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辺境の農村で僕は魔法で遊ぶ【書籍版三巻と漫画版全二巻が只今発売中】  作者: よねちょ
第二部 僕は辺境の学校で魔法で遊ぶ 第二部 第二章 ルカの休日
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第二十一話 アリーチェとお供と大冒険 2

「おかあさん、からーんってなったからきたの」

「そう、ちゃんと自分で来て偉いわ」

「あい」


 アリーチェはソニアに褒められて嬉しそうに頷いた。

 昼食はパンとサラダとスープだった。アリーチェ用は量が少ないけれど食べる物は大人と同じものだ、少し味が苦目の野菜もあるがルカと同じものを食べたいという思いと、ルカに食べさせてもらうことで慣れていき、アリーチェはこの歳にしては非常に珍しく好き嫌いなど一切なかった。


 綺麗に平らげた後、みゃーこにカリカリを一粒渡すと即座に食べたが、みゃーこは物足りない不満そうな顔をアリーチェに向けると、アリーチェははっとした顔をして「しかたないわねなの」と少し焦りながら今度は一握り分渡した。今はお供の時間ではなくお昼ごはんの時間だったことに気付いたからだった。


 そのレナエルの真似をしてお姉ちゃんぶるアリーチェを見てソニアもカロリーナも笑っていた。何故笑っているのかは分からなかったけど大好きな二人が笑っているのを見てアリーチェもつられて笑って、そんな雰囲気のまま昼食の時間は過ぎていった。


「だいぼうけん、さいかいなの」

 

 アリーチェはそう言って一度サロンに戻る、そこからサロンの奥に移動してそこにある扉を開けるとサロンを狭くしたような部屋がある。本来は家族が集まるための小サロンだ。ただ、ここもそれなりに豪華なためほとんど使われてはいない。家族が集まる場所といえば殆どが食堂だ。

 そして小サロンの扉から部屋を出ると大階段の左側に出る。少サロンの隣にも扉があるがここは空き部屋で机と棚があるが特に何も置いていなかった。


 そしてそのまま右に曲がると扉が二つ並んでいる。アリーチェが毎日の楽しみであるお風呂場だ。楽しみなのはお風呂そのものではなくて兄と入ることだけど、そして、お風呂の時間は兄を独り占めできるので大好きな場所だ。二つとも同じような造りで脱衣室があってお風呂がある。


 アリーチェが知る由もないことだけど、この世界は貴族とはいえども毎日お風呂に入るというわけではなかった。しかも風呂場が二つもあるというのは非常に珍しい作りになっていた。


 お風呂場がちょうど家の奥の真ん中で大階段の裏に位置する、風呂場がある場所は湿気対策なのか上の階よりその分が飛び出して建てられている。


 兄がいないし、お湯も張っていないお風呂場は何か寂しいものを感じて中には入らず、しかし少し名残惜しそうに扉を見ながらそのまま廊下を真っ直ぐに進んだ。

 そのまま突き当たりにあるお風呂場の隣の部屋は、家の右側の一番奥にあるがここはノック(トントン)しなさいと前から注意されているのでトントンと扉を叩く。


「はい、アリーチェですね。どうぞ」


 部屋の中から落ち着いた女性の声が聞こえる。自分がノックしたのを見破られたのでアリーチェは驚いたが「しつれいしますなの」と言ってそのまま入る。


「アリーチェ、しっかりと挨拶できて偉いですね」

「おにいちゃんがちゃんというんだよっておしえてくれたの」

「そうですか、ルカはあいかわらずいいおにいちゃんですね」

「あい!」


 中にいたのは昼食が終わってこの部屋に戻っていたカロリーナだった。そのカロリーナに兄のことを褒められたアリーチェは嬉しくなり手を上げ元気よく返事をした。


 この部屋の本来の主はトシュテンであり、自室兼執務室でもあった。普段トシュテンはここに詰めており、カロリーナがこちらに来た時はここで夫婦水入らずで一緒にいる。反対側の空き部屋となっているのも、実はここと同じ作りで小サロンのための使用人室だった。

 仕事の邪魔もだが二人の邪魔をしないためにも、ソニアはアリーチェにノックしなさいと厳しく言っていたのだった。

 

