第十話 祭りと別れと旅路 5
門を抜けしばらくすると空気が変わる。いや、空気じゃないな、これ魔力が変わったのか。
あの村にあった聖木の魔力が無くなった。これが外の魔力か、いつもとは違う魔力を感じ、僕は初めての意味で村の外に出たんだなと思った。
その時、アリーチェが大声で泣き出して、僕の膝に乗り腰に腕を回してお腹に顔をうずめるようにベッタリとくっついた。僕は最初、村から離れるのが寂しくなったのかと思ったがどうも様子がおかしい。
「ど、どうしたんだ。アリーチェやっぱ寂しくなったのか?」
父さんも僕と同じことを思ったらしくアリーチェに聞くけど、アリーチェはブンブンと違うと言う様に首を振った。
母さんはアリーチェが座っていた場所に移動してアリーチェをなだめるように頭を撫でながら話しかける。
レナエルちゃんも「アリーチェ大丈夫?」と心配してくれていた。
「ほら、アリーチェ。母さんのお膝に来ておねむしなさい」
「やー‼」
ここまで感情が高ぶったら母さんの膝が一番の特効薬なのに、今日はそれも嫌がっていた。
何がアリーチェに起こっているのかと思っていたらその答えはアリーチェ自身の口から出た。
「こうしてないと、にいたんわからないの! わからないのいやなの!」
「あっ、そうか!」
「ルカ、なにかわかったの?」
母さんがそう聞いてくる。まだ確信はないんだけど多分──
数分後、落ち着いたアリーチェは泣きつかれたのか母さんの膝ですやすやと眠っていた。
その横で眠ってるアリーチェをレナエルちゃんが優しく撫でてくれている。
また、いつの間にかに現れたみゃーこも寄り添ってくれていた。
「ルカ、どういうことだ? 説明してくれ」
「村から抜けたから聖木様の魔力が届かなくなったせいだよ」
「それじゃわからんぞ? 詳しく説明してくれ」
「アリーチェは聖木様の魔力を無意識で利用して、僕を見てるってアリアちゃんから聞いたよね。だからそれが途切れたから……」
「そうか。魔力がなくなったからお前がわからなくなったのか」
「そう、だから今は僕からアリーチェと魔力をつなげたから、それで落ち着いたわけだね」
「魔力を繋げるというのが、俺にはよく分からんがアリーチェが落ち着いたのならそれでいいか」
これもアリーチェが世界樹と繋がる補助をしていたおかげだ。触れてないと途端に制御が難しくなるけど、今までの補助の応用で離れててもなんとか魔力のラインを繋げることが出来た。
もしかしてアリアちゃんはこれも見越して僕に世界樹と繋がる補助をさせていたのかな? そうだよね、アリーチェのことだから普通に受け入れていたけど、よく考えてみると村にはウルリーカさんという巫女様がいたんだからウルリーカさんに補助を頼んでいたほうが確実だったじゃないか。
でもこれじゃ学校に通う間、大丈夫じゃないよね。学校が始まるまでにもっと練習して距離が離れても繋がれるようにしないと。
何も無いと遠くは厳しいかもしれないけど、アリーチェがいつもつけている僕の魔力結晶があるので、あれを目印に何とか魔力のラインを形成してみよう。
僕が解決方法を考えている間も馬車は順調に進んでいった。
感覚的に三時間くらい進んだら、馬車が止まる。
何かな? と思っていたら御者席の兵士さんからノックの後、声が掛かる。
「開けた場所に着きました。今から休憩と食事に致しますので、馬車から降りてください」
父さんが、「分かった」と代表して答えてからみんなで立ちあがる。
外に出ると屋根だけのテントのような物で休憩所が作られていたので、あれかな? と行こうとしたら父さんに止められ「あれは親父用だ、俺達は自分たちで用意するんだぞ」と教えてくれた。
僕は別に休憩しなくても平気だったけど、母さんやレナエルちゃんは疲れていたのかホッとしていた。
アリーチェは、起きた後は泣いたことも忘れたくらいに元気だった。今も疲れを見せてはいない。
馬車の中で父さんが、身体強化を長時間掛けるよりも、魔力を纏うだけの方が消費も少なく長時間体を疲れにくく出来ると教えてくれたので、僕がこっそり魔力を制御して疲れないようにしてたからなんだけどね。
少し離れた場所で他の人達も降りて集まっていた。開拓に従事していた人達は平気そうだけど、その奥さんや子供達は少し疲れているみたいだ。アダン君は平気だったみたいですごく元気そうだ。
母さんも魔力で覆ってはいたけど、「私、制御がねぇ」と制御に疲れたみたいだった。
レナエルちゃんはいつの間にか身体強化も魔力で覆うことも出来るようになってたみたいだけど、どちらもずっと続けることはできないみたいで、制御的にも肉体的にも疲れたみたい。
僕や父さん、ロジェさんはずっと開拓作業してたから長時間制御は慣れたもんだよ。まあ、今、僕は身体強化切れないし特に意識して魔力制御はしてないんだけどね。




