第162話:異界の門とダンジョン生成
異世界生活384日目-72,833pt
街にいる住民たちの解放を明日に控え、開拓地では受入れの準備が着々と進められていた。長屋は十分な余裕があるし、生活用品もしっかり確保している。食糧に関しては言わずもがな、いくらでも貯えがある。
いったいどれくらいの人が来てくれるのか。それは全くわからないが、希望者以外が街を出ていったあと、忠誠度の確認をしようと思っている。なにせ1万人以上のひとだかりだ。そんな状態で確認するのは一苦労だし、変な騒動に巻き込まれても困る。
ひとりでも多くの人を呼び込むため、この9日間ずっと現地での炊き出しを続けている。芋で釣るのはもちろんのこと、村の様子を知ってもらう為だ。
それこそ最初のうちは、日本人の顔を見るだけで罵声が飛んできたが、配給を続けることで少しずつ改善されていった。
少なくとも、ナナシ村と日本帝国との違いには、一定以上の理解を示してくれたように思う。とはいえそれも一部の人たちだけ、半数以上の獣人たちは変わらず敵視している。
……まあそれでも、芋はしっかり食いまくってたけどね。仕方がないことだけど、日本人に対する印象はかなり悪い。
(あ、そういや隆之介のヤツ、忙しくなるだろうなぁ。獣人国でもひと騒ぎありそうだし――って、それはアイツが考えることか)
一方、日本帝国のその後なんだが――こちらはすこぶる順調だ。
賢者がいなくなったことで、王国各所にオークを湧かせる計画は頓挫したが、荷物を含め、日本人全員の転移は完了している。てっきり取り残されたヤツがいると思ってたんだけど……あのとき現れたのが最後の集団だったらしい。
ドラゴたちの空中偵察によると、西にある防壁の警備体制も整い、対獣人国用の防壁作りも急ピッチで進行中。いまも土魔法使いを大量投入して、どんどんと壁が作られている。
さらに街では外壁の拡張が行われており、南の草原の農地開拓も始まっていた。統率がとれてる前提とはいえ、全員がスキル所持者っていうのは、なにをするにも都合が良いようだ。
――おっと、そうだった、最後にこの話もしておこう。この9日間、獣人たちが反乱を起こせなかった理由についてだ。
帝国に捕らわれた人の中には、冒険者などレベルの高い者も数多く存在していた。だが、スキルを持った冒険者は誰ひとりいない。
偽聖女のスキルを鑑みれば、その理由も察することができると思う。直接現場を見てはいないが、そういうことなのは確実だ。なにせ聖女を鑑定した際、スキルレベルがごっそり上がっていたからね……。
(これを批判するつもりはないし、私にはどうにもできない。まあきっと、アイツらも命がけなんだろう。知らんけど)
◇◇◇
午前の巡回を終えた私は、自宅の居間に戻ってモニターと見つめ合っていた。そこそこポイントも貯まったので『能力強化の秘密:10,000pt』を使うつもりでいる。
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『女神の恩恵』
信仰度を消費して女神からの恵みを授かる
※信仰度は、村人の人口やレベル・村の発展・教会への祈り・魔物討伐等により獲得できる
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今でさえ素晴らしい特典が並んでいるのに、「これを強化したらどうなるのか」「どんな強化先があるのか」。能力強化はあと1回、どれに使うかはさておき、この能力だけは事前に確認しておきたい。
『<村スキル強化の秘密>が解放されました』
『詳細を知りたい能力を選択してください。一度の解放につき、選択できる能力は1つだけです。選びなおしは出来ませんのでご注意ください』
女神特典を取得すると、前回同様、注意喚起のアナウンスが流れてくる。このまえは驚いちゃったが、二度目となれば落ち着いたものだ。『女神の恩恵』を慎重に選択して映し出された項目に目をやる。
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『女神の恩恵+』
・特典に消費する信仰度が3割減少する
※『女神降臨』は対象外
・魔石、魔結石を信仰度に変換できる
※獲得ptは大きさ・純度等により異なる
・特典内容が強化される
※選択できる特典数:3
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(これはすごいな……10,000pt分の価値は十分あったわ)
モニターに映し出された項目は、どれもこれもが素晴らしい強化内容に思えていた。女神降臨は対象外だが、消費ポイントが30%OFFというのは破格の強化だ。村や開拓地のインフラ整備もはかどる。
ひとつ疑問に思ったのは、「女神と会うときのポイント消費にも反映されるのか」ってことかな。まあ、アレは特典じゃないし多分ダメなんだろうけど。
2つ目の項目、魔石変換というのも実にありがたい。現状、魔石は余りまくってるし魔結石への加工も割と簡単にできる。これがポイントに変換できるのはデカいと思う。
(蛇人族からも結界石を貰ってるし、変換できるポイント数によっては一番の選択肢かも?)
ただ項目をいくら注視しても、獲得pt一覧みたいなのは出てこない。そこがハッキリしない以上、おいそれとは選択できそうにないか……。
そして最後、特典内容の強化について。「様々な特典のうち、3つまでを指定して強化できる」というものだった。特典一覧を選択すると、強化後の効果も表示してくれる便利仕様になっている。
例えばだけど、<領土の拡張>は拡張できる敷地が倍になったり、<治癒の霊薬>だと傷を癒す速度がさらに向上する。特典内容に変化がない代わりに、交換ポイント半減ってのもあったが――そんな様々な強化先の中で、私がとくに気になったのはこの2つだった。
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<異界の門:―pt>
異界との渡来が可能となる次元門
※地球人の渡来に制限がなくなる<NEW>
※人以外の移動は不可
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<ダンジョン生成:25,000pt>
任意の場所にダンジョンを生成する
※地球でもダンジョンを生成可能<NEW>
※地球での階層上限:15階層<NEW>
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以前女神から聞いた話だと、一度でもこの世界に来ていないと、地球からこの世界には渡れなかったはずだ。もしそれが解放されるなら、私や女神の許可さえあれば、だれでも自由に往来できることになる。
日本人の中には、異世界に行ってみたい人もたくさんいるだろう。しかも日本へ戻れるのが確定してればなおさらだ。我らの同志を募集すれば、そこそこの人が集まってくれる気がする。
ただ、ダンジョン生成についてもそうなんだが……やけに地球への進出? 帰還を促してるのが気になる。女神の目的を考えればわからなくもないんだが……おっと、これ以上はダメか。
(仮に日本へ戻るとしてだ。私がダンジョンとか作ったら……それこそ魔王の位置づけになっちゃうよな。魔物が溢れたら大惨事だし、さすがにそれはアカンやろ……現代ファンタジーが始まっちゃうよ)
「さて――と、ひとまず知りたいことは確認できた。能力強化もあと1回だし、いざというときに取っておこう!」
完ぺきとはいかなかったが、知りたい情報のひとつが判明してご満悦のおっさんだった。
いよいよ明日は受け入れ当日。気を引き締め直して、最後の準備に取り掛かろうと思う。




