第81話:いつもと違うアナウンス
交流会も終わりを迎え、みんなで帰り支度をし始める――。
私も勇人と一緒にあと片づけをしていたのだが……よくわからない流れから、女性関係の話に移っていった。
私も勇人も最初のうちは探り探り、お互いの様子を伺う感じだった。それがいつのまにかヒートアップして、ついには男同士のぶっちゃけトークにまで発展していた。
「――んで結局、杏子さん以外とは良い仲になったんだな?」
「ぶっちゃけますが、そのとおりです。こんな言い方は卑怯なんでしょうけど……、僕のほうから誘ったことは一度もありませんよ」
「いや、いいんだ。同じ男としてうらやましいだけで、妬みとかさげすみの感情は一切ない」
「ほんと、ここだけの話にしてくださいよ」
「わかってるって! ……それで、本命は誰なんだ? それとも全員、割り切った関係とか?」
「後者、ですかね。感情的にもそうですけど、お互いなぐさめ合いたいというのが大きな要因、なんだと思います。男が僕しかいない状況だったし、自分も若い盛りですので……」
「わかるよ。俺だっておまえぐらい若けりゃ……絶対似たようなことを考えてるさ」
「啓介さんって、ほんとに40歳ですか? 凄く若く見えるんですけど……。20代とは言いませんが、30歳だと言われても違和感ないですよ?」
「おまえってヤツは……。顔だけじゃなくて性格までイケメンだよな」
多人数の女性と、なんて聞けば「不誠実でだらしないヤツ」ってのは確かなんだけど――。
自分たちの他に誰もいない孤立した状況、そしてどこだかもわからない場所、帰れるのかも不明で、そこに年頃の見目麗しい男女とくれば……さもありなん。
まあそれでも、「そんなのいいわけでしょ」って言われたらその通りではあるのだけれど、なまじっか性格までやさしい男だからどうしても憎めないのだ。
「そういう啓介さんはどうなんですか?」
「俺か? んんー、俺はなぁ」
「あんなに綺麗な人たちに慕われているんだし、当然、誰かとそういう関係になってますよね?」
「……いやそれが、まだ誰とも……」
「ええ? ひょっとして啓介さんて……」
「ちがっ、断じて違う! 俺だってお前と同じだ! ただ、なんとなく踏ん切りというか迷いというか……。な、わかるだろ?」
「啓介さんて、意外と奥手なんですね」
「ん-、そうじゃないんだ。一回でも関係をもつと、そのあとは歯止めが利かずに次々と、ってなりそうでさ」
「あー、それはわかります」
「その結果、自分がどんどん傲慢になっていき、ついには見限られて破滅へ……。こんなの最低だろ?」
人間、増長を覚えてそれが許されるとわかれば……、あとは際限なくエスカレートしていくだけだ。
自制心なんて言葉はあるけど、一度倫理に外れれば、どこまでも自分に都合の良い『自尊心』にすり替わる。少なくとも俺はそう思ってて、最初の一歩が踏み出せない。
「なるほど。じゃあ情事は置いといて、恋愛とか結婚はどうです?」
「結婚願望はない。若いうちは憧れてたけど、30過ぎたらなくなったな」
「そこはキッパリと言い切るんですね」
「まあ、人それぞれの価値観があるわな」
恋愛には興味あるけど、思い焦がれるほどではない。と、そんな話をしばらく続けていた。
「――ところで、素の啓介さんて一人称は『俺』なんですね。口調もだいぶ変わってるし」
「普段の口調は余所行き用だ。自分の態度が横柄になるのを抑えるために、無理やり使ってる感じだな」
「僕も真似してみようかな」
「勇人はそのままで大丈夫だと思うぞ。知らんけど」
「随分と適当ですね……。でもまあ、肯定されると悪い気はしませんね」
「なんにせよ、好きにすりゃいいさ。全ては自分に返ってくる。自己責任でお願いします、ってヤツだ」
「ですね、せいぜい気をつけますよ」
そんなこんなで熱い会話をしていると、帰り支度も終わったようで皆が声をかけてきた。
こういうくだらない話題ならずっと話してられるんだが……。まあそのうち、また話せる機会もあるだろう。
◇◇◇
「じゃあ、メリー商会の日程が決まり次第、斥候に連絡を入れさせるよ」
「はい、こっちも準備はしておくのでよろしくお願いします」
「わかった。じゃあ皆も元気でね」
