第十一話 祭りと別れと旅路 6
休憩は僕が、六人分ブロックで座れる場所とコップを作って水を配った。固くても少しでもマシなように、ブロックは座る部分をお尻の形にへこませた。
そこで軽く馬車の点検をしていた御者の兵士さんが戻ってきたので、水を渡そうとコップを作ろうとしたら父さんから、「水筒に入れてやれ」と言われた。
兵士さんは腰につけていた水筒に残っていた水を飲み干してこちらに渡してきたので、水を補充したら兵士さんは「ありがとうございます」と敬礼付きでお礼言ってくれて、見回りがありますのでと出かけていった。
「水入れただけなの敬礼までされちゃった」
「あー、作戦行動中は出来る限り魔力を使いたくないからな、こうやって入れてもらうとありがたいんだよ」
「へーそうなんだ。ちょっとでもだめなんだね」
「……ちょっとだけなら良いんだけどな」
あの程度の水ちょっとだし、外の魔力を取り込めばすぐに回復するよね? と思っていたら、トシュテンさんがやってきて僕に声を掛けてきた。
「ルカ君、旦那様がお呼びです。来ていただけますか?」
「あ、はい」
呼ばれたのでトシュテンさんの後ろからついていく、僕だけ呼ばれたけどアリーチェが一緒に行きたそうだったので許可をもらって抱っこして連れて行く。
「アリーチェ休まなくても大丈夫?」
「うん、ありーちぇげんきなの」
さっきも言ったけど本当に疲れてないみたいだ。うん、僕の制御も捨てたもんじゃないな。長時間の馬車移動も魔力さえちゃんと制御していればこの世界の人達はびくともしないみたいだ。
トシュテンさんに着いていくと陣幕の中で座っているおじいちゃんとおばあちゃん、その前で護衛をしている兵士さんが数人いる場所に着いた。
「旦那様、ルカくんをお連れいたしました」
「ああ。ルカよ、今から食事の準備をするが、兵に無駄な魔力を使わせないため必要なものはお前が出せ、いいな」
「はい、カリスト様」
おじいちゃんは、兵隊さんの前だから硬い表情と喋り方になっているので、僕も敬語で返す。
トシュテンさんがやることを指示してくれたので、言われた通りに土魔法で簡単な竈を創ってから火魔法をその中に創り出し、樽と既に切った野菜などが入った寸胴に水魔法を入れて竈に置いた。
僕の胸の高さまである寸胴は竈において水入れればよかったと思ったけど、身体強化が掛かっているこの体には軽いものだった。
これは言われてないけど寸胴のそこが焦げると嫌なので、もう一つ竈を作って今度はさっきのより弱い火を創り出して弱火ならこちらに掛けてくださいと言った。
そして、僕が準備をしているその時間中はトシュテンさんが抱っこしてくれていたので、トシュテンさんからアリーチェを返してもらって終了だ。
「おおー」という、兵士さん達の声が聞こえ少し拍手もされた。本当に魔力って無駄に使いたくないんだね。
魔力使っちゃって外の魔力吸収中だったりしたら、とっさの時にワンテンポ動作遅れたりするのを嫌がるのかな?
流石はプロということかな。
「ご苦労だった。後は兵達に任せてお前は戻って良いぞ」
「わかりました」
「では、行きましょうルカ君」
「あ、はい」
帰りも案内するんだ。ここから父さん達見えてるし、近いから別にいいんだけど。そんなことを思っていると少し歩みを遅めたトシュテンさんが声を掛けてきた。
「旦那様。とても自慢気でしたよ」
「えっ、そうだったんですか?」
「ええ、ここまで出来る人はなかなかいませんからね」
「そうじゃなくって、兵士さんの前だからずっとむっつりしてたのに」
「ああ、流石にわかりませんか、旦那様の目尻がピクピクしていたでしょう? あれは顔が緩むのを我慢していたんですよ」
思い返すと、確かに魔法を使うたびにピクピクしてた気がする。
なるほどあれは我慢してたのか。
「ルカ君を呼んだのも兵に見せるためもありますが、自慢したいという気持ちもあったのでしょうね」
「ありーちぇのおにいちゃんはすごいの」
「そうですね、アリーチェ。あなたのお兄ちゃんはすごいんですよ」
「や、やめてくださいトシュテンさん、大したことしてないのに持ち上げないで」
アリーチェに褒められるのは単純に嬉しいけど、トシュテンさんみたいな何でもできそうな人に言われると、さすがに恥ずかしい。
僕が照れながらそう言うとトシュテンさんは穏やかな顔に、笑顔を浮かべて上品に笑っていた。
移動を続けていると途中で、冒険者を雇った貴族の馬車が盗賊に襲われている所に遭遇……ってなこともまったくなかった。……そもそも、冒険者を雇っていて、しかも貴族の馬車を盗賊が襲うわけもなく、襲われたとしてもそれは貴族同士の争いで偽装してる場合がほとんどで大きな戦闘になるらしい、そんな事をおじいちゃんの領地でやるとどんな貴族であろうともただでは済まないと父さんが教えてくれた。
そんなわけで何事もなく順調すぎるほど順調に馬車は進み、やることと言えば食事や休憩の度におじいちゃんに呼ばれて同じ様に生活魔法を使ったり、アリーチェに竜探究RPGをやらせてやるくらいだった。人形劇以外でこういった魔法をロジェさんに見せたのは初めてだったせいかちょっと驚かれたよ。僕の魔法も少しは自慢しても良いのかな?




