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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
102/252

第102話:太古のメッセージ

 桜が発見した石碑には、獣人族の言語でこう綴られていた。



=================== 


もうこの街も終わりだ


牛型の魔物が地上に溢れ村も次々に襲われた

 

これは禁忌を犯し続けた我ら獣人への天罰


ダンジョンに立ち入ってはならない


これは神の与えた恩恵などではなかったのだ


我らは西へ移り住む


逃げ延びた同胞よ、ひとりでも多く西へ 


===================



「これで獣人が住んでたのは確定したな。んで、ミノタウロスの脅威に抗えず街を捨てて西へ逃げた」

「ナナシ村のある大森林を抜けて、大陸の西へ移住したってこと?」

「だととすれば、今から500年前までの出来事ですね。それより昔の大山脈は、北から南まで全て繋がっていたはず……」


 いや、その推測は少し変だ。500年前、過去の勇者が大山脈の一部を消失させた記録は残っている。禁忌のことや獣人の移住についても伝わってないとおかしい。


 そうみんなに伝えると――、


「そのようなこと、議会の文献には一切残っておらぬぞ」

「でしたら、もっともっと昔の出来事ってことになりますね」 

「種族の存亡にかかわる一大事なんだ。よほど古い話でない限り、何も伝承されてないってのはおかしい」


 これだけ発展した文明なら、文書に残す媒体だってあったはずだ。500年間でその記録のすべてが失われるとは思えない。


 だがもっと昔のことなら、大山脈をどうやって超えたのかという疑問は残る。南端の崖から飛び降り海を泳いできた? ……いや、さすがにそれは無理があるだろう。


「禁忌、ってのは何でしょう? ダンジョンに入る行為なのか、それともダンジョンで何かやってたのか」

「神の恩恵って書いてあるし、魔物を倒してレベルを上げること、もしくはドロップ品のことじゃない?」

「その両方って線もあるな」

「禁忌とされるダンジョン攻略、それが原因でミノタウロスが地上に……。まさにオークの件と被りますね」


 ただその理屈だと、当時の獣人たちは、もっと深い階層のボス攻略をしたことになる。それは同時に、獣人たちのレベルが極めて高かったことを意味する。


 その後もしばらく話し合い、ひとまずほかも調べてみることに――。街の中心部を隈なく調査していった。


 中央通り付近には大き目の建物がいくつかあり、教会や鍛冶場、用水路だったと思わしき跡も見つかった。持ち去ったのか風化したのか、本や書物の類は残されておらず、当時の様子を示す情報は得られなかった。



◇◇◇


 ひと通りの調査を終え、そのまま市街地跡で昼休憩をとる。


 これまでに見つかった情報を整理しながら、みんなでああだこうだと考察を繰り広げていく。このあとどうするかの話題になり、近場にあるだろうダンジョンを探すことに決まった。


 ダンジョンに入るのは禁忌らしいが……。魔物が地上に溢れた原因を究明するには、直接ダンジョンを調べるのが一番だと思う。

 


