表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
250/252

第250話:唯一神、ナナーシア

 魔王討伐の翌日、


 日常を取り戻した私は、朝から自宅の居間に陣取っていた。すぐ隣にはナナーシアさまがいて、一緒にPC画面を覗いているところだ。


 魔王のせいですっかり忘れていたが……こっちに学生村長が来ていることを、今更ながらに思い出した。

 まずないとは思うけど、妙な能力に覚醒している可能性もゼロではない。直接見に行こうとしたところを、女神に呼び止められていた。



「どうやら問題ないみたいですね。彼女たちの加護も消えています」


 女神の言うとおり、2神の加護が消えたこと以外は変わりないようだ。奴隷の子も一緒だったし、結界も以前のまま存在している。

 しいて挙げるとしたら、自宅の場所が少しズレているくらいか。私たちが作った砦からは500メートルほど移動していた。


 もちろん砦の結界は解除してあるので、誰が建てたのかはわからないはず。まあ、バレたところで関係ないんだけどね。この様子なら、たまに見に行く程度でいいだろう。とくに接触するメリットも感じられなかった。


「そういえば、例の調査はどの程度進んでいますか?」

「はい、それはもう全力で調べて参りましたよ!」


 魔王の件に責任を感じたのだろう。女神はこの8日間、ずっと神界に籠っていた。ほかの生存者たちはもちろんのこと、日本に帰還した者すべての情報を調べてくれていたんだ。


 唯一神となった今、彼女にわからないことなどない。日本に帰った人たちの職業候補すら把握している。


「何度も言いますけど、あれは事故です」

「そうかもしれませんけど……」

「勇者がいるなら魔王もいる。ずっとそう考えていましたからね。危険の芽を摘めて良かったです」


 結果だけをみれば、むしろありがたいくらいだ。もし知らない所で魔王が生まれ、ガッツリ成長していたら……もはや手の施しようがない。

 聖理愛たちも無事だったし、この件はこれにて決着。女神にもそう説明して納得してもらった。



 一息ついたところで調査のことに話を戻す。


 現時点での生存者は王国8千人、獣人国2千人、そして帝国に4万人。ユニークスキルの保有者はゼロで、職業を授かった者も皆無、日本人は街から完全に締め出されている。


 6千万人いた転移者も、すでにここまで減少していた。


「なるほど、予想以上に減っていますね」

「一番の死亡要因は魔物、あとはなんと言っても水が原因です。ほとんどの人は日本へ戻っていますよ」


 当たり前のことながら日本は大騒動となった。多くの人が消えたことで、数日間はパニック状態が続いたらしい。


 だが世間の注目は早々に切り替わっていく。ダンジョンのことや幻想結界の消失、魔石資源のことが話題の中心となる。世界中の関心を集め、海外からの使節団が続々と押し寄せていた。


 まあ、ほかにも様々な支障があるようだが……。


 そのあたりのことはどうでもいい。政府がなんとかするだろうし、村には結界があるから影響はないだろう。海外勢にしたって、直接的な関与がない限りは無視しておけばいい。


「あ、それともうひとつ。竜の里にも数名の日本人が転移していますよ」

「それってドラゴたちの故郷ですよね?」

「はい。竜人に受け入れられて、普通に生活をしているようです」


 今回の転移には、不可抗力とはいえ女神が関与している。そのせいで大山脈にも転移者が――。竜に頼めば会うこともできるみたいけど、今回は丁重にお断りしておいた。


 竜の里には興味があれど、それは今じゃなくてもいい。竜の存在を含めて面倒なことに巻き込まれそうだしね……。ちなみに全員、穏やかな女性ばかりで職業は農民だったらしい。



 そんな冒険は後回しにして、別の話題を振ってみることに――。


 大陸全土の監視と転移者の能力把握。現状、この2つが可能となったようだが、まだほかにもありそうな気がしていたんだ。


「唯一神となったことで、ほかに変化はありましたか?」

「あ、それならいくつか。たとえばですけど――」


 そのあと女神が語ったのは、想像以上に強烈な内容だった。

 

 まず2神が完全に消えたことで、大陸中の現地人からふたりの記憶が抹消された。現在、神は不在となっており、世界が不安定な状態に陥っている。理屈こそよくわからないが、これは非常にマズいことだった。


「では、どう対処するのですか?」

「近々、神のお告げを下します。いわゆる御神託というヤツですね」


 お告げというのは、全国民に向けた生配信みたいなもの。どうやらかなりの効力があるようで、女神への信仰心が自然と芽生えてくるらしい。なんだか強制催眠みたいで恐ろしいな、と、つい本音を漏らしていた。


「ちなみに、お告げの内容を伺っても?」

「よくぞ聞いてくれました! 何を隠そう大陸全土の統一化です!」

「なっ、それ本気ですか……」

「妙案だと思うんですけど、何かおかしいでしょうか?」


 まったく悪びれもせず、自信満々に宣言をする女神。たしかに垣根がなくなれば、国同士の争いはなくなるだろう。だがそれも一時的なもので、将来的には別の火種が生まれるだけだ。


(まあ、この世界の神が決めたことだし、私ごときが口を出すべきではないが……)


 そう思い至ったところで一抹の不安が頭をよぎる。せめてこれだけは確認しておかないと――。


「ちなみにですけど、誰が頂点に君臨するんですか? まさかとは思いますが、私ではありませんよね」

「それはもちろんあなたですよ。だって私を顕現させた張本人ですもの」

「やっぱりか……。絶対にやりませんよ! それしか選択肢がないなら日本へ撤退しますからね」

「ええ!? いったい何の不満が……世界征服ですよ? この世界の王になれるんですよ!」


 これまでもそうだったが、彼女の感性には理解しがたいものがある。やはり人間のそれとは大きくかけ離れているようだ。いくら女神の頼みでも、こればっかりは願い下げだった。


「理由はいろいろとありますよ。あえて説明はしないですけどね。ただ一つ言えるのは、めんどくさいから。これに尽きます」

「絶対喜んでくれると思ったのに……。ううっ、残念です……」


 女神はそう言いながら、しょんぼりと肩を落とす。これを本心で言っているところが恐ろしい。『魔王を倒したと思ったら真の裏ボスが登場』、まさにそんな感じの気分だった。



 そのあともいろいろ話し合ったが、世界統一路線に変更はなかった。それが平和につながると本気で考えているようだ。誰を王に据えるかはさておき、私でないことだけは確約させたよ。


「ぶっちゃけ、王国や獣人国には興味があります。あわよくば、村人に引き入れたいとは思っていますよ」

「なるほど! ではその線で考えてみます。期待しててくださいね!」

「あ、いや……。無茶だけはしないでくださいよマジで……」


 つい余計なことを言ってしまい、後悔したりしつつ――。


 村に影響がない範囲で協力をする。そう結論を出したところで話を切り上げることになった。具体的な方針については、今後じっくりとすり合わせるつもりだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