第二十六話 授業は少なく、おしゃべりは多く、僕は困惑 5
「そっかー。じゃあ関係ないかな|魔力構造が半分ずつなのは」
人って右半身と左半身で対称的な魔力構造をしているんだけど、あの双子は一人の魔力構造を二人で分けたような感じになっている……と思う。実際に魔力を通したわけじゃないから詳しいことは見えてるわけじゃないから分からないけど、僕のなんか別の感覚ははそう感じている。
半分ずつって言っても魔力構造が少ないってわけじゃなく、二人の構造が鏡写しのような特殊な感じ。
そうだなぁ、二人は対の蝶の羽を一人ずつ持っているみたい感じかな。人の形をした蝶の羽。
ガタン! と激しい音がしたのでそちらを見ていみると、椅子を蹴飛ばすようにおじいちゃんが立ち上がっていた。
「……」
「ど、どうしたの? おじいちゃん」
「……いやなんでもない。一応、お前が思いついたことを聞こう」
「うん、ほらあの二人、今表現は思いついたんだけど二人並んでみると、魔力構造がまるで人の形をしたような蝶の羽模様みたいだよね」
「……うむ」
「だからさ、そんな構造の双子だから二人で一緒に魔法を使うのかなって思ったんだけど、ちゃんと生活魔法使えるなら違うかなって」
「いや、良い線行っているかもしれん。生活魔法こそ例外だからな。王城では確かバレないために別々でしか訓練はさせてないはずだ。試して見る価値はあるお前にまかせても良いか?」
「うん、別にいいけど。最初はおじいちゃんが教えたほうが良いんじゃない? 僕が言うと僕が双子の秘密を知ってることになるよ」
「む、それもそうか。ならば明日からそれとなく授業に紛れさせるか」
「わかったよ。教室に戻るね」
「ああ、お前も協力してやってくれ」
僕はうんと返事をして、教室に戻った。
残ってるのは、相変わらず王族の三人だけだった。うーん自由!
双子は集中して魔力を練っているようだったけど、体の端から魔力が抜けて行っていまいち体に行き渡っていないみたいだ。
自分の席に戻るとセレスさんが嬉しそうに近付いてきた。本当にただ話すのが嬉しいみたいで無下に出来ない。
だって今までの話し相手が、歴代のぬいぐるみだって言われたらそりゃ無下に出来ないでしょ。
ただ、距離が近すぎるのは勘弁してほしいな。最近ちょこちょこと耳に唇が当たってるんだよね。
もちろんわざとじゃないんだろうけど、いっぱい話ししている時に少し当たるくらいだから気付いていないだけなのかもしれないけど、それでももうちょっと気を付けてほしい。女の子なんだからさ。
またお話してる時に唇が当たったから、そのことを注意したら真っ赤になって唇を押さえながら『エッチ』とだけ言われた。そんな事そんな顔で言われたら僕だって年頃の男だ。
こう、こみ上げるものが……うん、一切ないな。
あれ? 前世と合わせてたら結構なおっさんになるから欲が減退した? でも一切ないのはおかしくないかな。
僕が自分の性の目覚めなさに疑問を浮かべていたら、教室に設置された時計が下校の時間を教えてくれた。
次のおじいちゃんの授業では親しい親族が起こせる魔力の共鳴のことを、話し始めた。
血が近ければ近いほど魔力は似ている、魔力共鳴で不思議なことも起きると。
ある者が魔力の居所が悪くて泣き喚く妹に魔力の共鳴で動かして落ちつかせた話とか、ある者が魔力が世界と同化しかけて死にかけている時に両親の魔力によって形を取り戻し元に戻ったとか、巫女の才能があるけれど、聖木と繋がるのが苦手なハーフエルフの妹が才能を持っていない兄との共鳴で出来るようになった話をリアルに話してくれた。……って、そりゃリアルだよ! 設定を少し変えてるけど全部僕のことじゃないか! しかも最初の話はそこにおる者のことだ、ってばらすし!
本当は全部僕だけどね!
でもその話が功を奏したのか、二人で一緒に魔力を高めようとするところまでは来たけれど、うまくはいかないみたいだった。
ただ、手応えが少しあったらしく、双子は僕にその時どんな風にしたのかと聞いてくるようになった。
僕は魔力を繋いでやるとか、触れて促してやるとか教えたけどいまいち飲み込めていないみたいだった。
まあ僕もなんとなくでやってるようなものだから感覚でこうだったとしか教えてあげられないから申し訳ない。
「うまくいくか、分からないけど一度僕が二人の魔力を繋ぐのを試しても」と言うと、一度は了承されたが、体に触れようとすると飛び跳ねるように避けられ、「王族として触られるのは」と、断られてしまった。
でもそれから、二人は諦めず、自分達でずっと練習をしていた。
なにかきっかけがあればと僕は眺めていたけど、そう言えば本来の双子のきっかけとして願われていたその存在が入学式以来見ていない。
今こそ質問するときだと思うのに、一体どこに行ったんだろう。
アリアちゃんが姿を見せるのは、これからしばらく後、全校生徒が魔の森が遠くに見える場所にあるグラウンドに集められたその日だった。