「それでどうかしましたか?」

「だいぼうけんなの! おとももいるの!」


 カロリーナは持っていた書類を机の上の置いて、アリーチェがビシッと指をさす所を見るとお供と思われるみゃーこが足元に座っていた。

 カロリーナはアリーチェがサロンで寝ている時にソニアから聞いてはいたけれど、知らないふりをしてアリーチェに話を合わせていた。


「なるほど大冒険ですか、それは勇気があることで大変よろしいですよ。みゃーことも仲が良いのですね」

「あい」

「それでは、ちゃんと挨拶できたご褒美として、お菓子を上げましょう。はい、あーん」


「あーん」とアリーチェは素直に口を大きく空けると、口に小指の先くらいの丸いものが入ってくる。


「あまーい。くちのなかでしゅわっととけたの」

「卵と砂糖のお菓子ですよ。みゃーこもどうですか? ……相変わらず反応もしてくれませんね」

「みゃーこはひとみしりだからっておにいちゃんいってたの。それにみゃーこはこれしかたべないの」

「なるほど、ではアリーチェが代わりに食べますか?」

「たべたいの! でもだめなの! ごはんたべれなくなったら、おにいちゃんにめってされるの」


 お菓子をもらって少ししか食べれなくなった時は、どれだけ誤魔化そうとしても兄には一度も通用しなかったことを思い出しつつカロリーナのお菓子を断る。カロリーナの「そうですか。ではまた今度にしましょう」と言う言葉を聞きながら、アリーチェはカロリーナに見せるため取り出したカリカリをみゃーこに食べさせる。

 

「本当に不思議な猫ですね」

「そうなの? ありーちぇはみゃーこしかしらないの」

「ええ、しかしアリーチェは別に気にしなくて良いんですよ。アリーチェにとってみゃーこはみゃーこでしょう?」


 また「あい」と返事をした後にアリーチェは何かにハッと気付いたように、みゃーこを見ていた顔を上げて少し眉が下がった目でカロリーナを見た。


「おばあちゃん、おしごとじゃましてごめんなさいなの。ありーちぇもういくの」

「別にいいんですよ。ゆっくりしても」 

「おしごとはじゃましたらだめなの。おとうさんみたいになるの」

「……エドワードも悪気はないんですよ。アリーチェがかわいいだけなんです」

「わかってるの! でも、めーなの」



 仕事の邪魔をしたから慌てたように「おじゃましましたなの」と言ってアリーチェは、父親に対する台詞に苦笑いをするカロリーナをよそ目に部屋を後にした。




 アリーチェは食堂から出発してからぐるりと一周し一階の最後部屋についた。トシュテンの部屋の隣は台所であり、更にその隣の食堂から母がこちらに移動していた。


「あら、アリーチェ。大冒険は終わったの?」

「まだうえのおへやがあるの!」

「そうなのね……でも、ちょっといいかしら、アリーチェ今日は何が食べたい? 」

「ありーちぇはおにいちゃんのおひざのうえでたべたいの!」

「それは食べたい場所でしょ? それにたまにはお父さんのお膝で食べて上げなさい。お父さん寂しがってたわよ」

「……あい」


 あまり乗り気ではない声を出したが、アリーチェは別に父の膝で食べるのが嫌というわけじゃない。

 ただこの年特有の反抗(イヤイヤ)期なだけで、そして、その気持ちが全部父親に行っているだけで、ある意味甘えていると言ってもいいだろう。

 ルカならば前世の妹を面倒を見ていた経験もあり、それでもうまくやれていただろうが、最初の子供のルカが特殊すぎて初めて子供の反抗期を味わうエドワードは戸惑ってしまっていた。


 そして、今日はエドワードの膝の上というのも叶わない望みだろう、なにせルカが帰ってきたら全力で甘えようと思っているアリーチェだったからだ。


「それで何か食べたいものはあるかしら? 前と違って選べるものが多くてお母さん悩んじゃうわ」

「んーとね、……おさかなさん!」


 アリーチェの頭の中では村にいた頃の収穫祭で、兄とおじいちゃんに食べさせてもらった記憶が再生されていた。


「お魚さんね、お母さん見てくるからちょっと待っててね」


 ソニアはそう言うと台所から出ていった。アリーチェはソニアが出ていった後、台所の扉からソニアの背中を目で追った。

 ソニアが大階段の裏側に回り込むと扉が開いて閉まる音がする。

 アリーチェはソニアが入っていった場所を思い出し、ブルリと震えた。


「あそこは、だいぼうけんでもだめなの。こわいばしょなの」


 震えながらアリーチェはソニアの姿が見えなくなったので台所に戻り、待っている間手持ち無沙汰なので床に座って、みゃーこの前足を握ってぶらぶらと左右に揺らして遊んでいた。これは兄がアリーチェをあやす時にやる一つで好きなことの一つだったので、アリーチェもお姉ちゃんぶってみゃーこをあやしていた。みゃーこは迷惑そうだったけどされるがままにされていた。


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[良い点] アリーチェは妖怪猫吊るしだったのか……
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