表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第一章 物語は辺境から辺境へ
51/106

第三話 これまでと今とこれから 3

 アリーチェのご飯も終わって台に乗ってアリーチェが自分の分のお皿洗いをしている。

 自分のお皿を洗うのがアリーチェの仕事だけど、流石にまかせっきりにするのは出来ないから誰かが補助についている。

 前日は父さんでそこで余計な手を出したからアリーチェがご機嫌斜めだったわけだ。

 

「アリーチェ、魔法でお水出して」

「あい、おにいちゃん」


 アリーチェの生活魔法でお水を出してお皿を洗わせる。この村も結構余裕ができたから石鹸も普段使いできるくらいの購入ができた。

 物々交換もできるんだけど、魔力草だけは基本的におじいちゃんのもので、決められた報酬として現金が入る。それで色々と買えるように今はなっている。


 この石鹼は前世の日本で使ってたのと比べ物にならないくらい質が悪い。でも、この世界の住人は魔力で強化さえすれば手荒れなんてしない。

 自己強化の魔法までいかなくても魔力で覆うだけいい。そのせいだろう改善とかしないのは、したとしても匂い付きとかしか見たことない。


 アリーチェはまだ幼いので魔力で部分を覆うということがいまいち分かっていないから、それを見ていた父さんが心配で手を出したんだろう。


 さっきも言ったが僕も変わってやりたいとは思う。でも、アリーチェの成長のためぐっと我慢する。

 だから代わりに背中にそっと手を当てて、アリーチェの魔力を操作する。

 操作するといっても無理やりじゃなくて、流れを優しく目的地へ促す感じだ。そうすることでアリーチェの手がほわっとした魔力に包まれる。

 それに気づいたのかアリーチェがこちらを向いて、にこーっとした笑顔を見せてくれた。


 アリーチェのお皿も洗い終わって、いつものようにアリーチェがお昼寝に入ったところで、ドンドンと家の扉がノックされた。

 あ、そういえばアダン君が来るんだったな。

 休憩していた母さんが出ようと立ち上がろうとしたけどそれを制止して、僕が立ち上がった。


「いいよ母さん。多分アダン君だろうから僕が出るよ」

「そう? 悪いわねルカ。お願いするわ」

「うん」


 この程度の音じゃアリーチェは起きないけど、少しでも安らかな眠りを届けるため早く出よう。

 そんなことを思いつつ玄関の扉を開けると、予想通りにアダン君が目の前に立っていた。


「よう、エドさんに教えてもらいに来たぜ」

「さっきぶりだね、父さん呼んでくるからちょっと待っててね。それともちょっと上がっていく?」

「……ソ、ソニアさんにも挨拶しておいたほうがいいから、少しお邪魔しようかな!」

「うん、あ、でも、静かにしてね。アリーチェ寝てるから」


 少し声が上擦ってるアダン君にそっと注意した。

 多分本当の目的は母さんじゃないんだろうけど、母さんに挨拶するって言った以上、僕が本当のお目当てのレナエルちゃんはもう帰ったよなんて言えない。

 

