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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
88/252

第88話:ダンジョンデビュー

異世界生活186日目



 勇者一行が街へ向かってから10日、あれ以降も順調な日々を送っている。


 新しい武器やネックレスの増産など、良いニュースこそあれど、悪い報告はひとつもない。



 変わった事といえば、一昨日メリナードから念話があったくらいか。


 なんでも、ドラゴが直接会いに来たらしく、村への移住を打診してきたのだ。議長の座を降りることは確定しており、家族でお世話になりたいとお願いされていた。とくに断る理由もなく、議会との関係は断ち切ることを条件に、その場で了承したよ。


 なにせ議会の元トップだ。獣人領はもとより、人族領についても様々な情報を保有しているはず、仲間に引き入れて損はない。個の武力も申し分ないので、村でも大活躍してくれるだろう。


 それともうひとつ。


 ドラゴからの打診のとき、同じ議員である魚人族の族長も同席していたんだった。マリアと名乗った女性は、自らも議員を辞職すると話していた。魚人族もナナシ村へ移住したい、そう申し出ている。


 どうやら議会の様子がおかしいようで、「一族ごと匿って欲しい」と懇願されてしまったのだ。詳しい事情を聞いてみたら、日本商会が原因だとわかった。


 それと連合国家だからなのか、母国への思い入れはないようだ。あくまで部族の存命が最優先なんだとさ。


 なんでも魚人族の祖先は、遥か南にある島国から流れ着いてきたそうだ。種族数が少なく、いまでは30人しか残っていない。部族丸ごと国を離れようが体制に影響はないと語っていた。


 メリナードが言うには、魚人は温厚な性格の者が多いみたいだ。ドラゴからの強い要望もあり、最終的には受け入れることに決めた。もちろん、『村人になれたら』の前提を覆すつもりはない。そこのところは、しっかりと念を押しておいた。


 ひとまず受入れの準備をしながら気長に待つつもりでいる。




◇◇◇


「村長! そっちの一匹は任せた!」

「おおよ! っとぉ」


 向かってきたオークファイターの攻撃を避けつつ、すれ違いざまに足の腱を切りつける。


「グオォォォ!」


 叫び怯んでいる隙にもう片方の足を薙ぎ払い、その動きを完全に停止させた。魔鉄の剣の切れ味はすさまじく、ほとんど抵抗もないまま吸い込まれていく。


「ガッ……」


 ひざまずいたオークの首をはねると、黒い霧を出しながら消えていく。


 冬也はとっくに倒していたようで、魔石を回収しながらこっちを見ていた。あいつの相手はジェネラルだったというのに……。また一段と腕を上げているようだ。


「全然いけそうだな、動きも良くなってるし安心して任せられるぞ」

「そうかな? そんなこと言われると自信持っちゃうぞ?」

「油断は絶対ダメだけどさ。これなら前衛として十分機能してると思うぞ。ねぇ桜さん?」

「うん、後衛視点でも問題ないかな。位置取りも良くなってきたしね」


 冬也と桜に及第点をもらってご満悦の私は、ダンジョン14階層でオーク上位種を相手に戦っていた。潜り始めて3時間は経っただろうか、既に10回近い戦闘を経験して、連携に関してもだいぶ慣れつつある。



 実は結局、なんだかんだ言いつつも冒険というものを味わってみたくなり、ダンジョン組について行くことにしたんだ。


 正直、最初はしり込みしていたんだ。けど、ふたを開けてみればあら不思議。異世界ファンタジーの醍醐味、ダンジョン攻略の魅力にすっかりはまっていた。


「まあ、みんなのお陰でレベルだけは高いからな。フィジカルごり押しで対応してる感じだよ」

「んなことないぞ。戦闘センスもなかなかだと思うぞマジで。……あんま褒めたくないけど、精神力とか胆力の強さが効いてるんだと思う」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それが聞けただけでも、着いてきた甲斐があったってもんだ」

