50話 この世の中というのは意外と退屈なものです
私は少しだけ慌ててOMOをログアウトした。触覚、聴覚、視覚の順に感覚が遠くなり暫くして背中にかなり柔らかめのベッドの感触が感じられるようになって徐々に音と光が認識できるようになった。
あ、因みに味覚、嗅覚に関してはまだ試してないから分からないや。現実では2〜3時間位過ぎていたのかな?少しだけ固くなった身体をほぐすために伸びを一つ。
「〜〜〜…………っふぅ……」
ある程度身体がほぐれたからそろそろご飯を食べに行こうかなっと。
コンコンコンッ!
「お姉ちゃん、ご飯だってー」
ドアがノックされて叶海の声が届く。そしてそのまま部屋に入ってくる。ノックの意味?ないよそんなの。これがいつものしきたり。
どう変えようとしても変えてもらえない。ヤンデレ気質の鬼親め。
「あ、そうだお姉ちゃん。今日は本城先輩と、虎式先輩が一緒にマクロナルド食べに行かないかって」
あ、なら父さんとの会食はナシで。今日ばかりはナイスッ!海、大輝!
「うん、分かったお姉ちゃんも支度してね」
妹ちゃんが部屋から出ていく。さて、四人で食べに行くことになったからこの固っ苦しい正装でご飯を食べなくても良い訳だ。ラフな服はあまり無いけど服を汚さないように気を使うよりはマシだ。
ここは無難にTシャツ、パーカー、ジーパンで良いかな。
ん?胸部装甲でTシャツが張り付く展開はまだかって?な~にが悲しくてこんな緩い服しか着ないのか。
そんな展開はないっ!この服はあくまで服がぶかぶかで実は隠れきょぬーって勘違いをさせたいだけなのっ!
そうだよ……無いよ……叶海みたいな立派な胸部装甲は。
…………私は誰に弁解してるんだろ?
「お姉ちゃん、準備できた?」
そこに妹ちゃんがやってくる。そこに居たのは、ぶっちゃけ私が男だったら少しだけ目のやり場に困るかも。
妹ちゃんの格好は少し肩の出したワンピースに多分中にショートパンツ。そしてその胸元は……ほら期待してた展開でしょ?どうして姉妹なのに妹に負けてるんだろ私。
「お姉ちゃんも準備できてるみたいだね。じゃあ行こう?」
勝手に敗北感を味わっている私は気にも留めず私の手を引いて歩きだした。で、やっぱり思う。ほんと使用人の多いこと多いこと。
父がそういった気があるのか知らないけど、メイドさんだけでも意図しているのかしていないのか知らないけど、ロングスカートタイプの古典的メイドさんにミニスカメイド、スイカ並メイドに、私と同類メイド。挙句の果てにはまさかの男の娘型メイドまで。
彼……ゲフンゲフン彼女は苦労が多そうだね。でも父よ、男の娘はどうかと思うよ。変態かよ。
ちなみに私は性別だけははっきり分かるって言う謎の特技があって、バレていないと思い込んでる父のメイド趣味は実はかなり前から知ってたりする。
他にも、凄い夜目が効くとか、勘とか。
そんなこんなの内にマクロナルドに着いた。妙にカラフルなネットで殺人鬼のコラと化しているピエロの甲板を通り過ぎ入店する。
注文を済ませ二階へ上がると既に海と大輝が軽い間食を嗜んでいた。
「あっ来た来た」
「……(もぐもぐ)」
明るく迎えてくれる海と我関せずと無心に三角チョコパイを囓る大輝。その目はいつも覇気がない。
叶海は早速海とガールズトークを繰り広げている。私は入らないのかって?こちとら世間知らずのヒキニート。おこがましいので大輝の隣に座らせて貰おう。
席に着くと誘ってくれたお礼代わりに皆に何か奢りたいけど……あ、パーティーサイズのナゲットがある。
これにしよう。席のパネルを取ってナゲットを追加注文する。最近からパネルで注文出来るようになったからとても便利。
「ねぇー美波も一回魔界からラスタドール来てよー」
久しぶりの外食で商品の到着をワクワクしながら待っていると海が投げかけてくる。これは、シズがラスタドールにたどり着いたのかな?取り敢えず頷いておく。
ちなみにリアルでの海は意外と軽率な見た目で元から少し青みがかった目何だけど左目だけカラコンで薄緑に変えている。
髪は黒く艷やかで同性の私でもすごく惹かれる。私の抱くイメージは忠犬。実際昔はそうだった。今は抑えてくれてるけど。
「……(もぐもぐ)」
そして三つ目の三角チョコパイを頬張る大輝。メインちゃんと食べられる?
