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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第一章 物語は辺境から辺境へ
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第四話 これまでと今とこれから 4

「お疲れ様、アダン。ほらお水よ」

「う、うん……あ、ありがと」


 稽古だからいるかもとレナエルちゃんが予め用意してくれていたコップを、どもりながら受け取ったアダン君が「レナエルちゃんの水……」と、ちょっと気持ち悪いつぶやきをしてた。でもごめん、それ僕の魔法剣もどきから出た水なんだ。

 父さんとアダン君が試合している間に注いでいるのを、横目で見てしまっていた。

 別にただの水の生活魔法だから問題はないんだけど、なんか悦に浸っているアダン君を見ていると申し訳ない気分になってしまった。


「ルカ、あんたは?」

「僕は自分で出して飲んだからいいよ。父さんはどうする? 熱いの? 冷たいの?」

「アダンが帰ってからでいい、その時冷たいのをでっかく頼む」

「うん、わかったよ」


 でっかいのとはバスケットボールくらいの大きな水を出して、顔を突っ込んで洗いたいってことだ。

 もう帰るはずのアダン君をちらりと見たらコップをじっと見つめたまま、まだ飲まずにコップを大事そうに持っていた。

 レナエルちゃん「飲まないの? いらないなら別にいいけどコップは早く返してよ」という言葉に「い、いる!」と一気飲みして「うまい! ……レナエルちゃんの」とやっぱり気持ち悪いことを言っていた。そして、これも重ねて言うけど僕の魔法剣水です。


「それじゃ、アダン早く帰って準備しろよ。今日は大事な日だからな」

「わかってるよ、エドさん。じゃーなールカ。レ、レナエルちゃんもまたね!」


 僕たちもアダン君にそれぞれの挨拶をして別れた。

 父さんが言っていた今日は大事な日といってたやつは、すぐに分かると思うけどネタバラシをするとおじいちゃんが夕方くらいに到着するんだよね。

 そして収穫祭を今日の夜から明日までやる。


 それが終わったらこの村ともお別れだ。



「さ、俺達も帰って準備するぞ……って言っても小綺麗にするだけだがな。今回の収穫祭は村に残る連中が俺達の送別も含めてやってくれてるのは知ってるな?」

 

 水分補給して顔を洗った父さんは僕達にそう言ってきた。

 「うん」とうなずきながら少し去年の収穫祭を思い出した。

 僕は去年と一昨年くらいしか知らないけど毎年やってたらしい、それを聞いたら父さんにお前は毎回寝てたからなと渋い顔で言われた。そうだったかな? 

 ……何にしろ去年は僕が人形劇したり、レナエルちゃんがお歌を歌ったりしてたな。可愛かったなぁ──途中でお歌に乱入したアリーチェ。

 僕が去年のアリーチェを思い出して悦に浸ってたら、早くしろとばかりに父さんに頭をコンコンと叩かれた……木剣で。

 いくら痛くないとはいっても息子に対する扱い雑すぎない?


「不満そうに見るな。お前がその時に素手でいくと俺がいてーんだよ。ほら帰るぞ」

「はーい、あ、レナエルちゃんどうする?」

「なに? どうするって?」

「いや、昼に外に出たし汗かいたでしょ? それに水で泥はねちゃったから、もう一回お風呂はいるかなって?」

「この程度気にしないわよ。でもそうね、一日に二回も入るっていう贅沢してもいいのかしら? せっかくのお祭りだし」


 僕はどっちでも良かったので「いいんじゃない? お祭りだし」とレナエルちゃんの言葉に適当に同意した。


「ただいまー」 


 出てからはそんなに時間は立っていないけれど、挨拶をしてから家に入る。

 「おかえりなさい」と奥から母さんの声が聞こえた。アリーチェはまだ寝ているらしくお迎えはない、まあ、その前に起きてたら外に出てくるか。

 そんなことを思っていたらみゃーこがトテトテと前からやってきて、お馴染みとなった僕の体を駆け上り左肩にお腹を中心にだらーんという擬音語がしそうなくらい僕の肩に垂れ下がってリラックスをした。

