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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
74/252

第74話:議長の訪問(1/3)

異世界生活165日目


 本日、連合議会の議長が村へと訪れる。


 昨日の最終調整では、午前のうちに到着する予定だった。少し前にメリナードからも念話がきており、もう村の近くまで来ているらしい。こういうとき、通信手段があるというのは本当に助かる。


 護衛の人数は10名。そのうちの3名は、ケーモスの街でも有名なBランクの冒険者だと教えてくれた。


 議会側は、議長のほかに側近を2名引き連れているらしく、他の議員はひとりもいない。そしてもちろん日本人の姿もないと言っていた。



『お、馬車が見えてきたぞ。獣人領のトップがお出ましだ』

『鑑定したらすぐに伝えるからね。みんなも村長経由で繋いどいてよー』


『『『了解です!』』』


 向こうにも鑑定士がいるかもしれないので、まずは私と春香だけで対応する。他の連中はいつでも飛び出せるよう、近くに隠れて待機だ。



 そうこうしているうちに、


 ちょっと豪華な馬車2台が村の結界ぎわまで到着した。その周囲には冒険者たちの姿もある。


「お初にお目にかかります。ナナシ村の村長、啓介と申します。本日は遠い所をご足労頂き感謝致します」

「そうか。儂は連合議会の議長を務めておる、名をドラゴと言う。そう堅苦しくせんでもよい。議会を治める立場じゃが、国王ではないからの」


 威厳を身にまとった御仁は、ドラゴと名乗った。見た目年齢は50代半ばだろうか、「歴戦の猛者」という言葉が良く似合いそうだ。


「そうですか。……なにぶん常識知らずな身の上、不敬がないよう努めますが、どうかご容赦願います」

「かまわんぞ、儂も今日という日を楽しみにしておった。啓介殿、よろしく頼む」


 名前の語感から察するにいかにも竜人族っぽい感じ。背中から竜の翼みたいなのも生えているので、少なくともそれに近い種族だと思われる。



「失礼を承知でお聞きしますが、ドラゴ様は竜人、なのでしょうか」

「ほお……やはり日本人は察しがいいようじゃ。いかにも儂は竜人、といっても、竜の血はかなり薄まっとるがのぉ」


 やはり竜人で間違いないようだ。血が薄いってことは、竜と人との混血ということだろうか。


「お答えいただきありがとうございます。それで、竜人の禁忌に触れるような発言や行為はありますか? あるのならば先にお教え頂きたい」

「とくにはないのぉ。お主らとたいして変わらんはずじゃ」

「わかりました。ではひとまず、そこに見えます長屋にてお寛ぎ下さい」

「ん、そうしよう。――じゃがその前に、儂の忠誠度を見てはくれんかの」


 まずは一息ついてもらい、その間に鑑定させようと思ったんだが……。


『春香、予定変更だ。この場で全員を鑑定してくれ』

『かしこまりー』


 私も無駄話を挟みつつ、時間を引き延ばしていく――。


「忠誠、ということは村人になると?」

「メリナードから話は聞いておる。儂もなんとか村に入りたいものじゃ」

「なるほど、そうだったのですね」

「村長、村のことは伝えさせて頂きました。是非お試しを」

「そうか。――では少々お待ち下さい」


 メリナードからは、「馬車の中で、村や私のことを延々と聞かれた」との報告を受けている。重要なことは濁してあり、今日の視察には支障ないとも言っていた。


『春香、鑑定は進んだか?』

『うん、冒険者連中の平均レベルは30だね。その中で3人だけ、レベルが40前後で剣術Lv3がふたり、火魔法Lv3がひとりいるよ』

『ほかに目立ったスキル持ちは?』

『護衛にはいないけど……この議長さんがとにかくヤバい。体術Lv4と飛行Lv3、さらにレベルが50もあるよ!』

『おいおい、このおっさんが最強かよ!』

『あともうひとつ、わたしの鑑定で看破できない能力もあるみたい』

『とりあえずこのおっさんと3人の冒険者に注意な。みんなもそのつもりで警戒してくれ』



 急いでざっくりとは確認したが、これ以上待たせるのも怪しまれる。とりあえず、居住の許可をだして様子をみることにした。


