第121話:奪われた日本人たち
異世界生活274日目-信仰度:720pt
翌日、朝早くからダンジョン組が出かけていった。
村に来て2日目だというのに、勇人たち三人も意気揚々と参戦している。環境の変化による疲労も全くないようで、みんなの顔色はとても穏やかだった。
昨日、彼らに家を与えたのだが、「なんの警戒もせず、ぐっすり眠れたのは久しぶりです」と、とても嬉しそうに話していた。
街にいたときは、宿泊拒否や泊まっている宿への妨害が毎日毎日あったんだと……。それこそ最初の頃なんかは、暗殺まがいの行為も受けていたらしい。
なんにしても、やる気があるぶんには何も問題ない。どんどんレベルを上げて、村のために貢献してほしいと思う。
それともうひとつ、信仰度の獲得状況に関して、昨日は380pt増加していた。
遠征組の狩りが昨日から本格始動して、東の森ダンジョンでもミノとオークを狩っている。教会へ行った村人は人口の半分くらい。多少の増減はあるだろうけど、通常生活での獲得ptはこのくらいに収まりそうな感じだった。
女神の特典をどの順番で取得するのか――それについてはまだ決め切れていない。
だがひとまず、<転移の魔法陣:2,500pt>を選ぼうとは考えている。村と遺跡ダンジョンに設置すれば誰でも行けるようになるし、毎日戻ってこられる。しかも、道中に張った結界を解除できるのが大きい。
たぶんだけど、魔法陣を1つ交換しただけじゃダメなはずだ。2つぶん交換して、村と遺跡ダンジョンの両方に設置する必要があると思う。でもそれにしたって、大量の敷地が戻ってくるのだからコスパは最高だ。
そんな楽しい妄想を繰り広げていると、メリナードから念話が入った。
『村長、今お時間よろしいでしょうか』
『全然いいよ、のんびりしてたとこさ』
『ありがとうございます。実はですね……帝国と獣人国との協議に進展がありました』
『おっ、やっと動いたか。それで?』
『協議は決裂、議会は奴隷の引き渡しを拒否しました。当然、同盟の締結もされておりません』
『ありゃ。それはまた隆之介のヤツ、思いきったな』
(ひとまず仲良くしときゃいいのに。これはそのうち……王国よろしく、オーク攻めの被害に合いそうだな)
『この話にはさらに続きがございます。村長は、特務隊の大部分が首都に召集されたのはご存じですよね?』
『ああ知ってる。街にいた武士ってヤツがそう言ってたよ。特務隊3千のうち、2千5百人は首都へ呼び戻されたらしいな』
『はい。その特務隊、帝国との国境に配備されたのですが――全員、帝国に奪われました』
『んん? 殺されたじゃなくて奪われた?』
(そんなことあるのか? 隷属の首輪だってあるし……そもそもそんな大人数、一体どうやって?)
『聞くところによると、戦場で勇者が演説したようですよ。奴隷からの無条件解放をすること。帝国での自由を約束すること。そして帝国兵となるものには、特別な地位と階級を与える、と』
『ああ、そういうことか。聖女の解呪魔法で隷属を解除して、賢者の転移魔法で連れ去ったってわけね』
『そのとおりです。ただ私としては、特務隊全員が勇者の説得に応じた、というのが解せません。何かのスキルでしょうか?』
『んー、奴隷からの解放と特別な地位が効いたんじゃない? まあ、あとは……たぶんだけど、勇者補正かな』
『ほぉ、勇者補正とはどのようなスキルなのですか?』
『あ、違う違う、スキルじゃない。勇者ってのは、大抵のことは都合良くいくんだよ』
『……そうですか。いえ、村長がおっしゃるなら間違いありませんね。失礼しました』
メリナードは納得してないようだけど……。『幸運』や『直感』のスキルも持ってるだろうし、人々を導くようなスキルがあるのかもしれない。
まああれだ。勇者相手にご都合展開を気にしてたら切りがない。実際成功したわけだし、そういうものだと思うしかないだろう。
『それで議会、というか隆之介の反応は?』
『王国と帝国、双方をけん制するため、北部の3都市に兵力を集めています。各地のオーク討伐隊以外はほとんど召集されてます』
『そうか――悪いけどさ。獣人領の西、それと一応、南の地域に注意しといてくれ。そのうちオークが大量に湧くかもしれん』
『かしこまりました。情報が入り次第、すぐに報告します』
『ああ、頼んだよ。いい情報をありがとう』
これでまた帝国が強化されたな。今回奪ったのはレベルの高い戦闘職ばかりだろうし、奴隷にされた恨みを持つ者も多いはず。それにしても、住民をバンバン増やしちゃってさ……なんとも羨ましい話だ。
(とてもじゃないけど、俺には無理だわ。いつ裏切られるかもわからんのに……案外そのうち、あっさり殺されちゃうかもな。って、それも勇者補正でなんとかなるのか?)