「お、おう。すまん。アリーチェ起きちまったかな?」


 アダン君はうるさくしたのを申し訳なさそうにしょぼんとした顔になっていた。


「大丈夫、一度眠ったアリーチェはこのくらいでは起きないから」

「そうか、よかった」


 アダン君とは村襲撃事件の後に初めて会ったんだけど、そのころから僕に対抗心みたいなものを持っていて、競争したがるんだけど基本的には普通のいい子だよねアダン君。

 あれ? その時が初めてだよね? それ以前に会ってる記憶ないからそう思ったけど、なんかちょっと違和感を覚えた。

 ま、いっか……なんかでは、済ませたくはないけれどいくら考えても違和感に思い当たるフシはなかった。



「どうぞ、上がって。父さんと母さんはリビングにいるから」

「お、おう。お邪魔します」


 リビングに向かうアダン君の背中を見ながら僕は外に出た。

 今までの稽古の時に何度も上がったことあるから案内する必要はないだろうし、アダン君の本来の目的の人物でも呼びに行くかな。


 隣の家に行き、そこに住む幼馴染を訪ねるため、扉をノックする。

 するとすぐに足音が聞こえて扉が開いた。


「こんにち──」

「お、ルカか。どうした? 俺に用……があるはずもねぇから、レナエルのやつだな? 呼んでくるぜ。ちょっと待ってな」


 挨拶をする間もなく、ロジェさんは言うだけ言ってさっと引っ込んでいった。父さんからの用事かもしれないのに行動が早いと言うか、せっかちすぎると言うか。

 玄関あたりまで入って待っていると、奥からレナエルちゃんが手櫛で髪を整えながら小走りで出てきた。


 レナエルちゃんも僕と同じ十二歳になるんだけど、二年たっただけなのに僕と違って幼さが抜けて来てかわいさの中から綺麗さも出てきていた。

 レナエルちゃんの言うことなら何でも聞けるという声も村の中からちらほら聞こえる。

 まあ、僕レナエルちゃんほど整ってるのに愛嬌のある顔している人、前世でも見たことないから騒がれるのも仕方ないね。

 

「どうしたの? ルカ。私に何か用かしら?」

「こんにちは、レナエルちゃん。あのね、これから外で剣の稽古しなくちゃいけなくなったから、暇だったらでいいんだけど見学でもしない?」

「剣の稽古? 前に地面爆発させたのにまだやるの?」


 実はすっぽ抜けて爆発させたときに、レナエルちゃんもいたんだよね。

 すっぽ抜けた瞬間嫌な予感がして、レナエルちゃんには土の壁を創ってガードしたから無傷だったよ。

 アダン君と父さんは離れた場所にいたから無傷。


 僕? 僕も無傷だった。ほぼ爆心地でいろいろ飛んできたけど、なんか傷一つなかった。


「そうなんだよ。僕はいいっていうのに父さんが無理矢理ね。で? どうかな?」

「ま、まあ、確かに私も暇だから付き合ってあげるわ」

「そっか、よかった。多分準備できてると思うから行こうか」

「──ルカも少しは私に興味持ってくれ始めたのかしら」

「なにか言った? 聞こえなかったんだけど」

「んーん、何も言ってないわよ」


 レナエルちゃんが小声でなにか言ったような気がしたけれど、言ってないって言うならいいか。


 隣の家だから玄関を出て体を僕の家の方に向けるだけで、準備運動している二人の後ろ姿が見える。後ろを向いているから僕らには気づいていない。

 少し近づいたところで声をかける。


「父さん、アダン君」

「おう、ちゃんと来たな」

「なんだよルカ。サボって逃げたかと思ったぞ……っレナエルちゃん!! ど、どうしてここに? もしかして俺を──」

「ああ、ルカに誘われたのよ。──アダンがいるなんて聞いてないけど」


 アダン君が非常に分かりやすく動揺していた。ちらりと見て真っ赤になりながらもじもじしながら俯いていた。

 そしてレナエルちゃんが僕に呼ばれたといった後に、またなにか小声で言ったような気がする。


「……そうか。でもいいぜ! 俺、頑張るから見ててくれよ!」

「あ、うん」


 レナエルちゃんは気の抜けた返事だったけど、アダン君は「うおおおお! 俺はやるぜ! エドさん早く教えてくれよ!」と張り切っていたが、父さんに「本番もそうだが特に稽古の際は冷静に落ち着いて一挙一動を正確にやれ」と至極まっとうなことを言われてしょんぼりしてた。

 そして父さんはアダン君と向き合って真剣な顔をして問答を始めたので、僕はこっそり離れてレナエルちゃんの横に来た。このまま僕のことを忘れて二人で頑張ってほしい。


「いいか、アダンおさらいだ。俺達が手に入る武器は殆どが何の変哲もない普通の武器だ。特殊な武器とかじゃない。その武器を使うときの最も基本は何だ?」

「武器に魔力を纏わせる」

「そうだ。纏わせるのが基本だ。これをしないと相手に与えるダメージなんて雀の涙程度だと思ってもいい」

「普通じゃなくてドワーフ製やダンジョン産だったら違うのか?」


 剣に関しては興味が全く湧かず、完全に聞き流しつつボーっとしていたら、ドワーフとダンジョンという単語が聞こえてびっくりした。えっ、この世界にもドワーフとダンジョンってあるんだ。いきなり出てきた言葉だけどレナエルちゃんも普通に受け入れてるみたいだし常識だったのか。