 それを羨ましそうにレナエルちゃんが見てたけど、「はぁ」とため息を付いた。


「この()ルカにしかそんな事しないわよね。こうやって触らせてはくれるんだけど」


 レナエルちゃんはそのふわふわですべすべな感触を堪能していた。それでもみゃーこは完全無反応だ、いつも通り嫌がりすらしない。

 「すごくいいわ」と少しうっとりしたような声を出して撫で続けていると、みゃーこが「みゃう」と鳴いた。

 その反応に、レナエルちゃんがびくりとして手を引っ込めて僕を見つめてきた。


「これって私にも興味──」

「ああ、お水が欲しいんだよ。みゃーこちょっと待ってね」

「……そう」


 あれ? レナエルちゃんがなんのことかを聞いてきたと思ったんだけどちょっと違ったのかな。しょんぼりしちゃった。


 みゃーこが飲むお水も、僕の生活魔法で創ったものに許容いっぱいまで魔力を込めないと飲んでくれない。

 前世の知識では猫は流れる水が好きみたいだから、球状に創った後はいつもくるくると回転させながら飲ませている。一生懸命ピチャピチャと飲む姿はとても愛らしい。

 ちなみにこれもアリーチェに見つかると結構嫉妬される。


 そのままリビングへと歩いていく、レナエルちゃんはみゃーこの頭あたりを撫でていたんだけど、その時こっそり父さんがお尻付近を撫でて満足そうに頷いていたのを僕は知っている。

 リビングに入って改めて母さんにただいまと言った。母さんはレナエルちゃんが一緒だったことに少し意外だったらしく、少し目を見開いていた。


「あら? レナエルちゃんどうしたの?」

「僕が稽古の時に呼び出しちゃったから、せっかくお風呂は入ったのに汗とか泥とかついちゃってね。も一回お風呂に入ってもらおうかなって思ってさ」

「あらそう、ルカにお呼ばれしたのね。良かったわねレナエルちゃん」


 良かった? よくわからないけど母さんはレナエルちゃんに含みのあるような笑顔を見せると、レナエルちゃんは顔を赤くして俯いていた。

 

「僕お風呂入れてくるね」

「お、おねがい」


 みゃーこはまだ僕の肩でだらーんとしてるから連れ立ってお風呂場に行った。

 お風呂場でお湯を入れていると短くみゃーこが鳴く。


「なに? みゃーこもお風呂入る?」


 この()は全くお風呂を嫌がらない。それどころか魔力たっぷりのお風呂に入るのをすごく好む、だからみゃーこが入る時にはいつもお湯に魔力を込める。

 でも、レナエルちゃんが入るのに僕の魔力を込めるのはなんだかセクハラっぽいから、色を無くした純粋な魔力を込める。

 それを見たみゃーこが少し不満そうにする。僕の色の魔力じゃないと気付いたからだろう。


「ごめんね。でも、今日は我慢してね」


 そう言うと仕方ないと言わんばかりに「みゃっ」っと鳴いてお風呂にダイブした。

 足なんて届かないのに沈まずに、器用に頭だけ出して気持ちよさそうにしている。うん、普通の猫じゃないよね。

 

「今からレナエルちゃんも入るから仲良く入ってね」


 まったりとしていて返事はなかったけど大丈夫だろうか。

 僕はリビングに戻ってお風呂が入ったことを伝えようと思ったけど、レナエルちゃんだけで父さんも母さんもいない。


「あれ? 二人ともどこ行ったの?」


 お風呂を入れただけだからそんなに時間たってないよ。なにか急用だったができたのかな?


「うちの父さんとお祖父様(おじいさま)を迎える準備をすると言って(うち)に行ったわ。それと……二人とも仲良くしなさいだって」


 そんな急いで準備することあったかな?