『啓介さん、忠誠度は……60? この人、村に入れるみたいよ?』

『え? そんなにあるの?』


 このおっさん、想定外の忠誠度だった。まあ、高い分には問題ないんだが……問題ないのか? 予想外の展開に混乱してしまう。


「居住の許可を出したので、結界の中に入ってみて下さい。忠誠度が足りない場合は、元の場所に戻れますのでご安心を」

「そうか、ではでは――」


 議長が何の気なしに進もうとするもんだから……。


「っ、お待ちください議長!」

「そうです。何が起こるかわかりません! 我われ護衛のそばを離れては危険です!」


 スキル持ちの冒険者が慌てて制止していた。護衛の立場からみれば、当然の反応だろう。だが議長は――。


「安心せい。儂で対処できんようなら、お前らにはどうにもできん。それにこちらが信用せんことには、相手が気を許すことも無かろう?」

「ですが……。わ、わかりました」

「その心意気には感謝しておる。だが心配せず見ておるが良い」

「はっ!」


 これでは護衛の面子は丸つぶれ……かと思ったらそうでもないようだった。みんな議長を崇拝しているのか、ちょっと褒められただけで喜んでいた。おそらく一個人としての人望も厚いのだろう。


「――すまんの村長、気を悪くせんでくれ。こやつらも務めだからの」

「ええ、承知しております」

「では改めて。よっ、と」


 村に入れることは忠誠度からも明白だが、こちらが鑑定していることを悟られたくない。だから私は、なるべく自然に驚いて見せる。


「え、まさか入れるとは……。失礼、驚きのあまりつい迂闊なことを」

「よいよい。――で、儂も村人になれたわけじゃな?」

「はい、ようこそナナシ村へ。今日は存分にご見学下さい」

「こりゃ楽しみじゃ! クックックッ!」


 この人、お供の面々はどうするつもりなんだろう……。そう思っていると、ドラゴが護衛や側近に声を掛けていた。


「お主らは長屋で待機しておれ。これは議長命令じゃ、くれぐれも村の住民に非礼をするでないぞ」


「「はっ! 畏まりました!」」



 さすがは議会の最高責任者だ。そのひと言で、全てを治めてしまえるだけの権力と実力があるのだろう。


「すまんが村長。昼食にはこやつらにも、村の絶品芋料理をお願いしてもよいじゃろうか」

「もちろんです。できる限りのおもてなしを約束しますよ」

「そうかそうか、では村の案内を頼む。むろんメリナードも一緒にな」

「はい、ご同行いたします」



 予想外の展開になったが、忠誠度も悪くないのでいきなり殺される心配はないだろう。


 こうなってしまった以上、逆に忠誠度を上げる方向にシフトしたほうが良さそうだ。まさか「このまま村に定住する」なんてことは無いだろうけど、味方につけておいて悪い相手ではない。


 利用するにしてもされるにしても、忠誠度は高ければ高いほどいい。ナナシ村においては忠誠度が絶対の指標なのだから。 


『みんな聞いてくれ。どういうわけか、獣人領のトップが村人になった』

『へ? トップって議長さんですよね?』

『マジかよ……』

『これはなかなか面白い展開かも』

『だから予定を変更して、ある程度のことは話すつもりだ』


 議長が村人になれた以上、隠れて待機させる意味もなくなった。コソコソしてるほうが怪しいので、普段どおり生活してもらうことに――。


『って、何すりゃいいんだ?』

『そうだな……。差しあたっては水路を下流まで繋げるとか?』

『そういやまだ途中だったもんな』

『派生職や上級スキルは隠してほしい。それ以外は大丈夫だ。あとはみんなの判断に任せるよ』

『わかった。村長も上手くやれよー』

『ああ、せいぜい頑張ってみるよ』


 日本人メンバーには、護衛たちの鑑定結果を聞いておくよう念を押す。



 国の代表を相手に私だけでは不安なので、椿にサポートを頼んで付き添ってもらうつもりだ。彼女は気配り上手だし頭もいい。こういう大事な場面においてはこれ以上ない配役だ。



「昼まで時間がありますので、ゆっくりご案内しますね」

「うむ。村長の思うようにしてくれ」

「……では農地のほうから――」


 思わぬ展開を迎え、ひとまず村を案内することになった。










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