「そうだな、ドワーフ製はドワーフ法と呼ばれる鍛錬法があってだな、それで作られた物は魔力の通しやすさが段違いらしいぞ。俺は出来なかったからわからんが出来なくても普通の武器などと比べて武器そのものも段違いに出来が良い、まあ魔力を通せなければ宝の持ち腐れだがな。ダンジョン産は規格外すぎるから分からん。噂では誰でも魔力を通せると聞いたりもするが、実際にそれを見た奴と会ったことはないからな。それで話を戻すが、纏わせるのと通わせるのでは、自分の魔力を高めるのと身体強化と同じくらい違う。お前もよく分かるだろ?」

「そのことは言わないでくれよ……」

 

 そのことってなんだろう? 身体強化と魔力を高めることを勘違いでもしてなんかやらかしたことあったのかな? レナエルちゃんに聞いてみると、「……そうね。あったのよ」と悲しい顔で教えてもらった。アダン君の黒歴史はそんな顔するほど痛々しかったのかな?


「ちなみに貴族がよく持っている魔力操作の才覚、おっとお前にはギフトって言ったほうがわかりやすいか? それを持って生まれた人間は、比較的簡単に特殊な鍛え方をしたドワーフ製になら魔力を通すことができる。魔力操作が高くないとドワーフ製でも纏わせることしかできない。貴族に生まれて成人するまでにドワーフ製に魔力を通すことが貴族としての最低条件になるんだ。そして、それをもって魔力操作のギフトを持って生まれたと誇れるようになる」

 

 やっぱり一ミリも入ってこない父さんの話を聞き流しながら、ぼーっとしてても手持ち無沙汰だったので、なんとなく後ろ手に持った木剣に魔力を通して周りを更に魔力で覆う。そうすることで木剣から感じる存在が増加する。

 この二年で分かったのはこういった僕じゃない物に魔力を通すとき、抵抗される感じがしてきっちり魔力の構造通りに通さないといけなかったのは、僕の魔力をそのまま通していたからだ。


 僕の魔力だけじゃない、僕が取り込んでいる外の魔力にも様々な物にも、属性とはまた違う独自の色みたいなものがある。その違いが抵抗の元だと気付いた。

 きっかけは二年前のあの事件のとき、呪いが解けて魔力が純化していく時になんとなくだけど感じていたことだった。

 決定的になったのは、この場所から世界樹のある場所までアリーチェが世界樹と繋がるために僕が手助けをしていたとき、ふいに人や木や外に満ちる魔力はそれぞれ色があるとわかった。


 それがわかったと同時に、僕は魔力を励起させ高エネルギー状態になった魔力は根本となる魔素以外を弾き出し純粋な魔力になっていると気付いた。

 そしてそのままだと僕の魔力を核に僕の魔力へと変換され僕の色の魔力になる。でも、僕の魔力が混ざらないよう制御し外の色も戻らないようにさらに内外循環を行い、色つまり不純物だけ体外に捨てれば制御は難しくなるけど──