 ちなみにお祖父様とは僕のおじいちゃんのことだ。おじいちゃんはおじいちゃんと呼んでいいと言っていたが、レナエルちゃんは遠慮してお祖父様と呼ぶようになった。

 それに仲良くって言われてもいつも仲良いと思ってたけど。


「仲良くってなんでそんなことを言い残したんだろう。いつも仲良いよね?」

「そ、そうね。なんでかしらね」

「仲良くって何をすればいいんだろ?」

「わ、私にもわからないわよ、も、もうお湯入れてくれたんでしょ、お風呂に行ってくるわ」

「あ、そうだレナエルちゃん、(みゃーこと)お風呂一緒に入ってくれるかな?」

 

 何故か焦るようにお風呂に行こうとしたので仲良くしろという言葉は取り敢えず忘れて、レナエルちゃんを静止してお願いをする。

 みゃーこがもう入っちゃったしね。みゃーこはちっちゃいからじゃまにならないだろうし、レナエルちゃんも気に入ってるみたいだから大丈夫だろう。


「は、はぁ!? おじさんとおばさんに仲良くしろと言われたからって。一緒にだなんて……」

「あ、ごめん。(みゃーこと一緒じゃ)嫌だったかな?」


 なんで父さんと母さんが関係あるかわからないけど、猫と入るのは嫌だったかな。でもみゃーこはいつ上がるかわからないからな、猫なのに長風呂なんだよね。


「い、嫌じゃないわ。でもそんな……まだ早いわ」

「早い? もう遅いくらいだよ」

「……えあ」


 なんかレナエルちゃんが変な声を出して俯いちゃった。

 遅くなったのは父さんがアダン君との稽古を入れちゃったせいで、おじいちゃんが来る時間は結構迫ってきている。

 レナエルちゃんが入った後、僕も汗を流すくらいはしたいから早く入ってもらいたい。

 ……ええい、強硬手段だ。


「ほら行くよ。レナエルちゃん」

「えっ、待って。押さないで」

「レナエルちゃん。早く早く」

「ねぇ、待ってたら」

「待たない待たない」

「わかったわ! ……わかったから、自分で歩くわ」


 なぜかレナエルちゃんは覚悟を決めたような顔をして自分でお風呂場に歩き出した。

 僕も付いていってもう一度みゃーこに言い聞かせよう、後端っこに寄ってもらおう。


 脱衣所についたら何を思ったのかいきなりレナエルちゃんが服を脱ごうとした。


「ちょっと!? 待って待って! 僕がいるんだよ」

「……そう、ルカは自分で脱がせたいのね。男の人はそういうのが好きだとウルリーカさんの本で読んだわ」

「ウルリーカさん子供にどんな本を見せてるんだよ! ──じゃなくて」


 なんで僕がレナエルちゃんの服を脱がせるということになってるんだ!? 前世だったら捕まっちゃうぞ。

 レナエルちゃんは「早く」といって目をつぶってじっとしているので、言われた通り早くみゃーこに伝えるためお風呂場に入る。その前の変な言動は置いておこう。

 そこではまだみゃーこがまったりとしていた。やっぱり中央付近でぷかぷかしていたから端っこに寄ってもらう。


「みゃーこ、これからレナエルちゃんが一緒に入るから、僕が、も一回来るまでここらへんで浸かっててね」


 「なーん」と分かったと言うような返事をしてくれたから「いいこ、いいこ」と頭をなでて、脱衣所に戻ろうと振り返ったらレナエルちゃんが無表情で立っていたから僕はビクッとしてしまった。


「……ルカ」

「はい」

「ちょっと詳しく聞いていいかしらね」

「はい」


 何? なんだか怖いよレナエルちゃん。つい敬語になっちゃったじゃないか。


「一緒に入ってってのは?」

「みゃーこのことだよ。先に入っちゃったから」

「遅いくらいってのは?」

「もうおじいちゃん来る時間でしょ?」

「ルカが女の子の服を脱がすのが好きってことは?」

「それは知らないよ!」

 

 その変な勘違いまだ続いてるの!?

 無表情だったレナエルちゃんがプルプルと震えだした。あ、顔も赤くなってきた。


「じゃあ、私の勘違いだったてこと?」

「(服を脱がすのが好きってのは)そうだね」

「っ! ……せっかく覚悟したのに」

「えっ? 何を覚悟したの?」

「独り言よ! 聞かないで!」

「あ、う、うん」

「早く出てってよ! 私、みゃーことお風呂はいるんだから!」

「わ、わかったよ。ゆっくり入ってね」

「もう! ルカのバカ!!」


 ぷりぷりしたレナエルちゃんにお風呂場から追い出されてしまった。まあ、別に早く入ってくれればそれでいいから追い出されたも何も無いんだどね。


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[気になる点] 一緒に入っても忘れそうだなぁ。
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