第二十五話 アリーチェとルカと世界樹 3
僕を変人扱いする父さんなんてほっといて、アリーチェに遊び方を教えながら危なくないように一緒に遊ぶ。
アリーチェはシーソーとブランコが好みみたいだ。レナエルちゃんと母さんはベンチも作っていたのでそこに座っている。
父さんは平均台に乗ってこれはいい訓練になると剣を振っていた。もっと細くしてくれと言われたので足幅の半分もない様な平均台を出してあげたけど、全くバランスを崩さず父さんは剣を振る。
アリーチェはそんな父さんを見て「すごいすごい」と喜んでいたので父さんは調子に乗ってその細い足場で剣を振りながらバク転や前転を決めていた。アリーチェは大盛りあがりだ。
三の鐘が鳴り響く中、もう剣の練習じゃなく雑技団見たくなっている父さんの姿を僕もアリーチェの横で見学していると、おばあちゃんに案内されたアダン君一家と一緒に来たというスカーレットの人達が訪れた。
そこからはバーベキュー大会だ。ゲインさんが持ってきたイノシシっぽい獣丸々一頭とお酒の数々、それに負けないくらいおばあちゃんも食材を用意していてくれた。
ゲインさんはやっぱりまだ落ち込んでいるみたいだったけど、父さんに飲まされて、僕もお酒をついで話をしていたら吹っ切れたらしく、飲んで食うぞ! と、父さん達と大騒ぎしていた。
アリーチェは最初大きなイノシシに驚いていたけど、少し食べさせてみると「おいしー」と言ってゲインさんが持ってきてくれたんだよと、お礼を言わせるとゲインさんはますます元気になっていった。
アダン君はそんなゲインさんにホッとしたらしく、僕達のところに来て約束だからなとアリーチェと遊ぶついでに面倒も見てくれる。
アリーチェとアダン君が走り回って遊ぶ姿を見ながら、手の空いた僕はサクラさんに話しかけられた。
「昨日はすみません。レナエルさんは大丈夫だったでしょうか? やはり神様のことが……」
「えっと、レナエルちゃん本人に聞いたほうが良いので」
そう言うと僕はイノシシ肉をほうばっていたレナエルちゃんを呼び、サクラさんに会わせる。
「あ、サクラさん昨日はありがとうございます。お陰で私も回復魔法が使えるようになりました!」
「え? ルカくんこれは一体?」
「あのですね」と前置きをして昨日の回復魔法が使えた経緯を話す。
「なるほど、ルカくんの為に……愛ですね」
「ふぇ、あ、愛!」
「そうです、魔法の目覚めは強い思いがきっかけになることもあります。それだけレナエルさんはルカくんを……」
「ち、ちが……違わないけど違います!」
「そんな、照れなくとも恋人同士なんでしょう?」
あ、そういえばあの場だからそう誤魔化したんだった。
「えっとですね。色々事情がありましてあの時はそう言いましたけど」
「こ、こいびと!」
僕が誤魔化そうとしているとアリーチェを引き連れたアダン君がいつの間にかにやってきて僕に詰め寄ったり、アリーチェが「こいびとってなーに」と純粋な瞳で聞いてくるので色々とごちゃごちゃになってしまった。
何とかアリーチェを誤魔化して、サクラさんとアダン君に説明をすると納得はしてくれたみたいだった。
レナエルちゃんはサクラさんと回復魔法の話を教えてもらうと離れていきアダン君も「飯食ってくる」と離れた。
僕とアリーチェはみんなが飲み食いをしている近くに寝椅子も用意されていたのでそこに座って、みんなを見ながら休憩する。
アリーチェはお腹いっぱいと走り回ったせいで、眠くなったらしくウトウトと船を漕いでいた。
僕はアリーチェにタオルケットを掛けようと思ったが、それはおばあちゃんが先に持ってきてアリーチェに掛けていた。
アリーチェの寝顔を見ていると僕も眠くなって、いつの間にかアリーチェと一緒に眠ってしまっていた。
どれだけ時間が経ったのかは分からないけど、目を覚ますと少し日が暮れていて僕にもタオルケットが掛けられていた。
アリーチェはまだまだお休み中だった。
それからも僕はまったりとアリーチェの横でみんなを見ていた。
マートレさんが酔っ払って脱ごうとしてマインさんに止められていたり、リムさんが酔っ払って「おしっこ」と言って草むらでしようとしてマインさんに止められたり、サクラさんはお酒弱いのに雰囲気に飲まれて呑み過ぎてマインさんに介抱されていたりしていた。……マインさん大変そうだな。
父さん、ゲインさん、ロジェさん、トシュテンさんは楽しそうにお酒を酌み交わしていた。
母さんとおばあちゃんはちびちびと飲んでいてたまに父さん達の世話を焼いていた。特にトシュテンさんの相手をするおばあちゃんがすごく嬉しそうなのが印象的だった。
アダン君とレナエルちゃんも仲良さそう話しながらご飯を食べていた。
その幸せで出来ているような光景を見ていると僕は心の底から楽しいと思える。
僕は寝ている所に悪いとは思ったけど、抱きしめたいという衝動に駆られアリーチェを抱きかかえて一緒の寝椅子に座り直した。
アリーチェが「むみゅ」と言う可愛らしい寝言を建てる。
「おにいちゃん?」
「ごめんね。起こしちゃったね」
「いいの、あたたかいの」
「うん、アリーチェも温かいよ」
「おにいちゃん」
「なに?」
アリーチェが僕の顔と眼の前の幸せの光景を交互に見る。
「えっちゃんにもおしえてあげたいの」
「そっか、じゃあ教えてあげようね」
「うん」
僕はいつものようにアリーチェと世界樹のラインを作りアリーチェを送り出した。
まさか、これが大変なことになるとはこの時は気付きもしなかった。




