第12歩:友情に浅い角度で入ってみる。
見上げると丁度そこに彼女がいた。
片手に大きな包みを持って。
「いや、なァ?」
別段、悪い企みをしていたワケじゃないのに思わずキョドる。
オレはゆっくりと彼女から視線を外す。
「なぁ、じゃねぇ、オマエが聞くんだ、土下座野郎!」
なんだ、そのアダ名は・・・。
「私に何か質問か?悪いがスリーサイズなら二人きりの時にしか教えられない。私は君だけのモノだからな。」
「誰が聞くかっ!つか、その言い方ヤメい!」
何をぽっとなりながら目を伏せる。
大体なんでオレがスリーサイズを聞くという事態に迫られていると思ったんだよ。
「いや。千鶴さんは友達って多い?」
「ん?多くはないが、いないという程でもない。」
オレの隣をそそくさと確保する。
彼女なのだから、隣に座るくらいの権利はあるという事だろうか・・・仕方なくオレは懐から出したハンカチを地面に敷く。
その行動にクスっと笑うのはケイスケだ。
反論したくもあるが、オレ達はズボンで彼女はスカートなんだ、これくらい配慮したって罰は当たらないと思うので、なんとか耐える方向性で。
「すまない。」
「いや。でな、オレ達は夏休みに遊ぼうかってハナシをしててさ。折角だから千鶴さんも友達と一緒にどうかなっていう・・・んで・・・?」
彼女の表情があからさまに難色を示しているのが解って、オレは言葉を区切った。
何か勘に触るような事だっただろうか?
「誘われているのは天にも昇る程に嬉しい・・・けれど、私の友人は、その・・・。」
やっぱりいないのか?
さっきの発言も、もしかしたら彼女の見栄のようなモノなのかも知れない。
「別に他の学校のコでも構わないし、日帰りのつもりだから大丈夫だよ?」
ケイスケがすかさず説得のようなフォローに入る。
特に乗り気でも無かったはずなのに。
ダイは全く以って無言でパンを齧っているのが少しムカついた。
大体、言い出しっぺはオマエだろうに。
「・・・問題はそこではないんだ・・・その、頭に浮かんだ友人を、その、君に紹介していいものか・・・。」
ん?
どういう意味だ?
「アレだな!恋で友情の壊れる時ってヤツだ!オレ様には解るゾ!オレ様達にも一時期あったしなっ!」
唐突のダイの発言。
というより、その内容に対してオレとケイスケは揃ってダイを睨む。
『それはオマエのせいだ。』
無言の視線と圧力の中身は、オレとケイスケ、同じだと信じている。
あれ?
実は友情成立してんのって、オレとケイスケだけじゃね?
いやいや、オレは悪くないぞ、悪くない。
「・・・・・・それに近い・・・と、言えばいいのだろうか。いや、微妙に違うような気もする・・・と、ともかく追々は紹介したいとは思っているのだが・・・。」
直球ストレートな彼女にしては珍しく歯切れが悪い。
「別にオレは元から強制してないぞ?千鶴さんを困らせるつもりはないからな?」
「そうそう。全部ダイの妄想と戯言だから。」
「オレかよっ!?」
「「オマエ(君)だ!」」
見事にハモった。
やはりオレの友人は、この場にはケイスケだけなのかも知れない。
「すまない。」
「ちなみに今のタイミングでオレを紹介しようとすると、どうなりそうなんだ?」
友情が壊れる率は如何程か?
「そうだな・・・一人は怒り狂い、一人は狂喜乱舞すると・・・思う。」
「基本、狂う方向性になるのかよ・・・。」
どんな友達だ、ソレ?というか、友達なのかソレ?
「あと一人は泣くかな・・・もう一人は・・・高笑い?」
泣くというのは友情崩壊フラグという意味で理解出来るとして、高笑いってのは何だろう?
笑うでなくて高笑い。
あえてそう言うところが引っかかる。
「ロクな事にならないというのが共通ってコトか・・・。」
オレの横に腰掛けながら頷く。
彼女の目はマジだ。
「面倒さ加減では皆共通。危機感的には前者二人が・・・。」
「大変だな。」
「が、君にとって大変だ。」
「オレかよ!」
どんな理不尽だよ!
昼休み中に何回突っ込めばいいのやら・・・。
「惜しい友を亡くした。」
「え?ナニ、オレ死ぬの?!」
ダイの不安を煽る声にオレは辟易とする。
これからメシだというのに、その味が解らなくなるようなシャレは勘弁して欲しい。
「私としても、そのような状態は回避したいのだが・・・。」
「命の危険がある程の事なのかよ、馬鹿らしい。いいからメシにしようぜ。」
いずれは紹介されたり、したりとかはあるかも知れないが、そん時はそん時だ。
正直、この状態がいつまで続くのかオレには解らない。
もしかしたら、紹介云々ってのもする間もなく終わるかも知れないし、保障もない。
て、オレも当事者か。
一瞬、選択権がオレにある事を忘れそうになったわ。
でもさ、一応は彼女にも選択権はるんだよな。
こうやってオレと付き合ってみて、思っていたのと違ったっていうカタチで・・・。
「コレが君の分だ。」
そしてどんな恐ろしい弁当箱が出されるかと思いきや、四角い銀色の箱と楕円の黄色いプラ製の箱。
外見は至って普通で、中を開けると・・・。
「普通だ・・・。」
金属製の箱には、2色のそぼろご飯。
卵と肉だ。
その境界を分けるように梅干。
プラ製のは色合いを重視しているのか、手羽元と大根を煮た物に、ほうれん草のおひたしとキャベツと人参のサラダ。
更に牛蒡と蓮根の金毘羅。
純和風のお弁当。
・・・ヲチは?
ヲチは何処にあるんだろうか?
あれか?!味か?!
味がドメスティックバイオレンスだったりするのか?!
「どうぞ、召し上がれ。」
ゴクリ。
「い、いただきます。」
耐えろよ、オレの胃袋!
震える手で箸を持ち、素材まるまるの大根を刺して口へ運ぶ。
父よ、母よ、先立つ不幸をお許し下さい・・・。
「・・・・・・ん・・・。」
大根を口へと放ったオレを心配そうに見つめるダイとケイスケ。
「・・・まい・・・美味い。普通に美味いじゃねぇか!どういう事だよ!!」
「美味しいのに何故怒られた?」
だって!
ヲチがあると誰もが思うじゃないか!
「あ、あの~、オレ様達の分は?」
恐る恐るダイにしては遠慮がちに・・・。
「あぁ、サラダか。はい、コレだ。」
どんっと置かれたリッター容量のタッパーにレタスに包まれたカリフラワーと茹で玉子のサラダが置かれる。
「オレたちゃ牛か!」
余りのオレとの落差に思わずダイが抗議の声を上げて彼女に食ってかかったのだが・・・。
「焦がしパン粉のアクセントが効いててなかなか美味しいよ、コレ。」
「って、もう食ってんのかぃっ!」
既にケイスケは両の頬を膨らませてもさもさとサラダを食べている。
ケイスケって色んな意味で器デカいよなぁ・・・オレには真似できん。
「でも、良かった。君の口に合って・・・。」
そう呟いて安堵する彼女。
こっちはこっちで緊張したのかな、オレの感想に。
・・・ま、いっか。
オレは再び弁当に手をつける。
「・・・美味い。」




