81話 天使侵略4日目3
「ただいま~……あれ?どしたのこの騒ぎ」
「あっ!やっと帰ってきた!」
サナがラスタドールに戻ってくるとラスタドールに人が溢れていた。右を見ても人混み、左を見ても人混み。まさに大混雑といった様子だった。
「なんでこんなに人が増えてるの……?」
「なんかサナが届けさせた物資を受け取った近隣の村人たちがこっちに流れてきてるみたいだよ?それで移住者が多すぎたから急遽仮設住宅を作ってるみたい」
シズは辺りを見回しながら答える。いつもはまばらな広場だが今は歩くスペースがようやく見つかる程に埋まっておりどれほどの人が移ってきたのかが安易に想像できた。
《白幸龍の信仰者が増加しました。自動的に【加護(小)】が付与されました。1351100の魔力を奉納されました。魔力結晶を13511個獲得しました》
「…………シズ、私がいない間に天使は攻めてきた?」
「まあ攻めてはきたんだけど雑魚だね」
「舐められてるかなぁ。もうそろそろブチのめしに行こうかな」
そうサナが呟きながら手際よくとある薬品の調合を始める。あっと言う間にそれを完成させたサナは虚空に話しかけた。どうやら【通話】スキルだろう。
通話を終えたサナは今度は扇のような物を作り始めた。おどろおどろしい魔力を纏った木材を切り出し形を整え繋ぎ合わせていく。徐大ぶりな扇の形をとった木材にサナは手早く和紙を張っていく。
最後に僅かな装飾を加えてその扇は完成した様だ。初めに見えたおどろおどろしい魔力は鳴りを潜めるどころか更に禍々しくおぞましい気配を醸し出していた。
この何かも分からないモノについてあまり触れたくはなかったシズだがつい聞いてしまった。
「え……っとサナ?ナニコレ?」
「ん?今作ったレンの専用装備の【呪怨扇・マガツノヒ】だよー」
聞くんじゃなかったと若干後悔したシズであった。だが気になったので所持していた『鑑定メガネ(丸眼鏡)』でその扇を覗いてしまった。
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名称:呪怨扇・!ガツ¥ヒ
種#:杖【進%型】
Lv1/10
%#? 100
&!$ 1*0
*+@ 1000
魔力性質 呪$
スキル
#B~%、呪⁅?幅1、怨△〇引1、□念吸×1、呪念吸*1、魔力変換1、
呪い
Fu~?@2*^
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「も、文字化け……!?……ッ!!」
『WARNING!!WARNING!!……Please stop measurement immediately, we are under attack of unknown cause!!』
『EMERGENCY!!EMERGENCY!!……An unknown error has severely damaged your system』
『Go to hell, engrave your pain, there's no salvation for you!!』
シズが覗いた呪怨扇・マガツノヒは至る所が文字化けしていた。名称はサナから聞いていたこともあり問題なく読み取ることができたが他の項目は一切読み取ることが出来なかった。更にあろうことか『鑑定メガネ(丸眼鏡)』が壊れてしまったのだ。
そして悪寒を感じたシズは咄嗟に鑑定メガネを外し投げ捨てた。乾いた音を立てて地面に転がった鑑定メガネには扇と同じ禍々しい気配が宿っていた。
「……ッ!!炎剣技【一文字】!!」
シズは即座に鑑定メガネに斬撃を放った。斬撃は鑑定メガネに吸い込まれるように着弾して鑑定メガネを跡形もなく消し飛ばした。
《怨霊の瞳(Lv1)を撃破しました。レベル差が開きすぎているため経験値が獲得できませんでした》
「ちょっ、ちょっとサナ!?何この扇!?」
シズは今起きた現象に思いっきり動揺しながらサナに問いかけた。流石のシズもあの現象は怖かった様だ。
「ん~?だからレンに頼まれて作った(呪われた)扇だけど?」
だがサナは呑気なもので笑顔でシズに返答する。
(……これ本当に大丈夫なのかな)
シズは扇をもう一度見てそう思ったが、あまり関わらないようにしようと距離をとることを決意した。
と、そこにレンがやってきた。
「やっほ~サナ頼んでたのが出来たんだって~?」
「あ~レン~こっちだよ~。ふっふっふ~どうだい?この出来は~?」
「ふっふっふ~最ッ高だよ~これで面白くなってくるよ~」
レンは軽快にサナに話しかけていく。それに気が付いたサナは謎のテンションでレンに応じた。二人はさながらマッドサイエンティストの様な笑い声を発しながらノリノリで扇の受け渡しをしていた。
そこにガリルがやってきた。ガリルはノリノリになっている二人をチラッと見て……自然に目を逸らした。
「……シズ、そろそろ神界に乗り込むが……あの二人はどうしたんだ?」
「気にしたらダメ」
「そ、そうか……」
ガリルは現実逃避をしているシズに何とも言えないといった声色で返しサナ達の方へ歩いていった。
おふざけ二人組を呼びに行った堅物アサシンが苦労しながら二人を準備させている様子を微笑ましく見守ったシズはふと改めて現状を確認した。
「さて、私も準備はできてるし皆も問題はなさそう。これガチで神に挑むってホントなんでこうなったのかはもう置いといて……ってモミジがまだ来てな……」
そこまで確認したシズがモミジの姿が見えないことに気が付いた。流石にゲームを始めて初日の子には荷が重いかと考えたところでまず初日でこの領域までたどり着いたことがおかしい事を思い直した。
「おっ遅れてすみませーーんッ!!」
そこに大急ぎでモミジが走ってきた。よほど慌てていたのか声が大きく上擦って不安げだった。今まで何処か遠い場所にいたのだろうモミジは遅れたのだと思っているのだろうがいきなり呼び出したサナが全面的に悪い。
「あぁ、大丈夫遅刻なんてしてないかr…………え?」
だからシズは安心させようとモミジの方を向いた。だがシズはそのモミジの姿に呆けた声をあげてしまった。視線の先にいたモミジの姿は以前の容貌から完全に原形を留めていなかった。それは狐面の九つの尾を生やし紫炎を纏ったモミジだった。周囲に浮かぶ狐火も若干獰猛な狐の形を模していた。
完全に別モンやん―――とシズは遠い目をしたがその様子を知ってか知らずかモミジが話し出す。
「いや、ホントすみません!ちょっと狩りをしてたら遅くなって」
「いや、狩りって……何処で?」
「サナが作った転移装置?で、えーと〖ルクサント大監獄跡地〗って所でひたすらにアンデッド狩りをしてました」
モミジから聞き覚えのない単語を聞いて首を傾げたシズは攻略サイトを開いてルクサント大監獄跡地と検索を入れると『大罪人や死刑囚が収監されていた大監獄の跡地。餓死した囚人が強力なアンデッドとなって徘徊している。適正難易度Lv200~250の4人パーティ』と出てきた。
「それサナが分かっててモミジを飛ばしたの?」
シズはそそくさと元の姿に戻ったモミジに問いかけたモミジは思い出すように少し空を見上げるとシズに話した。
「……えっと、実は興味本位で触っちゃったアイテムがランダム転移装置だったみたいで」
「嘘でしょ……マジかこの子」
とてもじゃないが生き残ることの困難な場所にいたモミジにシズはドン引きしていたが無意識に『自分でも生き残ることが出来そうだな』と思ってしまったことにシズは気付かなかった。
「じゃあ皆準備オッケーだね?そろそろいこっか!ガリルさん!やっておしまいなさい!」
「次元転移門」
サナの合図でガリルが巨大な転移門を造り出した。サナ達は己の武器を握り門に向かって歩き出した。




