第八話 僕の日常の開拓
「おはよう」
いつもどおり朝日が登る少し前に自分の部屋で目が覚めた僕は誰に言ったでもない挨拶をして、日課になった魔力励起と循環で外の力から魔力を大量に吸収する。
このままでは吸収した分の魔力は時間とともに還元されていくので制御して自分の魔力を核とし混合させ圧縮する。こうしておけばあふれることなく魔力を自分の中にとどめて置くことが出来るわけだ。
まだだれも起きてはいないので音を立てないよう静かにお風呂場に向かった。
お風呂に熱いお湯をため洗顔をして日本でもあったジェットウォッシャーのように出した水で口内を洗浄した。
それからパンを手に取り一人で開拓地へ向かう。
◇◇◇◇
「開拓~開拓~今日も明日も開拓~」
適当な歌を口ずさみながらボーンと棒人間を出して魔法の練習をしながら鍬を打ち付けるようにして耕す、そろそろ見ずにボーンを動かすことにも慣れきたので一体から二体に増やそうかな? と考えていたら朝日が登ってきた。
朝日に照らされる森と開拓地を見ながら昨日のことを思い出す。
「うーん、魔獣が出たせいで計画の遅れとかはなかったのかな?」
本来は僕が気にすることではなく父の仕事なんだろうけど、なぜか気になって開拓をしなきゃって気持ちになってしまう。
ここの開拓地は辺境伯様の物なので前世の記憶から言えば、大貴族で実質的に地方の王様みたいな感じなはず。
そんな大貴族が期待をかけている開拓地の責任者が父だから開拓計画に遅れたりしたら貴族のメンツを潰した! とか言って縛り首に……。
──漠然とした焦燥感を感じてるのはもしかしたらと、僕が心のどこかでそんなのことを考えてるのかもしれない。
「あれ?昨日といえばなにか約束を……」
「…………」
「──ま、いっか。開拓しなきゃ……」
開拓~開拓~と僕はまた口ずさみ、ボーンと一緒に鍬を振り上げた。
◇◇◇◇
それから少し日が昇ると父を筆頭に開拓チームがやってくる。
メンバーの半分はいつもの半袖半ズボンの農作業の格好とは違いかっちりとした探索用の装備をしていた。弓矢やでかいナタのようなものまで装備している。
「おはよう、父さん。ロジェさん達もおはよう」
「おう、おはよう。だがなぁルカよ、今日はこっちは休んで神父様の所に行くんじゃなかったのか?」
「あ!!」
そうだ、父さんに言われて初めて思い出した。おかしいな?この体の脳みそ優秀だと思ってたのにこんなド忘れをするなんて。
「そうだ、うん。い、いかなきゃ……」
慌てだす僕に、父はため息を付いて頭をバリバリとかいたあと僕をみる、昨日の約束すら忘れてた僕にあきれた顔を向けるのかと思ったらそうでもなくすこし悲しそう? な顔をした。
さすがに自分の息子が情けなくなったのかな? ちょっと申し訳ない。
「ごめんなさい父さん、神父様にも謝ってこなきゃ」
「……あー、いや、いかなくていい」
「え?」
「俺が出る前にな、神父様の所のシスターがきて急用ができたからキャンセルにしてほしいだってよ。こっちから呼んだのに申し訳ないとも言ってたぞ」
あ、そうなんだ。その父の言葉を聞いて気がスッっと楽になった。
あれ?だけどだったらなんで父さんは悲しそうな顔したんだろう?
ただの気のせいだったのかな?
「まあ、だがな?」
「うん、なに父さん」
父が僕の頭にそのでかい手を乗せながら続ける。
「お前が最初から教会に行ってればこんな伝言しなくてもよかったんだよ!」
「ちょっといたい、いたいよ父さん」
僕の頭をぐりんぐりんと回るように父さんが撫で回してくる。
そして、髪をぐしゃぐしゃかき回すようにして撫でる。
「それになルカ、昨日魔獣が出たばっかりなんだ。危ないとは思わなかったのか? 」
「あ……」
──全く思わなかった。そうだよね昨日あんな魔獣が出たんだ、本当はちゃんと警戒しなきゃいけなかったのにいつもどおりに行動をしちゃった。
僕が落ち込んでる様子に父さんが僕の頭をポンポンと慰めるようになでてくれた。
「……ほら、それじゃ作業再開するぞ。そいつも早く起こしてやれ。ぶっ倒れてると白骨死体みたいでちょっとこえーぞ」
「あ、うん。……いつ制御から外れたんだろ。覚えてないや」
セット化を覚えたあとのボーンは制御を外れてもバラバラに崩れ落ちず、うつ伏せに寝てるように倒れていた。
それを見ながら、未熟未熟と口の中で呟きボーンを立たせた。
◇◇◇◇
「ほら朝飯だ。ちゃんと食っとけよ」
「うん、ありがとう」
家を出る前にはパンを一つもらうのだけど流石にそれだけではこの時間になるとお腹が空いてくるのでいつも父が母より託された朝ごはんを持ってきてくれる。
昨日の魔獣の肉を少し取っておいたのか、そのお肉と野菜を挟んだパンを父さんから受け取りかじりつく。
口の中に新鮮な野菜と濃厚な肉のうま味が広がった。
「おいしい」
「ああ、やっぱり魔獣の肉はうめぇよな」
「僕は初めて食べた気がするんだけど」
「いや、前に食ったことあるはずだが。……まあ、お前まだちっちゃかったからな、覚えてねぇか」
さらに今もちっちゃいけどなと続けて笑い出す。
そりゃ僕はまだ十歳だしね。
多分、体力の限界まで動いてご飯は朦朧とした意識の中で食べていた四~九歳の間に出たんだろう。
「──エドさん」
「おっとすまねぇ、それじゃあ、わりぃが俺はここを離れられねぇからよ。森の方は頼んだぞ、いつもどおりロジェがリーダーだ。」
「へい」
ロジェさんも含め探索用の装備をしているのは昨日の弓矢部隊と同じメンバーだ。たまに開拓チームを離れ森の調査に入っている。
そう言えば昨日の夕ご飯のときに魔獣が出たから調査をしないといけないと父さんが言っていた。
「何度も言うようだが、森の奥には絶対入るなよ。浅部のみ調査だ、フォレストウルフの経路を辿り情報を収集してきてくれ」
父の掛け声とともに探索メンバーのみんなが「了解」と返事をするが父に軍隊じゃねーんだぞ、了解はやめろと叱られ笑っていた。




