一緒に吹きとばせ!」

「貴様らも戦士になるのだろう! 声を出せ!」

「貴族として恥ずかしくないのか! 張り上げろ!」


 口々に叫んでいたけれど、一人一人が生徒達が合わせて上げた声より遥かに大きかった。

 それに受けてようやく全員が声を上げてどうにか恐怖をごまかしていた。


 そして、森の奥からアリアちゃんが出てきて腕を上げると夥しい数の白いうさぎが現れる。

 でも、僕の膝くらいまではあるけどただのうさぎにしか見えない。


 僕は見てもなんとも思わなかったけど、生徒達は少し恐怖が戻ってきたみたいでまた声を張り上げてごまかしていた。


「ほんとにノンホーンラビットだけかよ。くっそ期待して損したぜ。俺は下りる」

「あれってただのうさぎじゃないの?」

「ああ、見た目はちょっとでかいうさぎだな、最弱の魔獣だ。流石にただのうさぎよりは遥かに強いがな」


 ポチくんが眼の前の魔獣について軽く教えてくれると同時にすぐ近くの空間に違和感を感じる。


「下りるも何も君とルカ君は参加禁止だよ」

「うわっアリアちゃん!? いきなり転移してこないでよ」


 僕の横にいきなりアリアちゃんが現れたので流石に驚いた。アリアちゃんは「ごめんごめん」と軽く謝っていた。ポチ君はフンッと、冷静そうにしていたけど尻尾の毛は逆立っていた。


「どういう意味だ。参加禁止ってのは」

「どうって、そのまま言葉通りだよ。君達には倒しても何の意味もない魔獣達だからね。僕もつまらないけどなんとか量を出すことで、このヒューマン達がどんな変化をもたらすかという事に少し興味が湧いて、動くことが出来た。本当は君達ですら苦労するレベルの魔獣を呼びたかったんだけどね。辺境伯君に止められちゃったんだよね」

「おじいちゃんが?」

「そう、いきなり死人が出るような事は駄目だってさ。まあ、これだけ出せばこのレベルの魔獣でも本来の目的は果たせるから良いけどさ」

「死人はそりゃ駄目でしょ。って、本来の目的?」


 死人が出るような魔獣を呼び出す予定だったの? 思い止まってくれて良かった。ありがとうおじいちゃん。


「ああ、この程度で僕が動けたのはそのおかげもあるんだよね、魔獣が倒されたら分かるよ。えっとそうだね、そこの君は直接手を出さなければ、君達双子は参加してくれてもいいよ」


 セレスさんと双子を指さしてアリアちゃんはそう言った。セレスさんは少しためらったけど、こくんと頷いて、双子は二人で見つめ合って少し震えてた。それはそうだろうまだ身体強化も使えない二人だ。弱いとポチ君は言ってたけど魔獣の群れだ。怖いに決まっている。


「じゃあ、ウチらはなんもすることなかと?」

「今回はそうだね。その三人とルカ君以外は別にどっか行っててもいいよ」

「俺は見るぞ」

 

 見るといったのはポチ君だけで後の人達は──。


「あ? そうなん? じゃあ、ウチは怪我したもんにいい薬でも売っちゃるかな。おっさんも武器の打ち直しくらいしたったら?」

「誰がおっさんじゃい。でもまあええわい、やってやろう。行くぞ魚」

「魚じゃないんやけどなぁ」


 そう言ってオルカさんとドドンドンさんは救護班の方へ、ラムアリエスさんとタツキさんは、タツキさんが「人混み気持ち悪い」と言って吐きそうだったので救護の手伝いへ。ルルくんはいつの間にか消えていたと思ったら後ろの校舎の屋根に登って腕組しながら見下ろすようにこちらを見ていた。


 おじいちゃんのアリア殿よろしくお願いしますというと、うさぎの前に戻ったアリアちゃんが腕を前に出し、ノンホーンラビットは一斉に動き出した。


 そして、戦闘が始まったけど、それはまあ酷いものだった。陣形なんて何も機能せず、ただ個人で戦っているだけ。

 援護の魔術も見当外れの場所に発動させていた。流石に貴族様っぽい隊が何個かは統制が取れているらしく余裕を持って戦えてはいたけれど、少しずつ数の多さに押されているみたいだった。

 倒したノンホーンラビットは何かキラリとしたものを残すだけで、死骸とかは残らず消えていた。

 ノンホーンラビットの突撃を受けて倒れた生徒は、補助に来ていた冒険者みたいな格好の人達が助けて救護班に預けられていた。

 

 僕達は言われた通りここから、ただ戦いを見てるだけだった。


「あー、やっぱ見てるだけってのはつまんねぇな。それに戦っている奴らもそろそろパニックを起こすぞ」


 ポチ君が言うように確かに最初の頃と違って押され始めたせいで、皆の表情に強い恐怖が宿ってきている。

 きっかけ一つで崩壊しそうだ。


「ああああああ‼」と叫ぶようなそんな声が聞こえたと思ったら、男子生徒が一人突進していった。


「あーあ、やっちまったな」


 ポチ君はそうつぶやき、無謀な突進した生徒は数匹ノンホーンラビットを倒した後に横合いから体当たりを受けて、地面に転がった。そこを集中攻撃され冒険者が助けた時には生きてはいるみたいだけど、腕とかがあらぬ方向を向いていた。


 その姿を見た生徒達はついにパニックを──『皆様、冷静に戦いを』この騒然とした最中なのに、鈴のなるような声が静かにだけど戦場中に響き渡るという矛盾を起こしていた。セレスさんの声だ。

 それだけでパニックが落ち着き、少し統制が取れて戦えるようになっている。


『大丈夫です皆様は強い。頭は冷静にそして心と魔力は熱く、それを魂に刻めば眼の前の敵など弱者にすぎません。さあ私が手伝います。皆様行きましょう』


 その言葉を受けると目の前の個であった集団はうって変わり、本当の意味での集団へと変わった。

自らを奮い立たせる悲痛な叫びから、共鳴するように集団の雄叫びへと変わり「おおおお!」と地響きのような揺れを感じる声へと変わった。

さらに先程とは打って変わって陣形が組めるようになり拮抗するようになった。


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