「いざというとき、怖がって動けないんじゃ意味ないしな。今日の経験は必ず役に立つぞ」

「ああ、その通りだな」


 徴収スキルによる他力本願とはいえ、現在のレベルは56まで上がっている。竜人のドラゴですらレベル50なのだから、単純な強さだけならかなりのもんだと思う。


「あっ! あそこに階段があるよ!」


 会話をしているうちに、春香が下層への階段を発見したみたいだ。


「今日は村長もいることだし、降りるのは明日にしたほうがいいと思う」

「わたしも秋ちゃん賛成かな。万が一があると怖いしねー」

「なんか悪いな」

「いいんです。じっくり行くのが私たちのやり方ですから」

「そうよ、急いでもしょうがないもん。なんでもコツコツが一番よ!」


 下層への階段を見つけたんだが、私に配慮して降りようとはしなかった。


 みんな冒険好きだけど、安全マージンはしっかりとっている。正しい判断だと思うし、なんだか頼もしく感じていた。


「んじゃ、魔物を倒しながら10層まで戻るぞー!」

「「おおー!」」


 みんなの連携はたいしたものだった。個々の強さにも磨きがかかっているしね。この調子なら近いうちに15階層のボスまで到達してしまいそうだ。



 手早く昼食を摂ったあとは、10層にある転移陣に戻りながら戦闘を繰り返していった。夕方に差し掛かる前には村へ到着して、ひとっ風呂浴びる余裕すらある。


 私のダンジョンデビューというのもあって、女性陣が一番風呂を譲ってくれたよ。今は冬也たち男性陣と共にくつろいでいるところだ。


「村長、初ダンジョンはどうだった?」

「んー、冒険してるなって感じかな」

「なんだよ、反応が薄いじゃん。最初は盛り上がってただろ?」

「そんなことないぞ? ワクワクしたし、自分が強くなってる実感もあった。とても満足している」

「そうか? ならいいんだけどさ」


 やっぱりわかっちゃうか……。


 そうなんだよ、冬也が気にしているとおりだ。ダンジョンも冒険も楽しかったんだけど……。


 なんていうか、充実感とか達成感? みたいなのがイマイチだったんだよな。それで言ったら、村を発展させたり人を集めたりしてるときのほうが、冒険してるよりもよっぽど楽しい。


 さすがに、半年以上もこの世界で生活しているんだ。ゲーム感覚の甘さは抜けてると思うんだけど……まだ心のどこかに残っているのか。


 いや、そんなはずはない。


 命のやり取りを何度も経験してるし、人の生き死にも目にしてきた。それどころか、自分の手を染めることだって――。


 そのどれもが、現実じゃないなんて思ったことはなかった。たぶんだけど、自らが圧倒的な力を持つことよりも、有能な人材を育て、より優位で安全な環境を作ることが好きなんだ。


 だが同時に、自分の言動や行動には注意が必要だ。村が独善的な支配構造となっているのは事実なんだ。自分を律するのは無理だとしても、せめてつけあがらないように気をつけよう……。


「――い、おい村長!」

「ん? ああ、すまん」

「風呂でそんなに考え込むなよ、のぼせて倒れるぞ?」

「いやぁなんかさ。俺は村長やってるほうが性に合ってるな、なんてことを考えてた」

「ええ? そんなことかよ……」

「そんなことっておまえ……。おっさんてのはな、どうでもいいことで考え込んじゃう生き物なんだよ!」

「なんだそれ? 村長だけだろ」


 たしかに私が心配性なだけだ。なんでもかんでもおっさんを引き合いに出すのは、世のおっさんたちに失礼だわな。


「まあなんだ。たまにでいいから、また連れてってくれよ」

「ああ、いつでも声を掛けてくれ。……こんなことでしか、今のオレは貢献できないからさ」

「馬鹿野郎、オレが遠慮なく頼める相手はお前だけだ。これからも思いっきり頼るからな」

「おうよ、そうこなくっちゃ!」


 そんな男くさい話をしていると、女性陣が待ちきれずに声を掛けてくる。長風呂を切り上げ、とっとと退場することにした。


 気を良くした冬也が「明日も行くぞ!」と息巻いていたが、丁重にお断りさせてもらったよ。


(やっぱ冒険はたまにでいいわ。また明日から領地育成に励もう)






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