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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
27/252

第27話:族長ラドと魔法少女ロア


異世界生活32日目


 兎人族が来て2日目の朝、総勢20名で朝食を摂っている。人数が多いので調理しながら順番に、という感じだ。


 私とラドはその光景を見ながら気さくに会話をしていた。


「怪我した人も、大したこと無くて良かったな。皆の顔色も良さそうだ」

「ああ、本当に感謝している。こんなにうまい食事を毎回出して貰って……。私が心配するのも筋違いだが、大丈夫なのか?」

「そうだね。今いる人数程度なら、十分賄える量は確保できているよ」


 ナナシ村には『豊かな土壌』と『万能な倉庫』がある。2つの村ボーナスのおかげで食糧事情は大幅に改善している。


「しかし、このサツマイモとジャガイモというのは凄いな。我が部族で育てた芋より大きいし、なにより味が素晴らしい!」

「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。明日には私たちの国の主食も収穫できる。ぜひ食べてみてくれ、米って言うんだ」

「あそこに見える、麦のようなもの全部がそうなのか?」


 この世界にも麦はあると昨日聞いていた。が、残念ながらお米はないらしい。少なくとも、近くの街には売ってないようだ。


「収穫後の工程は似てるよ。ここへ来て初めての収穫だから、食べるまでにはもう何日かかかるけどね」

「そんなに世話になっていいのか。いや、もちろん助かるが……」


 切り出すには良い頃合いだと思った。


「なあラド、行く当てがないなら一緒にこの村で生活しないか? 村の一員になって欲しいんだ」

「……とてもありがたい申し出だ。正直、ここほど安全に生きられる場所は、見た事も聞いた事もない」

「愚かな日本人もいるしな。じゃあさ、集落の皆で話し合って――」

「いや、その必要はない。我々兎人族は、族長に全ての決定権がある。一族はそれに従う風習なのだ」

「そうなのか。なら、これだけはハッキリ言っておくよ」


 ラドは周りの仲間を見回したあと、静かに頷く。


「村に住む限り忠誠度は絶対だ。たとえ身内でも曲げることはない。私はラドたちを利用するし、ラドたちも私を利用していい。私と村の安全が最優先、と言うことを覚えておいてくれ」


 その言葉にラドは、さも当然のように頷いて答えた。


「村長、今から我ら兎人族はこの村の一員だ。末永く忠誠を誓うぞ」


 ふと気づき周りを見ると、兎人族全員が私を見て深く頭を下げていた。


(ああそうか、耳が良いんだもんな)


 みんなにも聞こえていたようだが、手間が省けてちょうど良かった。兎人族が村に住むことを椿たち四人にも伝え、そのあともみんなで食事を楽しんだ――。



 正式に村人となった15人。


 その内訳は男性6人と女性9人で、そのうち子供が3人いる。ちなみにこの世界の成人は15歳らしい。とくに血縁を気にすることもなく、同じ集落内でも夫婦になると言っていた。血がどうのという遺伝的な影響もないとのこと。


(この世界、オルシュア大陸では冬也も夏希も成人してるんだな……)


 いまは新たに村人となった15人。彼らのステータス確認をしているところだった。私と桜、それにラドが同席して確認をしている。他のメンバーも誘ったが、自分たちは外で作業をすると言って参加していない。


「やっと終わりましたー」

「ああ、これだけの人数を一度にやるのは大変だったな」

「大事な確認ですからね。収穫もありましたし、良かったですね」


 全員の確認を終えたのだが、私たちと違うところがいくつかあった。


 まず職業がない。15人全員に職業欄がなかったのだ。集落ではそれぞれ仕事を分担して生活していたが、それが職業と言うわけではないようだ。


 次にスキルがない。いや1人だけあったが……ほかは全員スキルがなかった。こちらは『スキル:―』と出たので、後天的に覚えることがあるのかも知れない。それでも、レベルと忠誠度は見れたので問題はない、けど疑問だけは残った感じだ。


「この魔道具は、教会の女神像と似た効果があるのだな。映っている文字は読めんが……」


 今まで黙っていたラドがそう言った。


「女神像ってのは鑑定の魔道具なのか?」

「いや、女神の姿を模したと言われる水晶の像だ。いつの時代からあるのかは不明だが、大きな街の教会には大体置かれている」

「どんな効果があるんだ?」

「女神像に祈りを捧げると、頭の中に浮かぶのだ。レベルとスキルがな」

「文字が読めない人はどうなるんです?」

「何と言えばいいか、頭の中でわかるのだよ。文字が浮かぶわけでは無いんだ」

「なるほど、それは誰でも利用することができるのか?」

「ああ、獣人族の街では誰でも無料で見られるぞ」


 この世界には、鑑定のアーティファクトみたいなのがあるようだ。ただ、職業や忠誠度なんてのはないらしい。


「我が娘のロアにも、街に行く際は教会に寄るよう言ってあるしな」


 そう言われ、ラドの娘さんのステータスを思い出す。


============== 

ロア(兎人) Lv10

村人:忠誠68

スキル 土魔法Lv3

魔力を捧げることで土を出すことが出来る。形状操作可能。性質変化可能

==============


 ラドの話によると、娘のロアは17歳。土魔法を使い始めたのは8歳からみたいだ。亡き母も土魔法が使えていたが、今は集落でただ1人の使い手となっていた。


「ロアは土魔法で何がやれるのかな?」

「そうだな、土を生み出したり、地面に穴を空けたり、硬さを変えたりだな。集落の周りも、ロアの土魔法で土壁を作ってあった」

「なるほど、石つぶてを飛ばして攻撃したりとかはどうだ?」

「いや? そういうのは見たことないな」


 土魔法には攻撃手段がないのかな? 土木的な魔法なのか、イメージの問題か、現時点では判断がつかない。


「啓介さん、私がしばらく検証に付き合いたいと思います。土の構造理解とかイメージの問題な気がしますから」

「私も同意見だ。桜に任せるのが最適だと考えていたところだよ」

「お任せを! ってことでラドさん、娘さんを暫くお借りしますねー」

「あ、ああ……よろしく頼む」


 そう言い放った桜は、一目散に外へ出てロアのところに向かっていった。この調子だと、村人になって早々にロアの厳しい修行回が始まりそう……。


 桜が出て行ったあとは、今後の作業分担や、元集落に居ついている日本人への対処などを話し合い、皆のステータス確認は無事終了となった。






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