「街周辺を調べる前にさ。ちょっと試したいことがあるんだけど」

「おっ、冬也の閃きがでたか! これは期待できそうだな」

「こういうときの冬也くんにハズレはありませんからねっ」

「ちょっと桜さんまで……。なにもなかったら恥ずかしいじゃないですか」

「ごめんごめん、冗談よ。それで試したいことってのは?」


 少し照れくさそうな冬也だったが、実際、彼の洞察力はあなどれない。何を言うのか期待していると――。


「えっとですね。さっき見つけた石碑、ってか床をぶっ壊してみません? オレ、ダンジョンはあの床の下にあると思う」

「ほぉ、と言いますと?」

「あのとき桜さんが出してた大量の水なんだけど、そのほとんどがあの床の隙間へ流れていったの、気づきませんでしたか?」

「え、そうだっけ……。春香さん気づいた?」

「石碑にばっかり目がいってたからなー。ちょっとわかんないかも?」


 冬也曰く、あの床の下には大きな空洞があるという。だからこそ、大量の水が吸い込まれていったんじゃないか、と。


「それとさ。ダンジョンに立ち入るなって文章のあと、『これは』神の恩恵じゃない、ってあったでしょ」

「うん、そう書いてあったね」

「それって、あの場所こそがダンジョンの入り口だともとれない?」


 なるほどたしかに、文脈的には『あれは』と記すのが普通か。わざわざ『これは』と言っているし、場所を示している可能性はある。


「あの床でダンジョンを封鎖したってことですか……一理ありますね」

「石碑を移動できればいいけど、無理なら破壊することになる。なんにしても、最終的な判断は村長に任せるよ」

「いいね、やってみよう。中から魔物が溢れてきても、結界で囲うから大丈夫だ。ドラゴもメリナードもそれでいいよな?」

「もちろんじゃ!」「異論ありません」


 こうして話も纏まって、私たちは再び、石碑の前にならび立った。



 色の違う床の周りを結界でグルッと囲んでから、まずは全員で動かせないかを試していく。

 

 石碑周りの床材をはがして地面を掘っていくと、青黒い床の厚みは30cm以上あった。石碑の両幅も背丈の3倍はあるし、さすがに無理かと思ったのだが……僅かに浮かすことはできた。


「っ、冬也さんお見事っ! 確かに階段がありますよ。形状も村のダンジョンと同じものみたいです」


 隙間を確認したメリナードが興奮しながらそう話している。


「うへぇ、流石にこれを動かすのは無理だ。仕方ない、壊そう」

「お待ちを村長、これなら私の空間収納で回収できると思います」

「あっ、なるほど……その手があったよな」


 全体の形状さえ判明すれば、空間収納でイメージして回収できるだろう。サイズ的にもいけるみたいなので、さっそくやってもらうことに――。

 

 石碑が無事に回収されると、空洞の中から濃密な魔素が放出された。とくに不穏な気配もないし、身体にも異常はない。竜気に敏感なドラゴも、気にする必要はないと言っていたよ。



「ここからは桜たちが仕切ってくれ。素人が口を出すと碌なことにならん」

「わかりました。ではまず、1階層の転移陣まで行きましょう。もし深層まで解放されていれば、私たちでもそこまで飛べるはずですからね」

「前衛はドラゴさんと春香さんとオレの3人、村長はしんがりを頼む」

「「了解っ!」」


 中の様子は一切不明。魔物との遭遇を警戒しながら慎重に階段を下りていく。幸いにもダンジョン内は明るく、魔道具なしでも視界は十分確保されている。


 

 それからほどなく、階段の終わる先には空間が広がっていた。


 周りの雰囲気も、東の森にあるダンジョンと酷似していた。広間の中央部には、転移用の黒い石柱も鎮座している。どうやらこれで、ダンジョンであることは確定したようだ。


 七人が石柱の周りに集まったところで、桜が次の指示をだす。このまま転移陣を発動させて下層へ降りるのかと思いきや……。


 流石は安定の桜、しっかり石橋を叩いて渡るつもりのようだ。


「転移陣を発動させる前に、まずはこのまま1階層から探索します。転移の仕組みとか、出現する魔物が同じとは限りませんので」

「オレもそれが良いと思う。出てくる魔物が弱けりゃ、下層への階段探しを優先すればいいし」

「では、陣形はこのまま維持して先へ進みましょう。日暮れ前にはいったん地上へ戻るつもりで行きます」


 いきなり強敵が出てくるとは考えにくい。……とはいえ、地上でミノタウロスが徘徊していることを鑑みれば、慎重に調査していくのがセオリーだと思う。


 転移陣にしたってそうだ。発動させたとたん、強制的に最下層へと飛ばされ、対処できないほど強い魔物に蹂躙される可能性も、ゼロではないのだ。


「それじゃあ、みんないくぞっ」



 階層を順に攻略することになり、遭遇する魔物を確認しながら進んでいくのだった。






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