大輝は黒髪黒目。とある影響で人類の色素がおかしくなった日本でも今では珍しい色をしている。凄くやる気のない目をしているのに切っ掛けさえあればあっという間に好戦的になる謎の性格の背の高めの男の子だ。
いや、男の人かな。一回見たけど筋肉パネェから。唯一私の兄的存在で、実質的な保護者。だって今も私にパイくれたし。
「……余った」
ボソボソ言い訳をくれる。ありがとう。
そうこうしている内に商品が届いた。海はテリヤキバーガー単品とコーラ、叶海はチキンレタスバーガー単品とサイダー、私はリトルバーガーだけで大輝はバーガーを一通り。
うん、大輝さん?何処にそのハンバーガーが消えてるのかな?
ま、まあ今は自分のリトルバーガーを食べないと。
いただきますっ!
「はむっ……〜〜〜っ!」
うんまいっ!やっぱり味の感じない父との会食よりよっぽど美味しいっ!いかんコレっ!悶てしまうでしょ……。
「お姉ちゃん、やっぱりいつも同じリアクション……」
「そこまで美味しいかな?ここ?」
「……味を感じない会食よりは……マシだ」
みんな私の反応にやっぱり不思議そうにする。そして大輝よ……心を読まないで。
なんて、楽しい食事の最中だったのに携帯に振動が走る。電話だ。相手は当然……はぁ……父だ。
取り敢えず出るだけ出る。
『美波、今どこにいる?今日がどれだけ大事な会食だと―――』ブツッ、ツー、ツー。
私は知らない。父さんから電話が来たことなんて知らないんだ。この一時の食事に気を取られて気付かなかったんだ。偶然電源を切ったときに繋がっただけ。
ちなみに今日はお偉いさんの息子さんと顔合わせをするみたいだったんだろうけど断固拒否。せめてオタ仲間で、私を受け入れてくれるくらいの人を紹介してほしい。
お見合い結婚なんかするもんか。口に出して伝えられてはないけどそういう意図なのは容易に察せるから。
「……(ゴクン)」
怒ってるのを察したんだろう。大輝は私の好物(梅干し)を渡してくる。
そんなんで怒りが……収まります。大人しく大輝に甘えさせてもらう。
もう17歳になるのに甘えてる……。なんと言うか大輝って包容力があってつい依存してしまう。もう、大輝が一生のお兄ちゃんでいいかも。
取り敢えず気を落ち着かせるためにトレイの紙を弄って鶴を作っていると。
「うそ……美波(お姉ちゃん)が器用になってる……!」
心底驚いたような目で見てくる二人。大輝を見ると少しだけ目が縮んでた。
ゲームではステータスで器用さが上がってるんだからその逆もしかり。できるものなんだよ!やればできるんだから!
そう言えば加工屋みたいなことしてたけど私商人だけどまだ一回しか商売してないんだよね……。商人としては最弱だった。
未だに私の器用さ向上の原因が分からない二人はまだ首を傾げている。
そして、こんな時間も長くは続かなかった。迎えの車がやってきて私と叶海を詰め込んで車を走らせたのだった。
あぁ……こんなつまらない父親なんて持ちたくなかったな……。
特にないわ。
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ネタももう少し頑張りたい。




