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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
219/252

第219話:あんた、いったい何者なんだ?


 空飛ぶ船に揺られること数時間、ようやく目的地へと到着する。


 たぶん中部地方のどこかだと思うが……あ、意外と村からも近いようだ。自衛隊の人が地図を開きながら現在地を示してくれた。ここから村まで、あと30分程度の距離だと言っている。


「あそこに見えるのが射撃場です。さあ、みなさん行きましょう」


 ここへ来たことがあるのだろうか。先頭を行く政樹さんは、勝手知ったる感じで迷いなく進んでいく。


 この場所は広大な森に囲まれ、そこにポッカリとひらけた平地が広がっている。しっかりと整備されているようで、近くにはコンクリート製の建物なんかも確認できた。なお、私たち以外は誰もいないようだ。


(これはいわゆる演習場ってヤツなのか? でもこの地域にあった記憶は……いや、私が知らないだけかもな)


 ここでの注意事項を聞きながら、目的の場所へと歩いて向かう。本来であれば、事前広報やら特殊申請やらと、いろいろ準備が必要だったらしい。今日はそれらすべてをすっ飛ばして、特別に立ち入っている。



 目的地についたところで、政樹さんが声をかけてくる。困惑と不安が入り混じったような……なんともいえない顔をしていた。


「あの、今さらなんですけど……本当にやるんですか?」

「ええ、そのために段取りしてもらったんです。早く始めましょう」

「わかりました。すぐに準備します」


 今日ここに立ち寄った目的、それは銃撃による検証実験である。


 もうお忘れかもしれないが……


 自衛隊に銃の携帯を許可したもうひとつの理由――それがコレだった。簡潔に言ってしまえば、私が実弾を浴びるために訪れている。


『銃弾は視認できるのか』

『回避することは可能か』

『結界のネックレスは発動するのか』

『生身の肉体は銃撃に耐えられるのか』


 この4つの検証をする予定で、標的は私が担当する。冬也と勇人に散々文句を言われたが……どうしても譲ることができなかった。


 

 まずは最初の検証、『銃弾は視認できるか』なんだが――


 結論から言うと、銃弾なんて見えるはずもなかった。そして視認ができない以上、回避することも不可能だった。

 これは私だけでなく、冬也や勇人もまったく見えなかったらしい。発砲音が聞こえたときには、はるか先にある的に命中していた。


 銃弾がスローに見えたりだとか、その場で器用に避けたりとか……そんな恰好いいシーンはお蔵入りのようだ。



 視認と回避。2つの実験が早くも終わり、いよいよメインイベントに突入。ネックレスの検証に先立ち、魔鉄製の防具を着込んで急所を守る。防具が銃弾を防げることは、すでに何度も検証済みだ。


 私に向かって銃口を向けるのは自衛隊――ではなく、村人(仮)である政樹さん。先ほど腕前は見せてもらったけど……そんな私の不安をよそに、自信満々の政樹さんが――


「では、まずは右手の甲から」


 と、同時に発砲音。乾いた音は鳴り響くが……私の手は無傷だった。


 どうやら認識外の攻撃として感知してくれたらしい。小さなシールド状の結界が見事に発動していた。銃撃が来るとわかっていても、不可視の攻撃なら防げるようだ。


 ――と、ホッとしたのも束の間、


「次、右足首。次、左肩――」


 そう宣言するたび、結界が次々と展開されて銃弾を弾く。


 ていうかこの人、躊躇してる気配がまったく感じられない。そして銃声も一向に鳴りやまない。頭部や心臓付近は避けてるようだが……ちょっとヤバくないだろうか。


 ようやく周囲が静まり返り、みんなが私のいるほうに近づいてきた。


「村長……大丈夫か……?」

「あの人、いったい何者なんですか?」

「俺もよく知らんけど、ひとまず実験は成功だ。どこも怪我してないよ」


 3人で苦笑いしながら、政樹さんへ視線を向ける。――と、彼は真顔のまま歩み寄ってきた。ほとんど無表情のまま、私の全身を隈なく見つめはじめる。


「なるほど、これがネックレスの効果ですか……凄まじいアイテムです。自動展開機能もそうですが、対象に合わせてサイズを最小限に縮小。それにより内蔵魔力の消費を押さえつつ、さらに複数展開もできるとは……まさに万能、まさにファンタジー!」