「「「はーい!」」 「「またねー」」
こうして私たちは、杏子さんを連れて帰路につく。
ギリギリまで砦にいると別れづらくなる、と、このまま村へついてくることを希望したからだ。まあ、勇人たちが街へ行くときには村へ立ち寄るからね。別れの挨拶もそのときにすればいいだろう。
少し寂し気な杏子さん、そんな彼女を尻目に馬車へと乗り込む。
そして結界の中に入った瞬間――、
『ユニークスキル所持者が村人になりました。既存の能力のうち、いずれか一つを選択して強化することが可能です』
『どの能力を強化しますか?』
いつもとは異なる内容のアナウンスが、私の頭の中に響いてきた。
「うお、っと?」
「村長? どうした?」
「突然アナウンスが聞こえてきてさ、ちょっとびっくりした」
「おー、スキルレベルが上がるのって久々だろ。今回はどんな能力?」
「それがどうやら違うらしい。能力の一つを強化できるみたいなんだ」
久しぶりのスキルアップ、とは少し違うけど……能力を強化できるのはありがたい。
「へぇ、何がキッカケだったんだ?」
「ユニークスキル所持者が村人になったからだってさ」
「じゃあ杏子さんか。ってことは、勇人さんたちも村人になればひょっとして?」
「かもしれんな」
車輪の音や馬の駆ける音がする中、ふたりで御者台に座って話していると――、
会話を聞きつけた桜が、荷台から身を乗り出してきた。それに気づいた冬也が荷台にひょいっと飛び移り、私の代わりに説明してくれていた。
(勇人たちを村人にするのは、どうなんだろうなぁ……)
別に村人にすること自体は問題ないんだけど、能力強化のためにお願いするとなると、こちらが借りを作ることになる。
彼らが村で生活するんであれば、いくらでも援助ができるんだけど……。もし街で何かあったとして、それを助けにいくのは難しい。そういう意味もあり、村人にするのを躊躇っていた。
(やっぱり、向こうから志願した場合に限るな。最悪、私が切羽詰まったら、土下座でもしてお願いすればいっか)
せっかくここまで親睦を深めたのだ。相手を頼るならば、その理由もちゃんと明かして誠実に頼みたい。そういう気持ちもあり、今回は見送るつもりでいた。
(それよりも、まずはどの能力を強化するかだよな。というか、どう強化されるかも不明なんだが……)
「おーい。どれを強化したらいいか、みんなも考えてみてくれ。私だけじゃサッパリだ!」
「もう考察してますのでご心配なくー」
私がそう叫ぶと、桜が当たり前と言わんばかりに返してきた。
みんな本領発揮と言う感じで、アレコレ意見が飛び交っている。内容までは聞き取れないが、その熱気だけはここからでも伝わってきていた。
その輪の中には、新しく加入した杏子さんの姿も――。やっと手に入れた同志たちの存在に、とても満足しているように見えた。
◇◇◇
やがて村へと戻り、そのまま歓迎会の流れになった。女性陣は帰ってくるなり大浴場に直行していく。
入浴前からホクホク顔の杏子さん。もう何か月間も風呂に入っていないはずだ。夕食まで時間があるし、今日はじっくり堪能してくれたらいい。
っと、能力強化についてなんだけど、結局のところはしばらく保留にしたよ……。次回以降、強化の権利をいつ獲得できるか不明だからね。
そしてなりにより、みんなの考察を聞いたことが原因だった。どれもこれも夢のような話ばかりで、一体なにが正解なのかわからなくなったんだ。
例えばだけど、
『能力模倣』が強化されると、村人全員のスキルを効果の制限なしに使えるようになる、だとか。
『閲覧』は、派生職や新スキルの解放条件や取得条件までわかるようになる、とか。
『物資転送』なんかは、人も転移できるようになり、挙句の果てには日本との行き来も自由にできるかも、なんて言い出す始末。
どれもこれも、なんの根拠もないご都合解釈だ。でも絶対にないとも言い切れない。とてもじゃないが、今すぐ決められる気分ではなくなってしまった。
――まあ、何を強化してもハズレはないはず。この件については、もっと冷静になってから決断しようと思う。
R以上確定のチケットは手に入れたんだ。SSRを引けるかどうかは、自分の運に任せるつもりだ。
(まあ俺、ガチャ運ないけどね……)