メリナードから有益な情報を手に入れたあとは、自宅の居間でモニターを眺める仕事をしていた。断じて暇つぶしではない。
信仰度が加算されていくタイミングと、その増加ptを記録するのが今日のお仕事だった。
「おっと、今度は7pt増えた。1・2・3……これで本日6度目か」
増加した時間とptをひたすらメモしていく。
はたから見るとめちゃくちゃ地味な作業だけど、たいして苦じゃない。むしろ数値が増えるたびに、ニヤニヤ笑ってしまうくらいには楽しい作業だった。
「啓介さん、お茶をどうぞ――って、随分うれしそうな顔をしてますね」
「ありがとう椿。おっ、今度は1ptゲット! こっちはもう90回目だぞ。教会の祈り以外だと、たぶん魔物討伐報酬っぽいな」
「あの……啓介さん?」
「どうした?」
「狩猟メンバーと念話をしてみたらどうでしょう。討伐した瞬間に報告させればすぐわかると思いますよ?」
「あっ、なるほど……。すぐにやろう」
(こんなことにも気づかないとは……)
椿のアドバイスを受け、すぐにダンジョン組へと念話を入れる。
どのパーティにも忠誠90以上の者がいるので、報告漏れもないはずだ。魔物を倒したらすぐに連絡、魔物の種類と数を教えてもらう。さらに、春香がいるパーティーにはレベルアップ鑑定も頼んである。
――それから3時間ほど集計しながら、椿とふたりで検証結果をまとめていく。まだ確実とはいかないまでも、これで概ねの傾向が見えてきた。
信仰度の取得手段と獲得pt(暫定)
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村人1人加入:10pt
レベル1上昇: 1pt
教会での祈り: 1pt
魔物討伐
ゴブリン級 : 0pt
オーク級 : 1pt
ミノ級 : 3pt
巨大牛級 : 7pt
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「村の発展についてはまだわからんけど、大体こんな感じかな?」
「施設が増えたり、家畜が繁殖すると獲得できるのかも……これについては、じっくり検証していきましょう」
「しかしこうして見ると、やることは今までと変わらないね」
「魔物をいかに多く狩れるか、このあたりが重要かもです。あとは、戦える村人が増えるといいですね」
「なんか、すごい戦闘民族が出来上がりそうだな……。もちろん、悪いことじゃないけどね」
戦うことが全ての民族……。どっかで聞いたことあるけど――いかんこれ以上はいろいろ危ない、考えちゃダメだ。
「ゴブリンとかはなぜ0ptなんでしょうね」
「んー、たぶんだけどさ。この世界の脅威にならないから、とか? 当たり前のように狩られてるしね」
「なるほど、たしかにそういう解釈もできますね」
「まあ、そのあたりは女神に会ったら聞いてみようと思う」
こうして、信仰度の獲得方法も判明してきたし、他国の世情も掴めてきた。そのおかげで、今後の構想も漠然とだが浮かんできている。
その後も終始ご機嫌なおっさんは、今日も妄想を掻き立てていくのだった。




