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64話 第九回戦!


 無事一回戦を終えたシズは次の対戦者となる二回戦を控室のモニターから眺めていた。試合は両者共に高速の斬撃の繰り出しあいだったが、片方がうまくスキルで隙を作りそこをついた瞬剣士の勝利だった。シズの速度にはやや足りていないがスキルの使い方が上手いので気を抜くとシズも食われるだろう。文字通りに。どうやら接敵した対象の肉体を抉り取るスキルの様だ。


 「何したらそんなスキルが生えるのよ……」


 若干呆れにも近い自身の主が起こした現象を目の当たりにした心境になったがそれも仕方がないと無理やり納得させ対策を考える。一応切り札が無いこともないがそこまで切迫するようなら相手の戦闘センスを手放しで称賛しなければいけないだろう。


 そして第九回戦が始まった。


 『さあ、一通りの勝者が決まり勝ち残り達による更に熱い戦いが幕を上げようとしています!!今回東から現れたのは―――相手を無残に喰い千切り今回だけで【暴食(グラトニー)】の異名を得た新星っ!!グラ・メガロだあああぁぁぁっ!!キュートな見た目に騙されるなよっ!?痛い目見るぜ!?』


 相変わらずノリッノリの紹介を終えてグラ・メガロが入場する少々奇抜な鮫と骸骨をモチーフにした装備で固めていてどちらかと言えば不気味な印象を持つが装備しているグラが外見十二歳程の外見をしていることで見事なバランスで着ぐるみ感を醸し出していた。その顔には不敵な笑みを浮かべており一風の格を漂わせていた。


 観客からは大きな歓声が響き渡り彼女を応援する声援があちこちから飛び交っていた。中には少し十八禁に指定されそうな歓声が上がったが一瞬で掃討されていた。


 『続いて未だに侍へ転職していないシズ選手が西より入場してきましたっ!!先ほどの試合では一瞬の決着だったが今回はじっくり見ることができるのでしょうか?その能力は未だ未知数謎のベールに包まれた孤高の剣士【炎剣帝】のシズっ!!その速さは本物だっ!!覚悟しろよっ!?第九回戦開幕の撞鐘が鳴ったぁ~~っ!!』


 「先手必勝!いただきますっ!【共喰い(カニバリズム)】!」


 挨拶もあったもんじゃない勢いでグラがかなりの速度で駆けて来る。その右手にはナイフが握られておりそこから呪いの様なオーラが僅かに溢れていた。触れれば痛いだけでは済まされないだろうその一撃がシズに肉薄するが軽く如月で弾く。流石にこの一撃で決着が付くとは微塵も思っていないグラは即座に後退し距離を取った。


 「今度はこれだー!!【鮫の姫君(シャーク・プリンセス)】」


 『おおおおぉぉっ!!さ、鮫だぁっ!グラ選手が鮫を召喚しました!さあシズ選手どう出るのかぁっ!?』


 「空を泳ぐ鮫ね……めんどくさい」


 そのまますぐにスキルで飛行鮫を三体召喚―――もしくは生成―――したグラが魔術の詠唱を始めた。術式の規模からしてかなり高位の魔術なのだろう。つまり飛行鮫は時間稼ぎの捨て駒だが厄介なことにかなりの強さを誇っている。一体で簡単な村なら単騎で滅ぼすことならできるだろう。


 単純明快にして攻略の難しい防衛網を築き本命の魔術を放つ。彼女は接近戦こそ強いが本来は【呪術師】と【死霊術師】の上位職【呪霊術師】であり呪いを込めた死霊を使役する一種の召喚術師やテイマーの亜種職なのだ。呪いから式神を連想するが式神は術者本人の力を具現化したような存在なので根本的に違う。


 そのためつまりこの飛行鮫もれっきとした呪霊であるため通常攻撃ではダメージが一切入らないのだ。


 「そろそろ完成……!!【鋼鉄の―――」


 「【聖刀術】、【闇魔】、【超神速】、炎剣技【火廻(ヒマワリ)・五輪】!」


 術式の完成の間近になり深い笑みをうかべたグラだがその目に信じ難い光景が飛び込んだ。陽光を納刀し如月一本を構えたシズがその刀身に聖属性と魔属性、そして火炎属性を纏わせた。魔術師は一度聖属性か魔属性を選択してしまってはほぼ確実にどちらかの属性を扱えなくなる。しかし相反する属性なので互いに特効性を持つ。故に聖魔両属性を取得したい魔術師が溢れるほどいるのだ。


 シズは装備ボーナスの影響で片方だけなら自在に使るが、刀に限定すれば同時に発動させることができるのだ。もっともこの能力の希少性は本人は知らないようだが。


 シズは計三属性を纏った如月で編み出していた炎剣技【火廻】―――瞬間的に体をコマのように一瞬で回転させその遠心力を乗せた高速の斬撃を放つ剣技。今回は五連続―――で一瞬で三体の飛行鮫を葬り、グラの首と心臓を切り捨てた。呪霊術式の性質か特に聖属性の優しい青い光の攻撃エフェクトが絶え間なく輝きグラが場外で蘇生された。


 『き、き、決まったぁぁあああっ!!シズ選手またもや凄い速度でグラ・メガロ選手を葬り去った~~っ!!まるで花が咲くように炎の斬撃の軌跡が同時に咲き乱れました~~っ!!第九回戦勝者は―――シズだ~~っ!!』


 「う、噓でしょ……まさか【混沌】を使えるなんて」


 フレイの決着宣言で歓声にあふれるステージ場外でグラが信じられないといった様子でうわごとのように繰り返していた。攻略ようのスレッドで過去に一度だけ聖魔混合の攻撃魔術を使用した人物がいたが、それ以降誰も習得した者はいなかった。そのことから敬意の意味も込めて聖魔混合攻撃を【混沌】と呼ぶようになっていたのだ。


 魔術師ではなかったものの大きな衝撃をグラに与えるのは当然だった。今回の大会はスターの喫茶が目的だったが負けてしまってはもう諦めるしかないが今のグラにとってはそのようなことはどうでもよくなっていた。寧ろ貴重な【混沌】でキルされたことに誇りさえ持っていた。


 ふとグラがシズの方を見ればちょうど如月を納刀するところだった。その姿にグラは目が離せなかった。その横顔、揺れる一纏めにした長い黒髪その一つ一つがグラの目には輝いて見えた。


 (あ、あれ?なんだろうこの気持ち?負けたのに悔しくない……キラキラしてる。ドキドキする……!)


 その感情が憧れだと気付くのに数瞬要した。今までグラは負けなしだったがここでシズに敗れてしまった。いつもなら悔しさのあまり目に涙を貯めることもあった。それなのに―――


 ―――それなのに悔しくない。悔しいけどいつもと違う。そっか。この気持ちは『追いつきたい』んだ。


 「あの人の近くで見てみたい……!」


 シズは知らずのうちに熱狂なファンを作ってしまったのだった。後日しつこいほどグラにパーティー参加を懇願されるのはシズは知る由もない。

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[気になる点] 同じ文が2回書いてありますよ
[一言] んん?なんか、文章がダブってる?
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