 ひたすら語り続ける政樹は、私たちのことなど完全に放置だ。こっちの世界に戻って来たのは、それからしばらく経ってからだった――。


 最後の最後にひと言だけ「大丈夫ですか?」と、そっけない言葉をかけてくれた。


 検証前に言っていた「本当にやるんですか?」ってのは、「本当にやっちゃってもいいんですか?」の聞き間違いだったのかもしれない。最後の検証を前にして一抹の不安を抱えていた。



 そんなこんなで、いったんこの場を仕切りなおすことに――。自衛隊の方が用意してくれた昼食をとりつつ、気持ちのリセットを試みる。


「――なるほど、元自衛官ですか」

「決して隠していたわけではないんです。まさかこんな展開になるとは思いもしなくて」

「いえ、ちょっとビビ……驚いただけですので。それより腕前のほうが気になります。かなりの精度でしたよね」

「あー、それだけは自信がありまして。この後の検証もお任せください」

「お手柔らかにお願いしますよ、マジで」


 昼食が終わる頃には少し場も和らぎ――


 いよいよ最後の課題、『生身の肉体は銃撃に耐えれるのか』を試すことになった。


 狙撃を担当する政樹さんは、忠誠度も高いし腕も確かだ。とはいえ、命まで預けるわけにはいかない。身の安全を考慮した結果、結界の中から片腕だけを出すことにした。


 ただ、ここからの過程を説明するのはやめておくよ。


 思ったよりも痛みはなかったこと。出血量が明らかに少なかったこと。霊薬や回復魔法があれば一瞬で治ること。そして乱射されたら耐えられそうにないことがわかった。これだけわかれば充分だろう。


『もしかすると、勇人のスキルが効いてる可能性はあるな』

『状態異常無効、ですか?』

『出血量もそうだし、痛覚にも影響してそうだ。そのおかげで、案外平気だったよ。まあ、緊張で麻痺してただけかもしれんがな』

『なるほど、いずれにせよ結界のネックレスは必須ですね』

『ああ、今後も必ず常備してくれ』



◇◇◇

 

 やがてすべての検証がおわると、自衛隊の方々が撤収作業をはじめてくれた。申しわけないと思いつつも、それを遠巻きに眺めながら休息をとっている。


 正直なところ、今回はかなり無茶をした自覚がある。最後の検証なんかは、もはや無謀と言えるだろう。それでも……


 もし大切な人が殺されたら――


 それをいつも考えてしまうのだ。


(やっぱり椿は連れてこないで正解だった。あれは見せられんわ……)


 どうやら声に出ていたようで、すかさず冬也からツッコミをもらう。


「村長、桜さんはいいのかよ」

「ん? 桜はべつに平気だろ?」

「えー、そうかなぁ」

「だってあいつ……自分から火だるま修行しちゃうんだぞ?」

「あ、そういえばやってたな……」

「僕は心配すると思いますけどね? たぶんこのことを知ったら……大変なことになりますよ……」


 検証過程はすべて秘匿、結果のみを伝えることで合意した。よほどヘタを打たなきゃバレることはないだろう。

 


 撤収作業も完了したので、重い腰を上げて立ち上がる。自覚はあまりないんだけど、少なからず精神的な疲労を感じていたようだ。


 空の旅は魅力的だったが、自衛隊の方とはここでお別れ。私たちは転移陣を使って帰還することに。もちろん政樹さんも一緒だ。


「では、我々はこれにて」

「皆さん、今日はありがとうございました。村の警備の方もよろしくお願いします」

「はい、お任せください」


 ここにいる自衛隊の皆さんは、全員、村の検問所に常駐してくれるらしい。今後もなにかとお世話になるのでしっかりお礼を述べておく。


(この中にもファンタジー好きな同志がいるのだろうか)




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― 新着の感想 ―
[良い点] 古には戦国自衛隊って映画もあるので。魔界転生とかも。 オッサンでもお爺さんでもいわゆるファンタジー(空想ないしは伝奇)好きは普通にいるとは思います……
[良い点] すぐバレそう [気になる点] しかし村長がやる必要はないよね
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