第九話 祭りと別れと旅路 4
おじいちゃんに抱っこされたまま村長宅に入って、今日は三人でお風呂に入った。ここのお風呂場は広く、アリーチェも楽しそうにはしゃいでいた。僕も足どころか手まで伸ばしても届かない大きなお風呂は今世では初めてだったので、堪能させてもらった。
途中、アリーチェがおねだりしてきたので、魔力結晶を光らせてあげた。
おじいちゃんは虹色に光るそれに最初は目を白黒させていた。それから、おじいちゃんが自分にも出来るかと聞いてきたけど、アリーチェが僕以外に触らせるのを極端に嫌がるので試したことはなかったので分からない。
今回もおじいちゃんが頼んだけど泣きそうな顔をしたので、おじいちゃんはすぐに諦めていた。
アリーチェが自分だけで光らせることは出来ない。でも、僕が補助してやることで色を変えることは出来ないけど、なんとか光らせるだけは出来ていた。僕が手伝っているといっても自分で出来ることが嬉しいらしく、光らせている時はいつもニコニコしているので、見ているだけで僕も嬉しくなっちゃうよね。
楽しいお風呂の時間も終わり、今日はそのままここに泊まることになった。
父さんと母さんに言っとかないと心配するかもと思ったけれど、ちゃんとトシュテンさんが伝えていたらしく、心配いらないとおばあちゃんと一緒に帰ってきた時に教えてくれた。
村長宅の大きなベッドで僕達は目を覚ましたけど、一緒に寝ていたおじいちゃんは既に起きていていない。
目を擦るアリーチェを抱っこしてリビングまでいくと、トシュテンさんが入れた紅茶をおばあちゃんと優雅に飲んでいた。
あ、トシュテンさんがいつもの村人の服じゃなくて、執事服に変わってる。いつもの服のほうが違和感感じるほど執事服がよく似合っていた。
「お? 起きたか」
「ルカもアリーチェもおはよう」
「おはよう。おじいちゃんおばあちゃん、トシュテンさん」
「おあようごじゃます」
アリーチェはまだ眠いのか言葉ははっきりとはしないながらもちゃんと挨拶をしていた。えらいね!
トシュテンさんも頭を下げて「おはようございます」と返してくれた。
おじいちゃんの妻役でハーフエルフのおばあちゃんは、本当はトシュテンさんの奥さんだ。前の旦那さんとの娘が本当のおばあちゃんで、おばあちゃんはひいおばあちゃんだったけど、本人もそれでいいと言うのでおばあちゃんと呼んでいる。
この村に来てからは、トシュテンさんとだいたい一緒にいる。仲がいいよね。
「まだゆっくりしていて良いんだぞ。出発の準備は兵たちに任せておけば良い」
「全部任せて本当にいいの?」
「ああ、かまわん。お前達の荷物も昨日のうちに積み込ませた。挨拶回りも済んでるんだろう?」
「うん、二日前にみんなで回ったよ」
「ならゆっくりしておけ、それとも最後に会いたい者でもいるのか?」
うーん誰もいないなぁ、結局村の子とはアダン君以外にはそこまで仲良くならなかったし、そのアダン君も一緒に来るからなぁ。
「特にはないかな、今日出発するって知ってたからちゃんと話したい人とは話したから」
「そうか、ならエドワード達が来るまでゆっくりするといい」
「そうそう、昨日は旦那様に取られちゃったから、私もひ孫を可愛がりたいわ」
そう言っておばあちゃんは嬉しそうなアリーチェと一緒に、前世だともう女の人に抱き上げられる体重じゃない僕を、軽々と抱き上げた。
おばあちゃんにたっぷりと可愛がられて、ちょっと気疲れした僕をねぎらうようにトシュテンさんがお茶を入れてくれた。
お茶を飲んでいるとみゃーこがいつの間にかいたので、肩に載せて水を飲ませながらアリーチェと一緒に撫でていると、扉がノックされて父さんと母さんが入ってきた。
父さんはやっぱり沢山飲まされたらしく、少しお酒が残ってるみたいだった。けど、雰囲気はなんだかスッキリしているね。
母さんを見ると、同じ様にスッキリした雰囲気と肌もつやつやして──あっ! いや、なんでもないよ。僕は何も気付いてなんかいない。何も気付いていないけどお風呂のお湯を抜いてなくてよかった。
一人で勝手に気まずくなったけど、気を取り直して馬車に乗り、村のみんなに見送られながら馬車は出発する。
持っていくのは服とか旅の途中に使う身の回りの物や思い出の品とかだけで、それ以外は全部引越し先に用意してあるから置いていく。
それは僕達以外にも、アダン君家族も含む父さんに着いてきてくれる人達も同じらしい。
僕達の馬車は他の幌馬車と比べて、少し豪華な大きめの箱馬車でしっかりとした木製だった。
その中は結構広く、僕が真ん中で窓側にアリーチェ、扉側にレナエルちゃん。前には窓側から母さん、父さんとロジェさんで座っているんだけど全然窮屈じゃない。この馬車の御者はおじいちゃんの兵隊さんがやってくれている。
トシュテンさんがいないのはおじいちゃんの馬車にいるからだね。
馬車は意外と揺れない。何か特殊な作り方でもしてるのかな? 座る場所もクッション性があってこれならアリーチェのお尻もすぐには痛くならないだろう。
みゃーこはさっきまでいたけど窓から出ていった。みんな一瞬焦ったけれどみゃーこなら大丈夫だろうという不思議な安心があったため、僕がみゃーこなら大丈夫と説得したらみゃーこのことなら僕が一番わかるだろうと納得していた。




