第七話 祭りと別れと旅路 2
「──では、辺境伯様とトレイム村の完成と収穫祭の開催に乾杯!」
長いお話もようやく終わって、新村長を引き継いだヨナタンさんの乾杯でお祭りが始まった。
父さん達は最後のお祭りで付き合いのために色々と回ってくるらしくもうここにはいない。
出る前に「はあ、あんまり飲ませられないと良いがなぁ」とぼやいてから出ていった。
おばあちゃんは少し離れた所でトシュテンさんに世話をされながらゆっくりお酒を飲んでいた。
本当は二人が夫婦なんだけど、他の人の目があるから仮の立場でやらないといけないので、執事みたいに世話するしかないみたいだけど、それでもトシュテンさんはなんだか楽しそうだった。
「ふぅ、疲れた。毎度のことだが俺の手紙を俺が読んで、俺が補足しているのは間抜けだよなぁ」
「そう? 結構面白かったよ」
「そっか、面白かったか……そりゃ間抜けってことだよな。ルカ?」
おじいちゃんの席は特別に用意されている席で、僕達が一応世話役として横に席が用意されている。おじいちゃんは、ぼやきに答えた僕を笑いながら頭をがしがしと撫でた。おじいちゃんは顔や喋り方もだけど撫で方も父さんそっくりだ。多分父さんもこうやって撫でられてたから同じ様になったんだろうか。
「ルカもアリーチェもちゃんと沢山食べてるか? 今日のために馬車数台分の食い物も持ってきたんだぞ」
今、村の広場は大変なことになっていた。まるで前世のお祭りの屋台みたいなのが立ち並んでいる。そこで調理しているのはここに来る事になった人も含めておじいちゃんの兵士総出でやっていた。もちろん村の人達も手伝ってるけどね。
「うん、すごいよね。でも僕あんまり食べられないよ」
僕は前世と比べてすっかり少食になってしまっていた。今はきっちり三食食べてはいるんだけど父さんの半分も食べれない。
ずっとあまり食べずに来たからなぁ、胃がちっちゃくなったんだろう。体はスクスク育ってるから気にはしないけどね。
「そうか? じゃあ好きなものだけ少しずつ食べればいい、肉や魚も果物も持ってきている。特に魚は珍しいだろう?」
「あ、川では見たことあるよ」
魚か! 食事では出てきたことないなぁ。言った通りちっちゃいのなら村の細い川でたまに見かけるけどね。
「アリーチェもお魚食べる?」
「おにいちゃん。おさかなってなに?」
お散歩に連れて行った時にちょっと見たはずだけど覚えてないか。よし、ちょっと生活魔法で創ってみるか。
海……は前世でしか知らないはずだから、水魔法で空中に川みたいなのを創って、絵本に出てくるような簡単な小さな魚を数匹分土魔法で創る。呪いが解けて以来、なぜ出来なかったのか分からないくらい色々な形に出来るようになったけど、流石に本物そっくりとまでは流石にまだ出来ない。
「こうやって、お水の中を泳いでいるのがお魚さんだよ」
川の流れに逆らうよう泳がせてたまにパシャンと水面上に出す。土魔法と言っても石にしてるから水に溶けないよ。
「あ、おさんぽのときにみたの、これがおさかな?」
「うん、それだよ。おじいちゃんが持ってきたてくれたのはもっと大きいのだよ。ね? おじいちゃん」
「──」
「おじいちゃん?」
「あ、ああ、そうだな。ただ川で取れたんじゃなく、お前達は知らないだろうが海っていうもっともっと水が多い所で取れたやつだぞ」
「おみずいっぱい? おふろくらい?」
「それよりもーっといっぱいだぞ」
おじいちゃんは僕の生活魔法をじっと見ていたから、すぐには呼びかけに気付かなかったみたいだ。それとやっぱり今の僕は海を知らないで正解だった。
それで川と魚を魔力に戻してから焼魚──生からではなく干物──を持ってきて一口食べると美味しいことがわかったので、フォークで身をほぐして小骨まで取ってからアリーチェにあーんしてあげる。うーん、こういう時は箸が欲しいな。
アリーチェは「おさかなさんたべちゃうの?」とかは言わない。僕があーんしたものは取り敢えず口に入れてくれる。
「おさかなおいしい!」
「うん、よかったね。ほらおじいちゃんが持ってきてくれたんだよ?」
「おじいちゃんありがとう!」
「いいんだよ、そうかうまいか」
「うん!」
おじいちゃんは好々爺モードになって、アリーチェを膝に乗せて魚を食べさせ始めた。
魚かー、みゃーこは普通の食べ物は食べないけど魚だったらどうかな? 猫だし。
そんな事を考えてたら、──脛にすりっとした感触を受けて下を見るとみゃーこが来ていた。
魚につられて来たのかな? やっぱり気になる?
「みゃーこ食べるの?」
みゃーこにもほぐした魚を与えると「に」とだけ戸惑ったように鳴いて一口で食べる。
もぐもぐしてたけど、不機嫌そうな顔をしてそのまま去っていった。
本当につられて出てきたみたいだった。本能に負けたとかかな?
「ん? ルカ今何かいたか?」
「ああ、ちょっと前から住み着いた猫だよ。気まぐれだからいたりいなかったりするけどね」
「なんだ猫を飼い始めたのか? 行商人からか? 欲しかったなら俺が由緒正しい血統のやつを連れてきてやったのに」
「いやいや、飼おうと思って買ったとか、拾ってきたとかじゃないんだ。いつの間にかいてそのまま居ついただけ」
「ほー、こんな場所に猫がいるなんて珍しいな」
おじいちゃんはアリーチェに魚を食べさせながら僕と話していた。話しながらも小骨とかは完璧に取り除いているのが見えた。
ここは父さんとは違ってるな、雑じゃない。
「それにしてもお前達すごい塀を作ったな、兵がざわめいていたぞ。俺ですら少し気圧された」
「え? でもおじいちゃんから許可貰ったって父さん言ってたよ」
そうでもなきゃ、勝手に塀なんて作れないよね。
「もちろん許可は出した。だがなぁ見た目こそ単純な出来だが、あの重厚さは相当のなものだぞ」
「厚いほうが安全かな? って思ってね。村の人も安心感があるって結構評判いいよ」
「そうなんだが……まあ、問題はなかったのなら良いか」
おじいちゃんは呆れたような声を出したけど、それ以上特に言うことはなかったみたいだった。
「おなかいっぱい!」
あれからおじいちゃんは肉やら珍しい果物やらを兵士さんに持ってこさせ、ちょこちょことアリーチェに食べさせていた。
僕も少しずつもらったけど、こんないっぱいの種類食べたのはこっちで生まれて初めてだ。
アリーチェはおじいちゃんの膝から僕の膝に戻って来て、ぽんぽんのお腹で満足そうにもたれかかってきたので、僕は受け止めながらアリーチェのぬくもりを感じながら頭をやさしく撫でた。