「ちょ、ちょっと。ルカ! ねぇ、ルカったら!!」

「え? あ、なに?」


 つい考え込んでていたら、レナエルちゃんから父さんの話を邪魔しないようにか小声で、だけど焦ったような声をかけられたので僕も小声で返した。


「よくわかんないだけど、その木剣すごいことになってない? なぜかはわからないけど見ているとなにか怖いわ」

「そっかな? まだ全然なんだけど」


 なんとなくやっただけだから、ちょっとだけ魔力を流したこんだだけだ。でも、レナエルちゃんが怖いならここまでにしとくか。

 最後に纏わせた方の魔力に水の生活魔法を付与すると……よし、水の魔法剣もどき~。本物あるかどうかも知らないけど。

 剣から水が纏わりつくように覆われている。利点は水が出る。そしてカッコイイ。以上。

 ちなみにずっと後ろ手に持ったままだから、多分父さんたちにはバレてない、父さんが絶賛演説中だし大丈夫だろう僕は話聞いてないけど。


「ま、また。爆発なんてしないわよね?」

「僕が魔力を流しながらスッポ抜けさせなきゃ大丈夫だよ。何ならレナエルちゃんが持っても大丈夫だよ?」


 スッポ抜けてちょっと焦った拍子に余計な魔力を流してしまって、地面に急激に魔力が流れ込んで爆発したんだよね。ちゃんと理論は分かっている。

 「ほら」と言って、レナエルちゃんに手渡しするとこわごわながら握って持っていた。


「ね? 大丈夫でしょ。魔力を込め続けないと少しずつ抜けていくから、それまで遊んでいいよ」

「遊ぶって言われてもどうしたらいいのよ?」

「うん、振ったら水が出る。それだけだけど意外と楽しいよ」

「本当にスッポ抜けても爆発しない?」

「しないしない。スッポ抜けても爆発するだけの魔力ないし、水に変わるだけだから大丈夫」


 レナエルちゃんがゆっくりと木剣を動かすとびちゃびちゃと水が溢れる。それだけだと面白くないからレナエルちゃんにもっと早く動かしてと波のような動きを交えながら伝えた。


「え? こうかしら」


 レナエルちゃんは僕の言ったとおりに剣の先で素早く波のように動かすと、その軌道に水のベールのようになり太陽の光できらめいている、それから数秒間維持してから地面に落ちた。

 普通に生活魔法を発動すると出したその場に一瞬だけ留まってから重力に従って落ちるけど、これはその特性を数秒間に伸ばしただけのものだ。それだけでも結構綺麗に見えるな。


「なにこれ! すごく奇麗だわ!」

「あっ、シーッ! サボってるのバレちゃう」


 気に入ってくれたのか、レナエルちゃんが大きな声を出したから僕は慌てて止めた。レナエルちゃんも気付いたのかサッと木剣を後ろに隠していた。

 隠したすぐ後に父さんとアダン君がこちらを向いた。


「あっ、ルカお前レナエルちゃんと話してんだよ! 羨ましいことしやがって!」

「お前、俺の話、聞いてなかったな?」

 

 最初にアダン君が咎めるようにこちらに来て、その後ろから父さんがやってきた。

 

「えっ、やだなー、ちゃんと聞いてたよ父さん。えっとドワーフとダンジョンの話だったよね」

「お前、全く聞いてねぇな。……はぁ、ルカ受け入れろ」

「……はい」


 結局サボってるところはバレた僕は父さんの拳を抵抗せず受け入れてゴチンという音が頭から響く。嬉しくはない懐かしさと痛みを感じた。


「興味がなくても人の話はちゃんと聞け、礼儀のうちだ。今までのお前には必要ないことだったが、これからのお前には必要なことだ。」

「はい、ごめんなさい」


 そうか、僕は後少しでおじいちゃんの学校に通う。

 そこには貴族の人も来るらしく無礼なことして、斬り捨て御免されたりでもしたら嫌だし気をつけないとな。……でも、できるかな? 僕のこの考え込むのは癖みたいなもんだし、まあ、貴族の人を避ければいいか、そんなに関わることもないだろう。


 サボってるところはバレたけど剣の稽古が終わるまで魔法剣もどきは気付かれることはなかった。

 父さんは僕に説教した後はすぐに稽古に戻ったし、アダン君はレナエルちゃん直視できないみたいだし、さっきもだけど見るとすぐ真っ赤になってうつむいちゃう。さすがに初心(うぶ)過ぎない?

 魔法剣もどきじゃなくサボってる方を気付かれたくなかったんだけどな。


 剣の稽古? アダン君と試合をやって僕がボコボコにされて終わったよ? 剣の技術を上げるためだからと父さんに身体強化は最弱、剣には魔力を覆わせるだけの寸止め勝負だと言われた。

 十本やって十本全部負けたよ? そのうち七本が木剣どっかに飛んでったけど。

 その後父さんとアダン君がやって、当たり前のように父さんが全勝、更に目隠しまでしても余裕で全勝だった。すごいね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔法剣士レナエル爆誕!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