第二十四話 アリーチェとルカと世界樹 2
アリーチェに嫌がられて「俺だけなんで」とぶつくさつぶやく父さんをスルーして大階段を降りる。すると大階段の後側から扉の開く音が聞こえ、アリーチェにとっては怖い場所から音がしたのでアリーチェは僕にしがみついた。
そこから現れたのはおじいちゃんだった。
「おはよう、昨日は楽しんだようだなルカ、お土産貰ったぞ」
おじいちゃんはそう言いながらカリスト様饅頭のお土産のせいか、僕の頭を強めに撫でてきた。
そう、この地下貯蔵庫には隠し通路があって、おじいちゃんの城まで続いているらしい。らしいというのは通ったことがないからだ。
おじいちゃんの立場では表立って平民の家に来ることは出来ないため、いつもはこうやってこっそりと地下から来ることになっている。
この地下に作られた通路で分かるように、この家は最初から僕達を住まわせるためだけに建てられていた。
「で? どうしたんだ親父。今日は客が来るんだぞ」
「分かってる。話が終わったら帰るさ。全く、俺を除け者にしおって」
「なにすねてんだよ。仕方ないだろ」
「ルカとアリーチェもおじいちゃん邪魔か?」
僕はいじけるおじいちゃんに苦笑しながらアリーチェを抱っこしてもらう。
「そんなわけないよね。アリーチェもおじいちゃん大好きだもんね」
「あい、おじいちゃんすきーおひげー」
おじいちゃんは偉い貴族らしくきれいに整えたカイゼル髭を生やしてるんだけど、アリーチェは嬉しそうにそれを引っ張っていた。
「おう、おひげだぞアリーチェ。お前もこいルカ」
「だから僕はもう十二歳だってば」
「良いから来い」
おじいちゃんは事あるごとに僕を抱っこしようとする。もう十二歳何だけどね。
諦めて近付くといつものように片手で軽々と僕を持ち上げる。父さん見たくムキムキじゃないのにね。
しばらく僕とアリーチェはおじいちゃんに頬ずりされた後、満足したのか父さんと話し始めた。抱っこはされたままだった。
「聞いたぞ、エドワード。とんでもないものを手に入れてくれたな」
「だから、俺じゃねーよ」
「おじいちゃん僕普通にもらっただけなんだけど、そんなにすごいの?」
「そうだな。お前も店に行ったのなら分かるだろう? エルフの執念は物凄いものだと」
「うん、まあ」
本屋に行って聞いたことを思い出す。確かにこの世界の紙や本の技術を何段階も上げていたみたいだしね。趣味ってだけで。
「その執念で作られたものがお前が貰った茶葉だ。普通のエルフ製の茶葉ですらほとんど手に入らんというのに、あの茶葉は俺が知る限りだがエルフのコミュニティ外に出たのは初めてだろうな」
「え、そんな物もらっちゃったんだ」
「でだ、親父。そんな事を言いに来たんじゃないし、ルカ達を抱っこしに来たわけじゃないんだろ?」
「何だエドワードお前も抱き上げてほしいのか?」
「おい」
「くくっ、冗談だ。会見の日付とこいつを持ってただけだ」
そう言うとおじいちゃんは、懐からビロードのような布で包まれたものを取り出した。中身は綺麗に蔓や花が彫り込まれてそれに鮮やかな色付けられた漆塗りのような艶やかな黒い色をした入れ物だった。後で見たことだけど、中の色は外側と同じように艶やかなだけど赤色で本当に漆塗りのような感じだった。
「こいつに入れて献上しにこい」
「なんで親父自ら持ってきてるんだよ」
「仕方ないだろ。気軽にここに来れるのが俺かカロリーナしかいないんだからな。カロリーナは、今日の準備をさせてやりたかったんだよ」
「……親父が気軽来れる方がおかしくねぇか?」
「細かいことは気にするな」
父さんは「細かくねぇよ」と呟いていた。この話の間、僕達は抱っこされたままだし、アリーチェはおじいちゃんのおひげをみょんみょんと引っ張るので一生懸命だった。
おじいちゃんは入れ物を渡すと、早々に帰っていった。気軽に来れるというのはただの軽口で本当はやっぱり忙しいんだろうな。
あ、レナエルちゃんが回復魔法、僕が魔術っぽい何かが使えるようになったって言い忘れたな。また今度でいいか。
おじいちゃんが帰ってから準備が終わったらしく家に戻ってきたおばあちゃんとトシュテンさんが家で待機して、僕達はバーベキュー会場から少し離れた場所の庭で遊ぶ。
土の生活魔法でシーソーや鉄棒、滑り台やブランコなど公園にありそうな物を色々模して創り出した。
いきなり見慣れないものを出したので父さん達は少し驚いていたみたいだけど、父さんが「ルカのすることだからなぁ」と言うと納得していたみたいだった。
なんだよ父さん、それじゃ僕が変人みたいじゃないか。




