第六話 祭りと別れと旅路 1
村に入ってきた馬車数台を村の人達総出で歓迎しながら迎え入れると、多分おじいちゃんが乗っている豪華な馬車以外は村の広場に入る前に止まり、おじいちゃんの馬車だけ広場に入っていった。馬車の中から仮の身分「辺境伯の使者カリスト役」として腰が曲がった演技をするおじいちゃんと、見た目は二十代にしか見えない「カリストの妻役」のおばあちゃんが一緒に降りてくる。
村のみんなも馬車について行ったので、自然と村の広場でおじいちゃんの前に集まる形となった。
そして、そのままおじいちゃんは壇上に上がる。
おばあちゃんは、トシュテンさんに連れられて僕達のところまで来た。
「久しぶりね、みんな元気そうで良かったわ」という簡単な挨拶だけをしておばあちゃんも僕達の横に並んだ。
おじいちゃんが村に来て休憩も何もせずに始まったのは、理由があった。
「出迎えご苦労。私のもとに辺境伯様がこの村のために書かれたお言葉がある、これは辺境伯様がこの村に来られたと同様のことである」
おじいちゃんが壇上でスクロール型で封蝋がしてある手紙を掲げると、村のみんなは一斉に膝をついて頭を下げた。もちろん子供はぽかんとしていたが、それぞれの親に同じ格好をさせられていた。
アリーチェと同じくらい幼ければ許されるけど、それでも親に抱かれて大人しくさせられていた。
後で教えてもらったけど、お偉い人の手紙というのは本当に最優先、後でゆっくりとかではなくて着いた時に読む準備はしておかないと無礼だとかなんとか。だからおじいちゃんも村到着したらすぐに壇上に上がったというわけだ。
手紙一つでこうしなきゃならないって貴族社会って怖いなぁ。
「よろしい、では面をあげよ。これから私の方から代読させて頂く。つつしんで聞くが良い」
そう言っておじいちゃんが手紙の封蝋を開けて中身を読み始め、長々と前置きの挨拶が続いた後にようやく本題に入った。
「『今年の報告により辺境伯クリストフェル = エク= ビューストレイムの名において、開拓村トレイムの完成を認める』」
ここで「おー!!」という歓声が上がった。
「『エドワード、トシュテン両名はこの村での役割を終了、次の地へ向かってもらう。空席となった村長には魔力草の改良を発見したその功績を認め、ヨナタンを任命する』……少し補足しよう、エドワードは一人でではなく家族全員で、ということになる。それに開拓を直接手掛けた者達からも希望者を募ったところ、多くの者達から了承を得たことも伝えておく」
これはもう前もっておじいちゃんから伝えられていることで、トシュテンさんを通じ村のみんなも知っていることだった。ただ、正式なものとしてここに宣言された。
この村を出るのは、僕達家族、ロジェさん達、トシュテンさん、後は開拓チームとその家族の二十人ほどだ。ヨナタンさんがリーダーの魔力草の農作業チームは全員村に残る。
「『そして、褒美としてトレイム村の税を一年間半分に減税。この村を出る者にもそれ相応の報酬を用意する』」
ここで今日、最大級の歓声が上がった。父さんが前言ったこの村の税率は他より低いと言っても農作物は六割は取られているらしい。それが免除となるのだからそれはありがたいことだろう。
魔力草の方は今は定額の報酬になっている。少しだけは売らなければ好きにしていいということで貰える。こういう風に色々譲歩はしても、あくまでもこの土地の魔力草は辺境伯様の物で報酬で育てさせてるってことらしい。
「『住人の移動により警備が薄くなることを不安視しているものもいることだろう。その解消のため、我が兵をこの村に派遣することを約束しよう』」
その後に続いた手紙の言葉に村人は単純に喜ぶ人と複雑な声を上げる人が半々くらいだった。知らない人が来るのを嫌なのも分かるけど、警備は必要だし仕方ないんじゃ?
僕が首をかしげていると父さんが、「立場が上の人間が来ると窮屈だからな。……後、監視目的もあるって気付いたのもいるんだろう」と、教えてくれた。
なるほど、横流しとか怖いもんね。僕の村の人達はそんな事しない! って言いたいけど、監視者がいなくてお金稼げそうなものが目の前にあるならその欲に負ける人はいそうだ。
「それでは、辺境伯様の兵を紹介しよう」
その言葉で八人の兵士が前に出てきたけど、武器とか防具とかはつけずに村人のような格好の結構年配そうな人達だった。
その後ろには家族らしき人達もいる。
おじいちゃんの説明では兵は兵だけど、半分引退みたいな感じでここの農民としても暮らすらしく、半分兵半分農民みたいになるっぽいね。




